サタンが性行為で満足できず悶々としてる話。一瞬R15
全体的に暗い雰囲気です。
性行為に関してはほぼブフサタですが話の流れで一瞬サタブフしてる事実が出ます。
@kanaha692
サタンはベルゼブフとの凸凹戦争で一時の停戦を経た後、それなりの時間をかけてヴィータ体での触れ合いを繰り返し、関係を深める上でこれ以上の肉体的接触はもはや性行為しか残されていないのでは、と思われるところまでいった。
現状で充足していそうなベルゼブフを「満ち足りて変化を求めないのは停滞と一緒だ」と説得し、さてではいよいよ性行為の方法を考えようかという段でもサタンは慎重に行動した。
ここで失敗すれば「やはり我々の特別な関係性に性行為は余分だった」と断じられかねない。さりとて一方的にことを進めようとする姿勢を見せれば今度は「肉体的享楽に傾倒するのはビルドバロック的だ」との批判を生む可能性がある。
サタンは性行為を心の底から魅力的だと思っているわけではないが、自分が知りうる中でベルゼブフとの関係性を深める可能性が最も高い行動を簡単に捨てたくはなかった。
力を尽くした結果、二人にそぐわないと分かった上で捨てる分には未練はないが、相手の肌の感触や温度を確かめる愉しみを教えておきながら性行為は試すこともなく必要ないと断じたのはいささかベルゼブフの物の見方が一面的過ぎではないかとも感じていた。
試行錯誤を繰り返し、男性の体にも凹として使える部位はあり、さらにその部位に快楽を拾う器官があることと頑張ればどうにか凸を受け入れることはできそうだ、ということをサタンは発見した上でベルゼブフに実践を持ちかけた。
そうしてビルドバロック時代の遺跡の中で初めて二人で性行為した日を、カトルスに帰るその日までサタンは忘れることはないだろう。
ベルゼブフと一つになった歓喜も、彼をただ一人特別に想う幸福も、そして行為の終わりに感じた言いようのない寂寞も。
溜息とともに萎えた性器が抜け出ていく瞬間、サタンは己の肉体と魂が変容したことをはっきりと自覚した。それはメギドとしては恥ずべき変化だったかもしれないが、不思議なことに彼自身には高揚感しかなく、ベルゼブフの理想を以てメギドラルをより良くしていくことに大いなる希望を見出していた。同時に、ベルゼブフの魂の発露を、性行為を通してさらに欲したかった。
しかしサタンの願いとは裏腹に、ベルゼブフは性行為と特別な共感性における相関を大いに認め、再度行っても良いと発言したもののその日は一度限りで終わった。
二度目が行われたのはそれから1ヶ月後だった。
ヴィータがどの程度の頻度で性行為を行っているのかサタンは知らなかったが、繁殖期の幻獣を見てももう少し短い期間で多くの回数を行っているのでは、とは思った。
結局、二度目も、その後もベルゼブフは毎晩一回きりの性行為しか行わなかった。
回数を繰り返せばサタンにも余裕ができ、もう一度という欲も膨れていく。何度かそのように伝えたが、ベルゼブフは「性行為はあくまで手段の一つであり、それ一つに溺れることがあってはならない」と譲ることがなかった。
それでもと食い下がると「本来男性体がこなすべき凸側でないから不足を感じるのでは?」と凸凹を変えることを提案され何度か試してみたが、やはり一回きりでは満足できず、なによりベルゼブフがあの日覚えさせた寂寥を埋めることはなかった。
試しに一人で性行為の真似事をしても何一つ満たされない。
「ベルゼブフ」と「性行為」の二つが揃って初めて己の肉体と魂の飢えが癒されるのだと、肌に当たる寒々しい空気が教えてくれた。
ついにサタンは、戦争を始めるつもりで性行為を始める前にベルゼブフに抗議した。
「それほどまでに不満だったのか、サタン」
「ああ。なんつーか、性行為が一度終わると余計に火が点くんだ、いつも。なのにベルはそれきりにしちまう。というか1ヶ月に1回ってのも少ねえ」
ベルゼブフは少し思案して、首を横に振った。
「サタン、それは良くない兆候かもしれない」
「なに?」
「私は、私自身とお前の魂をビルドバロック時代のメギドのように堕落させたいとは考えていない。やはりメギドに性行為は過ぎたるものだったのだ」
それまでまとっていた性行為前の密やかな雰囲気を壊すように、脱ぎかけた外套を再び羽織ったベルゼブフに、それまでもやもやと燻っていたサタンの中の何かが爆発した。
「ちげえ!」
唐突に怒声を上げたサタンの瞳に、憤怒の焔を見たベルゼブフはたじろいだ。意見の相違で戦争を起こす時とは比べ物にならないほどの感情の奔流を向けられるのは、これが初めてだった。
「俺は! 俺の肉体と魂は! お前だけを求めてんだ! お前が俺の中に俺自身ですら埋めらんねえ穴を開けたんだ! 性行為で魂が堕落すんなら、特別な共感性を求めてヴィータ体になった時点で俺たちはとっくに堕落してたんじゃねえのか!?」
世界を滅ぼしかねないほどの怒りをただ一人に向けたサタンは、そのまま呆然としているベルゼブフを残して踵を返して遺跡から出ていこうとした。
「待て、サタン」
「しばらく一人になる。ついて来るな」
自分がなぜそれほどにみっともなく追い縋ろうとしているのかも理解しきれていないベルゼブフは、ただ一人混乱のまま月冴える遺跡に取り残された。
「サタン、サタン……私は……」
――へえ、そう。アンタ、そんなことで魂が揺らぐんだ。じゃあ、あの子の姿を使ってみるのがいいのかもね?
それからしばらく、一人で幻獣相手に怒りを発散したサタンはいくらか反省し、ベルゼブフと仲直りしてもう一度きちんと話してみようと考えた。冷静になってみれば、性行為に傾倒していたことは否めない。
メギドラル中のベルゼブフがいそうな場所を探し回ったサタンは、ようやく遺跡の一つで彼を見つけた。
いくらかの気まずさはあるが、武器も持たず正面から行くのが良いと気合を入れて、自分の存在を知らせるように堂々と歩く。
「……サタン」
足音の正体に気づいて振り返った親愛なるひとに一瞬の違和感を覚えるも、すぐに霧散してしまう。
「おう、ベル。あん時はちゃんと話もせず出てって悪かった」
「いや、こちらこそサタンにもっと真剣に向き合うべきだった」
サタンがベルゼブフの頬に素手で触れる。無言でのヴィータ体の触れ合いが、彼なりの仲直りの合図だった。だから、すぐに同じように自分も触れられると思ったが、再びベルゼブフは口を開いた。
「サタン。私に言われてヴィータ体を取ったことを後悔しているか?」
「俺が後悔なんてするかよ。第一、本気で後悔してたらあの時メギド体で出てってたぜ」
「そうか。……ありがとう」
それから、同じようにベルゼブフがサタンの首に触れる。
アスモデウスのいない議会が開かれたのは、それからすぐのことだった。