・少年期3(ラスト)
・全年齢パートがセクション毎に更新されます、pixivに上げる時に成人指定パートがちょっと増えるかも。
・なんだそのご都合設定は…と言うものがたくさん出てきます。
・中世階級社会がベースのため現代の倫理感では正しくない発言も多いです。
@arikanagahisa
前回(R18)→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24521102
ファイノンを騎士にすると決め、諸々の手続きを進めようとすると、戦場以外では殆ど不干渉の父からも王城への召喚命令を食らう。メデイモスは事前にケラウトルスをなんとか説き伏せ(「母君に面目が立ちません」と泣かれたが、「母上が生きていれば『強い男こそが正義だ』と許しただろう」とメデイモスは突っぱねた)、今の騎士候補は誰もファイノンに敵わず、手合わせでメデイモスに膝をつかせたのはファイノンだけだと王に説明させた。
卑しい奴隷を騎士にしては示しがつかないだとか、貴族家との関係がと長々諭そうとする宰相に「主人より弱い騎士を迎える理由がない」と跳ねつけ、「子息の教育がなっていないことを実家と教師共に警告すべきだ」と口にした。
「……ファイノンに逃亡と暗殺の企てはないと思うが、しばらくは——少なくとも十年は
王族奴隷に付けさせている首輪には神権と術が宿っており、王家に連なる者たちを殺すことはできないし、主人の刻んだ命令に反することもできない。たとえ距離が離れていても主人が望めば首輪から呪いが吹き出し、その場で死に至らしめる事が可能だった。王族奴隷であれば誰しも知っている事で、暗に逃げようとするなよ、と通達も受けている。
王族以外の奴隷も一様に首輪をつけているが、神権や術の種類は王家の物が一番強く、地方豪族や商人の奴隷にはただ単に毒と位置探知が付与されているだけのものが多い。
メデイモスの与えた首輪には、主人への殺意を探知して苦痛を与えるようになっているが、今のところそれが反応したことは一度しかなかった。ファイノンをはじめて鞭打ちの刑に処したあの時だけだった。
「首輪の代わりに刺青か焼印をどこかへ刻んでも構わない」
王族の騎士がわかりやすく首輪をしたままでいるのは外聞が悪い。それはメデイモスにもわかっている。ファイノンには逃亡や暗殺の企てはないだろうと信じてやりたいのは山々だったが、メデイモスだけが信じていても意味がないのが現実だった。
貴族家出身ではないファイノンが騎士となれば一代限りの騎士爵の称号が与えられることになる。市民よりも下層の奴隷階級から、一気に貴族の下の準貴族として扱われようになり、今の王族奴隷の大部屋から個室を与えられ、財産の一部保有も認められれば、外出の制限も大幅に撤廃される。
強さで奴隷を騎士に昇格させるのであれば、ファイノンが王家と国家に仇なす恐れはない——いつでも殺せるのだと、公に示さなければならなかった。
(十年か二十年か、あるいは死ぬまで一生かはわからぬが……)
ファイノンが自分以上に功績を上げれば、いつかは呪いを解いてやれるだろう。ファイノンはもしかしたら気に入らないかもしれないが、これがメデイモスに出来る最大限の譲歩だった。
*
「……これをつけたままじゃだめなのかい?」
「何だと?」
ファイノンに髪を洗わせながら騎士任命の手続きの進捗を報告しつつ、ファイノンの首輪に指を引っ掛けていたメデイモスは困惑に目を瞬かせた。
これを外してやれそうだ、残念ながら制約付きだがな、と呪いについての説明をしていたのだが、ファイノンはよくわからない、と言った顔で首を傾げる。
「騎士になったら僕が逃亡したり、君を含めた王族や貴族を殺すんじゃないかって心配されてるんだろう? 別に僕はこれを外して欲しいとは思わないよ」
「……これに今かけている術や制約を少なくすることは勿論可能だが、何故だ? お前が外で騎士らしい身なりをし、そのように振る舞ったとしても、首輪をつけているだけで王族奴隷だと誰の目にも明らかになるのだぞ」
メデイモスが父や家臣たちに提案した焼印や刺青は、通常は見えない場所に入れる物だ。首輪のように、例えば農民の子どもが見てもわかるような目印がなくなるだけで、浴びせられなくとも良い視線や言葉を回避できる。そう、メデイモスは考えていたのに、当の本人はあまりピンと来ないらしい。
主人の髪にゆっくりと湯をかけ、丁寧に泡を流すファイノンは「それで良いじゃないか」とどこか嬉しそうに言う。
「僕は君のものだって皆が知っている方がいい」
「………………………」
忠誠心を褒めて欲しそうにじっと視線を送ってくるファイノンに、メデイモスはしばし閉口した。首輪を外そうが外さまいが、ファイノンがメデイモスの買った有能な奴隷だという現実は変わらない。
無駄にファイノンの見目が麗しいせいで余計に目立ってしまっているのも事実で、民の間では「王子殿下の奴隷は随分と顔立ちがいいから、きっと将来の愛人だろう」と噂されているのを使用人たちの世間話で知っていた。ばかばかしいと一蹴していた時代もあったが、今となってはただの事実だった。
顔で選んだわけではないはずだったが、とメデイモスは髪を流すふりをしてそっと手のひらに掬った髪に唇を落としているファイノンに、呆れながら視線を向ける。
確かに、ファイノンはメデイモスのものだった。
奴隷は人間ではなく家畜か消耗品と同様に数えるのが常で、誰の所有物であるのかはっきりさせて置いた方がトラブルには発展しづらいとこの六年でわかっている。
「メデイモス?」
メデイモスはファイノンの頬に手を伸ばし、濡れた手をぺたりと当てた。
ようやくきちんと手入れをするようになった頬にはまだ日焼けの赤みが残っていたが、髪は買った頃とは比べ物にならないほど艶が増え、新雪のような、あるいは冴え渡る青白い月光のようだった。
朝陽に照らされた髪の輪郭が燃えるようで綺麗だ、とファイノンは寝台の上でうっとりと睦言を口にする事があるが、お前だってそうだろう、とメデイモスは思う。陽に照らされたファイノンの髪が眩く耀くのを、微睡の中で見つめるのが好きだった。妙に触り心地のファイノンの頭を引き寄せて、時折、思う存分髪を撫でてやる。
『君の馬よりも撫で心地が良いと思わないか?』
ただし、こんなことを言い出すのだけはいただけなかった。
母親が亡くなる直前に贈られた愛馬の世話を時折ファイノンにさせようとしていたが、どうやらあまりそりが合わないらしく、何故か、ファイノンは時々張り合うような発言をする事があった。
気性の荒い馬ではないはずなのだが、ファイノンが近づくとどうにも落ち着かず、威嚇行動を取る事もある。もしかすると、主人を取られたとでも思っているのかもしれない。
余計なことを考えながら、メデイモスは鼻先が触れ合うほど顔を近づける。
ファイノンが緊張したように身をこわばらせているのを良いことに、じっと瞳を覗き込む。
変わった虹彩を持つファイノンの青い瞳は宝石を散りばめた夜空か海のようで、瞳孔のヴィヴィッドイエローが光を取り込んでちかりと耀く様が好きだった。
少し顔を赤らめながら見つめ返してくるファイノンの鼻をそっと摘み、「そろそろ上がるぞ」と宣言する。
いつまでもこの時間を伸ばそうと、いつだってファイノンがのんびり手入れを手伝っている事は見抜いていた。
浴槽から上がり、ファイノンにされるがまま、体や髪を拭かれる。
「
髪の水気を絞り、タオルで丁寧に体を拭いてくるファイノンに、メデイモスは「それはないとは思うが」と歯切れ悪く言った。
「王と家臣たちは、どちらかといえば外さないことを望んでいるだろう」
「ならちょうど良いじゃないか。このままで構わないし、ええとその、制限だっけ? それも全部君に任せるよ。確か僕は表からしか入れない扉とかあったような気がするけど、ああ言うのが入れるようになるなら、なんでも」
「基本的には俺と同様の権限に変更されるだろう」
椅子に腰を下ろし、肌にボディミルクを伸ばしているメデイモスの髪に、ファイノンは丁寧にヘアミルクをもみ込んでいる。
以前、母親のお抱えの調香師から贈られた百合の香りが印象的なこのシリーズは、メデイモスが好んで使っているうちに貴族たちの間で広まり、ベストセラー商品となっているようだった。定期的に新作も提示されるが、今のところ香りを変える気にはなっていない。
メデイモスが黒い寝巻きに袖と足を通すと、髪を乾かしていたファイノンが髪を梳かすふりをして、そっと後頭部に唇を落とすのがわかった。
「…………………」
愛人になってから、ファイノンは日常で叱られないラインを探るようになっている。それが大いに気に入らない。
勿論情交の延長であれば、いちいち冷めるようなことは言わないのだが。
「触りたいのなら許可を取れ」
身を引きながらファイノンを睨みつけると、「髪に触っても?」と断られないのを確信した、はにかんだ微笑みで口にする。
ファイノンのにやけた表情が気に入らず、「だめだ。終わったのならお前は帰れ」と冷たい声で告げると、「さっきまであんなに触らせてくれたのに……」と悲しそうな顔をする。
そう言うことを言わなければまだ譲歩してやってもいいものを、とメデイモスは大袈裟にため息を吐いた。
ファイノンとする前はあんなに緊張もしていれば、歳の頃にしては性欲を覚えることだってあまりなかったはずなのに、今は毎夜、眠る前に軽く触れ合うようになっていた。挿入はあれからまだ一度しか許していないが、奉仕したいとねだるファイノンに散々舐めさせもしたし、このままじゃ部屋に戻れないとわがままを言うファイノンを手で慰めてやったりもした。
まだファイノンを愛人にして三週間しか経っていないと言うのに、寝台で抱き合い、ファイノンの髪に鼻先を埋めると、まるで長年連れ添った片割れのように、妙に心が安らぐような感覚があるのが不思議だった。
「閨でうるさく言わないだけありがたいと思え」
ぴしゃりと口にしつつも、すごすごと部屋を出ていこうとするファイノンを呼び止め、何も塗られていない唇にキスをしてやる。
「……もう一回」
「するか。帰ってクリームを塗っておけよ」