@fu_re_re_ra
《春風に明らむ》
空き部屋で横になり、片手を枕にしながら明石がサボっていると、とたとたと廊下を歩く足音がやってきて、襖を開けた。
「あ、明石めっけー」
主がにぱっと笑って、寝転がる明石の隣にすとんと腰を落とした。
「なんでっしゃろ」
「わたしもサボり〜」
押し入れから勝手に座布団を引っ張り出すと、それを枕にして彼女はごろんと寝転がった。
「えぇ…わざわざここでサボる必要あります?」
「だめ? 一石二鳥だよ?」
きしし、と悪戯めいた笑みを見せると、いたいけに小首を傾げた。
「長谷部に『こらサボるな』って怒られても、明石は私の相手してたって言えるし、私は明石と話してたって言えるもんね〜」
「はは、自分、いいように使われてますなぁ」
「いーんじゃない? その分明石もわたしのこと良いように使えばいーよ」
ごろん、と寝転がった主が本格的にうたた寝を始めようとするので、明石はややあきれたような調子で肩をすくめた。
この本丸では、新しく呼ばれた新参刀に、主が時間を割く。それがこの本丸の慣わしだと明石は知っていた。
要はサボリの方が口実で、明石と話に来たということだ。
「ねえねえ明石ー、わたし、言葉にするのは得意だけど、行間を読むのは得意じゃないんだよねー」
ふと、ぽつりとこぼされた一言に、明石は目だけをそちらに向ける。
唐突にも思える呟きだが、彼女の口から出る言葉には、しばしばそういう伏線が潜んでいる。
「あのねあのね、鶴るんはね、すっごく上手なんだよ。京文脈っていうのかな、直接的に言わないで、間接的に上品に話したり、上手にからかったり、うまーく皮肉言ったり。すごいよね」
知っている。鶴丸国永、あれは明石とは遥かに年季が違う。迂闊に相手をすると赤子のように容易く絡め取られる。
あれを驚き好きの好々爺などと思ったことはない。特にこの本丸では、あれが常に眼を光らせている。そら恐ろしいことこの上なかった。
「そういう、んーと、政治的に必要な言い回しっていうのかな。わたしはね、何度練習してもだめなんだよねえ。赤点。ふふ」
にぱっと笑う彼女は、いかにも無邪気めいている。
「ねー明石ー。赤点卒業できるコツ無いかな〜」
「はて、自分、人様に教えられるよーなこと、あらしまへんなぁ。第一、自分、やる気ないんで」
「そりゃそっか〜。いきなりやる気出して先生するタイプじゃないよね」
ころんと寝転がったままの主に、明石はいよいよ訝しげだった。
「なぁに期待されとるか知りまへんが、自分やる気無いんが売りなんで」
「んー? そうだねー、わかんない。明石が何考えてるのか。でも、明石もわたしが何考えてるか分かんないと思うし、おあいこじゃない?」
平易な言葉が、するりとした軽やかさで、おもむろに核心を撫でてくる。
「でもねー、わたしもほたちゃん大好きだからねー」
ころん、と寝返りを打って、彼女は明石に向き直ると、きしし、と笑った。
「ほたちゃんのこと大切にしてくれる人が増えるのは、嬉しいよー。わたしは、それだけでいいかなー」
「あるじー?」
「大将ー? おーい?」
「あ、見つかっちゃった」
彼女はパパッと座布団を片付けて、ふらりと部屋を出ていった。
「またねー、あかしー」
ひら、と手を振って、入ってきた時と同じく、風のように軽やかに居なくなった。
明石は、完全に気配が遠ざかると、深々とため息を吐き出した。
「あら思たより食えへんお人や」
◇ ◇ ◇
こぼれ話
・面影の実装で明石周りに不穏な空気が流れてますね。明石が明らかに本心や秘密、不穏な『何か』を隠していることが明示されてしまった。そういうの好きです。
・私は割と、明石国行歴史修正主義者説とかミュ明石とミュ鶴の無言の冷戦とか好きです。ミュ鶴がミュ明石に警告するシーンはなかなか恐ろしくて好きだったし、ミュ鶴がミュ明石を内通者かもって警戒してたって話はすごくゾクゾクするよね。