心身共に結ばれてからの、反転ドラヒナでハロウィーンのお話です。
ハロウィーンイベントの準備と打ち合わせをする、反転みっぴき。そこで、イベントの目玉が『お竜さんに乗って、シンヨコの夜空をお散歩しましょう』だと聞いて…な展開です。
捏造設定として、『反転ドラルクさんは竜に変身出来る』『ヒナイチくんとの間に子供を欲しがっているが、自身は子供嫌い』『15年後に、竜輝という名前の長男がいる』『長命種である吸血鬼の繁殖能力は低く、ダンピールが無事で生まれる確率は低い為、VRCにおいて治療・産前産後ケアの技術が、確立されている』等があります。ご注意下さい。
15年後、ダンピールの長男を抱いて城内を散歩する、幸せな家族のシーンを追加しました。
竜に変身する云々の設定は、こちらで書いたお話の設定を、踏襲しております→初めて竜に乗った日 (https://privatter.net/p/10758738)
2024/10/30 に上げました。
@kw42431393
「大丈夫かな…。」
「ご心配には及びませんわ、ヒナイチさん。ジョンさんもついておりますし、ドラルクさんをお信じなさいな。」
ニコニコと笑う、ロナルドの視線の先を追う。
明るい月明りに照らされて、紫色の竜が夜空を舞っている…その背中には、はしゃいでいる子供達を乗せて。
子供達が着ているオレンジや白、黒い魔女や海賊にゴースト、吸血鬼の衣装が、紫の鱗によく映えて…とても幻想的な光景に見える。
「意外と、ドラルクさんも楽しんでいるのではないかしら?」
それは、どうかな。なまじっか、ロナルドと出会う前のドラルクを知っているだけに、私は素直に笑えないんだ。
ここは、吸血鬼退治人達や吸対の面々と合同で開かれた、ハロウィンイベントの会場。
私達の周りには、順番待ちをしている子供達が座って、配られたカボチャのクッキーや(おそらく、自身の)義眼を模したキャンディ、パンプキンパイを美味しそうに口にしている。
作ったのは、勿論、ドラルクだ。だから、子供達も大喜びだ。それに…
「ねえ、ロナルド、おねえさん!まだ~?」
「はやく、ぼくもりゅうさんにのりたい!」
「はいはい、ちゃんとお待ちなさいな。いい子には、追加でケーキもありますのよ。」
今回のイベントの目玉が、『お竜さんに乗って、シンヨコのお空をお散歩しましょう!』なのだ。待ちきれずに、ピョンピョン跳ねる少年の頭を撫でる。
昨夜の打ち合わせ中に見た、ドラルクの仏頂面を思い出して、私はため息をついた。
『ええっと、その…嫌なら断っても、いいんだぞ?』
『う、うむ…変身して背に乗せるのは、ジョン以外に、君達だけだと決めていたのに。赤の他人の餓鬼共なんぞ…何より、竜の血族の奥義がアトラクション扱いとか…吸血鬼の畏怖欲とか。うう…。』
『ヌー…』
昨夜、子供達に配るお菓子を包んでいた最中に、ロナルドから宣告された、本イベントの目玉。
おそらく、もっと前にロナルドも話していたはずだが…ここが、ドラルクの面倒な所だ。
再生能力を持たないばかりに、両親から甘やかされ好き勝手に生きてきた彼は、一人飲み込みで自己完結してしまう悪癖がある。
恐らく、趣味と実益が一致する『お菓子作り』以外の部分を、また聞いてなかったのだと思われた。
『そこまでお嫌でしたら、およろしいですわよ?子供達は、がっかりするとお思いますが。』
『嫌は、嫌だが…う~ん。』
ドラルクは、ロナルドと『吸血鬼と人間、両種族がお共生する世界を築くお手伝いをする』という契約を結んでいる。両種族の共生、両種族の相互理解…対立するはずの吸血鬼退治人と自分自身が、その見本になる必要がある…と、本人も意識してくれている。
彼は、元々反人間派に属していた危険度Aの吸血鬼『だった』男だ。ロナルドが彼をイベント事にも引っ張り出すのは…そんなドラルクとも、『お話合いによって、ご友人になれる』という実例をアピールする目的もあるのだろう。
さらに、近頃、彼も『ロナ戦』で彼と組んだ活躍を書かれる様になっている。
吸血鬼の畏怖欲として、彼自身もイベント事に参加する事に満更ではないのだと思う。何より…
『すまないな…。』
『引き受けよう。聞いていなかった、自分が悪い。』
私は、彼と『両種族が共生出来る平和な時代が来たら、彼の血を受け入れて、永遠を共にする』という契約を結んでいる。それは、今の本人が最も望む所だ。
だから、次世代の子供達にも『吸血鬼は、危険な存在ではない』『住む世界が違うだけで、お互い友人になれる』という事を、『危険度Aだった』自分が実証する意義はある…と、踏んだのだろう。
『ありがとうございます。子供達もお喜ぶでしょう。』
『…まぁ、乗せるだけからな。』
ムスッとした彼に、苦笑する。
その肩で、ジョンも苦笑いをしていた。
『そういえば…前から、思っていたのだが。』
『何かね?』
お互い素直になれず、傷つけあっていた頃…ドラルクは、私との間に子供が欲しいと言っていた事があった。
当時の最低な間柄だった頃の話だが、理由として挙げていたのが、『竜と吸血鬼殺しの間に生まれて来る、最強の狭間の子を見てみたい』という酷いものだった。
『監視対象との既成事実が明るみになれば、吸血鬼対策課にはいられなくなる、実家にも帰れなくなる。夜の世界しか、居場所がなくなるはずだ。』とも…。
『それか…当時は、本気で思っていたのだ。我が子を最強の戦士に育て上げて、戦ってみたかったというのも、本心だ。君がいつ、昼の世界に逃げるかしれないものだから、逃げ道を潰そうとも目論んでいたのだな。』
『あらあら…そんなお事を、仰っておりましたの。本当~にお野蛮を通り越して、おクソ野郎…』
『い、今は、違う!後悔しているぞ!だから、その指を鳴らすのをやめ給え!』
『ヌヌヌヌヌン!ヌッヌ、ヌッヌ!』
変われば、変わるものだ。ロナルドが言う様に、もっと早く本音を打ち明けていたら、辛い思いをしなくて済んだのだろう…ロナルドに関節を決められて、泡を吹いている彼を見て、そう思う。
ところで…疑問というのは、『子供』に関わる事だ。
今は、私の仕事と体の事を考えて、抗争が落ち着くまで、それを待ってくれている。ジョンを育てた経験から、子供の世話も自分がやるつもりだと言う。
そもそも、ドラルクは子供が好きなのだろうか。
そういう素振りは、見えないが。
『うん?好きか嫌いかでいうと、嫌いな方だ。』
『ヌヌヌヌヌヌ!!』
あっさり、言われてしまった。正直、彼が赤ん坊をあやしている姿は想像出来ない。それでも…と、夢をみていた自分に、ため息をつくしかない。
『若い頃の戦場暮らしのせいかね。子供といえば、捕虜達や難民キャンプでの、記憶が強いのだよ。弱い獲物である内は、捕食者に目をつけられない様に、静かに動かずにいるものだと思うのだが…無駄に泣いたり、大声を出したり、逃げ回って…挙句に、同胞に殺される子供達もよく見たものだ。だから、煩いというか、不可解な存在というか…。』
『ヌ~…。』
不可解、か。逃げるのは、怖いからだ。泣くのは、守って欲しいから…そう言おうとして、口を閉ざした。
両種族の抗争が激しかった時代、さらに世界大戦時には従軍していたという彼とは、生きていた時代も違い過ぎる。そもそも、己が血族にしか関心を示さない吸血鬼達は、他者に対する共感能力が低い。
分かっていて、共にいる選択をしたのだ…だけど。
「どうかなさいまして?ヒナイチさん。」
「うん…やっぱり、心配だな。」
いつか夜の世界の住人になるだろう、自分の将来も併せて…今のこの状況にも、不安が拭えないんだ。
やっと、終わったヌね。お疲れ様ヌ。
「…疲れたというより、耳がキンキンする。どこから出しているのだろう、あの奇声を。」
最後の子供達を降ろして、私は元の姿に戻る。
竜の姿に変身出来るのは、お祖父様の他は、直系の血を引いたお父様と私だけだ。
強大な吸血鬼の血を引く事への証。一族の中でも特権の様なもので、それを誇りに思っていたのは、間違いない。
その力を近頃は、シンヨコ以外への応援要請があった時に、飛行機代わりに使っていた事は認めるが…あくまで、ジョン以外には、ヒナイチくんとロナルドくんしか乗せはしなかった。
私達にも紆余屈折があり、ヒナイチくんをこちらの世界に迎え入れる為に、プライドを捨てて久しいのも認める。とはいえ…
「ヌヌヌヌヌヌ?」
「まぁ、よかろう。とりあえず、イベントは盛り上がっているのだ。甲斐はあっ…おや?」
くいくいと、マントの裾を引かれて振り返る。
小さな子供が、私達を見上げていた。月光に反射する金色の瞳から察するに、ダンピールかと思われた。
「何か用かね?」
「あの…。」
よく見ると、さっきまで私の背中ではしゃいでいた子供の一人だ。それが、今は無表情でこちらを見ている。だから、何故この子が私を呼び止めようとしているのか、見当もつかない。
「用がないなら、私は行くぞ。」
「…その。」
ため息をつく。この落差は、どこから来るのだろう…この辺りが、私にとって『子供とは、不可解な存在』たらしめている所でもある。
ジョンが目顔で知らせるので、私は諦めて、背を屈めて視線を合わせた。
吸血鬼の畏怖欲としては、あまり見られたい姿ではない。
「両親が待っているだろう?もう、戻れ。散歩は、おしまい…。」
「こ、これ、どうぞ!」
目の前に差し出された小さな手。何か小さな包装された何かを、握って…
「お、おい!小僧!」
「ハッピーハロウィン!」
ただ、それだけ言い置いて、子供は両親と思しき者達の元に駆けていってしまった。
クスクス…お礼をしたかったヌけど、恥ずかしかったんだヌ。
「恥ずかしい?あの程度の事をかね?さっきまで、背中で飛び跳ねて、私達をヒヤヒヤさせておいて?」
手に押し付けられた、吸血鬼用のキャンディを弄ぶ。両親のどちらかよく食べている、キャンディなのだろう。
「やはり、子供というのは不可解だ。」
「ヌ~ン?」
笑ったと思えば、泣き出して。走り出したと思えば、梃子でも動かなくなる。
何を考えているのか予想もつかないし、至極単純な様で、複雑な何かを秘めてる様な気もする。
ジョンを育てている時には、なかったものだ。
あれは人間だからなのか、特別ジョンの聞き分けがよかったからなのか。はっきり言って…
「お不可解…それが面白いし、お可愛いのですよ。そう思いません事?」
上品な声に振り返る。そこには、ニコニコしたロナルドくんが立っていた。
あまり、見られたくない場面を見られてしまったらしい。
ヒナイチくんが、席を外しているのがせめてもの救いか。
「…はっきり言って、全く分からん。」
「すぐに分かるお必要は、ありませんわ。でも、ほら。」
「ヌ?ヌフフフ…。」
彼が言いたい事は、察している。
バツが悪くて、私は口の中のキャンディを噛み砕いた。
「それで、およろしいと思いますわ。私は。」
「フン…気紛れだ。」
所謂、駄菓子の類で、自らの執着心を拗らせてヒナイチくん以外の血を受け付けなくなった私には、とてもではないが『美味しい』と言える代物ではない。
本当は、あの子供が見ていない隙に捨ててしまおうと思っていたのだ。しかし…
『ハッピーハロウィン!』
元危険度Aの吸血鬼で強面の私に、感謝を告げようとしたその勇気を否定するのは、気の毒な気がした…それだけだ。
ヒナイチくんの子供ならともかく、何の関係もない赤の他人の子供なんぞ…
「お願いした甲斐がありましたわ。次からもお願いいたします。」
「…好きにしてくれ。」
この抗争が落ち着いた時、彼女の都合がつく様になったなら…いつか私も理解する時が、くるのだろう。ものは、考えようだ。
「それまでの予行練習と考えれば…諦めもつこう。」
「ヌンヌン。」
向こう側で、はしゃいでいる子供達の面倒を見ているヒナイチくんを見る。
その顔が見た事もない程、嬉しそうで満たされたものである事に、微かな嫉妬と、確かな満足感を感じながら…私は、少年から貰ったキャンディを飲み下した。
「あぁ~うっう、まみぃ~。」
「うぅ…ん?どうした、竜輝?」
ぺちぺちと頬に当たる、柔らかい手の感触に目を開ける。
とはいえ、ここは完全な暗闇で、見えるのは狭間の子を示す金色の瞳だけだ。眠る前には、息子の向こうに、ドラルクの義眼も光っていたはずだが…私達が眠ったのを確認してから、出ていったのだと思う。ならば、今頃、家の事をしているはず。
うん?今、私達がどこにいるのかって?
ここは、この城の主の棺桶の中だ。
かつてドラルクによって、無理矢理、恐怖と快楽を刷り込まれた…忌まわしい場所だった。
そして、お互いの本音を打ち明け合って、心身共に結ばれてからは、素直に想いを重ね合う場所となり…15年経った今となっては、家族で幸せを紡ぎ合う場所となっていた。
「ぶうぅ~、う~。」
ベッドライトを付けて、可愛いその顔を覗き込む。私譲りのアンテナが、不機嫌に揺れていた。
「おっぱいにはまだ早いし、おむつも濡れてない…う~ん、あとは?」
「たて~ぃ!た~ぁ!」
「タティ?お父さんっ子だな。今はまだ10時か…なら、あそこかな。ちょっと、待ってくれ。」
小さな暴君が不機嫌な理由が分かった私は、棺桶の天井に手を伸ばして、パネルに触れる。パスワードを打ち込んで蓋を開けると、可愛い息子は、早速ヒクヒクと鼻を鳴らしていた。
「もう、探知しているのか。たいしたものだ。とはいえ、その能力は下等吸血鬼ぐらいにしか使わない時代にするつもりだ…って、待て待て!」
そのまま、つかまり立ちして棺桶から出ていこうとするのを、私は慌てて抱きとめた。
「竜輝、危ないじゃないか。ママを困らせる所まで、タティに似ないでくれ。」
「うぅ~~。」
いやいやと、私から逃れようとする竜輝を、軽く睨み付ける。
この子は、両種族の抗争が落ち着きを見せ始めた頃に、VRCに通って、やっと授かった長男だ。
『竜と吸血鬼殺しの間に生まれて来る、最強のダンピールを見てみたい。』『子供?どちらかと言えば、嫌いな方だ。』なんて、今となっては、どの口で言ったのだろうな…そう揶揄されても言い返さない程、溺愛されているダンピールだ。
元々、ドラルクがあの性格になったのは、お父上達がベタベタに甘やかしたからだという…今から、心配だ。
「さてと…待たせたな。準備はいいぞ。タティはどこにいるのか、ママに教えてくれ。」
「クン、クン…あー。」
「そうか、そうか。よしよし。」
そうして、今宵も私は息子を抱いて、吸血鬼の居城を練り歩く。監視員となってからずっといる、馴染みの住いとはいえ、こうやって幼子に導かれて歩くのは、なかなか趣深いものがあると思う。
「ヒクヒク…まみ~、うー。」
「あれ?今日は、庭園じゃないのか。じゃあ、タティは、どこにいるのかなぁ?」
「きゃーぅ!」
「次は、こっちか?ハハ、そう急かさないでくれ。」
なんだか、知らない迷路を冒険している様で、不思議な気分になってくるんだ。
さて、今宵のゴールはどこだろう?
「たてぃ~!!おやうー!」
「アハハハ、もう見つかってしまったか。我が子ながら、さすがだ。それとも、そんなにタティに会いたかったのかね?」
ヌフフフ、ドラルク様ったら。ますますドラウス様に似てきたヌね~?
今宵のゴールは、キッチンだ。
愛息子の勝利宣言に、ジョンと食器を磨いていたドラルクは、振り返る。
その笑顔は、かつての血に飢えた狂戦士とは程遠い…子煩悩で優しいtati(ルーマニア語でパパの意)、そのものだった。