出会ったばかりの🐸さんと☀さんが二人で居酒屋に行くssです。CPではない。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
呉越同舟ではなくて
都心の繁華街にある個室の居酒屋は、周囲の店に比べて割高なのと、奥まった所にある入口の所為でふらりと入るには敷居が高い。しかし、それは目立ちたくない人間や密談を交わしたい人間にとっては好都合で、一定の需要から開店後十年以上たっても潰れずに残っている。
帰代がアキラを案内したのは、そんな居酒屋のこぢんまりとした個室だった。予約していたおかげでスムーズに通されたそこは掘り炬燵式で、部屋の入口で靴は脱ぐものの普通の椅子のように座ることができる。畳に慣れていないアキラに合わせて選んだのだ。
「飲み物はどうする?」
「あー……とりあえずビールで」
注文はQRコードから行う形式で、店員とは注文した品を運んでくる時以外顔を合わせずに済む。帰代はさっさとビール二つといくつか簡単なつまみを選ぶと、アキラに「他に食いたいものは?」と尋ねた。
「すぐには思い浮かばないな。飲みながら選んでいいか?」
「ああ。注文はいつでもできるから大丈夫だ」
帰代は一度スマホを置き、お冷を手に取った。アキラはテーブルに備え付けられたメニューを眺める。残念ながら英語表記はない上に独特の筆文字は解読が難しく、ほとんど写真しか手掛かりがない。
さて、何故この二人が居酒屋に来ているのか。任務ではないが、仕事と全く無関係でもない。
日本公安とアメリカのFBIの仲があまりよろしくないことは、ドラマなどのネタにされているように周知の事実である。とはいえ、ギスギスした関係は捜査に悪影響を与えこそすれ、プラスに働くことはまずない。上層部の一部も、何とか関係改善の糸口はないかと頭を悩ませているのだ。
折角こうして合同捜査をする機会があるのだから、親睦を深めてくるといい――勧めという名の命令を受け、こうして公安刑事とFBI班長のサシ飲みが実現したわけである。ちなみに、飲食代は経費だ。
やがてビールとお通しの佃煮が運ばれてきて、とりあえず二人はジョッキを掲げた。
「まあ、なんだ。とりあえずこれからよろしくってことで、乾杯」
「乾杯」
コツンとジョッキを合わせ、冷たいビールを煽る。一気に三分の一ほど飲んでから、アキラは大きな息を吐きながらジョッキをテーブルに置いた。
「ほとんど初対面の相手といきなり二人で飲んで来いとか、上も無茶言ってくれるぜ」
同じくジョッキを置いた帰代が溜息混じりに「同感だ」と頷く。
「互いに日本語と英語は喋れるが、第一言語は違う。酒が入った状態だと会話もあやふやになるだろうしな」
「それな。しかも守秘義務だらけだから完全に酔うわけにもいかねーし、それで親睦を深めて来いって無茶振りが過ぎるだろ」
ここに来るまであまり会話が弾むということはなかったが、怪我の功名とでも言うべきか上層部への不満で言葉が途切れることはない。
合間に佃煮やその後届いた大根とじゃこのサラダ、枝豆、焼き鳥などをつまみながら互いにぶつぶつと話し続ける。
「大体交流とかそういうのは別のメンバーの専門なんだよ。リーダーの俺の役目は班員の指揮とかなわけ。酒にも強くないし向いてないっての……」
「弱いなら自分でセーブするんだな。普段なら酔い潰して情報を抜くところだが、今回は報告が義務付けられてるから下手なことはできない」
「くそ~経費で落ちるのに思い切り飲めないなんて」
「ならその分食え」
言いながらメニューを差し出した帰代に、アキラはいくつかの写真を指さした。帰代はささっとスマホで追加注文を済ませる。
「日本の食い物が美味いのだけが救いだ……」
「店選びを失敗すると、日本でも微妙な味に当たることがある。しっかり事前調査して入るんだな」
「変はこの店何度か来てるのか?」
「ああ。美味いし色々と都合が良いからな」
二人とも最初のビールは空になり、帰代はハイボール、アキラは柚子サワーに移行している。テーブルには山芋鉄板やゲソの唐揚げなど温かいつまみが増えてきた。
「結構食い物屋のこと詳しかったり?」
「それなりにな」
「ならお勧め教えてくれ。帰国する前に食いに行くから」
「そうだな、ちゃんと英語メニューもある店を教えてやる」
「サンキュー、助かるぜ」
何だかんだで徐々に打ち解け始め、愚痴以外の会話も増えてくる。互いの身分を最初から知っており、その点を隠す必要が無い相手というのはある意味楽だ。勿論、余計な情報を漏らさないよう注意は怠らないが、話題が食べ物や観光に関してなら危険度は低い。
「そういや、招集対象が全員集まったら共同生活するんだろう? 食堂が無いって聞いたんだが、食事はどうするんだ?」
「各自で賄うか、代表で誰かが作るかだ。宿舎で全員分として申請するなら材料費は経費で落ちるが、それぞれで食べるなら自費だ」
「別に金に困っちゃいないが、捜査が何日続くかもわからないのにずっと外食ってのもな~ちなみに、今まではどうしてたんだ?」
アキラがこの合同捜査に参加するのは今回が初めてとなるが、これまでも何度か似たような事例はあった。帰代は初期から参加していると事前に聞かされている。
「最初は各自で何とかしていたが、ここ最近は基本的に俺が作ってる」
「は? 変が?」
「ああ」
「料理できるのか?」
懐疑的な視線を向けるアキラを、帰代がじろりと睨みつけた。
「できるが? むしろ上手いが?」
「は~そうなのか……何だか楽しみなような、怖いような」
「吠え面かかせてやるから、楽しみにしておけ」
挑発的に言って帰代が二杯目を飲み干した。次は何にするかと問われ、アキラは少し悩んでジンジャーエールを選ぶ。頬が火照って酔いが回ってきている自覚があった。
鶏皮ポン酢や叩き胡瓜といった軽めのつまみが追加される。帰代はまだ大丈夫らしく、またハイボールが運ばれてきた。そのジョッキを片手に、帰代がアキラを見やる。
「……ところで、なんで俺を指名した? 会話が弾みそうなのは、明らかにあいつ――聖の方だったはずだ」
FBIはアキラ一人の参加だが、公安からは帰代と聖の二人が参加している。どちらと飲むか、選択権はアキラにあった。
アキラは酔いで赤くなった頬をぽりぽりと掻きながら、少し迷いながら答える。
「飽くまでぱっと見と少し話してみての印象だが、心ってなんだか底が知れないというか、読めないというか、とにかくそんな感じだったから遠慮したかったんだ」
「つまり、俺は底が浅いと?」
不機嫌そうに眉根を寄せる帰代に、アキラは慌てて両手と首を振る。
「違う違う! そうじゃなくて、変は何か真面目っていうか、えーっと、そうだ! 誠実? そうな感じがしたんだ。だからまあ、ある程度腹を割って話すなら変の方が良いと思ってさ」
「本心か?」
「割と。あとはまあ、少し話した感じ変の方が英語に慣れてそうだったからだな」
しばらくジト目を向けていた帰代は、アキラが嘘八百を並べ立てているわけではなさそうだと、溜息と共に眉間の皺を解く。
「まあ、今日のところはそれで納得しておいてやる」
「そうしてくれ。実際、英語が話せる変には色々世話になることもあるだろうから、これからよろしくな?」
日系とはいえ、アキラはアメリカ生まれのアメリカ育ちだ。ある程度日本語を話せるが、文化の違いから色々と困ることも多いだろう。
属する国も組織も違うが、共に事件に立ち向かう仲間となったのだ。上層部の思惑通りかもしれないが、歩み寄りは大切である。
「FBIのプロファイリングには以前から興味があったんだ。こちらこそ、その捜査技術を存分に活用させてもらう」
「望むところだ、ってな」
アキラが手を差し出せば、帰代も握手に応じた。
二人の関係が組織同士の関係まで波及してくれるかどうかはわからないが、少なくとも合同捜査チームが日米関係で空中分解という憂き目は免れそうである。
「で、写真が載ってるの以外でお勧めの食い物ってあるか?」
「そうだな――――」
年の近い二人がメニューを挟んで顔を寄せ合う。
見ているものは誰もいないが、もしいたとしたら、その姿は仲の良い同僚として映ったことだろう。
余談ではあるが、後日この経費での飲み会を知った他のメンバーが「ずるい!」とブーイングした結果、事件解決後に懇親会という名の飲み会が開催されることとなった。そしてそれは、事件後の打ち上げとして常態化していくのであった。
(あとがき)
マロで送られてきた🐸さんと☀さんで飲むというシチュエーション、想像してたらどんどん膨らんだため一気に書いてしまいました。まだ知り合って日が浅い、お互いに探り合ってる公安とFBIな二人からしか摂取できない栄養素があると思います。書き手が仲良しな二人が好きなためあまりギスりませんでしたが。
書いてて楽しかったです☺ 素敵なマロをありがとうございました✨