リクエストssで「酔った🐸さんの🐍🐸ver.」です。下呂さんにドキドキしちゃう🐍くんがいます。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
初心なヘビにクリティカル
残業して何とか報告書を書き上げ、すっかり夜の帳の下りた家路を辿る。腹の虫がくぅと鳴いた。手元で揺れるビニール袋には、途中のコンビニで買った遅い夕食――弁当とミニパンケーキが入っている。
そんな普段通りの日常を過ごしていたジャノメは、不意によく見知った顔を見つけて足を止めた。
「あ、きじ――――」
呼びかけようとして、慌てて口元を手で押さえて呑み込んだ。
ネオンで彩られた看板の店から出てきた帰代は、年配の男と一緒だった。二人とも顔が赤らんでおり、酒を飲んでいただろうことがわかる。
男に向かってにこやかに笑いかけている帰代は明らかに普段と違う様子で、だからジャノメはきっと仕事中だと思ったのだ。帰代は公安であり、偽名を使って活動することもある。そういう時に本名で呼びかけてしまっては台無しだと、以前帰代からきつく言い聞かされたのだ。
帰代は男と店の前でしばらく談笑していた。やがて男が軽く手を振って大通りの方へ歩き始め、帰代は深く頭を下げてそれを見送る。
男の姿が曲がり角に消えてから顔を上げ、振り返った帰代と目が合った。
「こんなところで会うなんて奇遇だな?」
帰代の方から近づいてきて声をかけられたので、口を塞いでいた手を外してジャノメもほっと息を吐く。
「こんばんは。お仕事だったの?」
「ああ、ちょっとな。お前は今帰りか?」
「うん。帰ってご飯を食べるところ――あっ」
言ってしまってから、ジャノメは慌ててコンビニのビニール袋を背に隠した。またコンビニ飯かと怒られる――と肩を竦めて帰代を見やる。
しかし、帰代は怒る様子もなく軽く苦笑しただけだった。
「仕方ない奴だな……今度、夕飯作ってやるよ」
「え、いいの? 嬉しいな」
目を輝かせるジャノメに、帰代が笑顔で肩に手を添える。
「良いに決まってるだろ? 何が食べたいか考えておいてくれ」
そんな帰代に、ジャノメは喜びながらも戸惑いを覚える。
今夜の帰代は何かがおかしい。元々帰代は優しいが、その優しさは厳しさを内包していることが多い。今夜のように柔らかな優しさを見せることは稀だ。
黙り込んだジャノメに、帰代はふわりと微笑んだまま小首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「えっと、何だかいつもと違う気がして……きじ――――」
帰代がすっと人差し指をジャノメの唇に押し当てた。内緒のポーズで、そっと顔を寄せる。金の目がすぐ近くで見つめてきて、ジャノメの心臓が跳ねた。
「今は下呂、な?」
使っているらしい偽名を告げられ、唇に帰代の指を感じながらこくこくと頷く。
頬と目元に赤みを帯びた帰代が、「そう、いい子だ」と目を細めた。間近で見たその微笑みに、胸のドキドキが加速していく。
目を逸らせずにいるジャノメの鼻先を、ふわりとアルコールの香りが掠めた。
「……お酒、いっぱい飲んだの?」
「まあ、それなりに」
「大丈夫? 家まで送って行こうか?」
心配するジャノメにクスリと笑って、帰代が肩に置いた手でぽんぽんと軽く叩く。
「そこまで酔ってないから心配するな。ああ、それとも――――」
一度離れた顔が更に近づき、ぶつかりそうになったところで逸れる。
「腹ペコなジャノメくんは、俺をぱくりと食べちゃいたいとか?」
耳に息のかかる距離で囁かれ、ジャノメの肩がびくりと跳ねた。心臓が口から飛び出そうになる。
「ぼ、僕、きじ――じゃなくて、下呂くんを食べたりしないよ」
どもりながらわたわたと両手を上げ下げすると、耳元でクスクスと楽しげな声がした。
さっと身体を離した帰代が、ジャノメの長い横髪をさらりと指に絡ませる。
「わかってる、冗談だ」
くるくると巻きつけた髪から指を抜き、帰代がひらひらと手を振った。
「それじゃ、夜も遅いしお互い帰るか」
「あ、うん、そうだね」
慌てて頷くジャノメを、夜に浮かぶ金の目が見つめている。
「おやすみ、ジャノメ。気を付けて帰れよ?」
「おやすみなさい……そっちも、気を付けてね」
また一つ笑って、帰代が踵を返す。夜の雑踏にその背が消えて行くのを、ジャノメは小さく手を振って見送った。
そして、まだ騒がしい胸をそっと押さえる。何だか顔が熱く感じた。
「お酒の匂いで酔っちゃったかな? それとも、風邪?」
酒にはあまり強くないが、流石に匂いだけで酔っぱらいはしないと思いたい。だが、雰囲気だけで酔うこともあるため、気を付けなければならないだろう。もし風邪なら、帰代に知られると自己管理がなってないと怒られるに違いない。
いや、今夜の帰代だったら怒らないかもしれない。心配して、優しく看病してくれるかも――と想像する。そして、やはり普段の少し怒ったような帰代の方が安心するなと思った。
一方で、どこか変だと気付きつつ、それでも今夜の帰代を思い出すと落ち着かない気分になる。
手の先に引っかけていたビニール袋を落としかけ、がさりとした音にはっとして持ち直す。
「あ、帰らないと」
まだどこかぽーっとしたジャノメは、少しふらつきながらも家に向かって歩き出したのだった。
後日。この夜のことを尋ねたジャノメは、怖い顔をした帰代に「ちゃんと夕飯作りに行ってやるから、あの日のことは忘れろ」と言われることになる。
凄まれてドキドキする胸を押さえるジャノメが、それとは違うあの夜の胸の高鳴りの正体に気付くには、まだまだ時間が必要そうであった。
(あとがき)
リクエストで「酔った🐸さんの🐍🐸ver.が見たいです」とのことで、書いてみました。下呂さんモードな🐸さんの色気は初心な🐍くんには毒だったようですw いつもと違う🐸さんに戸惑いつつ、目にした別側面にドキドキしちゃう🐍くんなのでした☺ でもいつもの🐸さんの方が🐍くんは安心できて好きだと思います。
マロありがとうございました! こんな感じでよろしかったでしょうか?