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ディオジョナ『深い青』

全体公開 1 19 23458文字
2025-05-06 23:49:38

ワンドロを書こうと思ったときにSFを書きたくなったのがいけなかった……(1時間では書けませんでした)。
ディオジョナワンドロの『深い青』をテーマに書きました!
・ジョナサンは回想でしか出てきません。
・モブが出てきます。


「明日は荒れそうだぞ」
同僚のロバートの掠れぎみの声が隣から聞こえたとき、ケイリーは目の前のディスプレイから微塵も視線をブラさなかった。コードを書くタイピングの手も止めない。彼女はカチカチと鳴り続けるキーボード音の合間に「ふん」という鼻息じみた相槌を返しただけだった。
それでも、彼女より少しばかり年上の同僚はめげずに会話の続きを試みた。ケイリーがほとんどリアクションをしないのはいつものことだったし、終業時間が十五分後に迫ったこの時間についに集中力を維持できなくなったロバートが話しだすのもいつものことだった。同僚は仕事の間中黙り込んでいるせいで声が掠れるのを、家に帰って家族と話す前には直しておきたいのだろうとケイリーは思っていた。
「いくら世離れしたあんただって、噂は聞いてるだろ?明日の会議は大荒れだ」
ロバートの声は含みがあった。だが、ケイリーはやはり吐息ばかりの気のない返事を返した。そうして、『そういえば最近、天候を荒らしてない』と思った。ケイリーの仕事は、天候を造りだすことだった。

 ケイリーはなにも、人智を越えた存在であるわけではない。彼女はシステムを開発する企業のプログラマーで、仕事は自分に与えられた狭いデスクで朝の九時から十八時まで座ってキーボードを叩き続けてコードを書くことである。正確には、人工知能にコードを書くように指示を出すのが彼女の仕事だ。そしてさらに正確には、九時から十八時という勤務時間はあくまで記録上の話であり、実際に仕事のためにパソコンに向かう時間は天井知らずであった。
これは彼女だけではない。同僚すべてが──少なくとも今の職を失いたくないと思っている者すべてが─同じ状況であった。海の上や空の上にすら人の移住先を求めて足掻くほど人口爆発のてっぺんに辿り着いている現代、やるべきことは限られている。より少ないエネルギーでより少ない面積でより多くの人間を押し込んでも自然に住めるようにする不自然な環境を持つ“街”づくりだ。それに、世界をあげて取り組んでいる。効率的にエネルギーを生み出したり運用したり、食物をつくったり排せつ物を処理したり……一つの“街”のために開発すべきシステムは地上から見える星の数より多い。なんせ、システムで管理するのはエネルギーや道路などのインフラだけではなく、モノ、はてやヒトまで幅広く及ぶのだ。
今ほどあらゆる“もの”がインターネットに繋がっている時代は歴史上類を見ない。冷蔵庫や洗濯機や空調機器などの家電はすべてシステムで把握・管理され(無論、今は“家電”という概念が廃れつつある。なんせ集合住宅で一律に管理されるのだ)、車やバイクは運転席のない電車や運搬ドローンに作り替えられている。つまり、使うエネルギーの量はもちろん移動の範囲もすべて “街”単位で把握され、コントロールされているのだ。
管理下に置かれるのはヒトも同じである。生まれた場所によっては産声を上げてから数時間以内に人体にチップを埋め込まれ、遺伝子情報はもちろん健康状態や移動など物理的な領域まで何もかも把握・管理される。法でチップを義務とする自治体も今や珍しくなくなったが、この利用目的の定かでない人体チップの出現時はつまりわずか十年前は世界中がパニックに陥ったものだった。当時のケイリーは十五歳だったが、あの時の『なにか取り返しのつかないところに来た』と感じる巨大な不安感は今でも身体が覚えている。そして未だにソレは、肌にまとわりついている。
人体チップによって思想まで侵略されるのではないかと怯え、チップを肌の下にもぐりこませることに猛反発していた当時の沢山の人たちが今どこに居るのかは誰にも分からない。人は理不尽にさえ慣れる。そしてケイリーは、人体チップを開発する大手企業のうちの一つに就職していた。そうしなければ、彼女は今ごろ宇宙に大量に打ち上げられている “街”のシステムを修復する仕事などをしていることだろう。少しでも防護服に穴が開けば骨の髄まで凍りつくことや、太陽フレアで放射能を浴びることに怯え、二度とその大地を踏むことが叶わないことを知りつつも深く青い地球を遠くに眺めながら。そんなのは御免だった。
 だからケイリーは──同僚たちも──必死に勉強して狭き問を通って数少ない大手システム会社に就職した。そして今、彼女は宇宙を流れる鉄の塊である“街”の天候を管理するシステムを運用していた。“街”を覆う壁は大きなディスプレイになっており、そこに昼や夜の空を映し出すのだ。“街”の中に暮らす人々の精神を少しでもよくするために必要なことだと理解しているが、この偽物の天候をつくるエネルギーをもっと生活に回せば“街”の人々はもっとよい食事ができるのではないか?と思わないでもない。ただ、そういう類の疑問が身を亡ぼすことを知っていたので、ケイリーは考えないようにしていた。

……てことでな、明日の会議はその話をするらしいんだよ」
同僚が何かを話し終えるのと、ケイリーがここ二ヶ月天候にさして変化がない “街”がないかを人工知能に探させる指示を書き上げたのは同時であった。
ふうん」
話し終わった後の間を満たすべく、ケイリーは曖昧な相槌を返した。文字通りの上の空であったケイリーに、同僚は怒るどころか同情を浮かべた。
「ケイリー、あんたは適応できるタフな若者だって知ってるけどな……気をつけろよ、社内政治には。ボスだってどうなるか分かんねえぞ」
「え?」
同僚の放った“ボス”の単語に、ケイリーはようやく顔と身体を同僚に向けた。彼女のその反応に同僚のロバートが肩を落とした。
「あのな……ボスに入れ込むなよ、危険だぞ」
……ボスがどうなるかって、なに?どういうこと?」
ロバートのしかめ面を無視して、ケイリーは尋ねた。平静な顔をして見せながらも、彼女の頭の端からは次々に“ボス”に関する記憶や言葉があふれ始めていた。このくすんだ時代において、驚くほど輝いている金色の髪、汚れのないきれいな肌、あの長い睫毛──
同僚が大きなため息を吐いた。余計なお世話だとケイリーは思った。
「だから、その、弟が……十年前に行方不明になってた弟さんが、見つかったんだ」
「おとうそれって、ジョナサン・ジョースターさんのこと?」
「お、知ってるのか、それは」
「そりゃ……え?行方不明って扱いだったの?」
初めて耳にする情報にケイリーが思い切り顔をしかめると、久しぶりに動いた眉間の筋肉が鈍痛を訴えてきた。反射的に指で眉間を揉み始めたケイリーの前で、ロバートが頭の位置と声を低くして秘密を打ち明けるように話しはじめた。
「もうみんな噂してるし、話してもよさそうなんで言うけどな……この会社がこんなにデカくなる前の話だ。つまり、チップに手を出す前のボスは、元会長のほら、もう亡くなったあの元会長、ジョースターさんのことだが。あのジョースターさんの実の息子のジョナサン・ジョースターさんと一緒にウチを経営してたんだ。で、当時はチップ製造プロジェクトの参画にウチで唯一反対していたのがその息子の方のジョースターさんだった」
ロバートは『話してもよさそう』と言った割には恐る恐るという表情で頻繁に目線を泳がせながら話した。先ほどケイリーが上の空であったときにはここまで丁寧な説明をしなかったのだろう。職場はプライバシーの尊重という言葉を盾に、実際は従業員間で妙な連帯が生じるのを防ぐために細かく部屋を区切っており、この部屋にはこの一年ロバートとケイリーしかいない。今日も二人だけであるが、“壁に耳あり”である。用心に越したことはない。
それをよく分かっているはずのロバートがわざわざ話しているのだ。つまり、話したくてたまらないほど彼が興奮しているのだ。ケイリーは戸惑ったが、ついに身を乗り出してロバートに耳を近づけた。
「そんで、約十年前、そのジョースターさんが仕事で宇宙出張に行ったときに、事故が起きたんだよ。彼は人体チップでヒトを管理するより宇宙に出て資源を見つけてくる方が夢があると思ってたらしい。当時は今より探索機の精度も低いし、予算の関係で“街の民”と同じルートで空に出たんだと。つまり、たぶん、正規のルートで宇宙に出られない連中も乗っているような船で行った。きっと粗悪な船だったのさ宇宙海賊かなにかに襲われたんだろう。移動中に船の行方が分からなくなって、それっきりだった」
ケイリーは寝耳に水の話に混乱しながらもぞっとした。地球に住む場所がなく宇宙に打ちあがったのに、それすら不法侵入だとされる類の人たちが海賊に身をやつし、あらゆる“街”や宇宙船に乗り込んで資源を奪いに行っているのは周知の事実だ。自分の乗った宇宙船に海賊船が横付けしてきて、船体に穴を開けようとする振動を感じるなんて、想像するだけで胃が縮む。穴が開くということは、あと数十秒しか生きられないということなのだから。
でも、ジョースターさんって、うちにオフィスあったよね?行方不明ってのは、誤解じゃない?」
ぶるりと指先を震わしたことを誤魔化すべく、ケイリーはロバートに話の先を促した。
「ああ、そりゃあオフィスは片付けられないだろ、死亡したという証拠はなかったからね。だが、SPW希望財団が見つけたんだ、妙な船を。見つけたとき、最初は宇宙墓地の個人用の墓じゃないかって報告されたらしい」
砂漠化で崩れていない大地の面積が限られるせいで埋葬は遺灰を瓶に詰めて所狭しに並べる集団墓地にて行うことが一般化したが、それに反発し、一部の資産家が専用に開発した棺桶──成人の人が一人寝そべって収まるくらい大きな箱で、昔は埋葬の手法として主流だった──を宇宙に打ち上げて個人を埋葬することがある。ケイリーは棺桶を実際に見たことはないが、映画で何度か見たので、宇宙で棺桶を見ればきっと一目で分かるだろうと思っていた。
「SPW希望財団が?妙な船?」
オウム返しするケイリーに、ロバートは意味深に頷いた。
「ああ……その船はレーダーに引っ掛からなかったそうだ。つまり、ステレス機能があって、ONになってたんだよ。で、そいつがフェイク岩石に張り付けられてた」
金属製のゴミや小型の船が岩に張り付くことは事故や偶然でも起きると言われるが、フェイクの岩なら話が違ってくる。ケイリーは先を早く知りたくてイライラした。そんなのバカげた噂じゃないかと言ってやりたかったが、まだ全容が分からない。ロバートはミステリーを楽しむように目を輝かせている。
「レーダー線でも目視でも見つけられないように細工してあったってことだ。どっかの資産家が財産を打ち上げて隠してるんじゃないかと考えて、普通ならそこで終わりなんだがそこはSPW希望財団、未だに資源豊かな星があると信じて宇宙の闇を動き回る変わり者集団。生体反応を調べた奴が居て、それがビンゴだった」
ケイリーはロバートが本当はあのSPW希望財団に入りたかったことを思い出した。かつて石油を掘り起こしひと財産を築いたが、地球の寿命の短さを悔いて独自の手法で宇宙に資源を探しに行っていることで有名な財団だ。どんな力を持っているのか、世界各地から何故か『恩返し作戦』という名で支援を受けており、この時代においてどことなく自由そうに動いている。あまりそういう情勢に興味のないケイリーですら、あの財団の存在自体がなんだか希望に感じるときがあった。ロバートは隠しているつもりのようだが、彼が希望財団に憧れているのは明らかだ。
「ふうん。新しい生命体がいたとか?エイリアン?」
「いいや、人が居たんだ。しかも、たった一人で、じっと動かずに」
 ロバートの言葉で、ケイリーの脳内にはあの映像がさっと甦った。カプセルの透明な窓から、首元から額までを覗かしているあの寝顔。やわらかなオレンジ色のランプに照らされ、暗闇の中で優しく浮かび上がって見えるあの美しい顔──
「つまりな」
ロバートの声で、ケイリーはハッとした。同僚は彼女の表情の変化を気にした素振りもなく話を続けた。
「隠されていたのは金とか宝石とかの財産じゃあない、人だったってワケだ。もともと船の登録もないし、人が居るはずなのに応答もないので、SPW希望財団は助けが必要かもしれないと判断して近づいた。それが一ヶ月前の話だ。
そんで、ようやっとその妙な船もどきのスキャンを終え、中の状態が分かって、船体を安全に開けることができたのが昨日時刻の話だ。カプセル内に仮死状態で、チューブで栄養が細々与えられ続けてる成人が一体見つかったらしい。そしてこっからが奇跡的なんだが、SPW希望財団のお偉い人が、なんと偶然にもこの人を知っていた。いや何なら財団が単独で必死に探し回っていた人物だった。なんと、あのジョナサン・ジョースターさんだったんだよ!俺も全く知らなかったが、ジョースターさんは過去にSPW希望財団に融資もして一緒に資源探求の活動をしていた時期があったらしい。友人になってたんだろうな。なんにせよ、十年間もカプセルの中!なんてこった、信じられるか?財団は事件だと思って国連に通報したらしい」
興奮するロバートを前に、ケイリーは軽蔑と動揺を同時に味わった。ロバートは冷凍治療法という高度治療があることを知らないのだろうか?人を仮死状態にしておいて未来で治療をすることを洗濯する方法だ。それを途中で強制的にストップしたら危険なのではないか?
「それって、カプセルで仮死状態ってことなら、治療中ってことじゃないの?それをSPW希望財団が勝手に船を開けてジョースターさんは大丈夫なの?」
「さあ、確かなことは分からないが、治療なら妙だろう?ボスは十年前にジョナサン・ジョースターさんの失踪届を出してて、完璧に行方知らずだと言ってたんだぜ。SPW希望財団が事件性を疑うのも無理はないよな。……ケイリー?おい、大丈夫か?」

ロバートの驚いた声が、どこか遠くでする。
ケイリーは口を押え、目を見開いて硬直していた。脳裏にはぐるぐると一つの言葉が回っている──私が知ってるってバレたら、どうしよう?

==

一ヶ月前

パソコンの画面右下で突如会議ツールの小さなウィンドウが開き、着信音が鳴り始めたとき、ケイリーは誰かのミスだと思った。普段の社内コミュニケーションはチャットテキストが専らであるので着信がめったにないことと、何かしら緊急のことが生じてもまず動くのはサーバー部門やもっと重要度の高いシステムに携わる部門であって、ケイリーの属する天候管理システム部門は後回しになることが多いためだ。緊急事態が起きていれば他の部門が忙しく動いている情報が入ってきて、もしかしたらこちらにも飛び火して忙しくなるかもしれないと心構えをすることができるのだが、今日はそんな情報は届いていない。それに、もう二十二時を過ぎている。そんな要素が重なって、誰かが間違えて通話ボタンを押したのではないかとケイリーは思ったのだった。
唯一同室の同僚であるロバートは家族のためにとっくの昔に帰っており、今ごろ家で勉強しているはずであった。小さな職場にはケイリーしかいない。彼女はイヤイヤ通話をONにした。
「はい、こちら天候管理システム」
『ああ、ったく!居るなら早く出なさいよ!』
通話状態になるやいなや飛び出てきた女性の罵倒に、ケイリーは一瞬頭の中が真っ白になった。キィンとかすかな耳鳴りを感じる向こうで、まくし立ててくる女性の声が聞こえる。
『ディ、ッ、ブランドー様のオフィスに来なさい!このクソみたいな壁を直して、今すぐに!来なけりゃあんたはクビだからね』
ブツっと通話が切れる。黒くなった画面の真ん中に、『通話は終了しました』の白っぽい文字が浮かんでいる。殴られたようなショックで固まっているケイリーの前で、画面の下側から小さなポップがひゅっと現れた。『通信を評価してください。満足でしたか?』と、会議ツールの五点満点評価を求めてくるアンケートだ。ケイリーはその皮肉なタイミングに思わず笑いそうになり、それでようやくショックから立ち直れた。
大慌てで社内地図のデータにアクセスし、ディオ・ブランドーのオフィスを検索する。検索の手を動かしながら、いささか冷静になった頭の端が先ほどの女性はあのブランドーさんの秘書のマライアさんだろうと見当をつけた。ブランドーさんという名前の人物は、この会社には一人しか居ない。もし仮に他の“ブランドー”が居たとしても、その人はブランドーさんに気を遣って名前の登録を変えるに違いない。尤も、ブランドーさんの本名はディオ・ジョースターだというのだから、何とも奇妙な話であるが。
『ここねここから十八階も上?私、無事に行けるかな?なにを持っていけば
ケイリーは考えながらも立ち上がり、そこでようやく腰が抜けそうになっていることに気が付いた。膝に力が入らず、そのまま床に尻もちをついてしまったのだ。そのまま床にへばってしまわないように、考えるよりも先に片手を伸ばし、机のヘリを掴んで無理やりに立ち上がる。首から鎖骨にかけてつーっと汗が一筋流れるのを感じた。
ケイリーは、自分の強みはどんな時でも自制心を忘れないことだと思っていた。だが、今、彼女は自分が冷静とは程遠いところにいると感じていた。もちろん、それを自覚できること自体が彼女の強みであるのだが──たとえ心臓にハリネズミの棘くらい硬い毛が生えている人だって、こんな局面を迎えれば膝くらい震えて当然だろう。ディオ・ブランドー……世界有数の人体チップを手掛ける会社の事実上頂点に立つ人物。ケイリーが一生のうちに稼ぐ金額は──例え命を懸けたって、そして命を失ったって──ブランドー氏の巨額の資産からするとほんの一握りのものだろう。彼からするとケイリーの存在などディスプレイを構成する画素の一つ、無数に存在する小さな小さな粒に等しい。そんなに人に関わるなんて、もしなにか失礼なことをしようものなら地球上に仕事がなくなり宇宙に飛ばされるだけでなく、宇宙の“街”の修復なんてものが可愛く思えるような危険な仕事しかできなくなるに違いない。
 ケイリーは今にも転覆しそうな船のごとく動転しかけている気持ちを必死に抑え、平静に保とうと努力しながら、ノートパソコンや工具箱を鞄に引っ掴んでエレベーターまで突っ走った。もう夜中に近い時間帯だが、ケイリーのフロアにはまだ二、三、灯りが点いている。誰が居るかなんて確認する余裕なんて微塵もないまま、数秒待っているうちに開いたエレベーターの中に飛び込んだ。中は誰も居らず空っぽで、「三十二階に」とAIに指示を出すケイリーの声が寒々しく響いた。
「“かしこまりました。ドアが閉まります”」という優しい声色の音声に、ケイリーは一瞬泣きたくなった。怖いし、ひどく虚しい。こういう時に縋る相手が自分しか居ないなんて……でも人は大事な場面はいつだって独りなのだ。

 ケイリーが現実逃避のために“人生とは”というやたらに大きなテーマに対する思考をぐるぐると頭の中で渦巻かせているうちに、三十二階に着いた。そこでようやくケイリーは通常の社員は二十八階以上に上がる権限がないのでAIは取り合ってくれないはずなのに、さっきはスムースに受け容れてくれたことに気が付いた。マライアさんが一時的に制限を解除したのだろう。それほど彼女も切羽詰まっているということだ。
 フロアは、エレベーターを降りた光景からしてケイリーのフロアとまるで違った。彼女のフロアは手前の大きな会議室以外はずらりと小部屋への扉が並んでおり、まるでホテルあるいは監獄のようなレイアウトなのに、ここは部屋が広くて仕切りもガラス張りだ。壁がディスプレイになっており夜空が映し出されていることもあって(現代の外は大気汚染で四六時中黒い雲に覆われていることが多いので、地上の建物でも壁や窓に映像を映し出して自然を感じる演出をすることは珍しくない)いっそう広く見えた。フロアの主照明は消され、常夜灯に切り替えられており、床や天井の端でぽつぽつと灯るオレンジ色の光に満ちている。それらの橙色の照明がガラスに反射し、まるで夜空の中に居るような、不思議と美しいが不気味さのある空間だった。鏡の迷路に居るようだ。廊下が真っ直ぐでなければ簡単に迷ってしまいそうだ。
 ケイリーは膝の関節がカクカクと妙な動きを見せるのを感じながらも前に進んだ。ブランドーさんのオフィスは廊下の突き当たりを右の、最も奥まった場所だ。先ほど社内地図を見て気付いたのだが、突き当りの左はジョースター元会長の息子、ジョナサン・ジョースターさんのオフィスになっているらしい。ただ、遊び人だったかなんだったか、籍はあるけど本人は居ないのだったか……興味がないせいでケイリーはよく知らなかったが、なにかしらの噂がある人だということだけは知っていた。
 廊下を曲がると、奥にまだ白く輝くオフィスが見えてきた。その大きなガラス扉の前を左右に行ったり来たりしている人影が、ケイリーに気付いてパッと立ち止まり、扉を押し開けた。マライアさんだ、とケイリーには分かった。株主総会などの会社のイベントのオンデマンドで見たことがある。パンツスーツで決めた彼女は画面越しに見たって抜群のスタイルだと思ってはいたが、こうして目の前にすると映像で見るよりさらに美しいと分かった。ただ、表情ばかりは落ち着き払っていたオンデマンドの方が何倍もよかった。今の彼女は噛みつかんばかりの顔だ。
「ようやっと!どこかでお茶でもしてから来たのかしら?ティーパーティーにでも呼ばれていると思った?おめかしはそれで充分?」
「も、申し訳ありません」
ケイリーは駆け足でマライアさんの前まで進み、頭を下げた。マライアさんは鼻を鳴らし、扉を開けきって一歩下がった。ケイリーは急いで中に入った。とてもそんな余裕はなかったはずなのに、それでもケイリーはあっと驚かずにはいられなかった。
まるで時代劇のセットみたいだ──オフィスの内装は非常に見事であった。ケイリーのフロアの小部屋だと三つ分は優にあると思わせる広さで、床は渋い赤のカーペットに覆われ、一番大きな壁には天井に迫る高さのある本棚が二つも並んで設置されている。本物かは分からないが、棚の中には紙の本も所狭しに詰め込まれている。部屋の中央は黒に近い木のローテーブルが据えられ、机を挟んで向かい合わせに小さな花柄の布地クッションがあつらえられたソファがあった。
その応接用の机やソファの向こうに、立派な執務机がある。大きくて重厚で、美しい彫り飾りのある分厚い側板を支えに、ニスが塗り込められ琥珀色の鈍い光沢を反射する天板が乗っていた。柔らかく光を弾く机のニスに、出入口から右側の壁に設置された窓から射しこむ光が当たっている──窓はまるで本物のような青空が広がっているが、当然ディスプレイである。その、わざわざベロアの立派なカーテンが取り付けられている窓を見て、ケイリーは自分がこの窓の修理で呼ばれたのではないかと思った。夜なのに昼の光景が映し出されているのだから。
だが、マライアさんが窓に目もくれずに歩き出すのを見て、この窓の修理が目的ではないのではないのだとケイリーは思った。
「ほら、早く来なさい」
立ち竦んでたケイリーに、マライアさんが強い調子で言った。ケイリーが慌ててマライアさんの後を追うと、彼女は本棚の影に隠れるように設置されている白い扉の前まで移動した。どうやらさらに奥に部屋があるのだ。ケイリーはきっとサーバールームのような諸々の設定をする部屋があるのだろうと思った。マライアさんが扉を開き、顎で中を指してケイリーに入るように命じてくる。ケイリーはマライアのすぐ横を背を丸めながら通った。マライアさんの近くからふわっと甘くていい香りがして、ケイリーは妙にどぎまぎとした。
 扉の中に入り、顔を上げると、ケイリーはまた驚いた。中は薄暗く、予想したような機械の並ぶサーバールームのような部屋ではなかった。まるでホテルのような部屋だ。先ほどの部屋に比べれば半分にも満たない面積だが、ケイリーの部屋より倍以上は広いその空間は、どう見たってプライベートな空間である。あからさまに顔を向けるわけにはいかないが、左側の視界には天蓋から垂れた薄いヴェールの膜に覆われた男性向けサイズのベッドが見えている。その他には小さな冷蔵庫や机など、どことなく生活感を覚える家具が置いてあった。
そして今、何より目を引くのは入って正面の壁だ。ディスプレイでできた壁は、ギラギラと映像が乱れている。この壁の修理のために呼ばれたのだ。大きな壁は一部が砂嵐のように乱れ、一部は真っ黒になり、そして一部は色んな映像が絶え間なく変化しながら流れている。破損はパッと見ないものの、物理的に壁に衝撃があり、中で何がしかの基盤や部品がズレたに違いない。
「さ、映像担当でしょ?仕事をしてちょうだい」
マライアさんがすぐ背後で高らかに言った。びくりと反射的に肩をすくませるケイリーに構わず、マライアさんは時計型の携帯を見て冷たい声で続けた。
「いいかしら、時間はせいぜい二十分よ。壁を直してちょうだい。あの方がお戻りになる前に終わらせるの。必死にやることねそんな悠長な時間はないに決まってるけど、修理以外で物に触らないこと。触ったら、あなた、首が飛ぶだけじゃすまないわよ」
声を低くしたマライアさんは、まるでケイリーが壁を壊したとでも言いたげに彼女を睨み付けてから踵を返した。
「あ、ま、マライアさマライア様」
ケイリーは思わず震える声を上げた。首を傾けた彼女に睨まれて、ケイリーはさらに身体を小さくしながらも言葉を続けた。
「見たところ、内臓のケーブルか何かの損傷かと。工具が必要と思いますので、他のエンジニアを呼んできてもよろしいでしょうか?わ、私は、専門の工具は持ち合わせてなくて」
「あら、お嬢さん、あなたには難しすぎるのかしら?そこの箱に必要なものは揃ってるわ。壁はパッチ式よ、もともとある壁を取り除いて後ではめ込んだから。目を凝らせば右側に取り外しのツメが見えるはずよ。ケーブルの損傷だなんて百も承知、そこに新しい代用ケーブルがあるからちゃっちゃと終わらせてくれる?私は今別の仕事で忙しいの、そんな寝ててもできる作業なんてやってらんないのよ」
マライアさんは猫撫で声で一気に言った後、呆然とするケイリーに鼻を鳴らし、今度こそ踵を返して出て行った。扉は開いたままだ。

ケイリーは自分の血がざっと下がったような心地を味わった。たしかに、よく見れば壁際に白い箱が置かれているのが見える。あれが工具箱なのだろう。つまり、マライアさんは自分でもできると思った“簡単な”修理を時間が惜しいためにケイリーに任せたのだ。秘書ってそんな技術面も秀でているものなのだろうか?彼女が特別に優秀なのだろうか?どんな経歴なんだろう?そもそもなんで私に?たまたままだ残業してたから?なんで─いや、とにもかくにも、こんなこともできないのだと思われては終わりだ。
思考に必要な酸素が脳に十分に行き渡っていないように感じながらも、ケイリーは必死に身体を動かした。工具箱の中を漁ると、手のひらサイズのランプが見つかったのでまずはその光を灯して床に置いた。白いまばゆい光が当たりを照らし、照明の灯っていない部屋の中でもだいぶ手元が見えるようになった。なぜ部屋の照明が落とされているのかは考えないように気をつけた──なんせ、視界の端に、ベッドが見えるのだ。画面越しで何度か見ただけだが、それでも驚くほどの美丈夫だと印象深く残っているブランドーさんと、あの抜群のプロポーションの美女のそれもこの部屋に入るのになんら躊躇いのなさそうなマライアさんが揃っているのだ。この部屋が何に使われているのか考えなくとも分かるというものだ。
ケイリーは壁を外して中を確認するための“ツメ”を探しだし、なんとか壁のディスプレイ部分を解体する手順を確認して、一枚いちまいケイリーの肩くらい幅のある重たい大きな板を外していく。あとで順番通り戻さなければ最終的にディスプレイとして機能しない可能性があるので、場所が分からないことにならないように気をつけながら剥ぎ、四枚ほどなんとか外したところで中を確認する作業に移った。

 修理は、ケイリーが自分でも驚いたことに十分で終わった。きっとマライアさんの見立てが正しかったために違いない。作業自体はかなり繊細な動きを要求されたが、結果的には用意してあった新しいケーブルに替えただけであっけないほど正しく通信が通るようになった。ただ、パネル板を元通りに戻しても、映像が出力されず画面は白い光を放っていた。真っ白な光を放つ巨大なパネルの眩しさにケイリーは目を瞬かせつつ、おかげで室内は見やすくなった。建物全体の窓や壁の映像を管理するのは地下にあるコントローラー室で行うが、この部屋の場合はマライアさんの言う通り元々壁であったところを簡易的な工事によってディスプレイにすげ替えたものであったので、映像を操作する出力用の機械も近くにある筈だ。
部屋の中をじろじろと見る勇気などなかったが、完全な修理のためにはそうも言っていられない。何度か視線を往復させたところで、ケイリーはようやっとベッドのサイドテーブルの端にそれらしき小さなデバイスが置かれているのに気付いた。こちらを背に置かれたそれは、見た目が完全に写真立てで、黒っぽい木製でできていた。ケイリーはもしその写真立ての正面がこちらに向いていたらそれが怪しいとは気づかなかっただろうと思った。ベッドから画面を見やすいような向きで置かれていて、裏側がこちらを向いているからこそ、写真立てが通信していることを意味する緑のライトの点滅がかすかに見えたのだ。
近づいてみると、手のひらサイズの木製のフレームのなかはディスプレイで、ゆっくりと映像が切り替わっていく様子が映し出されていた。映像は、森林や池など、かつてはこの星に当たり前に見られたという自然の風景の写真ばかりだ。ケイリーはなんだか虚しくなった。ブランドーさんのような資産のある人でも、人類という浪費家が地球のあらゆる資源を使い込む前の二度と戻れない時代に憧れているのだ。世界の資産ランキングの上位に必ず入っているブランドーさんですらそうなのだ。もうきっと、本当に、自然豊かな美しい地球を見ることは誰もできないのだろう。地球は今や、外から見た方がその深く青が美しいという。
未来を考えてしまうたびに感じる胃を刺すような痛みを呑み込み、ケイリーは目の前の写真立て型のデバイスに集中した。そっと手に取り、画面を押してみると、思った通り通信の回線や画面の切り替え速度など設定用の画面が出てきた。通信設定を他の無線に切り替えて、また元に戻すことで再接続を図ってみたが、パネルに映像は映し出されない。壁の内蔵されたネット通信機器は問題なかったのできっと認識の問題だけのはずなのだ。デバイスを再起動したらどうだろうか?だがパスワードが必要なら上手くいかないかもしれない。
 慎重に、かつ素早く設定できることを把握していくうちに、ケイリーは出力する画像を選ぶ設定があることに気が付いた。選択を切り替えるボタンを押すと、動画再生のアプリみたいにいくつかの画像候補が並んで現れる。その瞬間、ケイリーはやってしまったと思った。それらの画像が非常にプライベートなものであることが詳しく見ずとも分かったからだ。
慌てると人はやってはいけないと思ったことをやってしまうものである。ケイリーはこれは押してはいけないと思った画像に指を当ててしまった。それは、サムネイルが三人のスーツ姿の男性が並んで映っている写真だった。何か祝い事があったのか、中央で唯一椅子に腰掛けている男性は微笑み、左右に立つ若者の腕にはそれぞれトロフィーや花束があった。座っている黒い髪と髭を持つ中年の人物が故元会長のジョースターさんだとケイリーには分かった。コーポレートサイトで何度も見たことがある。その右隣りに立つ、ガラスのトロフィーを腕に抱えているのがディオ・ブランドー氏だと、こちらも画面越しだが見たことがあるために理解できた。現在の成熟した大人の顔立ちと違い、写真の彼は二十代前半くらいの若々しさがあるが、今と変わらないつり気味の美しい目をしている。
『そして、この人が……ジョナサン・ジョースター?』
左側に立つ、花束を腕に抱えた青年は、中央の元会長とかなり似た顔立ちだった。ケイリーは想像とは全く違う“ジョナサン・ジョースター”に思わず目を見張った。噂は噂だと分かっているが、それでも遊び人で経営にもノータッチだとか蒸発したも同然だとかよからぬ話をいろいろと聞いていたので、てっきり頭に何も詰まっていない顔をしているものと思っていたのだ。ところが写真の彼は非常に聡明そうで、青く美しい瞳がキラキラと輝いて見えた。しっかりと太い眉を持つためだろうか、控えめな微笑みだがどこか意志の強そうな性格にも見える。AIが描いたようなハンサムだ。
 ケイリーはつい指を止めてしまったことに数秒してから気が付いて、慌てて戻るボタンを押そうとした。だがどれが“戻る”のボタンかすぐに分からず、彼女は三角のマークを試しに押した。すると、次に出たのは黒とオレンジ色の画面だった。瞬間、ケイリーは息が詰まった。そこに映し出されていたのはつい先ほどの写真の中で見た人物、ジョナサン・ジョースターの胸から上の画像だったのだ。一瞬、ケイリーは棺桶の中に入ったジョースターさんが見えたのだと思った。まるで蓋をズラした棺桶の中から胸から上を覗かしているように見えたからだ。
だがすぐに思い直した──よく見ると、大掛かりそうな機械の一部が映りこんでいる。病院の集中治療室などで見かける酸素カプセルにそっくりだ。暗い部屋の中で、オレンジ色のライトが内蔵された金属のカプセルに入っているようだ。
『もしかして……ジョースターさんは、難病なの?彼は蒸発したとか遊びに行っているとかではなく、どこかで治療でも受けているの?』
思っていた操作ができなかったことに大いに焦りつつも、ケイリーの冷静な部分が色んな推測をした。同時に、随分と前に聞いた噂話を思い出す──元会長の故ジョースターさんは病気で亡くなるとき、宇宙での冷凍治療法を辞退したという噂だ。冷凍治療法とは、未来で医療技術発展することを期待し、難病を患った者が意図的に仮死状態に入って生命活動を極限まで小さくして人生の時間を稼ぐ手法である。元会長はそれを断り、そのまま亡くなることを受け入れたんだとか。
 病気が遺伝のもので、ジョナサン・ジョースターも発症したのであれば?もしかして、ディオ・ブランドーさんは、ジョースターさんに冷凍治療法を受けさせている?公表していないのは、冷凍治療法が攻撃されるかもしれないから?
 金がある故に可能な冷凍治療法は治療の終わりが明確ではないせいで投資額が膨らむことを恐れる株主から攻撃の的にされやすい。そのためにブランドーさんはジョースターさんの治療を公表していないのかもしれない。そうだとしたら……なんていじらしく、愛に溢れた家族愛なのだろう?例え血がつながっていても健全な関係を築くのが難しいほど過酷な現代において、義理の兄弟だというのに、彼らは助け合っているのだ。
 ケイリーは久しぶりに胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。こんな風に、誰かが誰かを思いやる気持ちに触れると、そのあたたかさに驚くせいで涙腺が緩くなってしまう。無意識に目を細めつつ、ケイリーは急いで画面を切り替え──ようとして、手を止めた。ふと気がついたのだ、このオレンジと黒だけが存在するジョースターさんの治療中の写真が、レコーダー式になっていることに。これは、一定の間隔で撮影された画像や動画が自動的に転送される形式だ。赤ちゃん用のカメラなどに見られるライブ式とは違って細やかな情報が届かないが、データ処理にかかる負担は圧倒的に少なくなる点でメリットが大きい。つまりこれは、ほぼ今現在のジョナサン・ジョースターさんなのだ!
 目頭が熱くなり、慌てて目を瞑った。ブランドーさんが、ジョースターさんを心から心配しているということは疑いようがなかった。ケイリーは心のどこかで、雲の上の存在であるブランドーさんのような金持ちというのは人の心がないものと思っていた。ジョースターさんの病気の治療を隠すだけなら経営リスクを考えてのことではないかと理解できる。だけど、これは──これは、その類とはまた違うと思えた。ブランドーさんには、ジョースターさんの病気を公表することで、自分は家族を思いやる立派な人間なんだと世間に訴えることだってできる。なのに、彼はそれをせず、隠れてただただ義兄弟を心配しているのだ。なんて心の優しい人なのだろう?

 ケイリーは泣きそうになりながらデバイスを操作し続けた。ようやく画像の出力が成功すると、彼女は写真立てをテーブルの上に戻し、それから深く息を吸った。この部屋をあの方が出入りすることを思うと、空気が特別に感じられる。
このときから、ケイリーはディオ・ブランドーのファンだった。翌日には同僚のロバートに思わず『ブランドーさんって本当に立派な人』と言ってしまい、彼に『ボスに惚れた犠牲者がまた出たな』と茶化されて本当にムッとすることになるくらいには。
 ケイリーが部屋を出たとき、執務机でラップトップに向き合っていたマライアさんは時計型携帯で通話をしているところだった。彼女はケイリーにほとんど目も寄こさずに小さく頷いて、片手をしっしと振って追いやってきた。どうやら壁の修理など当然できるので確認せずともいいと思っているらしい。
ケイリーはなんで自分が呼ばれたのだろう?という疑問を口にできないまま、追いやられるがままに外に向かった。きっと、マライアさんの様子を見るに、本当に誰でもよくて偶然通話のつながった自分が選ばれたのだろう。背中を、マライアさんの先ほどまでとは打って変わって甘やかで尊重に満ちた優しい声が追いかけてくる。
「手は大丈夫ですか?ああ、ええ、ああよかった!あなた様の美しい手に傷が付いたらどうしようかと。え?ああ、警察?いいえ、連絡はなにも来ていませんよ。それよりディオ様、お疲れでしたら、なにかサービスを手配しましょうか?」──


*****


 エレベーターに乗り込み、包帯を巻かれた手を見下ろした時、ディオ・ブランドーは『医務室は十年ぶりだった』と思った。社内に設置された医務室は、十年前、あの“元会長”のために足繁く通ったものだった。当時より今の方が医務室のスケールも設備も格段にいいが、元会長──義父でもあったジョージが亡くなって以来、ディオが敷居を跨ぐことはなかった。ジョージは最期を“ホーム”と呼べるこの会社で過ごしたがったため、体調を崩してから半年近くは医務室に居たのだ。あの頃はまだ今に比べると取るに足らない規模の会社だったが、この時代に事業を続けることは簡単なことではない。特に妻を失ってからは人生の時間と活力を注ぐ対象が限られたのだろう、ジョージは会社に執着した。
彼が会社への執着を手放せたのは、実のところ、ディオの涙ぐましい努力の結果であった。ジョージは死の床で、『立派な息子らが居てくれて、思い残すことはない』と口にしていたのだ。もはや執着はなく、未練もなかったと言えよう。いっそ清々しい表情をしていたジョージとは対象に、息子であるジョナサン・ジョースターは父の“風邪”をなんとか治したかったのにと未練たらたらだった。奴の泣き顔は今でもよく覚えている。こっちも合わせて泣くのに大変骨を折ったものだった。
ようやっとジョージを看取ってからというもの、ディオが医務室に来ることなど一度としてなかった。彼は二十四時間、常に世界からその言動を注目される立場であり、その重圧は測り知れないものがあるが、それにもかかわらず彼は精神的にも肉体的にも健康そのものであった。ライバルたちがプレッシャーに耐えかねてドラッグやアルコールや性暴力への逃避などにしばしば溺れる一方で、ディオはむしろ世間の目を楽しみ、自分を鍛え続けることに打ち込んできた。そんなディオだからこそ信頼され、会社をますます大きく育てることができたのだ。世界中に自分の熱烈なファンがいることをディオはよく知っていた。これからも順調に増え続けるだろうと思っていた。

だというのに、このたった一時間ほどでディオの調子は大いに崩れていた。ひどく気分が悪い。清掃業務中だった人型ロボットの顔面を砕くほどの勢いで殴ったために負傷した手だけではなく、胃までもキリキリと痛み、頭痛すら感じていた。動揺していることに動揺している──それを自覚するだけで、眩暈さえ起きそうだった。
『一体どこのどいつが、このディオに許可もなく……焦るな、冷静になれ。俺が関わった証拠がどこにある?金の動きが最もリスキーだが、その点がクリアできていることは十年も前に検証済みではないか?支払いは現物のゴールドで、送金履歴は一切残ってない。あの船の存在がバレたところで、俺に繋がる証拠はほとんどない……ああだが、クソッ、分かってる、あの忌々しいカメラッ』
ドンッと強い音がして、ディオはハッとした。包帯塗れの手で、エレベーターの壁を叩いていた。幸い、エレベーターは止まることなく動いている。ディオは頭を振った。
……カメラなど取り付けない方がいいなんてことは、とっくに分かっていたことではないか。それでも、この俺が、そうすべきと思ったのだ。ごく自然なことだったのではないか?敵こそ近くに置けと言うではないか。それに、この程度の難局は対処できて当然と思ったからこそ、カメラを設置したのではなかったか?』
ディオは携帯機器を取り出して、もはや目を閉じていてもできる操作でシークレット通信に繋ぎ、とある画面を開いた。オレンジと黒だけが存在する映像が現れる──あの頃からなにも変わらない、ただ自分に生かされているだけの男の顔が見える。自然と小さく息を吐いた瞬間、ディオはギクリとした。今まさしく“コイツ”を乗せた船が何者かに見つかって調査が始まっているというのに、今、自ら通信してカメラに接続してしまっている。
 急いで通信を切ったディオは、同時に、『もうカメラに接続できないのか』と気が付いた。刹那、怒りで目の前が真っ赤に染まった。ガンガンと頭が傷む。呼吸が浅くなり、背は丸まり、膝がぶるぶると震えた。とっさに壁に爪を立てるように手をついて、なんとか上体を支えていた。何年もかけて腹の奥底にしまい込むことに成功したあの真っ黒い感情が、憎しみが、喉元までせり上がっている。今この瞬間もあの船に汚らしい原始人が触れ、乗り込もうとしているのだ。考えるだけで胃がねじれそうだった。耐えがたい侵略だ──ウジ虫どもめ、モンキーに過ぎないくせに、生きる価値なんざ微塵もないただのゴミが、このディオの──

 エレベーターの扉が開いていることに、ディオはしばらく気が付かなかった。おそらく何度目かの「“到着いたしました、ブランドー様”」というAIアナウンスを耳が拾って、ようやくディオはいつの間にかきつく閉じていた目を開けた。ふーーっと深く息を吐き、ドクドクと暴れる心臓の音を聞きながら、ディオはオフィスに降り立った。時刻は二十五時に近づいている。ディオの手を心配していることを口実に何かと世話を焼こうとしてきた秘書のマライアも、ディオが帰るよう促したために姿はなかった。有能な女だ。あれでこちらに骨抜きでなければもっとそそられただろうに。
 誰も居ない空間をゆっくりと歩きながら、ディオは考えを深めた。
あれほどに隠した船を見つけ、慎重にスキャンを始めている連中だ。少なくとも宇宙海賊じゃあない。だから、乱暴に穴を開けられ、中が凍りつく心配はない』
“心配?この俺が?”
浮かんだ言葉に対し、ディオは意識的に鼻で笑った。
『仮にあの船が破壊されたって、それはそれでいいじゃないか?俺に繋がる証拠が消えるならそれでいい。奴とはあれが最後だった、それで……
ふと脳裡に、あの男と交わした最後の会話が甦る。男が宇宙に上がった後、無事を確認するために連絡したときのものだ。あの通話はディオにとってはもちろん男の位置情報の確認のためだった。こちらの計画を変える必要がないかのダメ押しの一本だったのだ。
ジョナサンは、宇宙に出張なんてさして経験がないくせに、それもあの時は会社が小さかったため粗悪な船で空に出ており危険な旅路だと理解していたくせに、落ち着き払っていた。彼には冗談っぽく話す余裕さえあった。尤も、ジョナサンが冗談らしく話すときは本音を言っているときだとディオは理解していた。

『ディオ、僕が地球から離れている間に、チップのことを進めてしまおうだなんてしないでくれよ。僕は必ずどこかに資源があると信じてる。きっと見つけてくるよ』

『調査が金になるのかだって?ハハ、君はいつもそんな風に言うけど……なら、君も宇宙に来てみるといい。この宇宙には希望があるって、きっとそう感じるさ。それに何より、見てみてくれよ、地球はとても美しい。美しい青なんだ……深い青なんだよ、ディオ』

 自分の執務室の扉を開けたことにも、ディオは数秒経ってから気が付いた。まるで、脳の回路の長らく使われることのなかった部分に急激に刺激が流れたせいで回路がショートしかけている気分だった。
……大丈夫だ。これまでだって、一人でうまく対処してきたじゃあないか』
執務室を進み、さらに奥のプライベートルームに入る。殴ったロボットの姿はなく、倒れたロボットがぶつかって映像の流れなくなった壁のパネルも正常に作動していた。マライアが修理の手を回してくれたに違いない。壁は、今はどこかのクソ川の映像が流れている。
『ロボットはどう処理した?マライアのことだから問題ないだろうが、確認しておかないとな』
ロボットのチップは抜いて折り、火で炙って徹底的に破壊した(人型ロボットは衝撃を受けると防犯用で映像を記録するのだ)。今ごろは新しいチップを入れて初期化されたはずだ。秘書が破損した部品をさっさと入れ替えてくれたので、問題はないだろう。近頃は人型ロボットに手を上げる行為が人間性の欠如の証明になるとして裁判などで材料に用いられることがあるので、油断はできない。見た目は人にそっくりな人型ロボットが世界中でありとあらゆる欲望を満たすために様々な使われ方をしているのは周知の事実だが─ロボットより生身のヒトの方が安いが、修繕できる上に老いも病気も知らないロボットは人気がある──それでも、ディオのような資産家には高い品性が求められる。人間性を重視しない者だけが頂点を目指して富を築き上げられる世の中において、その富の大きさに比例して社会への責任があるとかなんとかで高い人間性を求められるようになるのはなんとも皮肉なことである。
ディオには、人型ロボットに自分の欲望をぶつけるような一面はまったくなかった。相手がヒトであっても同じだ。多くの資産家が欲に負けて反人道的な行為にふけった挙句にそれを材料にあこぎな組織から脅されるという事例は枚挙に暇がないが、ディオにはその隙はなかった。彼は、欲を完璧にコントロールできると自負していた。政界や業界のハイエナどもがなんとか弱みを握ろうと右往左往するのをむしろ愉しんできたというのに、今日は、正確にはあの船が誰かに接触されていることを知った数時間前から、自分は全く隙だらけだった。
『船のスキャンから調査を始めるに違いない。それならまだ手を打つ時間はある。どこのカスがあの船に接触しているか知らないが、絶対に後悔させてやる』
 ベッドに腰を落とすと、スプリングがギシリと揺れた。サイドテーブルに目を向けると、壁のパネルに連動して画像を映す写真立てが見える。ディオはゆっくりと手を伸ばし、写真立てを手に取った。この毎晩見ていた写真立てもシークレットな通信と連動しているので、近いうちに破壊しないとならないだろう。この中には昔の“家族”写真も入っている。元データは確かパソコンの中にあるはずだ。もしかしたらディオのではなく、ジョジョのパソコンの中かもしれない。十年前に海賊の手を借りて拉致させ、あの小型船に押し込んで以降、言葉は交わしていないあの男の。
ディオは写真立てを片手に、もう一方の手で顔を半分覆った。こんなに疲れを覚えたのは久しぶりだ。今日一日で十年分の感情を味わったかのようだ。今日を振り返ってみると、そもそも自分はここ十年感情らしきものを感じていたのかも怪しくなってくる。この十年、ピラミッドのごとく資産を積み上げ、これまでにないほど華やかな時間を送ってきているにも関わらず。
「生きているのか?ジョジョ……
 もう十年も仮死状態なのに、彼の脳はまだ生きているのだろうか?医療技術の発達を頼りに治療を文字通り先送りすべく患者を意図的に仮死状態にする“冷凍治療法”の理論で言えば、ジョジョは間違いなく生きている。だが、ディオはそもそもこの治療法に不信感を抱いていた。皮肉なことに、ディオがこの治療法はどうやら本当に有効らしいと関心を強めたのは、父ジョージのためにジョジョが一生懸命に情報を集め出したのがきっかけだった。
結局、ジョージは自然の摂理に反するからだとかなんとか抜かして治療を拒絶したのに、息子の方はそれを味わうことになった。人体チップのビジネス化に頑なに反対する甘ったれた坊ちゃんのマインドが、これで治療できるかもしれないと踏んで──実際のところ、後で振り返ったときに、ディオはジョジョを治療しようとすることこそ自分に甘えがあった証拠だと思うことがあった。海賊に襲わせてしまうのは簡単だが、それをおもしろくないと思った自分が居たのだから。
『無事に目が覚めたら、ジョジョは多少時計の針が進んでいたとしてもまだ二十代か。この俺に感謝しろよなァ、ジョジョ……もし彼の脳が死んでいるなら、そのまま冷凍して、いずれ俺の意識を移し……いや、それより今、そのボディが失われるかもしれないことに集中しなければ』
ジョジョが目を覚ますかもしれないという状況に、次第に腹の奥がざわざわとしてくる。勝手に拡がりだした様々な考えに蓋をするため、ディオは片手で口元を覆い、持ち上がりそうになっていた頬を指先で揉んだ。
『さて、どんな手を打っておく?技術力のある者ならあの船のカメラの通信がこのオフィスに届いていることに気付くだろう。二重、三重の策が必要だ。まずはもちろん、買収……それと、こちらの通信機器の設定をそれとなく理由をつけて変更すること。それと、どうにかして“真犯人”も用意しておかないとな』
ディオは自然と立ち上がり、部屋の中をゆっくりと歩き出した。考えるうちに、疲れが溶けて消えていくのを感じる。なぜだろうか、いつのまにか、スキップでもしたいような気分になってきていた。あの船を見つけた連中は、当然いつか排除するにせよ、あの船を壊すような輩ではなかったのだ。少なくとも船を見つける技術力を持っている。当然、冷凍治療法のことも理解しているような連中だろう。つまり、本当に、ジョジョは目を覚ますかもしれない。
彼はなんて思うだろうか?今のこの世界に──彼が珍しく何度も声を荒げて必死の抵抗を見せてきた人体チップの登場で造り替えられつつあるこの世界に。
『そうだ、奴は「人としての誇りの問題だ」などと言っていたっけ?あんな風に立ち上がって俺の腕を掴むなんてしてくれるものだから、ついつい笑っちまったもんだった。ああ、目を覚ますなら、ジョジョが現状を知る場には絶対に立ち会わなければ。いや、それどころか、彼に現状を説明してやるのはこのディオでなければならない。俺が唯一の“家族”なんだからなあ……
ディオは気付かぬうちに立ち止まり、ぶるりと全身を震わせた。口元を押える手にますます力を込める。そうしなければ、いくら真夜中とは言えどこに耳や目があるか分からないオフィスで声を出して笑い出してしまいそうだった。指先まで湯につかっているように熱くなっている。湿った吐息を手の平に感じた。瞬きを忘れた目の奥では、世界の現状を知ったときのジョナサン・ジョースターの表情への妄想が広がっていた。
 ああ、絶対に見逃せない──

 どのくらい立ったまま空想に耽っていたか分からない。ディオはふと、未だに写真立てを手にしていることに気が付いた。何気なくテーブルの上にそれを戻した瞬間、彼は気が付いた。この部屋に戻ってきたとき、写真立ての向きがいつもと違っていた。秘書にも清掃用ロボットにも写真立てには触れないように伝えている。別の誰かが、これに触ったのだ。ディオは“真犯人”は見つかりそうだな、と思った。


*****


 携帯が二十三時を知らせた時、ケイリーはやっぱり同僚のロバートの助言に従って早く帰ったのは失敗だったんじゃないかと思った。ジョースターさんが見つかったという話を聞いてから気分が悪くなっていることは自覚している。だが、こじんまりとした自宅にいるより、人の気配があるオフィスにいた方が気持ちが明るかったかもしれないと思えた。
『考えすぎだ……私がブランドーさんのあの部屋に行ったのはもう一ヶ月も前なんだ。今日までなんにも言われなかったんだもの、もう関係なんてない。私は壁を直しただけだよ、言われた仕事をしただけなんだから』
狭いベッドの上で膝を抱えた姿勢で、ケイリーは何度も同じことを自分に言い聞かせていた。そして、ベッドの端に置いているラップトップを力なく眺めた。画面にはつい二時間前にアップされ、すでに何千万も再生されている動画のサムネイルが写っている。移動中のディオ・ブランドーさんがマスコミに突撃されたときの動画だ。ボディガードが守る後ろで車に乗り込むブランドーさんに二十人近い記者が一斉に駆け寄り、そのなかでも男性記者がいち早くブランドーさんにマイクを向けて叫ぶように質問をしていたワンシーンが撮影されている。
『ブランドーさん、ご兄弟が見つかったという噂は本当ですか!?』
ほとんど車に乗っていたブランドーさんは驚いたような顔を記者に向けた。そして彼は一瞬、ほとんど泣き出しそうな顔をしたのだ。責め立てるような口調だった記者が自分を恥じるようにわずかに身を引くほどに、喜びや悲しみに満ちた表情だった。ブランドーさんはすぐにいつもの冷静そうな表情を取り繕い、静かに応えた。
『確認中ですから、何も申し上げられません。ただ……ただ、本当に会えるなら、それは、夢みたいですね』
言葉尻は優しく震えていた。たった三十秒にも満たないこの動画が早くも世界中で再生されているのは、なにも彼があのジョースター社の重役だからというだけではないに違いない。ブランドーさんの顔や声の表情が、いつもの堂々とした彼の姿とのギャップも相まって、あまりにも優しく見えるからだろう。どう見たって演技には見えない──あの写真立てで見た画像が忘れようにも忘れられないケイリーの目から見ても、あの写真立てで見た画像の方がフェイクだったのではないかと意味不明なことまで本気で思う程度には。
 動画のコメントもブランドーさんに同情する内容でいっぱいだ。
“彼は十年も弟を探していたに違いない。早く再会できますように!”
“世の中はどうなってるんだ?この人が金持ちだからって、唯一の家族を奪うような真似ができるのか?”
“本人や家族の同意なしに冷凍治療法ってやっていいの?どうやったらそんなことできるの?マジに”
“とにかく真犯人が見つかって、この美しい兄弟が再会できますように!”──……

ケイリーは痺れる足をゆっくり伸ばした。疲れ切った頭が酸素を求めて喘いでいる感じがある。もう寝てしまおうか?
彼女が立ち上がった瞬間、ラップトップの画面の右下で会社用のチャットが開き、通話を知らせてきた。ケイリーはギョッとしながらも慌てて手を伸ばした。こんな夜に、しかも緊急連絡用に会社に登録しているデバイスに連絡が来るなんてよほどの緊急事態だ。たしかに今会社は緊急事態だし、今日は気が動転していたからなにかやらかしたかもしれない。今の職を失うわけにはいかない。
 ケイリーは通話ができるように急いで服を羽織り、髪をひと撫でしてからラップトップに向き直った。この時の彼女は、通話に出ればマライアさんから“経営者の私室に無断で出入りした”ことを理由に宇宙に行く羽目になりたくなければとある通信のデータを書き換える仕事をしろ、と言われることになるとは知らなかった。そして、そのデータを書き換えることが彼女にどんな影響をもたらすかも、全く想像ができなかった。ケイリーは通話ボタンを押した。


☆☆☆

自分だけの星をつくったおかげで精神も肉体も健やかに順風満帆で億万長者になれたけど、バレちまったもんは仕方ない、被害者面するね!というゴミっぷりを長々と書きました。ちょっと書く練習しようと思っただけなのに、SFって難しい~。


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