リクエストssで「酔った下呂モードと☕の邂逅」です。☕🐸。
ネタバレはないですが、ほのかにVODKAの匂わせありです。
@rikka_trpg801
溺れる前に
背の低いグラスに大きな氷、そこに注がれた琥珀色の液体がゆっくりと帰代の唇の奥へ流れていく。こくりと鳴る喉の色気を堪能しつつ、聖はオイルサーディンとオニオンの乗ったクラッカーを齧った。
聖の家に帰代が訪れるのは珍しいことだが、全くないというわけでもない。大抵は仕事の延長戦だが、互いにストレスや性欲を発散することもある。
だが、今回の目的は少々特殊だった。
「限界酒量を確認しておきたい。付き合え」
帰り際に据わった目で聖を捕まえた帰代は、どうやら酒で嫌な目に遭ったらしい。
仕事でへまをしないようにと自身の限界は弁えていたが、それは何年も前のデータだ。加齢などにより変化していてもおかしくはない――そう言って、聖に協力を仰いできたのだ。
医学の心得のある聖が付いていれば、限界を超えて急性アルコール中毒になる前にドクターストップをかけられる。加えて、万が一酔って聞かれてはならないことを口にしても、同じく公安に所属する聖なら集団守秘義務として沈黙を選ぶというのを踏まえての人選だ。
「良いけど、それだと俺あんまり飲めないから、美味しい夕飯とおつまみよろしくね?」
「わかってる」
手料理を交換条件に引き受け、聖は帰代を自宅に招いた。
帰代特製の夕飯に舌鼓を打った後、リビングでサシ飲みという名の帰代の限界チャレンジが始まった。酒量がわかりやすいよう、買って来た未開封の酒を飲んでいく。
本来なら蒸留酒など度数の高い酒が手っ取り早いのだが、帰代が渋い顔をしたためウイスキーやブランデーを中心としたチョイスだ。
ロックの杯をハイペースで干していく帰代を眺めながら、聖はワインをちびちびと舐めている。つまみも美味いが、帰代の白い肌がアルコールで色付いていく様はそれだけでも肴になった。
「結構飲んでるけど、今のところどう?」
ふぅっと酒気を帯びた息を吐き、帰代は僅かに潤んだ目を聖に向ける。
「まだ大丈夫だ」
「そ? 見てて危なそうになったら止めるけど、自覚症状があったらすぐに言ってね?」
「ああ」
頷いた帰代がグラスに氷を足し、新たにブランデーを注ぐ。
聖も丁度空になった自分のグラスを眺め、もう一杯くらいならほろ酔いにもならないだろうと注ぎ足した。流石にこれからウーロン茶ばかりというのは空し過ぎる。
「お前が酔ったら意味ないからな?」
「わかってるよ」
帰代から刺された釘を笑顔で躱しつつ、聖はつまみに手を伸ばす。
すると、ポケットからスマホの振動が伝わってきた。ちらりと画面を見れば、表示されているのは相棒の名だ。
「ごめん変ちゃん、ちょっと電話出てくる」
「ああ、行って来い」
仕事の話の可能性が高いと踏んで、聖は自室に移動して通話に出た。案の定、現在抱えている案件についての話だ。
明日以降の動きについて予定の変更を打ち合わせ、通話を終えるとすでに十五分近く経っていた。
「まあ、酔い潰れてはいないだろうけど」
少しだけ心配しつつリビングに戻れば、帰代は相変わらず飲んでいた。ボトルの中身は減っており、休まず杯を重ねていたことが見て取れる。
「ただいま、変ちゃん。調子はどう?」
ソファへ歩きながら声をかけると、顔を上げた帰代がにこりと笑いかけてきた。
「ええ、大丈夫ですよ。聖先輩もお仕事お疲れ様です」
帰代からは久しく聞かなかった敬語と呼び名に、聖は座りかけた姿勢で固まった。
そんな様子に「どうしたんです? 変な顔して」と笑いつつ、帰代はワインのボトルを手に取って聖のグラスに注ぐ。その手つきに危うさはない。
「……いや、変ちゃんが可愛い顔してくれちゃってるから、吃驚しちゃって」
動揺を隠して赤いワインで満たされたグラスを手に取れば、帰代は酔いで赤くなった頬を指先で掻いた。
「可愛いなんて、口説かないでください。聖先輩にそんなこと言われたら、期待しちゃうじゃないですか」
恥じらいながらも喜びを滲ませる帰代の言葉と表情、仕草に、聖は確信する。
「変ちゃん、酔ってるね」
帰代は照れたようにグラスを揺らしつつ、「少しだけ」と小首を傾げた。
間違いない、帰代はかなり酔っている。それこそ、聖に向かってハニートラップ時の演技を披露するくらいに。
「ちなみに、気分が悪かったりはしない?」
「全然。ただ、ちょっと熱いな~とは」
そう言って、帰代は寛げた胸元をパタパタと仰いで見せた。緩んだネクタイと上のボタンを外された白いシャツの向こうに、酔いで色付いた肌がちらつく。目の毒だが、おそらくこれも計算された動作だ。
「確かに、顔色は大丈夫そうだね。酔ってるけど」
急性アルコール中毒の心配はなさそうだし、頭痛や目眩も起こしていないようだ。普段とは違う性格が表に出ているだけである。それも二重人格というわけでなく、演じているだけなので病的ではない。
帰代が立ち上がり、ふわりと聖の隣に腰を下ろす。
「酔ってる俺は、見苦しいですか?」
眉尻を下げてどこか悲しげな笑みを向けられ、聖は参ったなと苦笑する。
「見苦しいとかじゃないよ。心配なだけ」
体調面は勿論だが、この場合主に心配なのは酔いが醒めてからの精神面だ。記憶がどの程度残っているかによるが、帰代は相当な羞恥にかられることになるだろう。
そんな聖の思いを知ってか知らずか、ぴたりと身体を寄せた帰代が肩に頭を乗せる。
「心配なら、今夜は俺が眠れるまで一緒にいてくれます?」
斜め下から流れるように視線を向けてくる金の目には、言いようのない色気があった。
あからさまな誘いに、聖は一瞬悩む。明らかに酔っていて正気でない帰代に手を出して良いものか――だが、誘ってきたのは間違いなく帰代で、二人の間にはすでに何度か身体を重ねた実績もある。
「だめ、ですか?」
不安そうに首を傾げながら胸元に手を添えられ、聖はこの据え膳は食べても許されるだろうと開き直った。
胸元の手にそっと自身の手を重ね、聖は帰代に微笑みかける。
「良いよ。朝まで一緒にいてあげる」
途端に帰代の表情から不安の影が消え去り、安堵の笑みが広がった。
「嬉しいです」
そんな帰代の頬に手を添えて、始まりのキスを――というところで、再びポケットのスマホが着信を告げた。見れば先程と同じ相手で、つまり仕事で急ぎの内容ということだ。
お預けに小さく息を吐き、聖は添えた手で軽く帰代の頬を撫でて立ち上がる。
「お仕事の電話を済ませてくるから、待ってて」
帰代はこくりと頷いて、自室に向かう聖を見送った。
自室のドアを閉めてから通話に出れば、やはり先程の打ち合わせ内容の修正についてである。そんなに複雑なものではなく、今回の通話は数分で終わった。
スマホをポケットに仕舞い直し、聖はこの後のことを想像しながら足取り軽くリビングへ向かう。一課で一緒だった時以来の敬語で先輩呼びの帰代が、聖に抱かれてどんな姿を見せてくれるのか――期待が膨らむ。
「変ちゃん、お待たせ――――」
うきうきと弾んだ聖の声は、尻すぼみに消えて行った。
空のボトルやグラスの乗ったテーブルの向こう、二人掛けのソファにくたりと横たわった帰代が、すぅすぅと安らかな寝息を立てている。
近づいてみれば、顔が赤らみ少し発汗が見られるものの、嘔吐などの兆候は見られない。ただ眠っているだけだ。
いくら酔ったからといって、帰代が無防備に眠ることなど普通なら無かっただろう。今こうして寝ているのは、それだけ聖のことを信頼している証ともいえる。それが嬉しくないわけではない。
「でも、あれだけ誘っておいて、お預けはないんじゃないかな……」
がっくりと肩を落とす聖が見下ろす先で、帰代は目を覚ます様子もなく眠り続けているのであった。
(あとがき)
リクエストssで「酔った下呂モードと☕の邂逅」でした。据え膳食べ損ねた☕さん憐れw
🐸さん記憶は飛ばないらしいのでちゃんと全部覚えてます。恥ずかしさとちょっとの申し訳なさで、たぶん今度ちゃんとヤらせてくれると思います。まあ、その時は下呂モードじゃないんですけどね?
こんな感じになりましたが、お気に召していただければ嬉しいです。