リハビリ3
@kurato0o
お花見日和
「わ……ぃた……」
「なんとも、無様ですね」
「ふひ……」
バサバサと強い風が吹いている。顔に襟巻と花びらがぶち当たる。ショウは何度かあわあわ呻きながら、ぎゅっと目を閉じる。何度も翻る襟巻を、ウォロが仕方がないといった様子でショウの首にぐるぐる巻く。傍にいる彼にとっても邪魔そうでもあった。
今日は桜を見に来た。ふたりで。少し前から軽い口約束をしていたから、ずっと楽しみにしていた反面、叶うかどうかわからない約束に少しも不安を覚えなかったといえば嘘になる。それでもお互い忙しい仕事の合間を縫って、桜を見に来た。……のは良いものの、前日の大雨と強い風のおかげで桜は今まさに目の前で散っていっている。葉桜になる一歩手前だ。ウォロの持っているシートを敷いた上に座ってから、ふたりで並んで桜を見上げているものの、風が強すぎて瞬きを繰り返している。
「これ花見って成立してるんですか?」
同じことを考えていたらしいウォロが、薄目でそう言っている。ショウは顔に掛かる髪を手で押さえながら、
「お花は見てますから……」
なんとも言い訳がましいような発言をした。横目でウォロが怪訝そうな視線を送ってくる。慌ててショウは持たせてもらった大きな弁当箱を広げた。
「でも!お弁当は美味しいですよきっと!」
「風すごいな……」
食べづらそうだな……と呟くウォロに、ショウも全く同じことを言いたかった。延々と耳元でバサバサとなにかがはためく音がしている。
「食べたら気にならない、たぶん」
そう言ってショウはおにぎりを頬張った。うまい。
「ウォロさんも食べよ」
「はい」
大人しく手渡されたおにぎりを受け取る。いつものように邪険にされることもないところを見ると、謎に体力を消耗しているのだろう。がぶりと大きな一口でおにぎりを頬張るウォロを見ながら、ショウはちまちまと食べ進めていく。美味しい。疲れた体に塩分が染みわたる。普段こうして一緒にごはんを食べることもない。物珍しさもあるし、ウォロが本当に約束を守ってくれるとは思っていなかった。
明日、行きますか?と大雨を見ながら、仕事道具を仕舞うウォロが呟いたのを、ショウは「え?」と聞き直そうとしてから、行きます!と大きな声で返事をした。雨にかき消されたりしないような声で。ウォロは眉を顰めて、難しい顔をしながらも、じゃあ明日と言った。そこからはずっと、そわそわして、楽しみで、でも明日という言葉がなんだかウォロには似合わなくて、ずっと落ち着かないでいた。それでも朝になったら強風の中、真顔で立っているウォロがいて、約束が果たされることに驚いた。
本当にこんな日がくるとは。
ショウは咲き誇る――…散りゆく花を見上げる。
春もすぐに終わってしまう。きっと瞬きの間に夏になって、短い秋があって、そうしたらまた雪に覆われる冬がくる。そうして時間が過ぎていっても、また、一緒にこうしていられるだろうか。
「ショウさん」
次のおにぎりを手に取りながら、ウォロは呟いた。
「来年は風のない日にしましょう」
「…………」
その横顔は、桜を見ていた。
淡々とした表情からは、彼が何を考えているのかはよくわからなかった。
ショウは何度も頷きながら、少しだけ泣いてしまいそうなのを堪えるために、雪山の吹雪のように舞う花を見上げていた。