X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

彼の子が欲しい

全体公開 神無三十一受け 6 13 3101文字
2025-05-08 17:11:02

カルみと
シナリオネタバレあり
連チャンさんのイラストの三次創作

 

 寄越せ、寄越せ。
 唸るように鳴いた化け物がこちらへ手を伸ばす。

 まるで自分のものだとでも言いたげな口振りが、なんとも癪に触る。
 不機嫌に眉を寄せた縞斑は、今し方助け出した腕の中の神無を抱え直すと右手にサブマシンガンを構えた。

 「……この子に触るな」

 縞斑の言葉を拒絶と捉えたらしい化け物は、婚約相手を取り戻そうと躍起になって縞斑へ襲い掛かる。
 しかし、逃げも隠れもせず正面から飛び掛かるその姿は、サブマシンガンを得物に扱う縞斑にとって格好の的だった。

 「うちの神無ちゃんを返してもらうよ」

 声と共に弾丸が放たれる。
 縞斑の射撃によって蜂の巣と化したその化け物は弱った様子で地面にべしゃりと落ちると、忌々しげに縞斑を見上げながら消えていった。
 室内に自分たちを害するものがいないか丁寧に確認した縞斑は、改めて腕の中の神無の無事を確かめる。

 「……うん、眠ってるだけだね」

 助け出された神無の体はぐったりと項垂れており、縞斑が声を掛けても応える気配がない。
 頬に泣き痕を残して純白のドレスに身を包む神無は、先ほどの化け物に誘拐されて数日間この場所に囚われていたのだ。
 天才と呼べるほどの頭脳と、美しく稀少な瞳。整った顔立ちが化け物の世界でも同じ基準であるかは分からないが、彼が狙われる理由はいくらでも思いつく。
 若くとも神無とて公安局の刑事だ。多少の荒事には慣れているだろうし、怪異の関与する事件の経験だってある。
 しかし、神無個人を狙った攻撃となれば話は別だ。化け物にその身を脅かされる危険に対して、恐ろしさに耐えきれず心を弱らせるのも仕方ない。

 「全く……悪趣味なことをしてくれたな」

 憎々しげにぽつりと呟いた縞斑は、まずはアサギリたちと合流してこの場所を脱出しようと、眠る神無を抱き上げて建物の外へと歩き出すのだった。

 ※
 
 ゆっくりと意識が浮上する。
 白の天井をぼんやりと見上げた神無は、まだ曖昧な意識のままぱちぱちと瞬きをして辺りを見回した。

 「ここ…………?」
 「神無!!」

 神無の独り言を聞いて、慌てて駆け寄ったディーノがベッドへ身を乗り出す。
 不安げな相棒の顔を見上げた彼は、ようやくこの場所が化け物の住処ではなく病院であることに気がついた。

 「でぃーの……
 「よかった……神無、よかったです、」

 眉を下げて震える声で呟くディーノが、神無の手のひらを強く握って俯く。
 改めて見下ろした体は清潔な病院着に包まれていて、あの忌まわしいドレスはどこにも見当たらなかった。
 化け物の体液を被っていたはずの体もすっかり綺麗になっており、体に残る感覚から察するにまだ辛うじて未遂だったのだろうと安堵する。
 しばらく目覚めた神無のそばに寄り添っていたディーノは、青木を呼んでくると言ってぱたぱたと病室を出ていった。
 そんな彼の背を見送った神無は、何気なく枕元のサングラスに手を伸ばす。通話画面を開いて発信すれば、わずか数コールで目当ての人物は応答してくれた。

 『……もしもし、神無ちゃん?』
 「うん。おはよ先輩」

 神無の声を聞いた途端、スピーカーの向こうで縞斑がほっと安堵の息を吐く音が聞こえたような気がした。
 それを聞いて、これまで抱いていた予想を確信に変えた神無は口を開く。

 「やっぱり、先輩が助けに来てくれたんだ」
 『何の話?』
 「とぼけても無駄だからな。あの煙草の匂いは絶対にだらだら先輩だった」
 『……あー

 縞斑が駆け付けたのは、神無が意識を失う直前のことだった。
 倒れた自分を胸元に抱き寄せるその腕や、ふわりと掠めた煙草の匂いは縞斑に良く似ていて、神無はまるで夢を見ているような気持ちになった。
 彼が来てくれたならもう大丈夫だ。そんな根拠もない安堵に身を任せて、気がつけば神無は意識を手放していたのである。
 縞斑は気まずそうに言葉を濁していたが、やがて隠し通すのは難しいと諦めた様子で小さく息を吐いて言葉を続けた。

 『君はどうやら……人以外にもずいぶん愛される体質らしい。もう少し用心した方がいいよ』
 「……うん、ごめん」
 『いや、これは決して責めてるわけじゃない。君は十分気をつけていたんだろうし、その上でどうにもならない相手だったんだろう』

 少なくともあの化け物は、人間が一人で太刀打ちできるような存在ではない。拐かされて命があっただけで幸いなくらいだ。
 今後はより一層用心して立ち回らなければと考える神無だが、正直なところ警戒を怠ったつもりはなく、これ以上どう警戒すれば良いのか分からない。
 そう思い悩んで首を掻いた神無はふと、首筋に刺すような違和感を覚えてぱっと手を離した。

 「いて、」
 『なに?』
 「いや……なんか首に……?」

 不思議に思った神無は、窓に自分の姿を映して首元を確かめる。
 そうしてガラスにうっすらと映った自身の白い首元には、ぽつりとキスマークがひとつ浮かんでいた。

 「……えっ?」
 『首がどうしたの?』
 「え、や、なんか……えっ、これ本物?落書き?」

 この場所に刻まれた所有印の意味が分からないほど神無は鈍くできていないが、一体誰がこんなことをしたのかと彼は赤い顔で困惑の声を上げる。
 神無が窓に身を寄せてそれが間違いなくキスマークであることを確かめていると、スピーカー越しに縞斑の納得したような声が聞こえた。

 『あぁそれ。人外相手に通用するとは思えなかったけど、外に出るまでのおまじない代わりに』
 「先輩がつけたの?!」
 『君はあの化け物のものじゃないって目に見えていたほうが安全かなと思ってね』

 曰くこれは、縞斑が脱出の際に神無の首筋につけたものらしい。
 化け物の潜むあの空間では、花嫁衣装に身を包む神無は贄の契約に合意したも同然だった。
 かといってその場で衣服を剥くわけにもいかず、縞斑は代わりに自身の所有印を刻むことで少しでも神無を狙う化け物たちへの威嚇と目眩しになればと考えたらしい。
 結果としてその判断は正しく、縞斑たちはそこから脱出するまでの間に化け物たちに遭遇することはなかったのだという。

 「おまじない……
 『化け物はともかく、痕が消えるまでは少なくとも人間はそれを見せれば諦めてくれると思うよ』
 「そりゃそうなんだけどさ……

 くっきりと残る赤色がどうにも気恥ずかしくて言葉を濁らせる神無だが、通話越しの縞斑にその意図は伝わらなかったらしい。

 『またそのうち顔を見に行くから、今はゆっくり休みな』
 「あ、う、うん……ありがと先輩」
 『いいや、お大事にね』

 まだ目が覚めたばかりで無理をさせるのも良くないと判断したらしい彼は、手短に話を切り上げると通話を終了する。
 沈黙するサングラスをしばらく見つめた神無は、枕元にそれを投げてぼふりとシーツに身を預けた。
 枕に顔を押し付ければ、ひんやりと冷たい感触が心地よく神無の火照った頬を冷ます。

 「……これじゃ今度は先輩のものみたいじゃん…………

 縞斑は本当に、所有印をつける意味をそれだけと捉えているのだろうか。
 なんの感情もなくこんな場所にキスマークをつけるなんてことが果たして本当にあるのだろうか。
 縞斑の考えが分からなくなった神無は、赤い顔で頭を抱えて唸る。

 「次会う時どんな顔すりゃいいんだよぉ……



 このあとぜってーこじれる

 


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.