リクエストssで「🪶🧣で甘いの」です。恋人同士な二人のパトロール中の一幕。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
どっちもどっち
「お腹が空きすぎて辛いので、何か食べても良いですか?」
糸冬全としての笑顔を張り付けたまま片手で腹を押さえて隣の桐島に問えば、僅かに眉を顰められた。
「パトロール中ですよ?」
「わかっています。でも、昼間に上から呼び出されて長すぎる――正に無駄話を聞かされた所為で昼抜きなんです。ここまで軽食を食べる余裕もなかったので、本当にお腹が空いてしまって」
最後に食べたのが朝食で、今は夕暮れ時である。パトロールは夜遅くまで続くのだが、終わるまで補給無しというのは二十三歳の成人男性には正直しんどい。空腹が行き過ぎてチクチク痛む気すらした。
桐島は糸冬の主張を聞いて、少し考えてから溜息を吐く。
「手早く済ませてください」
同情心もあったが、それ以上にいざ戦闘となった時に空腹でパフォーマンスが落ちていては、下手をすると命取りになる。
糸冬はパアッと顔を明るくして「はい」と頷くと、いそいそと立ち並ぶ出店の一つへ向かった。
現在パトロールしているのは祭りの会場で、多くの人出で賑わっている。迷子や喧嘩などの問題が絶えないのは勿論だが、人ごみに紛れて狩りを行う鬼がいる可能性もあるのだ。だからこうして、各班が持ち回りでパトロールを行っている。
どの店も並んでおり時間がかかると踏んでいた桐島だったが、予想に反して糸冬はすぐに戻って来た。その手に持っているのは、祭りで売っている定番の食べ物である。
「随分可愛らしいのにしたんですね」
糸冬が持っている串に刺さっているのは、チョコレートとカラースプレーで彩られたバナナ――つまりチョコバナナだ。
「並んでいなかったのですぐに買えましたし、熱くないので食べるのに時間もかかりません。エネルギー源としてバナナもチョコも優秀なので、今の糸冬にはぴったりだと思います」
「ああ、割と合理的な理由でしたか」
選択理由に本気で空腹なのが感じられ、桐島は肩の上でチョコバナナを狙っているライラをそっと反対側の肩へと押しやった。
糸冬は早速食べようと口元にそれを近づけて、隣でじっと見つめている桐島に気付いて小首を傾げる。
「桐島さんも食べたいなら、すぐに買えますよ?」
「いや、別に」
「ならなんでそんなに見つめ――ああ、もしかして」
糸冬がにこりと笑って顔の横にチョコバナナを並べる。
「そんなに可愛いです? 糸冬とチョコバナナ」
先程可愛らしいのと言ったことを覚えていたらしいその発言に、桐島の互い違いの色をした目が半眼になる。
「何言ってんですか。ほら、お腹空いてるんでしょう? さっさと食べれば?」
面白くない反応に少しだけ残念そうにしつつ、糸冬は「はーい」と返事をした。
「ところでこういうのって、無駄にチョコだけ先に食べたりしたくなりません?」
言いたいことは理解できる。小学生などがよくやる類のあれだ。チョコバナナの場合、チョコを舐めきって最終的にただのバナナを食べることになる。
しかし、糸冬が今それをすることを想像した桐島は、半眼になっていた目を更にすっと細めて鋭く糸冬を射抜いた。
「この場でやるおつもりで?」
「怖い顔しないでください。時間がかかりますし、行儀が悪いのでやりません」
さらりと答える糸冬に、桐島は「行儀が悪いのは勿論ですが」と少し背伸びをして耳元で囁く。
「それ、丁寧に舐めてる姿を客観的に想像してみろ」
「…………」
しばし無言で言われたことを咀嚼していた糸冬の顔が、やがて一気に赤くなった。
桐島は言わんとしたことが伝わったと確信し、ポーカーフェイスの崩れた糸冬を鼻で笑う。
「エロガキ」
顔を離す直前に囁かれた言葉に、糸冬全の仮面を投げ捨てて真っ赤な顔で反論する。
「どっちがだよ!」
桐島は「さあ? 何のことです?」と余裕の表情だ。それを見た糸冬が、腹立たしげに手にしたチョコバナナにかぶりつく。口の中に、チョコのほろ苦い甘さとバナナのねっとりとした甘さが広がった。奇をてらわない安定の味がする。
空っぽの胃に染みる甘さに、糸冬は感じていた苛立ちが一瞬で飛んでいく気がした。もしかすると、空腹で怒りっぽくなっていたのかもしれない。
一転してせっせと食べ進める糸冬を眺め、桐島は小さく笑った。
「美味しいですか?」
返事をする暇も惜しい糸冬が、無言で一度頷いた。もぐもぐと休みなく口を動かしている。
その口の端を、桐島が手を伸ばして指の腹で拭った。指先に乗った一粒のカラースプレーチョコを、そのまま自分の口へと運ぶ。
赤い舌がぺろりとピンクの粒を舐めとり、「甘いですね」と笑った。途端に、糸冬の顔の熱がぶり返す。
「……っ!?」
口が食べ物で塞がっている所為で視線で訴えることしかできない糸冬を楽しげに見つめ、桐島が「ごちそうさま」と口の端を持ち上げた。
「ちなみに、散々煽ってくれたんでパトロールが終わったら覚えておいてくださいね?」
恋人からの宣戦布告に、何とか口の中のものを飲み込んだ糸冬が赤い顔をマフラーに埋めて言い返す。
「煽ってんのはそっちの方だろ……!?」
パトロールが終わってからの二人の夜を想像してしまい、頬の赤味はしばらく引きそうになかった。やや乱雑な手つきで残った串をゴミ箱に放り込む。
そんな格好つけたがりの可愛らしい恋人を横目に、桐島はまた小さく笑うのだった。
(あとがき)
リクエストssで「🪶🧣で甘いの」です。チョコバナナの甘さに負けているような気がしますが、私としては甘めに書いたつもりです。
常に一枚上手な🪶さんが好きなので、🧣さんには悔しい思いをさせてしまいます。でもきっと、年上の余裕と格好良さを見せつけてくる恋人にきゅんきゅんしちゃってる🧣さんだと思います💕