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傷口に絆創膏

全体公開 トワスト 2 2 2042文字
2025-05-10 19:08:36

第36回トワスト、テーマ「ささくれ」作品です。制作時間約50分。ジェフと朝恵ちゃんのお話です。

 朝目覚めたときから、ジェフの心はささくれ立っていた。

 俺様らしくない。前日酒の席で言われた戯言を引きずっているなんて――そうは思えど、言われた内容が内容だった。

清遊堂せいゆうどうさんは、ずっと独り身なんだな。相手は探さないのか?)

 ジェフの事情を知らないが故に、出た言葉。その場は笑って済ませたが、確実にその言葉は突き刺さって、血を流していた。

 店でひとり座っていても、ざわめく気持ちはおさまらない。ざらつくような苛立ちを抱えたまま、長い指の先を見る。その、人差し指のところに出来たささくれを。

 綺麗でない――ジェフは無意識にそのささくれを引っ張る。普段なら、そんなことは絶対にしないのに。

…………

 無理矢理に裂かれた、ささくれのあった場所がずきずきと鋭く痛んだ。指先に血が滲み出している。ささくれを取っただけにしてはかなりの出血量だったが、傷を押さえることもなく、ジェフはぼんやりと血に染まる指先を見つめていた。




 そのとき、店の入り口がゆっくりと開いた。入ってきたのは、回覧板を抱えた小柄な少女――朝恵ともえだった。お下げ髪にした栗色の髪が、今日も可愛らしく揺れている。

――いらっしゃい、朝恵ちゃん」

「こんにちは、おにいちゃん。かいらんばんです」

 いつも通り回覧板を渡そうとした朝恵の手が止まった。その大きな黒い瞳は、ジェフの血の流れている指をじっと、見つめている。

「おにいちゃん、だいじょうぶ? ちが出てるよ」

 ジェフが答えを返そうとしたときには、朝恵はジェフの側へと駆け寄ってきていた。回覧板をジェフの仕事机の上に置くと、その小さな手でジェフの大きな手を包み込もうとしている。

「ちゃんと手あてしなきゃ。でもわたし、今ばんそうこうはもってないの。おにいちゃんは?」

――そうだな。俺様も、持ってないな」

 絆創膏などというものは、常備していなかった。――何故なら、傷なんて魔法ですぐに治してしまえるから。

「心配しなくて良い。俺様、このくらい何ともないからな」

 朝恵の大きな瞳が、じっとジェフを見つめてくる。その瞳は、全く納得していないようであった。

……だめだよ、おにいちゃん。今日のおにいちゃんは、何だかいたそうなの。そのゆびだけじゃなくて」

 ポケットから取り出したレースの縁取りのタオルハンカチで、朝恵は躊躇ためらわずまだ血の流れるジェフの指先を包みこんだ。

「どうしたの、おにいちゃん? だれかにひどいことをされたの?」

 ――この子はどうして、何も言っていないのにそんなことを分かってくれるのだろう――

 朝恵の黒い瞳は、今日も優しい――そんなことを、何故か考える。

「わたし、おにいちゃんのために何かできる? おにいちゃんにそんないたいかおを、してほしくないの」

「そう、だな……俺様は、朝恵ちゃんがこうして心配してくれただけで、十分だ……

 そう――不思議とさっきまでささくれ立っていた心が、凪いできている。朝恵の、黒い大きな瞳で見つめられているだけで。まるで、傷口を塞いてくれる絆創膏のようだ。

――ありがとう、朝恵ちゃん。だいぶ、落ち着いたぜ」

 そう口にして笑ってみせると、朝恵はようやっとほっとしたようであった。

「でもまだちが止まらないね、おにいちゃん。――そうだった、こうしたら止まるかも」

 朝恵は指先を包みこんでいたハンカチを机に置くと、まだ血の滲むジェフの人差し指を、その小さな口に軽くくわえた。小さな舌が、傷口を舐めてくれている。

――と、朝恵ちゃん?」

「ちが出たときはね。なめたら止まるんだよ」

 頰が熱くなるのがわかる。こんなことをされたのは、長い魔族の生でも初めてだったから。

「ほら、おにいちゃん。ちが止まったよ」

 指先を確認して、朝恵が笑顔になっている。ジェフの脈拍数が自然と上がっているのには、気付いていないようであったが。

……そ、そうだな……ありがとう、朝恵ちゃん」

「あとでちゃんと水であらって、ばんそうこうもしてね、おにいちゃん。かいらんばんは、そのあとでいいとおもうの」

「わ、わかった。……必ず、そうするとするぜ……

「早くいたいの、なおったらいいね、おにいちゃん」

 朝恵はジェフに手を振って、店から出ていった。

 ひとり店に残されたジェフだったが、その心境は最前とは随分と違っていた。――とりあえず、絆創膏を買いに行くか。別に絆創膏は要らない身体だが、朝恵ちゃんのすすめには、従わないとな――

 朝恵は後でいいと思うと言っていたが、ついでに回覧板も回すことにしたジェフは、小脇に回覧板を挟むと、店を出た。そしてそのまま、歩き出す。

 アーケードから降り注ぐ柔らかな光が、何故か朝恵のようだと感じた。


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@Marumeroke
現代ではあんまりそういう事言っちゃいけないよな〜と思うけど、言ってくる人多いですよねこういうの…そして特にジェフさんにはキツすぎる質問…
そこへ来てささくれの傷を癒してくれる朝恵ちゃんに癒されました…
優しいなぁ…優しいけど、傷口を舐めるのはめっちゃドキドキしてしまうやつ〜!きゃ〜!←
人間界のこの風習は魔界にはありませんでしたか!それはジェフさんドキドキしちゃいますね…若干テンパってるように見えてかわいい…
朝恵ちゃんの穏やかな優しさに癒されるジェフさんにほっこりしたり、ニヤニヤしたりしながら読ませていただきました…☺️
2025-05-10 19:43:17
@xxxyueyunxxx
≫Marumeroke こういう発言って、言っちゃいけないものですけど、実際は言ってくる人多いですよね……。
特に諸事情抱えてるジェフにはきつい質問だったようです。
朝恵ちゃんはなんというか、癒しの存在ですよね。優しい子。
でも傷口にそれは駄目ー! と書いている本人も思ったとか思ってないとか(製本時におまけのエピソードをつけようかと思っています)
どうやら傷口を舐めるという風習は、魔界には無かったようです。魔法でちゃちゃっと癒せるから。完全にジェフはテンパってますよね。
ほっこりしたりニヤニヤしたりしていただけたなら何よりです~(´∀`*)
2025-05-10 23:46:34

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