@itbnmrjm
【監督生side】
「監督生さんは、ご自身の姿を撮られることはあまりないのですね」
サンデーマーケットで街の素敵な風景を撮影していたら、隣からジェイド先輩に声をかけられた。
「お写真はよく撮られているのに、と思いまして」
「言われてみれば……たくさん写真を撮っているのに、ケイトのように自撮りをしているのは見かけないね」
反対側の隣でリドル先輩も頷いている。
「あ……なんとなく、自分で自分を撮るのは気恥ずかしくて」
誘われればもちろん応じる。けど、自撮りはなんだか自分の柄じゃない。
それに私が写真を撮る理由は——。
「旅先の風景は、つい見せたくなってたくさん撮ってしまいます」
スマホの画面を見ながらそう言うと。
「なるほど、確かにジャミルさんは喜ばれそうです」
「ッ……!!」
失言に気づき、顔が熱くなった。
口をぱくぱくしてしまった私の隣でニコニコ笑っていたかと思ったら、ジェイド先輩は「しかし」と自分のスマホを取り出した。
「恋人のお姿がないというのは、ジャミルさんも物足りないでしょう。素敵な格好もされていますし」
「そ、それは」
ジョルジーナさんが用意してくださったフォーマルワンピース。
確かに、我ながらいつもよりも大人っぽくなった気がする姿を見せたい気持ちは、なくは、ない。
「僕が監督生さんを撮影します。監督生さんだけではなく、皆さんのご様子も。よろしいですか?」
「ああ、それはいいね。せっかくの素敵な土地。風景だけではなく、私たちが楽しんでいる姿が残るのはいいことだ。ぜひお願いしよう」
「おいジェイド、オレ様の写真を一番多く撮るんだゾ!」
「ふむ、その写真、リリアたちへ送ってもいいか?」
「ええもちろん。撮った写真は後ほど皆さんへ共有しますので、監督生さんも、ジャミルさんへぜひ」
「う……では、お願いします……」
ルーク先輩、グリム、ツノ太郎、私が次々と承諾した一方、リドル先輩だけは横目でジトッとジェイド先輩のことを見ていた。
「キミから進んで写真を撮るなんて、何か企んではいないだろうね?」
「まさか。疑われるなんて悲しいです」
しくしくと泣き真似をするジェイド先輩に対し、リドル先輩は「うっ」とたじろいだ。
「そ、それは、疑ってすまなかったよ」
買い物を楽しむ様子を撮影してくれるジェイド先輩は、さながら遠足に同行するカメラマンのようだ。
「ジェイド先輩のお写真も撮りましょうか?」
「僕のことはお気になさらず。この街に来る機会はまたありますから。それに監督生さんの撮影をする方がおもし……やり甲斐がありますので」
「ならいいんですけど……」
ジェイド先輩、そんなに写真が好きだったのかな、と首を傾げながら「ジャミル先輩と、それからエースやデュースにもお土産を」と見繕っていると、隣にツノ太郎がやってきた。
「バイパーへの土産は決まったか?」
「色々あって目移りしちゃうけど……なんとなく候補は絞れてきたかな」
「フフ、そうか。ところで——」
次のツノ太郎の発言は爆弾に近かった。
「お前とバイパーの結婚式に参列する日も、楽しみだな」
なんてことを言うのか。
危ない。手に持っていた商品を取り落としそうになった。
「もちろん、招待は受けるつもりでいるぞ」
「き、き、気が早いよ!!」
そう言いながらも思い浮かべてしまったのは。
鐘の音、ヴァージンロード、ウェディングドレスを着た自分、タキシードを着た……ジャミル先輩。
それから、それから、誓いの、キス、も。
(ひゃぁぁぁ!!)
真っ赤になって頬を押さえていると、カシャ、と音がして慌てて振り向いた。
そこには、スマホ片手に微笑むジェイド先輩が立っていた。
「あ、あ、あの、今、写真」
「ああ、申し訳ありません、あまりにも可愛らしい表情でしたので、つい」
口では謝っているものの、相変わらず微笑んだまま。
「恥ずかしいので消してください」と訴えても、ジェイド先輩の表情は変わらなかった。
【ジャミルside】
今頃はどうしているだろうか。
電話で急に「結婚式に参列することになった」と聞いた時は驚いた。
しかも経緯を聞くと、アズールとフロイドに押し付けられたようにしか聞こえない。
一度は反対したものの、「既に決まってしまったことを辞退するわけにはいかない」と言われれば、頭を抱えつつも渋々許可するしかなかった。
だがそれだけならまだよかった。
街に着いて落ち着いた頃に送られてきたメンバー一覧の中にいたのは——。
「は」
思わず声を漏らすと、隣で課題をしていたカリムから「どうした?」と声をかけられ、慌てて「なんでもない」と返した。
(マレウス先輩も一緒……)
結婚式に行くのなら、フォーマルな格好をすることだろう。
きっと、いや間違いなく可愛い。
その姿を、よりにもよってマレウス先輩に……。
内心、頭を抱えた。
(……いや、先輩に特に他意はないんだ、気にすることはない)
嫌な考えを振り払いカリムに教えるのに集中することにした。
次の日、寮生と掃除をしていると、ジェイドから写真が送られてきた。
(なんだ?)
メッセを開き、それを見た俺は思わずスマホを取り落としそうになった。
それは、自分の恋人とマレウス先輩が、フォーマルな装いで並んでいる写真。
彼女の方は、なんだか頬を押さえて照れているように見える。
それを見ているマレウス先輩の表情はとても穏やかで——。
「思ったとおり可愛い」「ジェイドはなんでこんな写真送ってきたんだ」「マレウス先輩とはなんの話をしているんだ」。
寮生の声を遠くに聞きながら昨日以上に頭を抱えていると、メッセージが表示された。
《申し訳ありません、スマホが苦手なマレウスさんの代わりにリリアさんへお送りしようとしたのですが、間違えてしまいました》
「お前、絶対わざとだろ!!」
とうとう、心の声が出てしまった。
〜end〜