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嵐の夜が愛せる日まで

全体公開 神無三十一受け 6 13 2506文字
2025-05-13 16:52:50

カルみと
シナリオネタバレあり

 

 その日は朝から雨の予報だったため、二人は出掛ける予定を取り消して神無の家でのんびり過ごすことに決めた。
 神無が以前気になると言っていた昔の刑事ドラマを縞斑がいくつか持ち寄って、ソファに並んで座ってそれを眺める。
 恋人と毛布に包まれて、事件の推理や好きなシーンについてひそひそと話し合うひとときは、大嫌いな雨音さえ気にならないほど穏やかで平和な時間だった。

 ※

 「……それじゃあ、そろそろ帰ろうかな」

 そうして夜も更けて来た頃、時計を見上げた縞斑は劇場版の映画の感想を切り上げてそう呟くとソファから立ち上がる。
 明日も互いに朝から仕事がある中、縞斑は雨の日を苦手とする神無のこと知っていつもより長く共にいてくれた。
 これ以上引き止めると縞斑の明日の仕事に支障が出てしまう。そう考えた神無は名残惜しく思いながら頷くと、同じように席を立って見送りのために歩き出す。

 「しばらく忙しいんだっけ」
 「そうだね。少なくとも二、三週間は会えないと思う」

 仕事に追われる前にどうにか合間を縫って作った時間はあっという間で、今夜別れたらしばらく縞斑の顔を見ることはできないのだと神無は心細さを覚えた。
 そんな沈んだ気持ちを悟られないよう縞斑の後ろで首を横に振った神無の視界の端で、窓の外から眩い光が差し込む。
 一瞬のそれに神無が思わず身を強ばらせて足を止めた途端、轟音が街一体に響き渡った。

 「っと……近くに落ちたかな」

 天気予報によると、明け方にかけては激しい雷雨になるらしい。
 光と音から雷雲の接近を察した縞斑がそう呟いたとき、くいと背後から小さく裾が引かれた。
 前につんのめった縞斑が足を止めて振り返れば、そこには血の気の失せた顔で俯いて縞斑の服の裾を握りしめる神無の姿がある。

 「……神無ちゃん?」
 「ぁ……ご、ごめん、なんでもないっ」

 縞斑の声を聞いてはっと我に返った神無は、慌てて裾を握る手を離すと懸命に笑顔を貼り付けて見せた。
 雷光や雨音はいつだって、神無から大切なものを奪っていく不吉の象徴だ。
 そんな不安に包まれて一人で過ごす夜も、それらの中へ縞斑を送り出すことも、神無にとっては恐ろしくてたまらないことだった。
 しかし、これはあくまで神無の都合だ。いくら縞斑が事情を知っているとはいえ、明日から仕事がある彼に朝まで付き合って欲しいと頼むのは迷惑極まりない。
 平気だと笑って送り出さなければ。そう必死で笑みを繕った神無は、足を止めた縞斑の手を取って玄関へと歩き出す。

 「そうだ、先輩傘持ってる?うちに余ってる傘だったら持ってっていいよ」
 「……神無ちゃん、」
 「風邪引いたらアサギリに怒られちゃうだろうし、それに……
 「神無ちゃん、待って」

 言葉を探す神無を遮って、縞斑が手を引いた。
 足を止めた神無がおそるおそる顔を上げれば、相変わらず感情の読めない表情を浮かべた縞斑がじっと神無を覗き込む。

 「な、なに?」
 「俺は帰って大丈夫?」

 ぎくりと神無の肩が跳ねる。
 縞斑はとっくに、神無が雷に怯えて離れがたく思っていることに気がついているのだろう。
 これ以上甘えてはいけないと必死で唇を噛んだ神無は、精一杯の笑みを浮かべて縞斑の手を解く。

 「だ、だいじょぶだって!先輩は心配性なんだから!」
 「……そう」

 呟いた縞斑は神無の言葉を疑うことなく頷くと、玄関先へ歩き出した。
 その背を黙って目で追っていれば、彼は靴を履く直前で足を止めてもう一度神無を振り返る。小さく笑って首を傾げてみせる彼の表情は、神無だけが知る愛しい恋人へ向けたものだった。

 「それじゃあ、おやすみ?」
 「あ……う、うん、おやす……み」
 
 ひらりと手を振って別れの挨拶を済ませた縞斑が、靴を履こうと玄関へ向き直る。
 いつもと変わらない光景だ。けれど何処か、縞斑の動作が少しだけ遅いような気がする。
 だからだろうか。別れの不安と寂しさを感じる時間がいつもより長く感じて、気がつけば神無は一歩を踏み出して縞斑の腕を取っていた。

 「ま……って、せんぱい」
 「なぁに?」

 特に驚いた様子もなく、縞斑が足を止める。
 その仕草がまるで最後のチャンスだと告げているような気がして、視線を彷徨わせていた神無はやがて、こくりと小さく唾を飲んで口火を切った。

 「……いっしょにいてほしい」
 「一緒に?」
 「こわい、から……はなれたくない」

 意を決して告げたその言葉を静かに聞いていた縞斑は、くるりと振り返ると俯く神無の体を両腕で包み込む。

 「わかった。今夜は泊まっていくよ」
 「……ごめん、迷惑かけて」
 「いいや?俺も神無ちゃんが自分から希望を言うまで意地悪したからね。お互い様でしょ」

 神無が一人は嫌だと思っていることを知っていても、先回りして支えることが必ずしも彼のためになるとは限らない。
 辛い時は辛いと助けを求めることができるようになっておかなければ、後々苦しい思いをすることになるのは神無だ。
 申し訳なさそうに俯く神無の頭を撫でた縞斑は、雨音の響く廊下から早く退散しようと彼の手を取り歩き出す。

 「今日はお風呂に入って寝よう。明日は神無ちゃんも仕事でしょ?」
 「うん……

 明日はアジトに戻る時間を加味して早く起きなければならないが、恋人の穏やかな眠りが約束されるというのなら安いものだ。
 こくりと頷いてあとに続いた神無は、縞斑の手のひらをきゅっと握り返すと伺うように上目遣いで口を開く。

 「一緒に寝てくれる?」
 「もちろん。お風呂も一緒に入る?」
 「……それはいい。すけべなことするから」
 「信用ないなぁ俺……

 きっぱりと断る神無に縞斑が思わず肩を落とせば、ようやく彼はくすくすとおかしそうに笑った。
 神無には無邪気に笑った顔が良く似合う。緊張が緩んだ彼の姿を見た縞斑は、そう安堵の笑みを浮かべると雨音を遮るようにリビングの扉を閉めるのだ。



 
 


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