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ふたりの約束

全体公開 トワスト 4 2 1961文字
2025-05-17 19:03:26

第37回トワスト、テーマ「どうか、その手で終わらせて」作品です。制作時間約50分。ランフォードとジェフの昔話です。

 その日、ランフォードは久し振りに魔界から並行世界に来ていた。傍らにはジェフの姿もある。ジェフに出逢えるのも久方振りだったので、喜びはひとしおであった。

 空に目をやると、降るような星空が広がっていた。これは魔界には無いもの。いつ見てもその輝きには、心奪われる。

「今日も空がきれいだね、ジェフ」

……ああ、そうだな」

 心ここにあらず、と言ったような返事が返ってくる。そのジェフの声は、空の輝きに魅せられている、といった雰囲気ではなかったので、ランフォードの心はざわめいた。

 そっとジェフの横顔を見やると、その表情はどこか暗い。いつも澄んでいるシトリンの瞳には、たまに見られる絶望の色が濃かった。

「ねえ。――何かあったのかね、ジェフ?」

……別に、何にも無い」

「何も無いのなら、君はどうしてそんなに痛そうな顔をしているんだね? 私は君に、そんな辛そうな顔をしてほしくないよ」

 ジェフから返事は返ってこない。重い沈黙が、その場に落ちる。

「ねえ、ジェフ。私では、ずいぶんと頼りないのかも知れないよ。でもね。――君のことが大切だという気持ちは、誰にも負けていないつもりだよ。君は何が恐ろしいのだね? 何を恐れているのだね? ふたりでわかち合えば、負担がなくなるとまではいかなくとも、軽くなると思うのだよ」

 ランフォードはジェフの前に立って、必死に訴えた。どこか、遠くを見つめている大事なひとに。

 ――風が吹き抜けていく。さあっと、音を立てて。私では、駄目なのだろうか――? ランフォードが次の言葉を探していたら、ジェフがランフォードと視線を合わせた。

……ランは、俺様の得意な魔法を知っているな?」

「知っているよ。――暗示に幻覚といった、精神に作用する魔法だよね」

 ジェフの魔法の実力は、凄まじく優れている。その実力は、ランフォードなど足元にも及ばない。使えない魔法は存在せず、魔族の中の三大実力者として名前が挙げられるほどの存在なのだ。

「それが、どうかしたのかね?」

……修練を積めば積むほど、得意な傾向は顕著でな。……だが俺様は、それが嫌なんだ」

――どうして?」

……俺様の、最もなりたくない存在と、全く傾向が同じだからだ」

 ジェフの手が震えている。ランフォードはその大きな手を包みこんだ。大丈夫だよ、と守るように。

「あいつと同じことを、俺様はするかも知れない。……それを思うと、恐ろしい」

「大丈夫だよ。それが誰なのか私はわからないけど、君は君だ。同じことは、しないと思うよ」

「それでも、あの力をもって唾棄だきすべきことをした存在を、俺様は知っている! 俺様にもしものことがあって、そんなことをしたら……

 ランフォードは今にも泣き出しそうな顔をしているジェフを、そっと抱きしめた。落ち着かせるように、そっとそのほっそりとした肩を、叩いてやる。

……ラン……

「何だね、ジェフ?」

……もしも俺様が、その力で非道な真似を働くようになったら……お前の手で、終わらせてくれると約束してくれるか……?」

 終わらせる。――その言葉の意味に気付いたランフォードは瞠目する。

「お前になら、任せられる。俺様が道を誤ったら、どうかその手で、終わらせてくれ……

 ジェフの声が潤んできている。ランフォードはひとつはっきりと、頷いた。

「わかった。――君がそんな風になるとは思えないけれど、もしものときは、必ず私が君を止めに行くよ。でも君もひとつ、約束してくれないかね?」

――何をだ?」

「私は君も知っての通り、破壊の力に特化している存在だ。その分野だけは、君の実力をも凌いでいるからね。――私が何かの間違いで、破壊の力を悪用して、魔界を支配しようとしたり、この並行世界に手を出そうとしたりするかも知れない。そのときは、君がその手で終わらせてくれると、約束してくれるかね?」

 それは、ランフォードもずっと心に引っかかっていて、心許なく思っていたこと。――ジェフになら、安心して全てを任せられる。

……お前が、そんな過ちを犯すとは思えないがな……

「それを言うなら、君の方もそうだよ」

――分かった。承知した。お前が過ちを犯したときは、俺様がこの手で終わらせてやると約束しよう」

 ジェフの身体の震えが止まっている。もう、大丈夫だろう。そっと身体を離すと、ふたり並んで空を見上げた。

――お前を止めるのは、なかなか大変そうだ」

「それを言うなら、私もだよ」
 ランフォードは隣に立つジェフと、手を繋ぐ。おい、と口にはしたが、ジェフもその手を離そうとはしなかったのであった。


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@Marumeroke
とっても重たい約束…
重たいけれど、この二人だからこそ任せ合える・道を誤った時に互いの存在を委ね合えるという信頼や関係性の強さもあって、すごく好きです、この話!
こういうのを50分でぱっと纏められるのがやはりすごいですね月雲さん…
2025-05-17 20:32:23
@xxxyueyunxxx
≫Marumeroke 重たい約束ですよね……でもある意味自分の背中を任せること並に、相手を信用していないと出来ない願いであり、約束だとも思っています。
すごく好きだと仰っていただけて嬉しいです!
2025-05-17 23:26:47

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