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いつもの方が良い

全体公開 刑事探索者 9 11 3170文字
2025-05-18 20:44:14

リクエストssで「下呂モードに遭遇する🎃さん」です。宴会場で🐸さん(下呂さん)に救出される🎃さん。
ネタバレは特にありません。

いつもの方が良い

『乾杯!!』
 問答無用で持たされた生ビールのジョッキを掲げつつ、神無はどうしたものかと悩んでいた。
 広い宴会場は本日貸し切りで、警察関係者が大勢集まっている。大規模な懇親会に神無を誘ったのは、たまたま出向していた先で一緒に事件を解決した一課の刑事たちだった。
 神無の正式な所属や身分を知らない彼らは、訳ありらしい新人刑事を気遣いながらもきちんと一人前として扱っており、居心地は悪くない。気の良い先輩刑事らと上司は、送別会を兼ねてこの懇親会へ神無を連れて来たのだ。
 気持ちは嬉しいが、神無は飲みニケーションが廃れて久しい時代に生まれ育ち、しかも養父が警察上層部という特殊性からこの手の飲み会に参加した経験はほぼ無い。加えて、酒に弱いので注意するようにと縞斑に言われたこともある。
「今日の会費は俺たちの奢りだ! めいっぱい飲み食いしてけよ?」
「サンキュー、先輩」
 善意全開の笑顔で肩を叩かれれば、手にしたジョッキに口を付けないわけにもいかない。
 それでも何とか一口ずつ飲むことで誤魔化しているが、誰かと顔を合わせる度に減った分が注ぎ足されるというシステムによりどれだけ飲んだかがあやふやになっていく。神無も見よう見まねで酌をし返しているが、飲まされる方が圧倒的に多い。
 徐々に熱くなる顔に不味さを感じつつも、笑顔で話しかけられて応じないのは心苦しく断れずにいた。
「おお、君! 飲んでるかい?」
 不意に目が合った壮年の男は、年齢や言葉遣いからそれなりの地位にいると見えた。神無は僅かにふらつく足を踏ん張りつつ、笑顔で応じる。
「はい、飲んでます」
「そうかそうか! 若いのは飲むのが仕事だ、ほら」
 注ぎ足されるビールに顔が引き攣りそうになるのを堪えつつ、「いただきます」と口を付ける。
 お返しに半分ほど減っていた男のジョッキにビールを注ぎ足すが、酔いが回ってきている所為か少し泡を溢れさせてしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
「ははっ、無礼講だから構わないさ。しかし、だいぶ酔ってるようだ。少し外の空気でも吸いに行くかい?」
 目線で座敷の出口を示され、外気に当たれば酔いも少しは冷めるかもしれないと、神無が頷きかけた時だ。
「後藤警視、お疲れ様です」
 聞き覚えのある声が、聞き馴染みのない朗らかなトーンで神無の耳に飛び込んでくる。呼ばれた何反応したらしい男――後藤が声の方を振り返るのに合わせて、神無もそちらを見やった。
「俺からも一献――って、あれ? お前、神無じゃないか! 久し振りだな~」
 後藤にビール瓶を差し出しかけて、今まさに気付いたという様子で神無に話しかけてきたのは、見間違いでなければ帰代だ。しかし、様子がおかしい。帰代はもっと落ち着いた雰囲気のはずだし、神無とは今朝も宿舎で顔を合わせている。
 戸惑う神無の肩を叩きながら、帰代が苦笑した。
「おいおい、忘れたのか? お前がド新人の頃面倒見てやった下呂さんだぞ?」
 陽気に酔った様子でありながら、下呂と名乗った帰代の目は真っ直ぐに神無を見つめている。言外の「合わせろ」というメッセージを読み取り、神無はこくりと頷いた。
「もちろん、覚えてるよ。下呂先輩も来てたんだ?」
「ああ、折角の機会だからな……って、お前、もしかしてかなり飲んだな?」
 肩眉を上げて覗き込んでくる帰代に、演技ではなく「うっ」と言葉に詰まった。未来人である神無は言動に十二分に気を付けなければならない立場であり、不特定多数の人間がいる場で酔っぱらうなど危険すぎる。帰代にとっては御説教案件であろう。
 帰代はやれやれと肩を竦めて溜息を吐き、後藤へ向き直った。
「こいつ、酒に弱いんです。一定量超えると吐き始めるんで大変なんですよ」
「おや、そうだったのかい?」
 神無は頭を掻きつつ、「まあ、その、はい……」と歯切れ悪く帰代の言葉を肯定した。酔って吐いたことはない――はずだ。
 近くのテーブルに自分と神無のビール瓶とジョッキを置き、帰代は支えるように神無の肩に腕を回した。
「ぼちぼち限界そうなんで、ちょっとタクシーに放り込んできます」
 どうやら神無をこの宴会場から連れ出してくれるらしい。内心ほっとしつつも、普段と違う帰代の様子に一抹の不安も感じる。
 後藤はどこか残念そうな、名残惜しそうな目を神無に向けたが、やがて諦めたように苦笑した。
「まだ宴会は折り返しにもなってないが……まあ、最近色々と五月蠅いから無理に飲ませるわけにもいかんか。気を付けて帰るように」
「はい」
「ちゃんと手配するんで、任せてください」
 力強く頷いた帰代に促され出口へ向かう。その途中、神無は「ちょっと待って!」と足を止めて傍にいた刑事に声をかけた。
「ん? 神無どうした?」
「あの、俺もう帰るから、お世話になりました。誘ってくれてありがとう」
 共に事件に立ち向かったその刑事は、別れと礼の言葉にニカっと笑って手を差し出す。
「おう、お疲れさん! またな!」
「うん、またいつか!」
 握手を交わして、神無は今度こそ帰代と共に宴会場を後にする。
 店の外に出た帰代は無言で駅に向かって歩き、会場から十分に離れたあたりで溜息と共に口を開いた。
「神無お前……酒の躱し方もわからないなら、飲み会になんて参加するんじゃない」
 眉根を寄せて注意してくる帰代はいつもの様子で、神無はほぅっと息を吐く。
「ごめん。ところで、もしかして潜入中だったの?」
「その一環だがあの宴会自体の重要度は低い。抜け出すタイミングを見計らっていたところだったし、ある意味丁度良かったが」
 邪魔したわけではないとわかり、神無はもう一度大きな息を吐いた。
 そんな神無に眉間の皺を深めつつ、「だが」と帰代は続ける。
「俺がいなかったらどうするつもりだったんだ?」
「えっと、俺もそろそろ抜けたいな~とは思ってたんだけど……
「お前みたいに若くて見た目の良い奴が早々簡単に解放されるわけないだろう。下手するとセクハラ野郎――聖よりヤバいレベルの奴の餌食だぞ? 実際、さっきの後藤は常習犯だ」
「え゛っ!?」
 思わず両手で自分の身体を抱き締める神無を見て、帰代は僅かに眉間の皺を解いて苦笑した。
「今回は無事で良かったが、今後は気を付けろよ?」
「うん、わかった」
 神妙な顔で頷く神無を駅前に止まっていたタクシーに乗せ、帰代は代金を先払いし行先を告げる。
「一緒に帰らないの?」
「まだ寄る所があるからな。お前はちゃんと風呂に入って歯を磨いて寝るように」
 その母親めいた言葉に思わず笑みを浮かべ、神無は酔いの残る顔で帰代を見上げた。
「やっぱりいつもの帰代先輩が良いや」
 不意打ちを食らったように少しだけ目を丸くした帰代が、そんな反応を誤魔化すように咳払いをする。頬が僅かに赤く見えるのは酒の所為か、それとも照れているのか。
「おやすみ、神無」
「うん。おやすみ、帰代先輩」
 神無が走り出すタクシーの窓越しに手を振れば、帰代も小さく手を振り返した。
 そしてタクシーを見送った帰代は踵を返し、再び夜の街へと紛れていくのだった。


(あとがき)
 リクエストssで「下呂モードに遭遇する🎃さん」です。今回は酔ってない🐸さん(=ちゃんと演技)でお送りしましたが、よろしかったでしょうか?
 🎃さんの出向部署は当たり(良い人たち)だったのですが、宴会でセクハラ上司に目をつけられるという災難。ちなみに🐸さん(下呂さん)も過去に被害に遭っていたため、見かけて急いで救出に向かいました。セーフ。
 なお翌日以降に改めて注意という名の御説教がある模様。頑張れ🎃さんw


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