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難儀な奴

全体公開 刑事探索者 7 4 3292文字
2025-05-25 21:46:25

リクエストssで「酔った状態の🐸さんと☀️さん(年上の☀️さんにめちゃくちゃ甘える🐸さん)」です。下呂さんモードで甘えてます。
ネタバレは特にありません。

難儀な奴

 白い喉が上下し、僅かに濡れた唇から熱っぽい吐息が零れた。頬は紅く染まり、珍しい金の目はいつもより潤んで見える。
「いい飲みっぷりだね~」
「ふふっ、お酒の強さにはちょっと自信があるんです。今度は貴方の番ですよ」
 あざとく笑って酌をし、相手のグラスを酒で満たす。強かに酔っている相手の中年男性は「参ったな~」と額を叩きながらも、脂下がった顔でグラスに口をつけた。
 その様子を隣の席で見ていたアキラは、内心「よくやるもんだ」と感心半分、呆れ半分でロックの酒に偽装したウーロン茶を飲む。交わされる会話に耳をそばだてつつ、隠し持ったボイスレコーダーの位置を調整した。
 アキラと帰代の今回の任務は容疑者――ではなくその知人への聞き取り調査だ。しかし、その知人というのが曲者で、反社組織との繋がりが噂されており本人も警戒心が非常に高い。正攻法での接触では有力な証言は得られないだろうというのが上の見解だった。
 そこで、ターゲットの行きつけのバーに張り込むことになったのだ。ペアを組んで交代で続けていた張り込みが実を結んだのが今夜であり、アキラと帰代は自然な相席を装ってターゲットに接触した。
 適当な雑談を交わしながら、目的の会話へと誘導していく――そこまでは順調だったのだが、想定外だったのはターゲットがアキラと帰代をいたく気に入ったらしいことだった。下心の隠し切れない顔で勧められるアルコールは、度数の高いものばかりである。
 あまり酒に強くないアキラがどうしたものかと考えている間に、余所行きというか潜入捜査用の人格で相手をしていた帰代がさりげなく飲み役を引き受けていた。
 自らは勧められる酒を飲みながら、バーテンダーからグラスを受け取るアキラの手元を隠してノンアルコールであることを悟らせない。その手腕は流石潜入捜査を主戦場とする公安刑事といった見事さだ。
 上手い具合に証言を引き出し終えてしばらくしたあたりで、どうやらターゲットは帰代を酔い潰す前に限界が来たらしい。名残惜しそうな表情で会計を済ませると、ややふらつきながら店を後にした。
 帰代は笑顔で手を振ってそれを見送り、完全にドアが閉まったところで一つ息を吐く。アキラは労いの気持ちを込めてその肩を叩き、二人分の会計など撤収準備を済ませた。
「帰ろうぜ」
 促せば、帰代はこくりと頷いて立ち上がった。僅かにふらついたが、歩くのに問題はなさそうだ。
 店の近くでタクシーを拾って二人で後部座席に乗り込む。息を吐いてシートに身体を沈ませたアキラは、ふと肩に感じた重みに視線を向けた。
「おい、大丈夫か?」
 アキラにもたれ掛かって肩に頭を乗せた帰代は、少し焦りの滲む言葉に小さく頷いた。
 顔の紅さや目の潤みから、酔っているのが演技でないことは明白だ。急性アルコール中毒の心配はなさそうだが、早めに休ませた方が良いだろう。
 タクシーから降り、アキラは肩を貸しつつ帰代をホテルの部屋へと運んだ。今回の調査地は宿舎から遠方にあり、担当ペアは一泊して帰るのが基本になっている。そのために押さえてあるホテルだ。
「ふー……
 狭いツインルームのベッドに腰を下ろし、アキラは煙草に火を点けた。慣れた臭いと味に肩から力が抜ける。喫煙室にして良かったとしみじみ噛み締めていると、座っていたベッドが軋んだ。
「ん? どうした、変?」
 隣に腰掛けてきた帰代に首を傾げれば、潤んだ金の目がアキラをじっと見つめた。緩やかに笑みを形作った唇から、熱っぽい吐息と共に言葉が紡がれる。
「急に離れてしまって、寂しくなっちゃったんです」
…………What?」
 聞きなれない口調と信じられない内容に、思わず慣れた言語が飛び出た。
 基本的に年上には敬語の帰代だが、宿舎の仲間だと元から顔見知りの聖と、敬語に馴染みのない文化圏のアキラにはため口で話している。加えて、敬語であってもこのように甘えた口調を使うことは一切ない。
 それこそ、今夜のように潜入捜査時に演じていない限りは。
『今夜はずっと隣にいたから、部屋に着くなり一人にされて、寒くて……アキラさんって、温かい』
 アキラの英語に反応してか、帰代も英語に切り替えてくる。ベッドについていた手に帰代が手を重ね、親指が手の甲をそっと撫でた。
「ああ、悪い。日本語でいい。変、本当に大丈夫か?」
 誘うような仕草と言葉に戸惑うアキラを見つめ、潤んだ金の目が細められる。
「大丈夫じゃないって言ったら、もっと近くにいてくれます?」
 アキラの手ごと煙草を引き寄せ、軽く目を伏せて吸う。帰代はその煙をゆっくりと、アキラに向かって吐き出した。
 慣れた煙草の臭いに混じる濃いアルコールの香りに、アキラは唐突に悟る。
「変、お前さてはめちゃくちゃ酔ってるな?」
 帰代が酒を飲むところなどほとんど見たことが無かったし、飲んだとしても少量で顔色すら変わらない程度だった。だからアキラは、帰代が酔ったところを見たことが無い。
 だからこそ、目の前の帰代が酔っぱらっていると確信した。普段とあまりにも様子が違い過ぎる。
「酔ってる、かも……だからこんなに、人肌恋しいんでしょうね」
 しなだれかかってくる体重を支えつつ、アキラはどうしたものかと考える。
 あからさまな誘いだが、帰代の本意ではないだろう。仕事仲間と寝るような趣味はないはずだ。アキラもそれは同じだし、これで下手に応えてしまえば、後で傷つくのはむしろ帰代の方だろう。
「だめ、ですか?」
 眉尻を下げ、不安そうな色を目に浮かべ、色っぽく伺いを立ててくる帰代に「うーん」と唸る。
 勿論、駄目だ。アキラはこんな状態の帰代に手を出す気は一切ない。考えるのは同宥めすかして躱すかだ。
 悩んでいる間に帰代の目がとろりと色を濃くする。それに気づいて、アキラは方針を決めた。
 帰代の腕を引き、ベッドに横たわらせる。煙草を灰皿に押し付けて消すと、アキラもその隣に寝そべった。
「寒いんなら、このまま一緒に寝ちまおう」
 布団を引き上げて帰代の肩まで覆うと、きょとんとした顔がアキラを見つめた。笑いかけて、アキラは布団の上からトン、トンとリズムをつけて軽く叩き始める。幼い頃、弟を寝かしつけた記憶が蘇った。
「アキラ、さん……?」
 戸惑いを浮かべながらも、帰代の目がとろんと眠気を強くしていく。それを後押しするように、アキラは囁くような声をかけた。
「おやすみ、変。良い夢を」
 まだ何か言いたげに唇を震わせた帰代だったが、それは声になる前に寝息へと変わっていく。金の目は目蓋の向こうに隠れ、身体から力が抜けたのがわかった。
「寝た、か……?」
 呟きに反応が無いことを確認し、アキラは大きく息を吐いた。
 中々に心臓に悪い酔い方を披露した一つ年下の異国の仲間は、赤らんだ頬も手伝って普段よりも幼く見える寝顔を晒している。可愛いとは思うが、そこに恋愛要素は含まれない。それこそ、弟や後輩を可愛がるような気持ちだ。
「しかしまぁ、酔った時すら情報を漏らさないよう演技を続けるか……難儀な奴だな」
 それぐらいしなければ公安刑事は務まらないのかもしれないが、楽しく酒に酔うことすらできないのは憐れでもある。もっとも、帰代は憐れまれたくはないだろうが。
 煙草以外の苦みを感じながら、アキラはサングラスを外して目を閉じる。
 自分以外の温度を感じる眠りが、せめて穏やかなものであるようにと願った。


(あとがき)
 リクエストssで「酔った状態の🐸さんと☀️さん(年上の☀️さんにめちゃくちゃ甘える🐸さん)」です。帰代さんでは甘えられないので下呂さんモードです。いかがでしたでしょうか?
 甘えるというより甘える体で誘惑してますが、☀さんにその気が一切ないのでCPじゃないです。最終的に寝かしつけてもらいました。おそらく翌朝🐸さんは羞恥に悶えることでしょうw にやにやする☀さんに凄みながら口止めする姿が目に浮かびます☺


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