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私の小さなお楽しみ

全体公開 トワスト 2 2 2367文字
2025-05-31 19:04:19

第39回トワスト、テーマ「ささやかな幸せ」作品です。制作時間約55分。いつもの世界観で、サティナがメインのお話です。

「それでは、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい、ランフォード」

 仕事用の鞄を提げて、夫のランフォードがゆったりと家を出ていく。

「ソレイユ! 急がないと遅刻するわよ」

「大丈夫だって、ママ! 行ってきまーす!」

 ぬいぐるみだとかキーホルダーだとかをふんだんにつけたスクールバッグを持って、娘のソレイユが慌ただしく出ていった。

「全く。ソレイユは何度言ってもギリギリなんだから……お小遣い減額で脅したところで、無駄でしょうし」

 ふたりを送り出した女性、サティナは小さくため息をつく。――この一家、実は全員人間ではない。その正体は、半永久的な生命を持った異種族『魔族』である。出自さえこの世界には無い。この星と並行して存在する世界『魔界』こそがサティナ達の生まれた土地だ。魔界には、この世界で言うところの宝石の類のものがふんだんに存在する。それを換金すれば、この世界の金などいくらでも手に入ってしまうのだ。

――さて。私は私の仕事を始めようかしら」

 この世界で、夫のランフォードは会社員、娘のソレイユは高校生をやっている。何もせずに滞在していたらいくら何でも怪しすぎるので、この世界の人間のしていそうなことを皆、演じているのだ。

 サティナが演じているのは『主婦』である。パートにでも出ようかとランフォードにも相談したのだが、ランフォードが勤めに出ている間、家で魔界との中継をして欲しいと頼まれたので、いわゆる専業主婦をすることになったのだ。

 まずは食卓の片付けだ。キッチンに立つと、三人分の食器を手際よく洗っていく。皿やコップを洗い、食器棚に片付けると洗い物は完了だ。

 洗い物が終わると、洗濯に掃除が待っている。洗濯機に衣類を放り込むと、洗剤を入れてボタンを押す。これだけで洗濯が終わるのだから、正直これは便利だとサティナは常々感じている。魔界に電気があったら、これは魔界の家にも置きたかったりする。

 洗濯機が回っている間に、部屋に掃除機をかけて回った。掃除機も楽に掃除が出来て、好きな道具のひとつだ。リビングと自分の部屋、あとランフォードの部屋に掃除機をかけた。ソレイユの部屋も掃除したいのだが、母である自分が部屋に踏み込むのを娘が嫌がるので、仕方がないからそのままだ。娘の部屋がちゃんと綺麗に保たれているのか、気がかりで仕方ないというのがサティナの本音である。

 掃除機を片付けて洗濯機を見に行ったら、洗濯は終わっていた。今日は良い天気だったので、乾燥機を使わずに洗濯物を外に干す。これで夕方になる頃にはすっきりと乾いているだろう。

 一仕事終えたサティナは、一度ここで休憩を挟んだ。リビングのソファに座ると、スマートフォンでチラシをチェックする。

「今日は彩花商店街あやはなしょうてんがいで鶏もも肉と、あとはアジの開きが特売ね。――野菜は何が安いかしら。出来れば生姜が欲しいんだけど」

 一通りチラシに目を通し終わると、サティナは立ち上がる。そして財布とエコバッグを入れた買い物バッグを用意すると、家に鍵をかけて出かけていったのであった。




 商店街ではチェックしていた鶏もも肉とアジの開きを購入して、あと生姜と、タイムセールをしていたキャベツを購入した。エコバッグがずっしりと重くなる。何せ食べ物も三人分だ。普通に買っただけで、それなりの量になる。

 洋菓子店の『ウィスタリア』の前を通ったとき、ケーキがあったらランフォードが喜ぶだろうかとふと考える。――気付けば店に入っていた。どれにしようか迷った末に、チョコレートのケーキを三つ、購入する。ランフォードは甘いものが好きだから。

 ふと商店街の三番街の方に目線をやると、見知った姿が立ち話をしているのが見えた。ランフォードの友であり、やはりその正体は魔族であるジェフが、商店街の人間と話をしている。あれは文房具屋の店主だっただろうか。サティナの姿に気付いたジェフが目礼してきたので、サティナも小さく頭を下げた。

 ジェフはこの商店街で骨董品屋を経営している。――そういえばチラシに『季節限定、茶器柄マスキングテープ入荷』と冗談のようなことが書いてあったが、一体ジェフはどんなものを作ったのだろうか。

 またそのうち、尋ねてみようと決めて、サティナは商店街をあとにしたのである。




 買い物を冷蔵庫におさめ、簡単な昼ご飯を終えた。サティナはひとりだとそこまで手の込んだものは作らない。手軽にさっと作れて、後片付けが簡単なものを作るのがもっぱらだ。

 洗い物を終えると、夕飯の支度までサティナの仕事はひとまず無い。魔界から連絡が何かあるかと思ったら、今日はそれも無かった。

 ここからは、私のお楽しみの時間ね――サティナはひとり、笑顔になる。

 冷蔵庫を開けると、隅の方から小箱に入ったチョコレートを出した。これはデパートで購入したちょっと値段の張る、サティナお気に入りのチョコレートなのだ。

 チョコレートを皿に乗せ、この世界で気に入ったハーブティーを淹れる。リビングのソファでくつろぐと、テレビをつけた。ランフォードにも内緒でこっそり加入しているサブスクリプションの、気に入りのチャンネルをつけると、視聴しているドラマの続きを見始める。

 これはサティナの、ささやかな幸せの時間。人間の世界には慣れないこともたくさんあるが、サティナなりに好きなものも多く存在する。そんなものをこっそり楽しむのもまた、悪くない。

 ソレイユが学校から帰るまでにも、まだ時間はたっぷりある。

 サティナは自然と笑みを浮かべながら、お気に入りのチョコレートをひとつ、口に放り込んだのであった。


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@Marumeroke
主婦なのでめちゃ共感しながら読みました…!
生き生きと家事をこなしていくサティナさんがてきぱきしていてとても素敵です〜!
でも私は掃除機と洗濯が終わったら多分部屋で伸びてるので笑、流石ちゃんと体力がある主婦の方は違うわ…!と思いました←
家計もやりくり上手なのいいですね…そしてジェフさんの作ったマスキングテープ気になります←
主婦として、人間界での小さなお楽しみも満喫してくれているサティナさんの姿にほっこりしました…
2025-05-31 21:54:15
@xxxyueyunxxx
≫Marumeroke 本物の主婦さんに共感していただけたなら良かったですー!
生き生きと家事をこなしてますよね、サティナは。こんな女性、私も憧れます。
私は洗濯物を干しただけで疲れる人なので、書きながら体力あるなあと思っていたのはここだけの話です。
ちゃんとやりくりまで覚えて、しっかり主婦ですよね。
ジェフのマスキングテープは……おそらく趣味半分、冗談半分で作った製品でしょう。売れているのかは謎です。
しっかり主婦しながら、人間界の楽しみも満喫しているサティナに、ほっこりしていただけ何よりです~!
2025-06-01 00:14:20

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