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休戦プディング

全体公開 神無三十一受け 6 16 2262文字
2025-06-04 16:52:35

カルみと 喧嘩する話
シナリオネタバレあり

 

 久しぶりに「いってらっしゃい」を言わないほどの盛大な喧嘩をした。
 というより、盛大に不貞腐れてしまった。

 ぱたりと、音を殺して玄関の扉が閉まる。
 施錠を確認して家から遠ざかっていく足音と気配を見送った神無は、それらが完全になくなったことを確かめてからもそもそとベッドを這い出た。

 「……そっか、先輩今日は仕事だったんだ」

 寝室はしんと静まり返っている。
 昨晩口をきかなかったせいで、神無は縞斑の仕事の予定も知らなかった。
 きっと忙しい時間の合間を縫って会いにきていたのだろう。それにも関わらずこの仕打ちとは、彼が愛想を尽かしても文句が言えないかもしれない。
 そう俯く神無だが、それでも彼に謝罪の連絡をできる可愛げは生憎のところ持ち合わせていなかった。

 昨晩、神無は縞斑と喧嘩をした。
 喧嘩の理由は、縞斑が怪我を黙っていたから。
 神無の家に泊まりにきたその日の夜、彼は神無が風呂に入っている間にこっそり怪我の手当てをして腕に包帯を巻き直していたのだ。
 その前から、いつもなら一緒に入る風呂をやんわりと断る彼の様子に違和感を覚えていた神無が早めに風呂を上がり、その現場に居合わせたのである。
 最初は怪我を見られたことを気まずそうにしていた縞斑だが、神無が鋭い口調で問い詰めるうちに彼も意固地になって冷たい言葉を口にした。

 神無ちゃんには関係ないだろ
 そもそも協力してる事件でもないし
 君に共有するメリットはないと思うんだけど

 その言葉が、神無に心配を掛けないために縞斑があえて選んだ突き放す言葉だと言うことは神無も理解していた。
 けれど、それを分かった上で素直に言葉を飲み込めるほど彼は大人ではなく、突き放されたという悲しみが勝って縞斑を拒絶してしまったのだ。
 もういいと言ってその会話を強制的に切り上げ、ふいと一人寝室で不貞寝を決め込んだ神無を、縞斑は追いかけたりしなかった。
 昨晩の縞斑はリビングのソファで眠ったらしく、ソファの背には彼が使ったのであろう毛布が丁寧に畳んで掛けられている。

 「……どうしよう」

 神無にとって、縞斑の仕事は完全な誤算だった。
 朝まで頭を冷やしてから謝るつもりでいた神無だが、その機会を得られないまま出掛ける支度を始めた縞斑の物音で目を覚まし、最後に彼が寝室を訪れた時も寝たふりを貫いてしまったのである。
 仲直りのタイミングを見失ってしまった神無は、思わずリビングのソファに座って頭を抱えた。
 神無がもういいと言って拒絶した時点で、縞斑からはきっとこの話題を出さないだろう。言い合いにすら発展することなく切り上げてしまった以上、神無から話を振って謝るしかない。
 どう話を切り出せば良いのか分からない神無はしばらくうんうんと唸っていたが、やがて腹の虫が主張をしたことに気がついて一度思考を止めた。

 「朝ごはん食べよ……

 腹が減ってはなんとやら、ひとまず腹ごしらえをしてから頭を回そうと考えた神無は、材料を確認しようと冷蔵庫を開ける。

 「…………ん?」

 そうしてふと、神無は冷蔵庫の棚に見慣れない箱が置かれていることに気がついた。
 これは確か、駅前のプリン店の包装だ。雑誌に掲載されるほど有名であるため、朝から並ばないと手に入らない貴重なスイーツである。

 「こんなの買ったっけ……?」

 前々から食べたいと思ってはいたが、朝に弱い神無には確保の厳しい品であったため、今日までずっとその手に収めることはできなかったものだ。
 不思議に思った神無がそっと箱を開ければ、そこには案の定二つのプリンがちょこんと並んでいる。
 ところが神無は、プリンの蓋にそれより目を引くものを見つけて思わずぱちりと目を瞬いた。

 「これ……先輩の字?」

 片方のプリンの蓋には、縞斑の文字で小さく『ごめん』と記されていたのだ。
 どうやら縞斑も、仕事に行く前に仲直りのきっかけを探して頭を悩ませたらしい。
 スイーツで機嫌を直すほど単純じゃないと言いたいところだが、彼なりに神無が少しでも喜ぶ方法を探したのだろうと思うと怒るに怒れなかった。
 文字の記された蓋を開いた神無は、付属のプラスチックスプーンで中身を掬って口に運ぶ。

 「……おいしい」

 なめらかな舌触りと濃厚なたまごの味は、有名になるのも納得の上等な味だった。
 一口一口大切に頬張った神無は、蓋に記された縞斑の文字をそっと指で辿ると苦笑いを浮かべる。

 「怪我してるんだからちゃんと寝ろよ……先輩のばか」

 呟いた彼は最後のひとかけらまで丁寧に口に運ぶと、もう一つのプリンを手に取ってキッチン横のペン立てからペンを取り出した。
 しばらく悩んで『ごめん お大事に』と書いたそれを見直して小さく頷くと、彼はそのプリンを冷蔵庫に戻す。

 「……よし、洗濯と掃除!」

 ぱしんと両頬を叩いて気持ちを切り替えた神無は顔を上げると、非番を利用して片付けるつもりだった家事に取り掛かろうと気持ちを切り替えた。
 縞斑はきっと、今夜はこの家に帰ってくる。自分に都合の良い考えだったけれど、なぜか神無はそんな確信めいた予感を抱いていた。
 いってらっしゃいを言えなかった代わりに、今夜は帰ってきた彼におかえりをきちんと伝えたい。
 それがきっと仲直りのきっかけだと考えた神無は、さっそく洗濯機を回すためにぱたぱたと早足で風呂場へ急ぐのだった。




 


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