ご真祖様の誕生日ネタとして書いたお話です…が、ご真祖様視点のドラヒナ夫妻の姿に、自分達を思い返すお話になりました。捏造設定で、この事務所はロナサン夫妻と共に暮らす、二世帯住宅になっている事。両夫妻の子供達が結婚している事。ロナルドくんを見送った後、ドラルクさんが退治事務所を引き継いでいる事…等が挙げられます。ご注意下さい。
自分の城に帰って、夢の中で『可愛い子』に会いに行くご真祖様のモノローグを追加しました。
2024/11/09 に上げました。
@kw42431393
(しー、静かに。見てください、可愛い寝顔でしょう?)
(ヌー。)
惚気気味に片目を閉じてみせながら、孫は机に突っ伏して眠っている少女の肩に毛布を掛けた。
隣で、ご主人の真似をして口元に指を当ててみせながら、『ヌシヌシ』とジョンが頭を撫でてあげているのが、印象的だった。
赤毛のお嬢さんが、まだドラルクの監視員だった頃。
19歳になったばかりで、吸血鬼対策課ヒヨシ隊副隊長だった頃。
口元にクッキーの食べかすを付けたまま、幸せそうな寝顔をこちらに向けている。
(私の自慢のハムスターです。世界一可愛い、私の…)
そこから、下に続く言葉は、永遠に変わる事はないだろう。
「ハロー、エブリワン。お暇?」
「げっ!?…おっとと…。」(ドラルクのじいさん…今日は、何の用かよ?」)
「ヴェ~!!…っと。」(お祖父様、今日はイベントとかありませんよ?)
私が思いつきで、来るのはいつもの事。
なのに、今日は変だね?
孫もロナルドくんも、急に小声になっちゃって。
「どしたの?」
(し~っ。ここじゃ何だから、じいさん連れて、スナバでも行こうぜ。)
(それもそうだけど…そうだ。じゃあ、ちょっとだけですよ?静かに。)
手招きする、彼らについて部屋に足を踏み入れる。
(あ、なる。ウフフ。)
(まぁ、そういうこった。うちの嫁さん達とチビ達さ。折角、気持ちよく寝てんだから。)
そこにいたのは、掛けられた毛布にくるまれて、川の字に寄り添って、幸せそうに眠っている4人と1匹。
「ヌ~、ヌ~。」
「ん~、にゃう。」
「ちん、ちん。」
「すぅ、すぅ…。」
ロナルドくんの奥さんになったオータムのお嬢さんに、その息子くん。
体を丸めて、我が子と一緒に毛布に収まっている姿は、いつ見ても本当の猫みたいだよね。
真ん中には、ジョンがいて…
(フフ…引っ張りっこされている。)
やっと5歳になった、ドラルクの娘とロナルドくんの息子に、両側から手を取られていた。
人気者だもの、仕方ない…もしかして、愛され過ぎて、ちょっと困っているのかもしれない。
(見てください、可愛い寝顔でしょう?)
ドラルクが、トントンと私の肩をつつく。惚気気味な顔は、ドラウスの若い頃によく似ていた。
そして…
「う~ん、みな…くっき~、とうさまの…くっき~、おいしいな。」
娘を胸に抱いて、幸せそうに眠っているのは…
(私の自慢の奥さんと娘です。世界一可愛い、私の…。)
高等吸血鬼に、昼の子達を下に見ている者は多い。
赤毛のお嬢さんに出会った当初のドラルクにも、そういう所があった。
ドラルク城が破壊されて、破壊した当人の家に転がりこんで…この街で過ごした年月は、孫の認識をかなり変えていた。
自慢の…から下が、変わっている。
それで、よかったと思う。『城ぐらい』と言ったけど、本当にそれだけの価値は、あった。
ドラルクは、自分の監視員であったヒナイチくんを伴侶に選び、二人の間には娘が生まれた。
自分の心臓に手を当てる。
今もそこには、私にとって、この世で一番大切な昼の子の血が流れている。
(嬉しいね、ミナ。また、今度遊ぼうね。)
ふくよかな曾孫の頬をつつく。幸せそうなその顔は、私自身となったその女性と酷似していた。
(お祖父様、行きましょう。今日は、おつきあい致しますよ。)
(あ~、6人と1匹でのんびり過ごすつもりだったのに。仕方ねえな。)
(おけ。じゃあ、レッツゴー。)
「ハロー、ドラルク。お暇?」
「やれやれ、連絡ぐらい下さいよ。まぁ、いいです。これを片付けてくるので、中でお待ち下さい。」
「ヌーヌ、ヌーヌ。」
アルミニウスと共にいる時も思ったけど…昼の子と共に暮らす時間は、あっという間に過ぎてしまう。
つい最近まで、こんなに小さかった曾孫は大人になり、この事務所で姉弟同様に育った青年と、所帯を持って巣立って行った。孫に…何より、多くの昼の子や吸血鬼達にも愛され、『ヘルシングの再来』と言われた伝説の退治人も鬼籍に入り、今、『ロナルド吸血鬼退治事務所』にいるのは…
「お嬢さんは、元気?」
「ヌヌヌン。」
「ウフフ…今、体を拭いたばかりでしてね。さっぱりして、眠っていますよ。」
洗面所にたらいとタオルを置くと、孫は相変わらずの惚気顔で、部屋に私を招いてくれる。
「こちらにどうぞ、お祖父様。」
あれから何年経ったっけ?
70年ぐらい経った様な気もする。
これから、会うのは…相棒を見送ってから、気落ちしていた孫に残された、生き甲斐の大きな欠片。
私もそうだった。ミナがドラウスを残してくれなければ、亡くなる前に全ての血をくれなければ…この体は、塵になっていたかもしれない。
愛した昼の子達が天寿を全うするまで、生活を共にし、世話を焼き続ける事が出来るドラルクを。
私とミナ、アルミニウスが出来なかった事を、昼の子達と協力しながら実現し続けたドラルクを…どんなに誇らしく思った事か。
(見てください、可愛い寝顔でしょう?)
(ヌンヌン。)
昼の子達と過ごした年月によって、落ち着いた雰囲気を纏い、伝説の退治人を支え続けた相棒として、人々の尊敬を集める貫禄を身に着けても…これだけは変わらない。
リクライングベッドに横たわって、安らかな寝息を立てている女性の、白髪混じりの赤毛を撫でる。
かつて、太陽の様に鮮やかな赤毛を靡かせて、伝説の退治人と共に、縦横無尽にこの街を飛び回っていた…義理の孫娘を。
(私の、自慢の奥さんです。世界一可愛い、私のお嬢さんです。)
おそらく、彼女を見送ってからも…ドラルクは、彼女の事を『お嬢さん』と呼び続けるのだろう。
私が、今でもミナの事を『可愛い子』扱いしている様に…
「じゃ、おやすみ。」
はい、ご真祖様。
おやすみなさいませ。
長年連れ添った、マジロ達に背を向ける。もう夜が明けたから、私も寝なくっちゃ。
嘘…私は、本当は眠る必要はない。疲れるという事もないし、太陽に当たった所でなんともない。
1日は24時間しかないのだから、本当はもっと遊んでいたい。
じゃあ、何故しないのかって?
私のお暇につき合うドラウス達が、疲れちゃうから?それもある。
私が1日中はしゃいだら、戦後処理が大変だから?それはそれで、楽しそう。
でも、やらないよ。だって…
「今から、行くよ。ミナ…私の可愛い昼の子。」
そう言って、棺桶に身を横たえる。目を閉じる。
君の血を吸い尽くして、私達はひとつになったけど。
今触れているこの胸は、君のモノでもあると知っているけれど。
『やあ!また来たな、✕✕✕✕✕!今日は、何して遊ぼうか?どこに行こうか?』
『おまた。ミナが決めて。君と一緒なら、何でも楽しい。君と一緒なら、どこでもいい。』
苦笑する君を背に乗せると、私は竜となって、15世紀の祖国とは違う、20✕✕年の日本の空を駆ける。
首をねじ向けて…そびえ立つ高層ビル、豆粒の様に小さな行き交う人々を、嬉しそうに見下ろすミナの姿を確認する。この瞬間が、一番幸せだ。
それは同時に、皆と遊んでいる夜中では、お茶目な仮面の下に隠せていた願いを、再確認させるのだ。
ミナ…やっぱり、君の手に触れたいよ。この目で、君の姿を見たい。
君の顔を見て、いつもの元気な笑い声が聞きたい。
その望みが叶うのは…この棺桶で見る、夢の中だけなのだ。