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恋人の日(VWV?CP未満)

全体公開 VWV 単発・短編 2 4348文字
2025-06-12 00:33:24

書きたいところだけなので肝心のところがない感じのアホの話。原作か劇場版で。
VWVっていうか生産元はわりとVW寄りなんだけど別に左右に拘りはないし、でもこれをCPではないっていうのは怒られるかなみたいなラインのやつ。

Posted by @neastrig

 アンジェリーナは、今回も短命だった。
 悲しいかな、かろうじて壊れずあと少しで街というところで渦巻く蟻地獄に飲まれた鋼鉄の旅の連れは、頼りないガンマン二名をこっぴどく振ってワムズに抱かれて姿を消した。
 残された二名は命からがら、片やゴーグルをずり下ろしながら片や大型の仕事道具を引きずりながら、その巣穴から這い出て歩くこと丸一日。やっと街の明かりが見えた頃には双子の太陽は姿を隠し、五つ目の月が彼らを見下ろす時間になっていた。
 不幸中の幸い、今度の街はそれなりに大きい。遠くからでも明かりがわかるほど賑やかなそこにたどり着いた彼らは、たとえ次のアンジェリーナが中古でエンジンのゆるいアバズレになろうがちょっといい宿で個室をとるのだと話し合わずとも固く誓っていたのだ。
 そのはずだった。

 ぱっぱかぱー。入り口をくぐった瞬間、鳴ったのはそう表現せざえるを得ない管楽器の気の抜けるような音色だった。
「おめでとうございます、今年のお祭り五十組目です! 」
 続いて銃よりもずっと軽い破裂音とともにクラッカーの紙吹雪やらテープやらが飛んでくる。干上がったヴァッシュとウルフウッドは、うん? と首を傾げてやっと顔を上げた。輝くネオンはLove's Dayときらびやかに英語をかたどっており、よく見ると所々ライトが欠けていた。それでもびかびかと輝くそれは二人の頬をピンクや黄色に照らし、小さな楽団の奏でる賑やかな音楽が彼らを小さく揺らすようだった。
「え、何やねん」
「おや、ご存じないのですか? この街は毎年この日に恋人の日を祝っておりましてね! この日いらっしゃった二人組は恋人であるということならば色々とお祝いすることになっているのですよ」
 酒の匂いをさせた恰幅のいい男は、吹きもしないラッパを小さく振りながら話す。赤ら顔はそれはそれは楽しそうにゆるんでいた。
 いやだからそれなんやねん。サングラスの向こうの目を細めて眉を寄せる牧師と異なり、隣の人間台風は「あ、あ~……」と心当たりのありそうな顔で顎を撫でて頷いていた。なんやねん。牧師は勝手に納得する相棒に、またも同じ問いを投げる。勝手にお前だけ納得するな、視線にはそんな抗議が確かに乗っていた。
「いやあ、そういえばこのあたりでそんなお祭りあったなって。かなり前に同じ日に居合わせたことはあったんだけど、僕は基本一人旅だから見るだけだったし忘れてたんだよね……
 前に見たときより派手になったなあ。語る男は、きっとこの町の人間たちが想定するよりずっと「かなり前」のことを思い出しているに違いない。つまりは歴史ある行事ということで、例えば人間台風を捕まえるための仕込みだとか実は町ぐるみの詐欺だとかではないということ。牧師はそう判断して、しかしだからこそ苦い顔で再度ネオンを見上げた。
「え、でもワイら男同士やん」
「そこはほら、あくまでもお祭りだから。男同士も女同士も一応『恋人です』ってハグでもしたらオッケーにしてくれたはずだよ」
 確かちょっと一食分くらいお祝いの食事をもらえるんだったかな、前のとき誰か一人旅の人とやればよかったなと思った覚えがある。
 それを聞いた牧師はよせすぎてシワシワになりそうだった眉をパッと離して「お、ハグするか? 」などというものだから現金なものだった。だが、「まあ別に僕もハグくらいなら全然いいんですけど」と返す相棒は歯切れが悪い。なんだ文句でもあるのかと口をへの字に曲げた牧師にかまわず、次に続けたのは街の者だった。
「いやあ、そっちの兄ちゃんは理解が早くて助かるね! 今回は記念すべき五十回目、五十組目にはいつも以上に恋人の日らしいことを楽しんでもらいたいと思ってね! それはもういつになく色々取り揃えてるんだ。その分ハグ以外にもやってもらおうって形なんだけどね? 」
 言うだけ言ってはははと笑うのは、先ほどのラッパの男の隣にいた背の高い髭の男だ。サンタクロースでもやったほうがいいだろう白い髭をなでながらも愉快そうに茶化す、とても子供に夢を配れそうにない酔っ払いだった。他の街の連中も酒が回って、今にも何かはやし立てそうな様子である。
 いや面倒やんか。ぼやいたのは言わずもがなウルフウッドである。だよねと返したヴァッシュは少し残念そうに相棒と同じくネオンを見上げた。
「ねえ、これ僕らがちょっと外に出て次の二人で来るまで待ったら五十一組目としてごはんもらえたりします? 」
「ああ、別にそれでもいいとも。私たちも無理強いをするつもりはないからね」
 比較的酒がまわりきっていなさそうな中年女性が、気をつかったのか肩をすくめて小声で返しながら頷いた。それならよかったと二人は胸をなでおろす。二人は疲れていた。とてもではないが、このような賑やかな場で大嘘のカップルごっこなどやる元気はない。
 じゃあ、僕らはそこで休んでますね。町のすぐ外のベンチを見てヴァッシュはそんなことを言うつもりだった。
 けったいなときに来たもんやなと、ウルフウッドはタバコを吸うべく懐に手を入れるはずだった、のだが。
「ま、私らも一級のホテルとコースやらなんやら、冷やかしの人たちに出すのはさすがに気が乗らないんでねえ。でっかいベッドとクリーンな水、五十回目の特別仕様さね」
「あ、僕/ワイら、実はラブラブなんですよ」
 二人はけろりと、そして咄嗟に、特に打ち合わせもなく息もぴったりの宣言をしていた。示し合わせもせずに肩を組み合い、残りの手を指までがっつりホールドするように組んでいる。多分、婦人の言葉を理解しきる前に「でっかいベッド」あたりから流れるように手が動き、口は滑るように言葉を揃えた。
 がははは、そりゃ傑作だ! 楽団含めて大笑いでまたもクラッカーを鳴らし始めた頃には「は? 」と二人とも我に返って冷や汗を流していた。


「おっまえ、トンガリ! ほんっとに覚えとけよ」
「それ多分お前ひとのこといえないじゃないかな~!? 」
 お高いホテルのホールで大声を出しあうのは、頭から酒とパイ、花を象ったらしき紙屑各種をこれでもかと被った男二人だ。散々だった。疲れ切った身体に鞭打ちやったことは大運動会の方がましというほど心身にくるものばかりだった。
 記念すべき五十組目カップル。街の人間たちもどう見ても特典目当ての男二人だとわかっていただろうに囃し立て、結果彼らはこのざまである。酔っ払いとは、残酷だった。
 だが街を責めるのはお門違いだ、そもそもあまりにも息ぴったりに乗った二人自身が一番の原因にして火付け役だったのだから。よって、ヴァッシュもウルフウッドもお互いを責める他ありはしなかった。
「コース料理はおいしかったんだけどね……お酒もすごくこう……明らかにいつもよりランク高いやつだったし」
「被ったら美味いも何もあるか。なーにがシャワーやねん。酒の集中砲火やんけあれ」
「パイ投げってすごく久しぶりに見たしね。そういうものってわかっててもクリーム塗ったのを使うのはやっぱり勿体ないよねあれ。子供の教育にもよくないよ」
 飢えた獣のように卑しくも剥がして拾ってきっちり食べた男どもは、そのことを棚にあげて振り返る。
 最後の花吹雪だけは綺麗だったのが癪で――しかもすでに寝入った街の子供たちが作ったとかで、子供らに見せるという写真を撮らされた――ヴァッシュは盛大な溜息を、ウルフウッドは特大の舌打ちをして、今やっと開いたエレベーターに乗り込んだ。
「しかもカメラ構えてキッスコールて。タチ悪い酒場みたいな真似する街やでこれ。最悪や。なんで他のペア待たんかったんやろ。やるまで永遠にコールするし」
「お前それ文句言う権利ないだろ、あれがキッスなら多分人間はみんなカマキリみたいな生態だからな。キスコールでほっぺ噛み千切ろうとするの世界でもお前だけだよ。まだ痛いんだけど」
「それ言うたらなんやでかいジュース二人で飲めちゅうのノリノリで飲んでたお前も大概やからな。あれ八割お前飲んでたで」
「うるせー! あれもずっと囃し立てるからすぐ飲まないと終わらないってのにお前がたばこ吸ってて全然飲まないから飲んだんでしょうが! 」
 思えばカップルを証明しようという名のもとの宴会じみた罰ゲームばかりだった。
 会場までは片方が片方を抱っこして運べと言われ、もめにもめた結果ウルフウッドがヴァッシュを俵のように担いで大ブーイングを受け、会場につけば先のジュース。ショーを見ながらコース料理を楽しめると言われて喜んだのもつかの間、先のシャンパンシャワーやパイ投げのようなおかしなサービスまたは無理難題が一品ごとに出てくる始末。
 とてもではないが最初から最後までまともな味わい方はできず、最後までうるさい中で二人は疲労困憊の身体にとどめをさしながらフィナーレまで耐えきったのだった。
「ま、それもこの高級ホテルでの水飲み放題使い放題、高級ベッドでの爆睡、あとさっきバイク屋のオヤジに話つけたアンジェリーナ・ネオのためやで。よくやったわ本当」
「ああ、この戦い、僕らの勝利だ」
 もめていたくせに、突然称え合う男たち。間違いなく彼らも酔っ払いだ。
 小さな笑いはそのうち大笑いに変わり、チンという音とともにエレベーターの扉が開く頃にはだははと揃った高笑いになっていた。もう必要ないというのに肩を組み、箱を飛び出すようにスキップで指定の部屋へと向かう。
 最上級のスイートルーム、根なし草二人には二度とないであろう贅沢だ。
 煌びやかな廊下は短く広い。扉はすぐそこだった。金色のそれを前にヴァッシュはいそいそと渡されたルームキーを取り出す。鍵だけでそこそこの値打ちがつきそうな装飾も多く、期待に胸を膨らませるには十分だった。
 ヴァッシュは気付かない。その代謝ゆえにヴァッシュより先に酒が抜けつつあったウルフウッドがふと冷静になって首を傾げ始めていたことに。何か見落としている。戦いの神に愛された男は、確かにピンチをかぎとっていた。
 待てトンガリ。その声がかかるころには、ヴァッシュは鼻歌交じりに扉を開け放していた。

………ウルフウッド、ベッドって寝ながら回す派? 」
「回しながらおどれを叩き落とす派やないかな」

 恋人の日記念スイートルーム。名称にたがわないそれを前に二人は卒倒しかけ、だがギリギリで耐えていた。
 これは多分、アンジェリーナもハネムーン仕様でめちゃくちゃうるさいんだろうな。明日には当たる予知を二人揃ってしながらも言葉に出せなかったのは、言うまでもない話である。



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