カルみと あんみつの話
シナリオネタバレあり
愚者の祈り
https://privatter.net/p/11572261 の続き
@popo_trpg_ss
とある甘味処の一角にて、興奮した様子でメニューを広げる神無とディーノは確かめるように向かいの席に座る縞斑を見上げた。
「せ……先輩、ほんとにいいの?」
「僕までご馳走になって良いのですか」
「いいよ。約束なんだから、好きなだけ頼みな」
心配そうな彼らにひらりと手を振った縞斑は、茶を啜りながらのんびり隣のアサギリとメニューを覗く。
改めて許しを得た神無はぱっと顔を明るくすると、水を得た魚のようにそばに立つ店員に注文を始めた。
「すみません!あんみつに豆増量で生クリームと抹茶ババロア……あ!あとつぶあん乗せてください!」
嬉々とした様子の神無は、遠慮なくメニューを捲るとそこに広がる色とりどりのトッピングたちを吟味しながら注文していく。
「あんずと白玉2個……いや、4個!練乳もトッピングで!あとはいちごとキウイとバナナと……栗!?栗あるのすごい!すみません栗もお願いします!」
「神無、こっちにはアイスがあります」
「でかしたディーノ!じゃあバニラアイスとあずきアイスダブルで!ディーノは何にする?」
「僕も神無と同じものが食べたいです」
「じゃあ今の2つ!先輩は?同じのにする?」
嬉しそうにメニューを広げて見せる神無たちだが、縞斑は彼らの注文だけで胸焼けした様子で苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「俺はいいかな。このみたらし団子ひとつ」
「みたらし団子あるの!?」
「……すみません、やっぱりふたつください」
他のページに掲載された甘味に目を輝かせる神無を見た縞斑が何も言わずに注文を追加すれば、苦笑いの店員は数枚に及ぶ伝票になった合計金額をそっと縞斑に手渡して去っていく。
ちらりと金額に視線を落とした縞斑は、おおよそ甘味処で目にするような桁数ではない金額を二度見して隣のアサギリに見せた。
「みてみてアサギリちゃん」
「……これだけあれば、ホテルのスイーツビュッフェに行けるのでは?」
「それがふた皿に集結してるのすごいよなぁ。ところでこれ、経費って……」
「下りるとお思いで?」
「ですよねー」
ひそひそと話す二人の会話をよそに、神無とディーノはほうじ茶を飲みながらまったりとメニューを眺めている。
温かいものと冷たいもの、甘いものとしょっぱいものの無限ループについてを熱く語る神無の姿を眩しそうに眺めていた縞斑は、隣のアサギリにだけ聞こえる声色でぽつりと呟いた。
「……元気になってよかった」
あのあと、駆けつけた仲間たちと協力して病院に搬送された神無は、数日間生死を彷徨った末に生還を果たしたのだ。
弾丸が貫通していたことや、救急隊が駆けつけるまでの応急処置が的確であったことも味方して、後遺症が残ることもなかったらしい。
しばらくは退屈そうに入院していた神無だが、その回復も若さゆえか目覚ましく、先日無事に退院したという連絡を受けて退院祝いにこの甘味処へと赴いたのだ。
「えぇ、本当に。神無さんが眠っている間、マスターの仕事の出来は目も当てられないものでしたから」
「そりゃそうだろ。好きな子が怪我したんだからさ」
ぱちりとアサギリが目を瞬いて縞斑を見上げる。
そのタイミングでテーブルの上にふたつのあんみつ、もといフルーツとアイスの盛り合わせが到着した。
「わー!!綺麗!かわいい!美味しそう!!」
「甘くておいしそうですね」
「先輩これ、ほんとに食べていいの!?」
「むしろ君が食べてくれないと、俺たちじゃ食べきれないかな」
「まかせて!これくらい楽勝!」
おおよそあんみつ用ではない冷やし中華をのせるようなガラスの大皿に盛られたあんみつを愛おしそうに眺めていた神無は、にっこりと笑って両手を合わせる。
ディーノとふたりでいただきますと丁寧に挨拶をしてスプーンを差し込む姿を微笑ましく眺めていた縞斑はふと、アサギリが目を丸くしたまま自分の横顔を見つめていることに気がついた。
興奮する神無たちに声が聞こえていないことを確かめると、彼はアサギリの方を向いて首を傾げる。
「なぁに?」
「……いえ、ようやくお認めになられたのだな、と」
「まぁね。彼があんなに体張ったのに、俺ばかり逃げてたらさすがに年上として立つ瀬がな………」
美味しそうにあんみつを頬張る神無たちに視線を戻そうとした縞斑はふと、アサギリの発言に引っ掛かりを覚えて視線を戻した。
「……アサギリちゃん」
「はい?」
「…………いつから気付いてた?」
「ご想像にお任せします」
『ようやく』という言葉は、以前から縞斑の恋心を察していなければ決して出てこない言葉だ。
誰にも見破られていない自信のあった縞斑は、冷や汗を垂らしてアサギリに言及しようと口を開く。
ところがその口が音を発するより早く、彼の鼻先に山盛りのスプーンがずいと差し出された。
「先輩、一口あげる!」
こちらも明らかにデザート用ではない巨大なスプーンの上には、小さなあんみつが完成しているのではないかと思えるほどフルーツやあずきが盛られている。
甘いものは特別好物ではない縞斑だが、笑顔の神無に押された彼は促されるままにぱくりとスプーンを口に運んだ。
「ん、」
「おいしい?」
「……うん、美味しいね」
「だろ!?まさか先輩がこんなに良いお店知ってるなんてなー!」
縞斑の返事を聞いて満面の笑みを浮かべた神無は、ぱくぱくと幸せそうにあんみつを切り崩していく。合間に挟むみたらし団子が生み出す、温かいと冷たいの無限ループは止まる気配がない。
隣のディーノも神無を見習ってアサギリに一口分け与えると、口周りを汚しながらもぐもぐと食べ進めていく。
そんな彼の口元を拭ってやったアサギリは、未だ何か言いたげな視線を向ける主人にちらりと視線を向けて口元を微かに吊り上げた。
「少なくともあなたより前、とは言っておきますね」
「アサギリちゃんは勘がいいなぁ」
「あなたの勘が鈍っているだけなのでは?」
「わぁ辛辣ぅ」
その母親のような優しい仕草とは裏腹に、主人にはとことん厳しいアサギリの言葉に縞斑は苦笑いを浮かべる。
話は終わりだと言うようにディーノとの話に花を咲かせるアサギリを見て、縞斑は渋々会話を切り上げることにした。
「神無ちゃん、おいしい?」
「うん!もう一口いる?」
「や、それはいいかな」
聞きたいことは山ほどあるが、ひとまず今は目の前で嬉しそうに甘味を堪能する想い人を愛でることにしよう。
※
夕暮れの帰り道、神無は重たい腹を抱えてよろよろと通りを歩いていた。
「お……おなかいっぱいで苦しい……」
「あんなに食べたらねー」
ひとりであのデカ盛りあんみつを平らげた神無に、隣を歩く縞斑は呆れた様子で彼の荷物を代わりに持ち上げる。
礼を言って再び歩き出す視線の先には、同じ量のあんみつを食べ終えたにも関わらずけろりとした顔のディーノがアサギリと並んで話していた。
あんみつで冷えた体が穏やかな夕日に照らされて心地良く温まる幸せな感覚に、神無は満ち足りた笑顔を浮かべて隣の縞斑を見上げる。
「ありがと先輩」
「うん?」
「入院中ずーっと甘いもの我慢だったから、今日はほんとに満たされた!幸せ!」
久しぶりを甘味にありついたことはもちろんだが、何よりこの4人で再び会って話をすることであの頃に戻ったような懐かしい気分になった。
今も築いたつながりが確かに生きていることや、自分が無事に復帰できたことを改めて実感した神無は、そう言って嬉しそうに帰路を歩き出す。
「ねぇ、神無ちゃん」
その背を見守っていた縞斑が不意に足を止めた。
名前を呼ばれて振り返った神無は、初めて目にした彼の柔らかな笑顔に目を瞬く。
「君が好きだよ」
周囲の音が止まったような気がした。
丸く見開いた瞳の神無はやがて、言葉の意味を理解した様子でじわじわと頬を赤く染めていく。
「い……今言う?」
「今思ったからね」
「食い意地張ってるとこ見て!?」
「ん?あぁ、言葉のタイミングだけ見るとそういうことになるのか」
勝手に納得した様子で頷く縞斑を見上げる神無は、この瞬間が夢ではないことを確かめるように何度も頬をつねっていた手でそっと唇に触れる。
「じゃあ、あれも夢じゃなかったんだ……」
意識が途切れる直前、唇に触れた柔らかな感触は神無の気のせいでなければ縞斑の唇だった。
あのときの記憶はひどく曖昧であったため、どこまでが都合の良い妄想なのか分からなくなった神無は全てを夢だと片付けることにしたのだ。
甘味処に誘ったときから一切の動揺がなかったため、あの時のことは覚えていないのだろうと考えていた縞斑も、その発言には少しだけ驚いた様子で目を瞬く。
「覚えてたの?」
「そりゃまぁ……うん……」
当時の記憶が鮮明に甦ったのか、赤い顔の神無がぽそぽそと呟いて頷く。
そんな神無を見ているうちにいつもの調子に戻った縞斑は、にやりと意地の悪い笑顔を浮かべて彼の顔を覗き込んだ。
「もう一回確かめてみる?」
「は!?」
神無の素っ頓狂な声を聞いて、先を歩いていたディーノとアサギリが立ち止まり振り返る。
彼らの姿と目の前の縞斑を交互に見て狼狽えていた神無は、やがて縞斑の肩を叩いて威嚇する猫のようにぎゃんも毛を逆立てた。
「ッ、ディーノもアサギリもいるとこでやるわけないだろ……!」
「うーん残念。じゃあ二人きりの時に期待かな」
「言ってろばか!ほらっ!早く帰るぞ!!」
急かすように先を歩き出した神無が、自然な動作で縞斑の手を取る。
おやと意外な声を上げる縞斑の様子を見て、気まずそうな神無は赤い顔でぎろりと背後を振り返った。
「……なに?」
「いや、手は繋いでくれるだなーと思って」
「〜〜〜っ悪いか!?」
「ぜんぜん?むしろ嬉しいかな」
晴れて思いを通じ合わせることができた想い人と触れ合うことができるなら、もちろん縞斑もやぶさかではない。
揶揄われていると捉えた神無はますます不機嫌な顔で赤くなってもにょもにょと文句を呟いているが、彼も同じなのか手を離す気配はなかった。
二人のやり取りを見守るディーノとアサギリが、呆れた様子で足を止めて顔を見合わせる。
ようやくくっついたとでも言いたげな彼らの目配せに苦笑いをこぼした縞斑は、神無にそれが気取られて手を振り解かれないことを祈って道を歩き出すのだった。
終