3話目。
みんな生存・ハッピー謎時空の呪術高専が舞台。
ラキスケ体質の補助監督員🌸ちゃんが、
宿儺先生をトラブルに巻き込みながらなんやかんやありつつ関係を築いていく話(予定)そのうちR18にもなる(予定)
@LjK55hi
(#2) https://privatter.net/p/11506399
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次の任務地ではバスローブが溶けてなくなってしまい、またもや全裸になってしまった宿儺先生にお渡しできる布製品といえば、車に常備してあったタオルのみ。
仕方なく大判のバスタオルを渡して腰に巻いてもらった。
どっ、どうしよう……。
僻地すぎてコンビニもないし、こんな雄っぱい丸出しの格好になってしまった宿儺先生を外で歩かせる訳にはいかない。
しかし私の服だとサイズが合わなすぎて、きっとジャケットに袖を通そうとするだけで破れるだろうし、こういった場合どうすれば良いのだろうか。
圏外ギリギリの微弱な電波を頼りに最寄りのコンビニと衣料店を探してみるも、どちらも現在地から一時間はかかるらしいし、なんなら今日押さえているらしい宿が一番最寄りである。
スマホ片手にウンウンと唸っていると、後ろからヌッとそれを覗き込んだ宿儺先生が、私に指示を出す。
「構わん。このまま宿へ向かえ。」
「いやっ、でも宿儺先生!温泉に入る前からタオル一枚だなんて、そんな!」
「馬鹿者。誰がこのまま出歩くと言った。」
「───???」
「今回は泊まりがけだったからな。トランクに替えの服がある。」
「さ、さすが宿儺先生!」
「だが明日の任務で、これらが無事かは判らんがな。」
「…………っぐぅ…」
ラッキースケベ体質に巻き込んでしまっている申し訳なさで何も言えずにいると、宿儺先生は車のトランクを開け、荷物から大きなポロシャツを取り出す。
着ている服も大きいな、と感心して眺めていると、宿儺先生にそれが着られた途端、あんなに大きかったポロシャツはなんだかピッチリ小さく感じるようになった。手品?
「───おい。」
「はい?何でしょう?」
「このまま俺の着替えを見続ける気か?」
「っは?!え?い、いや!!違います!見てません!」
「嘘をつけ。」
「こっ、これから見ません!」
無意識に見続けてしまっていた自分にびっくりしながら、車の運転席へと逃げるように飛び乗った。
ドクドクと激しく脈打つ心臓を片手で押さえながら、動揺で震える指先を動かして、目的地の宿泊先をナビに入力を終えると、車が軋み揺れてドアが閉まる。
「もう良いぞ、出せ。」
「はっ、はい!出発します!」
宿儺先生の静かな声が車内に響き、私は慎重に車を発進させた。
現在、山間部に居るせいなのか、夕方から夜になるまでの時間が普段の体感よりもかなり短く、心の準備をするよりも前に周囲はあっという間に暗くなってしまう。
民家さえも疎らなこの地には、もちろん外灯というものが存在しないので、ただでさえ慣れない山道で、車のライトに照らされた部分しか見えない真っ暗な道に焦りを抱く。
「山道なのに、ガードレールが無い……これ、落ちたら…即ち、死?」
失敗は絶対に許されない。
緊張をポツリと口に出して冷静になろうとするが、じわりと手に汗が滲んでくるのを感じる。
車一台が通れる道幅が続き、たまに申し訳程度のすれ違いがギリ可能なくらいの道幅が現れてくれるが、カーブもあるし、ガードレールがあったりなかったりするのが信じられない。道端のガードレールって道という道、全てに必要なものなんじゃないの?
頭の中に駆け巡ったものを口に出したり、出さなかったり独り言を発していると、宿儺先生が忙しくしている私を嗤う声と、後部座席から前へと乗り出すような気配を感じた。
「……おい。」
すると車内の空気が揺らいで、宿儺先生の匂いがする。
一日戦ってきた彼から、すっかり薄くなった香水の香りと濃くなった彼独特の匂い…体臭というか、汗の匂いがふわりと漂う。
あぁ、この匂い……、好きすぎて目眩がする。
「まッ…待ってください動かないで、良い匂いするんで!!!!!」
「……あ゙?何を…」
「無理です!私、運転中なので話しかけないで下さいぃ!事故ったら死んじゃいます!」
「気にするな、俺は交通事故程度では死なん。もう少し楽に運転しろ。」
「は!?え?!でもそれって、“俺は”って言ってる宿儺先生限定ですよね!?私は!私はどうなるんですかッ!?ひどいです!!補助監督だって、生きているんですからね!」
ぴぃぴぃと騒ぐ私に反応は返ってこないが、喉を噛み殺すように嗤っている声が耳に届く。
もうこれは今日が命日かもしれないと心のどこかで諦めかけた時、急に視界が開けて突然細い山道から解放された。
相変わらず外灯は無い暗い道だが、安心してすれ違いのできる道幅になったのはなんとも嬉しい。
「たっ……、助かったァ…」
「良かったな。」
「生きて帰れました…。」
「あの程度で死ぬ訳が無いだろう。」
「……!!すっ…、宿儺先生は大丈夫かもしれないですが、私は駄目ですからね?!そこんとこ、解ってらっしゃいます!?」
バックミラー越しにニヤつく彼と目を合わせ、ワナワナとハンドルを握って声を荒らげたが、宿儺先生は微塵も気にする様子がなく、真っ直ぐに私を見つめ返して言葉を続けた。
「俺が指名して連れて来たんだ。術師より弱いお前を守り助けぬ訳が無いだろう。」
「なっ…、ッえ?!そっ…それはッ……つまり!?」
「ほれ、前を見ろ。道の中央に獣が居るぞ。」
「えッッッ!?ほあ!!?鹿!!?!??!」
突如現れた大自然あふれる生物の登場に意識を全て奪われ、速やかに減速をして緩やかにハンドルを切って避ける。この間、私の中ではスローモーション。
鹿を回避して平静を取り戻した時には、もう宿儺先生はこちらを見てもおらず、腕組みをして目を閉じ会話を終了させていたのだった。
ようやく宿へと辿り着いたが、私達の姿を見たフロントの人の様子がおかしい。
予約した宿儺先生の名を複数回確認し、帳簿を捲り…戸惑ったような表情を見せる。
「御予約時に、おひとり様と伺っておりまして……」
体躯の大きな宿儺先生にビビり散らかして、今にも消え入りそうな小さな声で言われた言葉に、今度は私達が顔を見合わせた。
「……そういえば私…、突然一緒に行く事になりましたよね。」
「そうだな。」
「当初は宿儺先生だけで行く予定でしたっけ。」
「そうだな。」
「この宿を予約したのは宿儺先生?」
「そうだな。」
「もしかして、予約変更の連絡してなかったりします?」
「そうだな。」
「絶対そのせいじゃないですか!!!!!」
おっと。いけない、いけない。思わず大きな声を出してしまった。
気を取り直して笑顔を作り、フロントの人へ向き直るが、その表情は依然として曇っている。
「もう一部屋、お借りしてもよろしいですか?」
「それが……」
────あぁ、曇った顔のままだったのは、こういう事だったのか。
事の顛末を聞いたところ、数年前に閉業したこの宿は現在、日帰り温泉施設として業務形態を変えていたのだが、今回は宿儺先生が一部屋だけ貸りるよう強引に手配をしたらしい。
一部屋は今日の為になんとか整えたが、それ以外は物置として利用されて数年…、とても泊まれる状態では無いとの事だった。
だが、ここまで来てしまったのだし、もう仕方ない。
運転にも非常に神経を使って疲れたので早く休みたいし、宿儺先生と同室とのことだが…きっとなんとかなるだろうと願い、部屋への案内をお願いすることにした。
軽く館内説明を受けながら、人の気配がしない廊下を歩く。
「今は男湯が左手、女湯は右手を曲がったところになっております。」
(ふぅん……女湯が右、女湯がみぎ…。)
安易に想定できるラッキースケベ回避のため、覚え間違いだけは避けたいと思い、頭の中で繰り返し確認する。
現在通りがかっている館内温泉は、夜になるとめっきり利用者が減るらしいが、その代わりと言うように、朝は5時から日帰り温泉の営業が始まるそうで、近隣の住民が朝から押し寄せるのだとか。さすが、御老人の朝は早い。
「お…、お部屋は一部屋なのですが!お食事は三人前程度と事前にお申し付けいただいておりますので、充分な御用意があります…!それでは、ごゆっくり御寛ぎ下さいませ。」
本日、泊まる部屋の前に到着すると、案内をしてくれた人が言い訳のように早口で説明を終え、深々とお辞儀をして去ってゆく。
ものすごい速さで小さくなってゆく後ろ姿をぼんやり見送っていると、宿儺先生は私に構わず部屋の鍵を開け、室内へと消えてしまう。
ぽつん、とやけに静かな廊下に取り残されてしまった事に気づいて、慌てて宿儺先生のあとを追って部屋のドアノブに手をかけたのだった。
────ご飯が先?お風呂が先?それとも……。
なんとなく言ってみたくなったセリフを言いかけていると、心底呆れたような表情を見せた宿儺先生がくるりと背を向けた。
「たわけ、風呂が先だ。行ってくる。」
「あっ、待ってください!私も行きます!」
言われてみれば任務後であちこち汚れているし、まずはお風呂で一日の汚れと疲れを綺麗さっぱり洗い流した方が良いだろう。
「女湯が右手側、女湯は右側、女湯みぎ…」
化粧落としにシャンプー、スキンケアセットなど、風呂に行く支度をしていたらば、やはり待ってはくれない宿儺先生に置いて行かれたので、後から温泉に入る私は、うっかり男湯へ乱入しないよう細心の注意を払って女湯へと向かった。
藍染の大きな暖簾に『女』と大きく書かれているのを指差し確認し、脱衣所へ入る。藍染では色ですぐさま判別が難しいから避けてもらいたかったなぁ…、と心の中で小さな苦情を言いつつ暖簾をくぐると、本当に誰一人として利用客が居ないようで、脱衣所のロッカーは誰も居ない事を知らせる鍵が全てに刺さっていて、服を脱ぐ場所が選び放題だ。
うきうきと服を脱ぎ散らかし、洗い場でささっと体を洗い、温泉に首まですっぽり深く沈むと、水圧で体の中から絞り出された空気と共に声が出る。
「っあ゙〜〜〜、きもちぃ〜」
極楽とはよく言ったものだ。
疲れた体が温かなお湯に包まれ、ふわふわとした心地良さと多幸感で充たされる。
自身の車の運転に不安は無かったのだが、初めて運転する道で、しかも細い山道で、道路脇は崖というか山の一部で雑木林で……。自分一人ならまだしも、数少ない特級術師に何かあったら自分では責任を負いきれない、と神経を擦り減らしながら運転に超集中して…。今日は特に疲れ切ってしまった。
切れた緊張の糸をそのままに、温泉の中で脱力してゆらゆらと体を伸ばして漂わせる。
(昨日のラッキースケベから、急に人生が濃くなったなぁ……。)
特級術師・宿儺先生のあれやこれやを思い返しながら温泉を充分堪能した後は、浴衣に着替えて部屋へともどった。
たっぷり長湯した気持ち良さから、上機嫌な私が部屋のその戸を開けた瞬間。美味しそうなご飯の匂いが、鼻腔と空っぽの胃に直撃する。
なかでも、牛肉の脂の焼ける匂いが鮮烈に香り、一気に空腹感が襲いかかってきた。
慌てて部屋の中へと入って中の様子を確認すると、口いっぱいに頬張りながら、おひつから追加のご飯をよそっている宿儺先生と目が合う。
「なっ!!!!!宿儺先生!なんで待ってくれてないんですか!?」
「…………遅い。」
「いやっ、だからって!うわっ、おいしそ!」
低いテーブルの上には所狭しと料理が置かれ、三人前以上の量があるように見える。
固形燃料を使用する小さな肉焼き用のプレートに、季節の野菜を使った小鉢、お刺身、肉、汁物、煮物……品数も量も多くてなんとも贅沢だ。いや、この豪華さは宿儺先生の自腹ご飯なのでは…?
想像以上の煌びやかな食卓に気後れし、泳ぎまくりな視線を落ち着かせるために、宿儺先生に視線を向ける。
彼は大盛りごはん片手に、大きな手で器用に箸を美しく使い、料理を摘んでは口へと運んでゆく。その所作があまりにも綺麗で優雅なので、宿儺先生って実は貴族かなんかなのか?と思いながら、ぼんやりと見つめた。
食べる姿に見惚れそうになりつつ、それよりもなによりも、温泉上がりに宿儺先生も浴衣へと着替えており、食事姿だけでなくその浴衣姿にも視線が釘付けになってしまう。
「……ゆかた…、そうだ、浴衣をいくつか買い取って服の予備にしよう。私ってば天才かも…。」
ぼんやりとしたまま、独り言が無意識に口を衝いて出る。
温泉上がりで暑いせいか、宿儺先生は浴衣の前を大きくはだけさせいて、雄っぱいが弾け出そうだ。
これは…、もう少し私が横に移動したら宿儺先生のちく……
「視線が煩い。早く座って食え。」
「っは!?すみません!!何もやましいこと考えてません!!!」
宿儺先生は一瞬だけ視線をこちらへ送って注意し、またすぐさまご飯へ戻る。
恥ずかしくなった私は、いそいそと彼の向かい側の座布団へ座ると、私も豪勢な夕ご飯を頂くことにした。
────が、しかし。
米を椀に盛ろうと、宿儺先生の近くにあるおひつを見ると、もうそこには雀の涙程度の米しか残っていないではないか。
「……待って、宿儺先生!?私のお米は?!」
「そこらの粒でも摘んで食え。」
「えっ?!さっきまでおひつにご飯いっぱいありましたよね?!」
「そうだな。」
「えっ!?え?まさか食べたんですか?ぜんぶ??」
「そうだな。」
「っえーーーー!!!?!」
「煩い。黙って他のものを食え。」
「ごはん…、田舎のお米……、私…楽しみに…」
手のひらの椀に寂しく盛られた米を覗き込み、大口で食べればひと口で終わってしまうようなその量を、箸で小さく一口分にした。
「……いただき、ます。」
納得は出来ないが、今あるものを楽しむしかない。
しょんぼりとした気分で、真っ白くツヤツヤに輝く小さな粒たちを口へ運ぶと、口に入れた瞬間、温かな米から立ち上った良い香りが鼻に抜けた。
奥歯へ運ばれた米をゆっくり嚙み潰すと、口いっぱいに優しい甘みが広がって、じゅわりと唾液が溢れ出てくるので、再び噛み締め咀嚼する。
まだ米しか食べていないが、今日の疲れでカラカラになった心のナニカが、スポンジが水を吸い上げるが如く、急速に充たされてゆく感じがした。
「〜〜〜〜〜おいひぃ。」
ぽろりと、ひとりごとがこぼれてからは欲の赴くままに箸を動かして、空腹を満たしてゆく。
基本の和食、お刺身に、自分で焼く上品なお肉…どれも一等に美味しくて、勢いよく無言で食べ進め、腹八分目くらいになったところで、ようやく見られている視線に気付いた。
視線の彼は頬杖をつきながら、どこか満足そうな顔をして片側の口角を上げており、次第にその唇がゆっくりと開く。
「旨いか?」
「はい!ものすごく!」
「……では、朝は米を分けてやろう。」
「っえ?!良いんですか!!!」
やったぁ!…なんて喜んだのは一瞬で、はた…と冷静に考え動きが止まる。
「いやいやいや!それ普通ですからね!?」
「……ばれたか。」
宿儺先生が白い歯をむき出して、喉の奥でくつくつと笑う。
こんな笑い方もするんだなと少し驚きつつ、心臓のどこかが大きく跳ねて鼓動が速くなる。
大きな体躯、開いた胸元、弾けそうな雄っぱい、常に漂う引き寄せられるような色気……。
ぼんやりと見つめていたらば、宿儺先生が深く息を吸い、一呼吸置いて私の注意を引き付ける。
「……それと。」
「?」
真っ直ぐ視線を合わせ、子どもにでも言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「今日はやむを得ず同室だが、襲うなよ?トラブルは御免だ。」
「ばっ!?、だっ……!誰が!!」
動揺しまくって勢いよく机に手をつくと、空になった小鉢達がカチャリと音を立てた。
そんな私を見た宿儺先生は、馬鹿にするように息を吐いて嗤い、席を立つ。
そして、『湯に浸かってくる』と言ったきり、宿儺先生はもう数時間戻らないので、仕方なく寝る支度をして、敷かれた布団も部屋の中で、できる限り離した場所に設置した。
ゆっくりと支度したのにまだ戻らないので、これまた仕方なく布団に潜り込む。
「……おやすみなさい。」
1人で居るには広すぎる部屋の中で、ぽつり呟く。
辺りは一瞬でまた広い静寂に包まれ、目蓋をゆっくり閉じたらば、1日の疲れがどっと重くのしかかってきて、布団に沈み込むような錯覚を感じた……と思っていたら、あっという間に私は眠りの淵に落ち込んでいたのだった。
鳥のさえずり、と呼ぶには大きすぎるカッコウの鳴き声が、障子の向こう側が明るくなり始めた頃から響き渡っている。
「ゔぅ゙ぅ゙……、うるさ…」
体感的にもう少し睡眠をとった方が良いような気がして、無理矢理眠ろうと目をキツく閉じたが、部屋の窓枠の手摺にでも留まって鳴いているのでは?と思うくらいに近くで、カッコウカッコウと鳴かれてしまっているのと、いつもと寝床が違うせいも重なって、寝られなくなった私は体を起こした。
「……ふぁぁ…っ、ねむ……」
スッキリとした目覚めではなく、重いダルさを感じながら、ぼんやりとした頭で現在時刻を調べると、朝の5時を過ぎたところ。もう温泉の営業がやっている時間帯だ。
ぽりぽりと頭を掻きながら部屋を見回すと、少し離れたところに配置した宿儺先生の布団は乱れて抜け殻のようなっているので、ちゃんとここで眠っていたらしい事が窺える。眠る姿を見せないだなんて、まるで野生動物のようだ。宿儺先生らしいといえばらしい。
「…温泉……、行くかぁ…。」
くぁっ、と大きなアクビをし、重いまぶたをこすりながら私はノロノロと布団から這い出て温泉へ向かう事にした。
山間の集落にある地は、朝の空気が寒いくらいに涼しく、凛としている。
目を閉じ、頬に触れるひんやりとした空気を感じながら、眠くてダル重い足を引きずり女湯を目指す。
「ふあ…ぁ。女湯は右、右、みぎは女湯……」
それにしたって、昨日の疲れが全然抜けていない。
今日だって宿儺先生の任務に同行してお役に立たねばならぬのに。
サッと朝風呂に入って切り替えよう……。
大きなあくびをしながら、藍色の暖簾をくぐり脱衣場へ進み入ってゆくと、聞き覚えのある低い声に呼び止められる。
「………おい。」
「はい……?」
何故、ここで宿儺先生の声が?
強い眠気で半開きだった目を完全に開くと、目の前に広がる圧倒的肌色の光景。
シワシワで細い皮だけになったようなお爺さん数人が拝むようにして取り囲んだその中心に、筋骨隆々で全裸な宿儺先生が、御立派様も隠す事なく堂々と立っていた。
「ここは男湯だぞ。」
「…………え?…は??えッ!?待ってください!女湯は右手側でしたよね?!」
「昨日はな。日毎入れ替え制だ、よく読め。ど阿呆が。」
「しっ…失礼しましたァ!!!!!!!!!!」
見てはならぬモノをたくさん見てしまったような気もするが、これ以上は見るまいと顔を両手で覆い、踵を返す。
全速力でついさっきくぐった暖簾を再びくぐり、それでもまだ信じられない私は、振り返って藍色に書かれた文字を確認する……『男』だ。
「なんでッ!!?!」
頭を抱えて逃げ出したい気分だが、本日控えている任務を思い返してグッと堪える。
驚きで眠気が飛んで完全に目は覚めたが、こんな形での目覚めは望んでいない。
その後、気持ちだけはなんとか立て直し、任務地へ。
最悪のスタートを切った一日は、やはり最悪なまま立て直す事は出来ず、任務では宿儺先生の服が消失し、彼は何が嬉しいのか魔王のように愉しげに嗤い、私はまた頭を抱えた。
その中でも唯一の救いだったのは、元旅館にあった大量の浴衣の一部を格安で買い取らせて貰えた事だろうか。
暫くは何かしらのハプニングがあっても、着てもらうものには困らなそうという点だけは良かったな…と、しみじみ思いながら、任務後に浴衣の詰まった車のトランクを眺め、宿儺先生の浴衣姿をひっそりと楽しみにしたのであった……。
《続》