タビコさんの誕生日ネタで書いた、ヴェンタビのお話です。鶴の羽毛を織り込んだ鶴氅衣、孔雀の羽を拠った糸、水鳥の羽毛を織り込んだ着物など、案外存在するらしいと聞いて、思いつきました。とはいえ、実際カラスで出来るかは不明ですが(汗)
女性から手袋を贈る場合、「私を捕まえて」になるそうですね。他にも、愛情や「守りたい」の意図もあるそうで、この二人にはよく似合うかな…とも、思います。あと、指先への口づけの意味は、「感謝」「称賛」だそうです。
彼女の誕生日に、自分の羽毛を織り込んだプレゼントを贈るヴェントルーのシーンを追加しました。
2024/11/11に上げました。
@kw42431393
鶴の恩返し…という話を、知っておろう?その昔話には、鶴の羽で織られた反物が出てくる。
現実それが可能か…というと、どうであろうな。鶴氅衣という、昔の高貴な者達が纏う防寒具があったというから、不可能ではないのだろう。
そう思っただけ…酔狂で始めたはずだったのだが。
「やれやれ…我ながら、何を思って。」
クジャクの羽を細かく裂いて、糸に縒り込む。水鳥の綿毛の部分を、織り込む事は可能だと聞く。
鴉の羽はといえば…どうも上手く縒る事は出来ぬ。結局、羊毛と混ぜて、縒りあげる事になったのだ。
「もうよいか…元々、小娘には恩どころか恨みしかないのだからな。」
回転が止まったスピンドルには、光に反射して青や紫色に輝く…黒い毛糸が巻きついていた。
「何だ?そんなものを、気に入ったのか?」
あれはいつだったか…タビコが、我が輩が落とした羽を拾って、弄んでおった事があったのだ。
靴下を奪われ、それを取り返しにきた同胞共をあしらった、その帰り道。
たまたま、買い出しに来ていた我が輩と鉢合わせて、共にあの部屋に戻る帰り道…一応、言っておくが、今回はつけていた訳ではない。たまたま、よ。
黒い羽根の匂いを嗅いだり、頬を撫でてみたり…その姿は、まるで頑是ない子供の様であった。
「まあな。子供が、よくやるだろう?公園に行って、落ちていた羽をよく拾っては、遊んでいたものだ。」
「フン。貴様にも、そんな頃があったとはな。そして、その幼子の成れの果てが、変態とは。嘆かわしいものよ。」
皮肉に何も返してこないので、後ろからついて来ているはずの奴を確認する。
「タビコ…?」
朧げな月明かりの中、うっすらと閉じた瞳、嬉し気に笑う口元。いつも見慣れた姿であるはずなのに…。
「…。」
何故であろう。我が輩には、目の前の『変態女』ごしに…その幼子の姿が、透けて見える様な心地がした。
我が輩が知らなかった頃の、タビコ。我が輩と出会ってすぐに、今の姿に成り果ててしまった現実に、どうにもそれが存在していた気がしない。その姿も見てみたかった…そんな思いが、過って頭を振る。
「これ、舐めるでない!汚いわ!」
「ん?アハハハ、お前も母と同じ事を言うのだな。」
うっとりとした表情で、羽を口に含んでいた小娘…また、油断した隙に変態に戻ってしまう。
本当に、そこは何とかならぬものか。
「誰だって言うに決まっておろう。幼い我が子が、拾った鴉の羽を舐めておれば、止めるに決まっている。」
鴉といえば、天性の狩人でもあるが、死骸の掃除屋でもあり、近年は特に人間のゴミを漁ったりもする。
知能の高さと太陽との関連から、信仰の対象とされ、反面、汚らわしい者と忌み嫌われてきた鳥でもある。
実際、様々な病原菌を纏っておる事も珍しくない。母親が、止めるのも妥当であろう。
「汚くは、ないだろう?この羽は、お前のものだ。」
清々しいまでに、当然と言った顔に、思わず言葉を失う。我が輩を追い抜かした小娘を、ただ、目で追う事しか出来ぬ。
「ここだ。昔、よく鴉の羽を拾ったっけ。」
「…。」
跳ねる様に、タビコは公園に足を踏み入れる。
裏地に大量の靴下を張り付けたコートが、翼の様にフワリと舞った。
その姿は軽やかで、優雅で…時々、本当は我が血族の者ではないか、と錯覚しそうになる。
「鳩やスズメもおったであろう?何故、鴉なのだ?」
奴に続いて、我が輩も公園に足を踏み入れる。そういえば、あまりここに来た事はなかった。
シンヨコに来てから、自らの住まいとタビコの家、あるいは食料品店の往復ばかりであったから。
「だって、綺麗じゃないか。光を当てると…ただの黒い羽が、青になったり紫になったり、よく見ると白い羽毛が混ざっていたりしてな。まぁ、理由なんて特にない。好きになるのに、理由などいるまい?大鴉?」
「貴様は、濡羽色が…いや。」
『好きになるのに、理由などいるまい』…か。綺麗な色は、そのついでなのだろう。
それは、我々吸血鬼にも当てはまるのであろうか。
逆襲しにきた同胞から、さらに、靴下を奪って無事に帰って来たタビコを見る度、心の奥で湧き上がる…この感情は。
その日の戦果報告を、我が輩の手料理を食べながら、嬉しそうに話す貴様を見る度、湧き上がってくる…この感情は。
当初は、『靴下の場所を知っている人間だから』『屈辱を味あわせた憎い女だから』…そう、繰り返し思う事にしていたはずなのだ。あの時までは…
『ヴェントルー…』
あの日、我が輩が助けに来ると信じ切った顔で、ビルから飛び降りる…貴様の笑顔を見るまでは。
「ヴェントルー…。」
現実の小娘の声で、我に返る。
顔を上げると、満足した様なタビコの顔があった…また、我が輩の羽を軽く齧ったりして遊んでおる。
「だから、それはもう捨てよ。風呂は確かに入っておるが、あまりそうしてよい羽根ではないわ。」
「そのつもりはない。昔ここで拾って集めていた羽も、母に捨てられたのだ。今回は、お前の羽だ。捨てたら許さんぞ?とっくに、これも『私』のモノだ。」
『私のモノ』…か。つくづく、こ奴は我々に近いのかもしれん。所有物に対する執着心は…我々夜の者と引けを取らぬ。
元々、靴下を取り返し、小娘の血を吸い尽くして、終わるはずだった関係だったものを。
「…。」
吸い尽くせるだろうか、それよりも…
「どうした?ヴェントルー?」
小娘が思う存分、この奇行をやり尽くし、満足したその時こそ…
「見つけたぞ!人間靴下コレクション!!私の靴下を…ゲッ!?貴様が噂の、ヒモ吸血鬼だな?道理で、この女から、貴様の気配がすると…。」
「キイィィ!!誰が、ヒモだ!?誰が!!」
「最近はヒモというより、保護者…かな?」
その前に、タビコの安全を確保する方が先であろうか…?
「あれから、糸が出来るまで結構かかってしまった。ここからは、得意分野だがな。」
まぁ、我が輩が自身の羽を縒り込んだ毛糸を作っていた訳は、そういう事よ。
古き血の友人達から『ピヨちゃん』だの、『自らやせ細っていっている血族』だの、揶揄されているが…我が輩とて、卑しくも翼の血族の現当主である。
我が輩の気配臭は、ドラウスほどではなくとも…かなり強いものなのだ。十分、タビコと対峙する同胞達への牽制となろう…そう思ったのだ。
「鴉の羽が、好きだと言っていたからな。デザインも、シンプルなものでよかろう。」
我々、数を数えるのが好きな吸血鬼達に、編み物が得意な者は多い。
鳥をルーツに持つ、我々翼の一族なら猶更だ。
それを身に着けた者を思い浮かべれば、なおさ…ゴホン!!何でもない。
愛用の編み針を動かすと、黒染めの羊毛に混ざった濡羽色が、キラキラと存在を主張する。
我が輩は夜目が利く故、部屋の明かりを消しておるが、日中ならば青や紫、白い羽毛が光に反射して、タビコの足元を彩ってくれよう。
「あ…。」
慌てて、折角編んでいた靴下を解く。
「ふう、危なかったわ。もう少しで、笑われる所であった。」
無意識に、靴下を編んでいたらしい。
靴下だと、具合が悪いのか…だと?
日本人的には、『下』『足で踏みつける』等、相手を貶める意味を込めて、靴下を贈るものらしい。
しかし、土足で生活する文化圏をルーツに持つ我々にとって、靴下を贈る事は、また別の意味を持っている。
靴下を見る事が出来る相手とは、寝食を共にする親しい間柄、床を共にしても構わない…そういう意味を持つのである。
思う存分、この奇行をやり尽くし、満足したその時こそ、タビコ次第で我が血族に迎え入れよう…そう思っているのは、我が輩の秘めたる本音だ。
しかし、それを伝えるのは、まだ早い。状況次第では、全てまたひっくり返る可能性がある…だから。
「靴下以外の何か…タビコの誕生日に間に合って、この糸で足りる何か…か。う~ん。」
カレンダーに目をやる。
もう11月だ。今から追加で、毛糸を縒る時間もない。
防寒に役立って、敵対する同胞達への牽制に成り得る、目立つ…何か。
「やはり、そうするか。靴下よりはマシだが…うむ。」
さりとて、これも…我が輩の本音を、打ち明ける事になってしまわないか?
「タビコ、出かけるのか?」
「あぁ、そうだ。ちょっと、ヴァミマにな。どうした、大鴉?」
いつも通りを装って、コートを羽織るタビコに声をかける。ヴァミマと言っておるが、長年共にいたのだ。察しはつく。
今宵もいつも通り、買い物ついでに同胞の靴下狩りを行うつもりなのだろう…自分の誕生日だというのに。
こやつは、去年もそうだった。そもそも、自分…というより、何に対しても関心を示さない。
そんなタビコに、関心を持たせたのが我が輩の靴下だったのだ。我ながら、業が深い事をしたもの…いや、されただけだが。
「丁度よいわ。手を出せ。」
「私の誕生日に何だ?プロポーズか?」
「キイ―!覚えておるではないか!だ、誰が、指輪なぞ!!」
何だ残念…と舌を出して見せる、小娘の両手を取る。それは、まだ早い。考えてない訳ではないが、まだまだ先の話だ。
「手袋だ。いつものが痛んでおったからな。」
「…。」
おとなしく出されたその手に、手袋を嵌めてやる。ただし、今回は仕事用の皮手袋でない…隠れて編んでいた我が輩の羽毛が混ざった手袋だ。
誕生日ぐらい危険に身を晒す事なく、おとなしく戻って来い…という意味を込めて。
そして、貴様が同胞に襲われても、守ってやるから安心せよ…という想いを込めて、嵌めてやる。
「サイズはどうだ?」
「あぁ、ピッタリだ。さすがだな。」
透き通る様な白い手が、我が輩の羽毛が混ざった黒の下に覆われていく。いつか血族に迎え入れたいと思っている番いに、相応しい形だと思う。それが妙な優越感を、我が輩にもたらしてくれ…
「…って、待て!また、貴様はそういう!」
「ウフ…綺麗だな。靴下ではないが、気に入ったぞ。気に入ったから、こうする。普通の事じゃないか。」
はずだったのだ。無邪気に濡れ羽色に光る手袋を光に翳したり、口元を覆っていたと思って見ておったのに。
「こら!やめよ!それは…。」
指を順繰りに一本、一本、口づけて…うっとりとした表情をしておった。何故だろう…まるで自分がされている様な気がして、直視出来なんだ。
「そ、それは、靴下では…。」
突っ込む所はそこではないと分かって、言わずにはおれぬ。その手袋は、本当は…
「そうだ、靴下ではないから、しゃぶってないぞ。そうだろう?大鴉?」
我が輩の羽毛を、織り込んだものだ。もし、分かって尚、指に口づけをしておるのであれば…
「じゃあ、いってくるぞ。」
そう言って、フラッと小娘は玄関へ足を向ける。少なからず、思っておるのであろうが…やはり、今宵も理解しがたい奇行を行うのであろうな。思わず、ため息をつく。
我が輩の諦めが、顔に出ておったのだろうか。キッチンに向かおうとする我が輩に、小娘は何でもない様にこう言った。
「そんな顔をするな。買い物だけだ。」
「そうか…。」
ホッとした顔を気取られたくなくて、背中を向けたまま、その言葉に応ずる。
「冷める前に、早く戻って来い。貴様の好きなものも、用意してある。」
「…ありがとう、ヴェントルー。」
その言葉に、思わず振り返る。いつも気怠げな小娘の顔は、幼子の様に無邪気な笑いを浮かべておった。
「今日ぐらいは、お前と静かに過ごすのもいいと思ってな。編み込まれた、その想いに免じて…今宵は、おとなしくしておいてやろう。」