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黒い羽の保護者

全体公開 ドラヒナ以外のお話 3 4889文字
2025-06-17 08:38:40

タビコさんの誕生日ネタで書いた、ヴェンタビのお話です。鶴の羽毛を織り込んだ鶴氅衣、孔雀の羽を拠った糸、水鳥の羽毛を織り込んだ着物など、案外存在するらしいと聞いて、思いつきました。とはいえ、実際カラスで出来るかは不明ですが(汗)
女性から手袋を贈る場合、「私を捕まえて」になるそうですね。他にも、愛情や「守りたい」の意図もあるそうで、この二人にはよく似合うかなとも、思います。あと、指先への口づけの意味は、「感謝」「称賛」だそうです。
彼女の誕生日に、自分の羽毛を織り込んだプレゼントを贈るヴェントルーのシーンを追加しました。
2024/11/11に上げました。

Posted by @kw42431393

 鶴の恩返しという話を、知っておろう?その昔話には、鶴の羽で織られた反物が出てくる。
 現実それが可能かというと、どうであろうな。鶴氅衣という、昔の高貴な者達が纏う防寒具があったというから、不可能ではないのだろう。
 そう思っただけ酔狂で始めたはずだったのだが。
 「やれやれ我ながら、何を思って。」 
 クジャクの羽を細かく裂いて、糸に縒り込む。水鳥の綿毛の部分を、織り込む事は可能だと聞く。
 鴉の羽はといえばどうも上手く縒る事は出来ぬ。結局、羊毛と混ぜて、縒りあげる事になったのだ。
 「もうよいか元々、小娘には恩どころか恨みしかないのだからな。」

  回転が止まったスピンドルには、光に反射して青や紫色に輝く黒い毛糸が巻きついていた。



 「何だ?そんなものを、気に入ったのか?」
 あれはいつだったかタビコが、我が輩が落とした羽を拾って、弄んでおった事があったのだ。
 靴下を奪われ、それを取り返しにきた同胞共をあしらった、その帰り道。
 たまたま、買い出しに来ていた我が輩と鉢合わせて、共にあの部屋に戻る帰り道一応、言っておくが、今回はつけていた訳ではない。たまたま、よ。
 黒い羽根の匂いを嗅いだり、頬を撫でてみたりその姿は、まるで頑是ない子供の様であった。

 「まあな。子供が、よくやるだろう?公園に行って、落ちていた羽をよく拾っては、遊んでいたものだ。」
 「フン。貴様にも、そんな頃があったとはな。そして、その幼子の成れの果てが、変態とは。嘆かわしいものよ。」
 皮肉に何も返してこないので、後ろからついて来ているはずの奴を確認する。
 「タビコ?」
 朧げな月明かりの中、うっすらと閉じた瞳、嬉し気に笑う口元。いつも見慣れた姿であるはずなのに
 「。」
 何故であろう。我が輩には、目の前の『変態女』ごしにその幼子の姿が、透けて見える様な心地がした。
 我が輩が知らなかった頃の、タビコ。我が輩と出会ってすぐに、今の姿に成り果ててしまった現実に、どうにもそれが存在していた気がしない。その姿も見てみたかったそんな思いが、過って頭を振る。
 「これ、舐めるでない!汚いわ!」
 「ん?アハハハ、お前も母と同じ事を言うのだな。」
 うっとりとした表情で、羽を口に含んでいた小娘また、油断した隙に変態に戻ってしまう。
 本当に、そこは何とかならぬものか。
 「誰だって言うに決まっておろう。幼い我が子が、拾った鴉の羽を舐めておれば、止めるに決まっている。」
 鴉といえば、天性の狩人でもあるが、死骸の掃除屋でもあり、近年は特に人間のゴミを漁ったりもする。
 知能の高さと太陽との関連から、信仰の対象とされ、反面、汚らわしい者と忌み嫌われてきた鳥でもある。
 実際、様々な病原菌を纏っておる事も珍しくない。母親が、止めるのも妥当であろう。
 「汚くは、ないだろう?この羽は、お前のものだ。」
 清々しいまでに、当然と言った顔に、思わず言葉を失う。我が輩を追い抜かした小娘を、ただ、目で追う事しか出来ぬ。
 「ここだ。昔、よく鴉の羽を拾ったっけ。」
 「。」
 跳ねる様に、タビコは公園に足を踏み入れる。
 裏地に大量の靴下を張り付けたコートが、翼の様にフワリと舞った。
 その姿は軽やかで、優雅で時々、本当は我が血族の者ではないか、と錯覚しそうになる。
 「鳩やスズメもおったであろう?何故、鴉なのだ?」
 奴に続いて、我が輩も公園に足を踏み入れる。そういえば、あまりここに来た事はなかった。
 シンヨコに来てから、自らの住まいとタビコの家、あるいは食料品店の往復ばかりであったから。
 「だって、綺麗じゃないか。光を当てるとただの黒い羽が、青になったり紫になったり、よく見ると白い羽毛が混ざっていたりしてな。まぁ、理由なんて特にない。好きになるのに、理由などいるまい?大鴉?」
 「貴様は、濡羽色がいや。」
 『好きになるのに、理由などいるまい』か。綺麗な色は、そのついでなのだろう。
 それは、我々吸血鬼にも当てはまるのであろうか。
 逆襲しにきた同胞から、さらに、靴下を奪って無事に帰って来たタビコを見る度、心の奥で湧き上がるこの感情は。
 その日の戦果報告を、我が輩の手料理を食べながら、嬉しそうに話す貴様を見る度、湧き上がってくるこの感情は。
 当初は、『靴下の場所を知っている人間だから』『屈辱を味あわせた憎い女だから』そう、繰り返し思う事にしていたはずなのだ。あの時までは

 『ヴェントルー

 あの日、我が輩が助けに来ると信じ切った顔で、ビルから飛び降りる貴様の笑顔を見るまでは。
 「ヴェントルー。」
 現実の小娘の声で、我に返る。
 顔を上げると、満足した様なタビコの顔があったまた、我が輩の羽を軽く齧ったりして遊んでおる。
 「だから、それはもう捨てよ。風呂は確かに入っておるが、あまりそうしてよい羽根ではないわ。」
 「そのつもりはない。昔ここで拾って集めていた羽も、母に捨てられたのだ。今回は、お前の羽だ。捨てたら許さんぞ?とっくに、これも『私』のモノだ。」
 『私のモノ』か。つくづく、こ奴は我々に近いのかもしれん。所有物に対する執着心は我々夜の者と引けを取らぬ。
 元々、靴下を取り返し、小娘の血を吸い尽くして、終わるはずだった関係だったものを。
 「。」
 吸い尽くせるだろうか、それよりも
 「どうした?ヴェントルー?」
 小娘が思う存分、この奇行をやり尽くし、満足したその時こそ

 「見つけたぞ!人間靴下コレクション!!私の靴下をゲッ!?貴様が噂の、ヒモ吸血鬼だな?道理で、この女から、貴様の気配がすると。」
 「キイィィ!!誰が、ヒモだ!?誰が!!」
 「最近はヒモというより、保護者かな?」

 その前に、タビコの安全を確保する方が先であろうか



 「あれから、糸が出来るまで結構かかってしまった。ここからは、得意分野だがな。」
 まぁ、我が輩が自身の羽を縒り込んだ毛糸を作っていた訳は、そういう事よ。
 古き血の友人達から『ピヨちゃん』だの、『自らやせ細っていっている血族』だの、揶揄されているが我が輩とて、卑しくも翼の血族の現当主である。
 我が輩の気配臭は、ドラウスほどではなくともかなり強いものなのだ。十分、タビコと対峙する同胞達への牽制となろうそう思ったのだ。
 「鴉の羽が、好きだと言っていたからな。デザインも、シンプルなものでよかろう。」
 我々、数を数えるのが好きな吸血鬼達に、編み物が得意な者は多い。
 鳥をルーツに持つ、我々翼の一族なら猶更だ。
 それを身に着けた者を思い浮かべれば、なおさゴホン!!何でもない。
 愛用の編み針を動かすと、黒染めの羊毛に混ざった濡羽色が、キラキラと存在を主張する。
 我が輩は夜目が利く故、部屋の明かりを消しておるが、日中ならば青や紫、白い羽毛が光に反射して、タビコの足元を彩ってくれよう。

 「あ。」
 慌てて、折角編んでいた靴下を解く。
 「ふう、危なかったわ。もう少しで、笑われる所であった。」
 無意識に、靴下を編んでいたらしい。
 靴下だと、具合が悪いのかだと?
 日本人的には、『下』『足で踏みつける』等、相手を貶める意味を込めて、靴下を贈るものらしい。
 しかし、土足で生活する文化圏をルーツに持つ我々にとって、靴下を贈る事は、また別の意味を持っている。
 靴下を見る事が出来る相手とは、寝食を共にする親しい間柄、床を共にしても構わないそういう意味を持つのである。

 思う存分、この奇行をやり尽くし、満足したその時こそ、タビコ次第で我が血族に迎え入れようそう思っているのは、我が輩の秘めたる本音だ。
 しかし、それを伝えるのは、まだ早い。状況次第では、全てまたひっくり返る可能性があるだから。
 「靴下以外の何かタビコの誕生日に間に合って、この糸で足りる何かか。う~ん。」

 カレンダーに目をやる。
 もう11月だ。今から追加で、毛糸を縒る時間もない。
 防寒に役立って、敵対する同胞達への牽制に成り得る、目立つ何か。
 「やはり、そうするか。靴下よりはマシだがうむ。」
 さりとて、これも我が輩の本音を、打ち明ける事になってしまわないか?

 



 「タビコ、出かけるのか?」
 「あぁ、そうだ。ちょっと、ヴァミマにな。どうした、大鴉?」
 
 いつも通りを装って、コートを羽織るタビコに声をかける。ヴァミマと言っておるが、長年共にいたのだ。察しはつく。
 今宵もいつも通り、買い物ついでに同胞の靴下狩りを行うつもりなのだろう自分の誕生日だというのに。
 こやつは、去年もそうだった。そもそも、自分というより、何に対しても関心を示さない。
 そんなタビコに、関心を持たせたのが我が輩の靴下だったのだ。我ながら、業が深い事をしたものいや、されただけだが。
 「丁度よいわ。手を出せ。」
 「私の誕生日に何だ?プロポーズか?」
 「キイ!覚えておるではないか!だ、誰が、指輪なぞ!!」
 何だ残念と舌を出して見せる、小娘の両手を取る。それは、まだ早い。考えてない訳ではないが、まだまだ先の話だ。
 「手袋だ。いつものが痛んでおったからな。」
 「。」
 おとなしく出されたその手に、手袋を嵌めてやる。ただし、今回は仕事用の皮手袋でない隠れて編んでいた我が輩の羽毛が混ざった手袋だ。
 誕生日ぐらい危険に身を晒す事なく、おとなしく戻って来いという意味を込めて。
 そして、貴様が同胞に襲われても、守ってやるから安心せよという想いを込めて、嵌めてやる。

 「サイズはどうだ?」
 「あぁ、ピッタリだ。さすがだな。」
 透き通る様な白い手が、我が輩の羽毛が混ざった黒の下に覆われていく。いつか血族に迎え入れたいと思っている番いに、相応しい形だと思う。それが妙な優越感を、我が輩にもたらしてくれ
 「って、待て!また、貴様はそういう!」
 「ウフ綺麗だな。靴下ではないが、気に入ったぞ。気に入ったから、こうする。普通の事じゃないか。」
 はずだったのだ。無邪気に濡れ羽色に光る手袋を光に翳したり、口元を覆っていたと思って見ておったのに。
 「こら!やめよ!それは。」
 指を順繰りに一本、一本、口づけてうっとりとした表情をしておった。何故だろうまるで自分がされている様な気がして、直視出来なんだ。
 「そ、それは、靴下では。」
 突っ込む所はそこではないと分かって、言わずにはおれぬ。その手袋は、本当は
 「そうだ、靴下ではないから、しゃぶってないぞ。そうだろう?大鴉?」
 我が輩の羽毛を、織り込んだものだ。もし、分かって尚、指に口づけをしておるのであれば

 「じゃあ、いってくるぞ。」
 そう言って、フラッと小娘は玄関へ足を向ける。少なからず、思っておるのであろうがやはり、今宵も理解しがたい奇行を行うのであろうな。思わず、ため息をつく。
 我が輩の諦めが、顔に出ておったのだろうか。キッチンに向かおうとする我が輩に、小娘は何でもない様にこう言った。
 「そんな顔をするな。買い物だけだ。」
 「そうか。」
 ホッとした顔を気取られたくなくて、背中を向けたまま、その言葉に応ずる。
 「冷める前に、早く戻って来い。貴様の好きなものも、用意してある。」
 「ありがとう、ヴェントルー。」
 その言葉に、思わず振り返る。いつも気怠げな小娘の顔は、幼子の様に無邪気な笑いを浮かべておった。

 「今日ぐらいは、お前と静かに過ごすのもいいと思ってな。編み込まれた、その想いに免じて今宵は、おとなしくしておいてやろう。」
 
 
 


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