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いつもの味

全体公開 藍黄色COIN 1 15 2174文字
2025-06-17 08:51:39

まえながさんへのお誕生日🎁ssで、甘々な🌸☕です。事後の朝に二人でコーヒーを飲んでます。
ネタバレは特にありません。

いつもの味

 緩やかに意識が浮上する。心地良い疲労感を残した身体は重く、腰の奥にまだ甘い痺れの余韻を燻らせていた。
 素肌にシーツを巻き付けて、重い目蓋をまだ開けたくないと抵抗を試みる。そんな聖の耳に、ドアを開ける控えめな音が届いた。
 足音が近づいてくる。ふわりと、鼻腔を香ばしい匂いが擽った。その嗅ぎなれた好きな香りに誘われるように、ゆっくりと目を開ける。
 寝ぼけ眼に映ったのは、両手に色違いのマグカップを持った櫻の姿だった。ズボンにシャツというラフな格好ではあるが、裸のままシーツに包まっている聖と違いちゃんと服を着ている。
 櫻は聖の目が開いているのに気付き、口元に小さく笑みを浮かべた。
「おはようございます」
「ん……おはよう、りっちゃん」
 おはようと言ったからには起きなければと、気怠い身体を手で支えながらベッドの上に身を起こす。緩く巻き付けたシーツの合間から覗く肌には、桜よりも濃い色の花弁がいくつか散っていた。
 伸びをして時計を見れば、少し遅いがまだ朝と呼べる時間ではある。欠伸をして目尻に涙を浮かべる聖の前に、櫻がカップを差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
 受け取ったカップからは、温かな湯気が立ち上っている。火傷をしないようにゆっくりと口を付ければ、コーヒーの豊かな風味と香りが広がった。
 ふぅ、と満足げな息を吐いた聖が、醒めてきた目で櫻に微笑みかける。
「美味しいよ。りっちゃん、コーヒー淹れるの上手くなったね」
 自分もコーヒーを飲んでいた櫻は、少し照れたように頬を染めた。
「もう何度も使ってますから、この家のコーヒーマシンにも慣れました」
 基本的に、コーヒーはこだわりのある聖が淹れることが多い。家にあるコーヒーマシンは少しお高い物で、操作方法にもやや癖があった。
 そんな聖の家で櫻がコーヒーを淹れるのは、共に一夜を過ごした朝だ。最初は薄かったり濃かったりと微妙な出来で、聖は喜びながらも苦笑し、櫻は落ち込んでいた。しかし、最近はそんなことも無くなり、こうして美味しいコーヒーを飲めている。
 つまり、それだけの夜と朝を一緒に過ごしてきたのだ。
「りっちゃんの彼氏力に、心さん惚れ直しちゃいそう」
 胸を満たす温かくも擽ったい気持ちを素直に言葉にできず、聖は茶化した口調で笑う。そんな聖をじろりと見て、櫻は「コーヒーくらいで大げさです」と赤くなる頬を誤魔化すようにカップを傾けた。
 聖も冷めないうちにと、適温になったコーヒーを啜る。自分で淹れた時と同じ味だ。聖好みのコーヒーを淹れられるようになった恋人を、湯気越しに見つめる。

「好きだなぁ……

 途端に目を見開いて聖をまじまじと見つめてくる櫻の反応を見て、心の中の言葉が実際に零れ落ちていたことに気が付く。
 急激に顔が熱くなってきて、聖は何とか誤魔化そうと口を動かした。
「いやぁ、やっぱりセックスした翌朝のコーヒーって最高だよね。満たされてる~って感じでさ」
「何言って……はぁ、もういいです」
 セックスなどの明け透けな言い回しを苦手とする櫻は苦言を呈しかけて、諦めたように溜息を吐いた。少し残念そうに見えるその顔に罪悪感を覚えるが、三十路の男が今更好きだのなんだの言ってしまうのはどうにも恥ずかしい。
 だから、言葉で渡せない分は行動で示すことにする。
「りっちゃん」
 ちょいちょいと手招きをすれば、小首を傾げた櫻が顔を寄せてくる。その頬に、聖は素早く口付けた。
 チュッというわざとらしいリップ音が響き、櫻の方がびくりと跳ねる。
「なっ!?」
「ふふっ、コーヒーは淹れ慣れても、キスには慣れないりっちゃんって可愛いね?」
 口付けなど数えきれないほど躱してきたのに、未だに不意打ちに良い反応を返す櫻の胸を指先で突く。
 キスされた頬を手で押さえていた櫻は、赤い顔で身体を震わせながら残っていたコーヒーを一気に飲み干した。タンッと音を立てて近くの棚の上にカップを置くと、ベッドに乗り上げて聖のカップを奪い取る。
「あ~あ、俺まだ飲んでる途中なんだけど?」
 回収されたそれが櫻のカップの隣に置かれるのを目で追い、ほんの少しだけ本心な抗議をする。
「また淹れ直してあげますよ」
 そう言って、櫻は聖の肩に手を置いて押し倒した。ベッドの軋む音がする。
 天井を背にした櫻の顔は赤くて可愛らしいが、その目には雄の欲が宿っていた。見下ろされた聖の背を、ぞくりとしたものが走る。腰の奥で燻っていた昨夜の名残火が、再び熱を持ち始めるのを感じた。
「じゃあ、とびきりの一杯をよろしくね」
 ちろりと舌を覗かせて所望する聖を見下ろし、櫻は「ええ、もちろん」と顔を寄せる。
 唇が触れ合い、舌が絡まり合う。深い口付けは、いつものコーヒーの味がした。しかしそれも、徐々に互いの味に塗り替えられていく。
 深まる口付けに酔いしれる二人を、並んだカップが見つめていた。


(あとがき)
 まえながさん、お誕生日おめでとうございます🎉 ということで、🌸☕を書きました。甘い一夜を過ごした二人の朝の一杯、そして延長戦へ――甘々で幸せな二人でございます💕
 まえながさんのみお持ち帰り自由でございます。よければお納めくださいませ~☺


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