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扱いの難しいものたち

全体公開 トワスト 2 2 2099文字
2025-06-22 15:59:45

第40回トワスト、テーマ「揺らぐ信頼」作品です。制作時間約50分。いつもの世界観で、ジェフがメインのお話です。

 久し振りに来たこちらの世界は、以前とは随分と変わっている。

 それが、ジェフの率直な感想であった。

 そびえ立つビル群、道を行き交う自動車。そして、日常で扱わなくてはならない様々なことを成す便利な機械たち――変化のほとんど無い魔界の感覚でいると、すぐに置いていかれそうになる。

 人間は皆、これらのものを難なく扱っている。それを思うと、その刹那の生の中でどれほどに高度なことを成し得ているのかと、ジェフはただただ感銘を受けるしか無かった。魔族はもしかして、ただ無駄に長い生を享受しているだけなのではないかと。

「今日もまた、一日が始まるか……

 身支度を終えて、低い机の上に放り出してあったスマートフォンを手に取りながら、ジェフは小さくため息をついた。




 仕事――清遊堂せいゆうどうの経営には、そこまでの苦労はしなかった。淡々とこなし、そして慣れていったから。

 だが、それ以外のことと言うと――

「清遊堂さん。悪いけど、今度の会議の資料作成をお願い出来るか?」

……分かりました」

 断ってばかりだと角が立つ。ジェフは隣の文房具店の店主の頼みを引き受けた。

 資料と言うと確か、三番街の近況報告だったか――ジェフは自室からノートパソコンを持ってくると、立ち上げる。普通に立ち上げたのだが――ノートパソコンの挙動は、いつもと異なった。

 音が、鳴らない。起動したときの音が、全く無い。

 どういう、ことだ――

 ジェフはボリュームを確認した。変えた覚えの無いそこにはやはり、変化が無い。

 また妙なことになったか――時間を確認すると、もうすぐ日が落ちるかという時刻だ。この手の道具の扱いに慣れている同族、長い付き合いの相手であるランフォードは、まだ会社の業務中だろう。

 仕方ない、連絡を入れておくか――仕事机の上に無造作に置いてあったスマートフォンを取ると、ぎこちなく操作する。タップだとかフリックだとかややこしい――やっとのことでランフォードにメッセージを送ると、今度はスマートフォンの方も動作がおかしくなってきた。どういうことだ。一体何が起こっているのか少し調べてみたが、徒労に終わった。

 仕方ない。ランフォードが来てくれるのを待つか――

 仕事帰りに面倒事を頼むのだ、クッキーでも焼いておいてやるか。

 ジェフは店を使い魔に見張らせると、キッチンのある二階へと向かった。




「遅くなって悪かったね、ジェフ」

「いや。――面倒事を頼んで悪いな、ラン」

 いいんだよ、と微笑んだランフォードはノートパソコンをチェックする。

――ああ、ここだね。ここを直せば大丈夫だよ」

 ランフォードはいともあっさりとノートパソコンの不具合を直してくれた。元通り全ての音が、鳴っている。

――お前はよくわかるな、ラン」

「そうでもないよ。私の方が君よりこの時代に慣れている。それだけのことだよ。パソコンは慣れれば、便利なものだからね」

 機械たちを信頼すればいいんだよ、とランフォードは笑う。――信頼、か。ランはまたなかなか難しいことを言う。

「こっちの不具合も見てくれ。お前にメッセージを送ってから具合がおかしい」

「スマートフォンかね? これはね。ちょっとおかしいなって思ったら大抵再起動すれば直るよ。やってみてはどうだね?」

 ランフォードに言われて、ジェフはスマートフォンを再起動する。するとどうだ、本当に不具合が解消しているではないか。

――どういう、ことだ……?」

「どういうことと言われてもねえ。こんなものだよ。困ったら再起動。そう覚えておいたらいいよ」

 事も無げにそう言うと、ランフォードはジェフの焼いたクッキーを口に頬張りはじめた。それはそれは、幸せそうに。

「他に質問はあるかね? 私のわかる範囲でなら、何でも答えるよ」

「今は大丈夫そうだ。また困ったら直してくれ」

 ふたりはそれからしばし、紅茶とクッキーを前に話し込んだのであった。
 



 ――それから、数日後。

「まただ! またおかしいぞ、これは!」

 ジェフはスマートフォンを置きながらため息をついた。困ったときには再起動――ランフォードに言われた通りにやってみたが、直らない。

「どういうことだ。今までこんな画面にはならなかったぞ?」

 また、ランフォードを呼ぶしかないか――ジェフはメッセージをランフォードに送信する。仕事帰りに寄って、スマートフォンを見てくれと。

「こっちは変換がおかしくなったまま戻らなくなったぞ……

 ノートパソコンの方も妙な具合だ。変換がおかしいのだ。少し前までは普通に入力出来ていたのに。

 ――機械を信頼しろ、とランフォードは言っていた。だが、この調子でどうやって信頼すれば良いのだろう……

 慣れれば便利と言われても。これらは文明の利器だと、頭では知っていても。

 異常が簡単に起こるたび、ジェフはそれに関しての信頼は、揺らぐばかりだったのである。


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@Marumeroke
正直、このテーマだとものすごくシリアスな話が来てしまう…!?!?と身構えていたので、すごくほっこりする話で心が和みました…!
目覚まし時計の時も思いましたが、機械となかなか仲良くなれないジェフさんとてもかわいい…人間界の機械は、魔法でどうにかならない分ややこしいかもしれんですね…。これはなかなか信頼できそうもないです…笑
慣れた人間ですら機械はたまに意味不明なエラーを出してくるので、ほんと難しいですよねε-(´∀`; )
2025-06-23 23:27:51
@xxxyueyunxxx
≫Marumeroke 何とか物凄くシリアスな話を避けようと思ったら(こういうテーマから想起されるシリアスな話は出来たらじっくり書きたいと)こんなほっこりというか、少々コメディのような話になりましたw
ジェフは何故か機械となかなか仲良くなれません。魔法は最強でも、機械はどうにもならないそうです。そんな彼が可愛かったなら良かったです(*^^*ゞ
慣れてる人間でも意味不明なエラー吐きますよね、機械って。私もしょっちゅう「何が起こった⁉」ってなってますw
2025-06-24 01:06:54

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