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ほしいもの

全体公開 神無三十一受け 4 7 2526文字
2025-06-22 18:15:16

カルみと 物欲の話
シナリオネタバレあり

 

 「神無ちゃんってあんまり物欲ないよね」

 隣を歩く縞斑の言葉に顔を上げた神無は、手に持ったクレープをあむりと一口齧りながら怪訝な表情を浮かべた。

 「……それ今言う?」

 縞斑の手には、神無が先ほどまで抱えていたいくつかの紙袋が下げられている。
 クレープを食べ終わるまで汚さないように持っていてほしいと頼んだその中には、どれも甘いスイーツたちが収まっていた。
 紙袋たちの半分ほど神無が買ったものだが、クレープや残りの半分は縞斑が今まさに奢ってくれたものだ。
 そんな買い物を終えた帰り道にはあまりに不適切な話題に首を捻る神無の一方、縞斑はへらりと笑って紙袋を軽く持ち上げて見せる。

 「いやぁ……これはなんかもう、神無ちゃんにとって普通の食欲みたいなものでしょ」
 「それはそう」
 「ほら、君ってこうして出掛けても「あれ食べたい」ってねだるくらいで、あんまり高価なものを買って欲しいって言わないじゃない?」

 言われた神無は考えながらもぐもぐとクレープを食べ終えると、鞄から取り出したウェットティッシュで両手と唇を丁寧に拭う。
 そうして律儀に縞斑に預けた荷物を受け取った彼は、道を歩きながら呑気に口を開いた。

 「うーん……たしかにあんまり高い時計とか財布とかにこだわりないかも」
 「服とかないの?よく同じブランド着てるよね」
 「贔屓にしてるとこはあるけど、休みほとんどないから買っても着る機会あんまないしなー」

 一年目とはいえ公安局所属の神無の給料は相当なものだが、その使い道はもっぱらスイーツとなっている。
 気に入っているブランドの服は時々チェックしているけれど、買ったところで仕事に追われてそのシーズン中に一、二回しか着ることができないままクローゼットにしまうこともあるため頻度は少ない。
 高級な時計や財布や自動車にはあまり興味のない神無は、確かに物品という点において人より欲が薄かった。

 「昔はわがまま言ったら捨てられるって思ってたし……あ、もちろんパパはそんなことしないんだけどね?!」
 「分かってるよ、大丈夫」

 両親を事件で失って黒田矢代の元へ養子として迎え入れられた神無は、彼の命を狙う追っ手から逃れるために黒田という氏を名乗ることができなかった。
 事件のことを詳しく知らなかった幼い頃は、黒田がいつでも自分を捨てることができるようにだと怯えたものだ。
 けれど、黒田と時間を共に過ごし、彼から与えられる愛情に触れるうちにその考えも馬鹿らしいと蹴飛ばせるようになったのである。

 「元々パパは俺が学校で孤立しないように、流行のものは一通り買ってくれたんだよね。ゲーム機とか本とか」
 「あー……まぁ、そうだろうな」

 学校という組織において、異質な存在は爪弾きにされがちだ。ただでさえ養子という特殊な立場にある神無が、流行や話題に行き遅れて友人を作るタイミングを見失うことを黒田は心配したのだろう。
 彼は、神無がねだる前から流行りのゲーム機や本、タブレットなどを頻繁に買い与えてくれた。
 そんな環境で暮らしていたことも相まって、神無はひとより物欲という欲求が育っていないのだろう。

 「それに、先輩のお財布事情が心配だからねー」
 「これでもお金には困ってないんだけど」
 「ほんとにそれ綺麗なお金なの?」
 「そりゃあもう、ちゃんとマナーロンダリングしましたから」
 「だめじゃん!?」

 冗談のつもりで口にした第二の理由だったが、さらりと意外な方向にまで犯罪行為を働いていることを告白した縞斑を前に、神無は思わず本日買ってもらったお菓子たちを見下ろす。
 まさかこのお菓子たちも、ロンダリングによって洗浄された資金で購入した物なのでは。そう不安げな表情を浮かべる神無の肩を叩いた縞斑は、くつくつとおかしそうに喉で笑うと道を歩き出した。

 「まぁそれは半分くらい冗談で」
 「半分……
 「さすがに、恋人の贈り物を買うお金に不当なものはあてないかな。全部刑事の頃の貯蓄だよ」
 「……ふぅん?」

 縞斑がまだ公安局で刑事として働いていた頃、最初こそそれなりに趣味を持って過ごしていた記憶があるが、白瀬兄妹が失踪してからは何もせずにぼんやりと過ごす休日ばかりだった。
 おかげで貯蓄には随分余裕があり、スパローの運営費とは別でプライベートの縞斑が利用する資金として消費しているのだ。
 そんな縞斑の話を半信半疑で聞いていた神無は、ふと街のショーウィンドウへ視線を移しながら口を開いた。

 「買ってほしいものは今のところないけど……俺も頑張ってお金貯めるからさ、いつかお揃いのプレゼント贈り合いたいんだよね」
 「お揃い……指輪ってこと?」
 「んー……確かに憧れるけど、刀持つときに傷つけちゃったらやだなぁ」
 
 戦闘時は皮手袋を身に付けている縞斑の一方、神無は自身の得物を素手で握って行動している。
 恋人と指輪を揃いで身につけることに憧れのある神無だが、職業柄ふとした拍子に傷をつけてしまうかもしれないと思うと現実的な贈り物ではない。
 何が欲しいという具体的な案は無く、ただ自分と同じものを縞斑が持っているという安心を得たいのだろう。考える神無の楽しげな横顔を眺めていた縞斑は、神無の手をとって小さく笑った。

 「それじゃあ、次の休暇は下見にいこうか」
 「いいの?」
 「何買うかくらいの目星はつけておいたほうがいいでしょ?」

 縞斑の言葉を聞いた神無は、ぱっと花が咲いたように笑う。

 「うんっ!楽しみ!何がいいかな?」
 「アクセサリーは無くしそうだし……ペンとか日常品の延長?」
 「えー、でも先輩ぜったいペンなくすだろ。身につけるものがいいって」
 「無いと言い切れないのが悔しいところだなぁ」

 賑やかに話し合う彼らは繋いだ手を握りあうと、重なったひとつの影を踏んで歩き出した。

 後日、過去の世界で出迎えた刑事たちが神無の耳に揺れるカフスを見つけて、大いに喜び、揶揄い、若干一名が空の巣症候群に陥ることになるらしい。

 


 


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