🐱になっちゃった🐸さんと☕さんを見守る刑事探索者なssです。CPはないけど🐱な二人が仲良し。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
可愛いは正義
刑事たちが集う宿舎の一階部分には、広いリビングがある。会議やパーティーに使われるリビングは片側の壁がガラス戸になっており、日中はとても日当たりが良かった。今日も日光がガラス戸から射し込み、フローリングやカーペットを明るく照らしている。
その陽だまりの中に、丸い毛玉が転がっていた。黒とクリーム色の二色が、まるで太極図のように一塊になっている。日射しにふわふわとした輪郭を浮かび上がらせているその毛玉の真ん中あたりは、ゆっくりと上下に動いていた。
宿舎の前をバイクが通り過ぎるエンジン音が響くと、その毛玉からぴんと三角の耳が立ち上がった。内側がピンクのそれはやはり黒とクリーム色が一つずつで、それぞれぴくぴくと動いて音の方を向いている。
黒い毛玉がもぞりと丸い形を崩し、頭を持ち上げた。下敷きになっていたもう片方の耳も立ち、目蓋の向こうから金色の目が現れる。
日の射し込むガラス戸を見つめるその瞳孔は細く絞られ、緊張を表すように長い尾がするりと伸びた。
凛々しい黒猫は遠ざかって行くエンジン音が聞こえなくなっても、しばらくの間じっと窓の外を見つめていた。しばらくしてようやく警戒を緩めると、一つ大きな欠伸をする。
「にゃあ」
そんな黒猫を労うように、クリーム色の猫が青灰の目を開けて一声鳴いた。寝そべったままぐーっと四肢や首を伸ばすと、ついでとばかりに黒い毛並みを舐める。
「んぅ~」
黒猫は低い声で喉を鳴らし、少しの間クリーム色の猫にされるがまま片目を細めていた。やがてクリーム色の猫が自身の前足を毛繕いし始めると、お返しとばかりにその頭を舐める。
そうやって互いを毛繕いし合った二匹は、また身を寄せ合って丸くなった。
再びすやすやと眠り始めた二匹の猫を、陽光が温かく照らしている。何と平和で心温まる光景であろうか。
「近寄りさえしなければ、な?」
顔や腕に大量のひっかき傷をこさえたアキラが、サングラス越しに遠い目をして呟いた。
「うん……」
頷いて同意を示した神無はどこか名残惜しそうな目をしているが、リビングを望むダイニングテーブルから立ち上がる気配はない。その顔や腕には、アキラと同じく生々しいひっかき傷が見て取れた。
手元の端末が震え、同じくぼろぼろの広大が疲れた声で言う。
「れんれんから、『まだ戻らないんですか?』だってさ」
「それは俺たちが聞きたい」
溜息を吐いてゆっくりと首を振るアキラの隣で、神無が心配そうに呟く。
「帰代先輩と聖先輩、ちゃんと人間に戻るよな?」
そう、大暴れしてアキラたちを傷だらけにした後、今はリビングで穏やかに眠っているあの二匹の猫こそ、帰代と聖なのだ。
宿舎の刑事たちに割り振られるのはその多くが特殊な事件である。今回も例に漏れず、人知の及ばぬ力が加わった事件の解決中、帰代と聖は謎の呪文により猫になってしまった。しかも、どうやら人間としての記憶はなく、猫としての本能に従って行動しているのだ。
結果として、猫になった二人を保護した刑事たちは、警戒心の強い二匹によって手酷い抵抗を受けることとなった。とはいえ、いくら引っかかれようが噛まれようが、このままの状態で宿舎の外に逃がすわけにはいかない。何故なら、二人が二匹にされたその場には衣服がそのまま残されていたのだから。
幸い呪文の効果は長続きしないとのことなので、待っていれば人間に戻れるらしい。つまり、二匹を逃がしてしまうと街中に全裸の成人男性公安刑事が出現することになってしまうのだ。警察は勿論、本人たちにとっても社会的、精神的なダメージが大きすぎる。
潔癖症の廉士は即座に自室に撤退し引き籠り、力加減を間違って大惨事を招きかねない的中は糸冬と鈴風の手で見回りに連れ出された。巻は猫状態が長引いた時用にと、猫用品の買い出しに行っている。
「呪文の解読結果に間違いが無ければ、長くとも数日中には戻るはずだ」
本国の凄腕ハッカーであるコリーにも応援を要請し、二人に掛けられた呪文についての解読は終わっている。アキラは仲間から送られてきたその結果を信じているので、心配はしていない。
しかし、この状態が何日も続くのは、正直勘弁してほしいところだ。
「……砂埃とか俺たちの血とかついてるし、本当は洗った方がいいよね~?」
広大の言葉はもっともだが、三人は一瞬見つめ合ってから同時に首を横に振った。
抱き上げて宿舎に連れてくるだけであの暴れようだったのだ。風呂に入れて洗うとなれば、それ以上の流血沙汰になることは目に見えている。
「可愛いのに……」
神無の呟きに、アキラと広大も内心同意する。
金目の黒猫になった帰代も、青灰色の目をしたクリーム色の猫になった聖も、見た目はとても可愛らしい猫なのだ。今は少し汚れている毛並みだって、洗ってブラッシングをすればつやつやふわふわになるはずだ。
本音を言えば、撫でたり抱っこしたりしたい。中身が帰代と聖であることを考えれば複雑な気分だが、人間の意識というものはどうしても見た目に左右されてしまうものだ。案外、そんな邪な気持ちが伝わるからこそ、二匹は全力で抵抗したのかもしれない。
警戒心の塊と化した二匹はしかし、互いに対しては守るべき仲間と認識しているようだ。片方に手を伸ばせば二匹とも「シャーッ」と毛を逆立て、逃げるときは同じ方向へ走って行った。今も身を寄せ合って眠り、さっきのように毛繕いをし合って過ごしている。
帰代と聖は宿舎に来る前から知り合い同士だったと聞いていた。人間の時の記憶はなくとも、気の置けない相手だという感覚は残っているのかもしれない。それなら他の刑事たちにも警戒を解いて欲しいのだが、やはり猫と人間という種族の壁が大きいのだろう。
ぐにゃりと身を捩ったクリーム猫の聖が、両前足で耳ごと頭を掻く。振動が伝わるからか、黒猫の帰代が少し煩わしそうに長い尾でたん、たん、とカーペットを叩いた。
「「「可愛いのに」」」
呟きを重ねながら、三人は溜息を吐く。
神無が徐にサングラス型の端末に触れ、ピッと何か操作した。
「何してるんだ?」
「最大ズームして録画してる」
「わ~本人たちには見せられないやつだ~」
そこらのスマホなどより余程高画質な映像を可能とする神無の端末に、可愛らしい二匹の姿が記録される。
「後で他の連中と見ようぜ」
「そのくらいは許されるよね~?」
憂さ晴らしと癒しを兼ねて企むアキラと広大の間で、神無は自分の声が入らないよう黙って録画を続ける。
ダイニングテーブルから遠く離れたリビングの床で、二匹の猫が互いの額を擦り付けて「にゃう~」と鳴いた。
二人が猫の時の記憶を一切持たずに人間に戻ったのは、翌日の昼過ぎであったという。
(あとがき)
きじにゃんもひじにゃんも可愛すぎたので、何か書きたくなりました。二人とも公安らしく気を許すには時間がかかるタイプだと思うので、意識まで完全に猫だとものすごく警戒心が強いだろうな~と妄想しました🐱
🎃さんの手元に残された永久保存版の映像に、二人が気付く日は果たしてくるのか? 来ない方が色々平和だと思いますw