X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

燭鶴「お腹」

全体公開 10 8045文字
2025-06-26 22:45:25

「手のひらに触れる身体が脈打って消化していく呪いを愛を」という友人の短歌に触発されて書きました。
少し考えすぎるところのある光忠くんと、あっけらかんとしていて愛が大きい鶴さんの話です。お臍にキスしたりしています。光忠くんが鶴さんのお腹を愛でていたらかわいいな〜と思って書き始めて最終的にこねくり回しました。

Posted by @724_ao

 光忠が部屋に戻ると、同室の鶴丸が寝間着の浴衣を大いにはだけさせた状態で部屋の真ん中に大の字に横になっていた。彼の状態としては、腕が浴衣の袖に通っているだけで、裸の上半身と身につけている下着が惜しげもなくあらわになっている、というところである。

 鶴丸は光忠の恋人で、下着も素肌も何度でも見ている仲だからそれを見たところで特別な驚きや動揺はないけれど(もちろん、愛しさはあるし、「そういう」ときに見るならば欲求を刺激されることもある)、こうもさらけ出されていると何も言及しないというわけにもいかないだろう。

「こら、鶴さん、そんな格好してたらお腹冷えるよ」
「おぉ、光坊じゃないか。きみの言うことはもっともだが、もうしばらくのあいだこうさせておいてくれ。湯上がりなんだ。暑くてたまらん。どっちのほうが長く湯に浸かっていられるか愛染と勝負をしていたんだが、あいつ、小さな身体でなかなか粘ってな。おかげでのぼせた」

 そのせいでとにかく暑いから、浴衣なんてきちんと着ていられないのだ、身体を冷やしているのだ、これは正当な行為なのだ、と鶴丸は主張した。短刀と長湯の勝負とは、彼らしい無邪気さである。

「お風呂で我慢比べをするのはいいけど、ちゃんと水分補給しなきゃだよ?」
「まったく同じことを蛍丸にも言われたぜ。ま、上がったあと愛染と二人で茶をたらふく飲んだから問題ないだろう」

 そう言って鶴丸は横になったまま胸を張っている。こうしてみれば彼の白い素肌は確かにいつもよりも血色が良く、淡く桃色が差していて、彼の言うとおり熱を持っているようだった。
 光忠は特に理由なく鶴丸のそばに近づいていってすぐ隣に腰を下ろした。
 いや、よく考えれば恋人のすぐそばに腰を据えることに、特別な理由なんていらないはずだ。そういう距離感の仲というだけで。
 鶴丸はよほど湯当たりしたらしく、彼の表情は少ししどけなくて、ぽやっとしている。火照っているのだろう。

「きみはまだ風呂はいいのかい?」
「うん、これから入りに行こうと思ってたんだけど、部屋に鶴さんがいたから、鶴さんをちょっと補給してから行くよ」
「はは、存分に補給するといい。湯上がりのいい匂いの鶴さんだぞ」
「ふふ、いい匂いだし、ほかほかしてるね」
 そうだろう、と彼は得意げに口角を上げて、ゆっくり瞬きをしている。長湯でちょっと疲れたのかもしれない。

 ほかほか、と光忠が表現したように鶴丸のそばで感じる気配はいつもよりもあたたかい。そのぬくもりに触れたいな、と思って光忠は右手の手袋を外すと、彼のさらけ出されている腹の上にそっと手のひらを載せた。
 暑くて汗ばんでいるのか、それとも湯に浸かっていた名残なのか、鶴丸の肌はしっとりとしている。そしてとてもあたたかかい。

 鶴丸は腹に載せられた手のひらを一瞥してから、こちらを見上げて、どうした?とのんびりと訊いた。
「ううん、なんでもない。なんとなくあったかそうだなって思ったら、触りたくなって」
「光坊の手のひらもあたたかいぜ。それに、そうだな……、そうやって触られているとよく分からんが、落ち着く気がする」
「そう?じゃあ、しばらくこうやって鶴さんをチャージしてようかな」
 鶴丸は光忠の言葉を聞いて微笑んで、ゆるやかに目を閉じた。落ち着くからなのか、少し休憩することにしたみたいだ。

 光忠は腹に載せた手のひらから彼の体温を感じたり、ときどき肌を撫でたりした。鶴丸の肌はしっとりしているのに、手触りとしてはすべすべしていて、撫でると心地よい。
 それにしても薄い腹だ、と思う。
 この腹の中にちゃんと内蔵が入っているのか、疑いたくなるくらいだ。そんな印象の割にこの人は大食いで、それゆえにそうやってたくさん食べたものや内蔵が、ちゃんと入っていることが信じられない。

 信じられないといえば、ときにこの薄い腹は光忠を受け入れていることもあって――。いや、えぇっと、これは邪な欲情ではなくて、純粋に、この薄い腹を、綺麗な人を、穿っていることは倒錯的だと思っている。本当に、変な意味ではなくて。

 腹を撫でていると、指先が鶴丸の中心、臍に引っかかって、光忠はその窪みに目をやった。
 刀剣男士という存在は人のように孕まれて生まれたわけではないのに、この器官が身体にあることを不思議だと思う。人の子の身体を忠実に模しているのだろう。

 光忠はその不思議な器官について、自分のものも他人のものも、普段はあまり意識したことはなかった。けれど、今日こうして見る鶴丸の臍はなんとなく気になったので注目してみた。なんだか奇妙で、それでいてかわいいと感じる。
 彼の臍の周辺を指先で撫でたり、穴にそっと指を入れたりしてみた。まるで腹の底までつながっていそうな穴だけれど、ちゃんと行き止まりがあって、イメージとしてはなんだか萎んだ花の中心に指を入れることに近いかもしれない。

 そうやって無遠慮に腹と臍を触っている光忠を咎めることも制止することもせず、鶴丸は目を閉じたまま黙っていた。ときどき腹が脈打つのは、くすぐったいからなのだろうか。
「ごめん、鶴さん、くすぐったかった?」
「ん?あぁ、まあ、少しな。さっきからどうしたんだい?いや、この身体はいつでも光坊の好きにしてくれていいが」
 鶴丸がゆっくり目を開けて穏やかに答えたので、光忠は何か許されたような気持ちになって微笑んだ。臍を弄るのをやめて、再び手のひらをぴったりと腹に触れさせてみる。そうやって触れていると、ときどき、ぽこぽこ、と腹の中が動くような感覚がある気がした。

「鶴さんのお腹がかわいくて、触りたくなったんだ。こうしてると、お腹の中が動いてるのが分かるね」
「きっとさっき光坊が作ってくれた料理を消化しているんだろう」

 鶴丸は片手を気だるげに持ち上げると、腹の上に載せられている光忠の手の上に自分の手のひらを載せて愛しそうに笑った。なんだろう、こういう表現を男性である彼に使うのはどうかと思うけれど、まるで、稚児を宿している母親のような笑みだと思った。そう、簡単に言えば、慈愛の笑み、ということなのかもしれない。

「こうやって消化されて、鶴さんの身体を構成する一部になるんだね。うーん、それが身体にゆっくり回る毒みたいなものじゃないといいんだけど」
「毒?」
 鶴丸はこちらの言葉を繰り返して、驚いたように瞬きを繰り返している。
「そんなわけはない。愛に決まっているさ」
 よしよし、と鶴丸は重ねて置いた手のひらで光忠の手の甲をなだめるように撫でた。なんだかあやされているような心地だ。

「ま、よしんば毒だとしても、俺は構わないが」
「ふふ、鶴さんは、寛大だね」
 鶴丸は光忠の手の上に重ねて置いていた手を引っ込めて、代わりに両腕を大きく伸ばして寝転がったまま伸びをした。光忠が触れている彼の腹筋が、伸びに合わせてぐぐっと震える。

 そういえば審神者が現世で使っている携帯端末は、充電器に本体をくっつけることで充電することができる仕組みがあるらしい。そう考えると、鶴丸の腹に手を置いているのは、彼を自分にチャージするという点においては理にかなっているのかもしれない。そんな余計な連想はともかく。

「鶴さんは寛大ですごいけど、僕はやっぱり毒だったらどうしようって、ちょっと不安に思うよ」
「そりゃどうしてだい」
「だって、鶴さんのこの薄いお腹の中に、僕の想いが詰まって消化されて、鶴さんの一部になっていくってなんか不気味じゃない?鶴さんは愛って言ってくれるけど、鶴さんが取り込むものは綺麗なものだけじゃないかも。いろんな欲望とか、そういうのも含まれるって考えると……、やっぱり毒もあって、それはなんだか良くないことなんじゃないかと思って。だって、鶴さんはすごく綺麗だから」
「はは、光坊は真面目だな」

 鶴丸は愉快そうに笑って、こちらに手を伸ばした。頭を撫でようとする割に、自分が起き上がる気はなさそうだったので、光忠のほうが屈んで頭を下げた。予想の通り頭を撫でられる。

 この人はやはり寛大だ、と光忠は思った。こんな状況で、もし光忠が彼のその骨ばった手首を掴んで押さえつけて組み敷いたら、きっと逃げられないだろうに、躊躇なく慈しむためにその手を伸ばしてくるのだから。いや、光忠がそうやって「毒」になりうる想いをぶつけないことを、この人は当然のように信じているし、仮にぶつけてしまったとしてもそれを受け入れてしまうような懐の大きさがあって――

「ほら、渋い顔になってるぞ、光坊。あんまり難しいことを考えてばかりだと脳みそがすり減るぜ。別に綺麗じゃないものだって、愛であることには違いないんじゃないか。すでに俺はきみの出す欲をたくさんこの腹で受け止めているが、それで何か良くないことがあったか?別にないだろう。光坊の吐き出す欲は綺麗とは言い難いだろうが、それだって愛に違いない」

 さすがに精液は手放しで綺麗なものとは言えないだろうからな、と鶴丸はあっけらかんと言って、一人で楽しそうに笑っている。ときどきこの人はこうやって恥じらいもなく二人の行為について話すから、光忠はいつもちょっと反応に困ってしまう。

「それは……、そう、かもしれない、ね」
「だろう?だから、あんまりややこしくなりすぎるんじゃない。きみが不安げにしていると俺としても落ち着かないんだ。たまには頭でややこしいことを考えるんじゃなくて、もっと具体的で体感的なことを考えるといい」
「体感的?」
「あぁ、もっとこう……、頭じゃなくて身体で考えるというか、本能的というか……。つまり、そうだな、……たとえば、鶴さんのお臍はすけべだなぁ、とか、そういう感じだ」
「???」

 鶴丸が突然非常に頭の悪いことを、光忠の声音を真似しながら言い始めるものだから、光忠は困惑してしまった。いや、確かにさっきはこの彼の臍に注目していたけれど、それは決してそこに劣情を抱いていたとか、そういうわけではなく。

「待って待って、さっきは確かに僕は鶴さんのお臍かわいいな、とは思ってたけど、えっちだなとかそんなこと思ってないよ」
「いや、だからややこしいことを考えすぎるよりは、こういうことも考えたらいいってことだ。……それに、本当に少しもすけべだと思わなかったのか?それはおかしいだろう!えっちだろう鶴さんの臍は!」
「そんな自信満々にされても……。自信持つところおかしいよ……

 光忠は困惑を通り越して、なんだか面白くなってしまった。鶴丸の発言があまりにも頭が悪そうなのに、びっくりするくらい自信満々だから。でも確かに言われてみれば、彼のお臍をかわいいな、と思っていたし、なんていうか、その、……、キスはしたい、みたいなことは一瞬だけ頭によぎったかもしれない。かわいくて、愛おしいと感じたから。

「お?なんか心当たりがありそうな顔をしたな?ほら見ろ」
「いや、うーん、そう、だね……。えっちだな、まではいかなかったけど、かわいいからキスしたいかも、とは、思った、かも」
「そうこなくちゃな。臍ってのはすけべの象徴なんだ」
「えぇ……?今、絶対適当なこと言ったよね?」

 光忠が呆れたように笑うと彼は、バレたか、とおどけている。くだらないやりとりなのかもしれないけれど、こういうことを話しているとややこしく考えすぎる頭が少し解されていくような気もした。

「でも鶴さん、お腹っていうかお臍にキスするのって、なんかちょっとアブノーマルじゃないかな?」
「そうか?俺はそうは思わんが。光坊がしたいと思うならすればいいさ」
「そう言われたら、本当にしちゃうけど」
「いいぜ。きみの好きなようにしてくれていい」

 鶴丸はそう言うと、両手を組んで頭の下に枕のように敷いて、また目を閉じた。好きにしていい、ということらしい。光忠は再び、右の手のひらで彼の腹を撫でた。
 やはり、この腹を、臍を、かわいい、と思う。愛しい、とも思う。

 光忠はもちろん、どんな姿の鶴丸のことだって愛すだろうけれど、通じ合ったのはこの人の姿の現在であって、だから人の身というのは二人の関係性において特別な姿なのだ。臍があること、腹の中で「消化」という営みが行われていること、それらの二つは人の姿であることの象徴のように思われた。だから、この部位を、愛しい、と思う。この身体と、その身体で行われている営みが愛おしい。

……かわいい」
 光忠がぽつりと呟くと、鶴丸が少しだけ目を開けてこちらを見て、穏やかに微笑んだ。どうぞ、とでも言いたげに。
「なんか、ちょっと緊張するね」
「おいおい、こんなことで照れるんじゃない、伊達男」
「でも、鶴さんが見てるから」
「そうかい、じゃ、目を瞑っておくことにしよう」

 鶴丸はおかしそうに笑うと、また目を閉じた。光忠はなんだか少し緊張しながら、彼のお臍に顔を近づけた。そして、ちゅ、と口づける。

 唇で触れたそこはやっぱり薄く、そしてあたたかい腹だった。唇に感じる臍はすぼまっていて、行き止まりがあるのに、鶴丸という人のもっとも深いところに口づけたような錯覚すらある。深層への、人の身体の営みそのものへの口づけ。

 しばらく唇で臍に触れて体温を感じてから光忠がゆっくり顔を上げるのを待って、鶴丸が目を開けた。そうして二人はしばらくのあいだ見つめあった。彼はなんだか楽しげに見えたけれど、一方の光忠はなんだか気恥ずかしいような、でもあたたかい気持ちのような、曖昧な気分でいたから、ちょっと複雑な表情をしていたかもしれない。

「ずいぶんと子供みたいな口づけだったな。舌でも入れてくるかと思っていたが」
「そんな、違うよ……!それはだって、愛撫だよ。僕は別に鶴さんのお臍がえっちだからキスするわけじゃないからね。ただ鶴さんのお臍がかわいくて愛しいなって、思っただけだから」
「はは、分かってる分かってる」
 からかっただけだ、と鶴丸は笑って、身体を起こすと両手を広げた。
「おいで、光坊、ぎゅっとしてやろう」

 彼が唐突にそんなことを言うものだから、光忠はその意図が分からずに首を傾げた。しかし、断る理由もないので自分のほうから鶴丸の上体を抱きしめるようにして、身を預けた。
 そうやって抱きしめてくれた彼の身体は、やはり自分の肉体よりも薄く、それでいてとてもあたたかかった。その体温に問いかける。

「急にどうしたの?鶴さん。あ、いや、鶴さんに抱きしめてもらえるのは、いつでも嬉しいけど」
「どうした、と、言うと、そうだな……、光坊は俺の臍や腹、そしてこの身体を、愛おしんでくれているな、と思ってな」
……?うん、鶴さんの人の姿の身体は愛しいよ。鶴さんが仮にどんな姿でも僕は好きだけど、鶴さんと想いあったのはこの姿だから、やっぱり特別に愛しいよ。あっ、もちろん鶴さんの精神や存在そのものも愛しいよ」
 こちらを抱きしめている鶴丸が少し震えて、どうやら笑ったみたいだった。ちょっと困った声音で、「愛しい」を畳み掛けすぎだ、と言われる。困っているというか、たぶん、愛されていることにちょっと照れているんだと思う。

「そうだろう、光坊はそう言ってくれる。だから、きみのことをぎゅっとしてやろうと思った。きみが愛してくれるこの身体で俺は、光坊のことを愛しているぜ」
……?」
「この身体は、こうしてきみを抱きしめてやることができるだろう?愛を、あるいは光坊がさっき気にしていたような、毒になりえるかもしれない綺麗ではないものとしての欲望を、この腹で受け止め、消化してやることもできる。そうやって、光坊の愛に応える」
 鶴丸は一旦言葉を切って、一呼吸した。光忠は大人しく続きを待った。

「つまりな、この身体がある限り、この身体で行う営み、抱きしめること、食べてものを消化すること、身体を重ねること、それらはすべてきみへの愛という意味を持つってことさ。眠ることだってきみへの愛かもしれないぞ?もちろん、俺たちにはほかの手段、たとえば言葉のような方法もあるが、光坊はちょっとばかり頭で考えすぎるから、体感的なほうがいいよな。俺はこの身体という手段で、きみを愛している。そうやって応えているぜと言いたかった」

 だから抱きしめたのだ、ということらしい。光忠としては軽い触れあいとして抱きしめられたつもりだったのが、急に愛を告白されたようになって、少し照れてしまった。抱きしめていた状態から身体を離した鶴丸は、なんだかしたり顔をしていた。

「鶴さんって、もしかしてかなり僕のこと、好き……?」
「おいおい、今さら何を言ってるんだ?もうちょっと俺に愛されてる自覚をもってくれよ。自覚がないから自分の欲が毒かもしれないだなんて不安になるんだ。毒なわけあるか。言ったろう?愛に決まってるって」

 身体を離した鶴丸は、手袋をしていないほうの光忠の手を掴んで、ゆっくりと自分の方に引き寄せた。引き寄せた指先に、彼はそっと淡い色の唇を当てる。光忠が彼に向けるすべての感情や衝動を受け入れられるぞ、と証明するかのような迷いのない動きだった。まるで、おとぎ話の中で王子が姫君にするみたいな口づけ。所作のひとつひとつが流麗で、とても綺麗だった。

「鶴さんって、本当に僕に甘いね」
「はは、器がでかいと言ってくれ」
 鶴丸はそう言って笑いながら光忠の手を放したので、光忠は指先でそっと名残るように彼の唇を撫でてから手を引いた。

「ありがとう、鶴さん。僕はこれからもあなたの身体で行われる営みを大事にしていくよ。あ、もちろん、鶴さんという存在そのものもね」
「そうだ、それでいい。何も難しく考えることはないのさ。俺がこの身体で営みを続けていく限り、俺とこの身体は光坊の綺麗な愛も綺麗じゃない愛も問題なく受け止められるからな」

 そう宣言した鶴丸は、再びごろんと横になった。きみは風呂に行ってくるといい、と続ける。

「俺は光坊が戻ってくるまでうたた寝をしておくとしよう。きみが戻ってきたら、この身体を愛してくれ」
「え、それって」
 光忠が皆まで言う前に、鶴丸は思わせぶりな笑みを口元に浮かべていた。そして、すぐに口をとがらせる。

「光坊がややこしいことを考えていたところ悪いが、きみが執拗に腹と臍を触って、最終的に口づけてきた時点で俺の身体はその気になってるんだ。ちゃんと責任を取ってくれ。この身体の営みを愛してくれるんだろう?」
「ふふ……、うん、それはもちろん。急いで戻ってくるよ」
「あぁ、いい返事だ」

 鶴丸は満足そうに頷いて、もううたた寝に入ろうとする流れなのか、目を閉じた。光忠は急いで浴場に向かおうと立ち上がったのだが、ふとあることを思いつき、再び彼の横に膝をついた。

「鶴さん」
「うん?」
 鶴丸が目を開いてこちらを見たのを確認してから、光忠はもう一度彼の臍を撫でて、そこに口づけた。正確には、臍というよりもその奥にある臓器に口づけるつもりのキス。

「大好き、ちょっと待っててね」
 光忠の口づけがどこに向けられていたのか、伝わったのだろう。鶴丸は目を見開いて、それから、呆れたように、あるいはどこか嬉しそうに目を細めて、早く行ってきな、と光忠を急かした。光忠は頷いて、足早に浴場へと向かった。

 彼の営みを愛している。彼は営みでそれに応える。そういう愛の感覚は鶴丸の言葉を借りれば「体感的」で、とても分かりやすくていい。だから、営みが続く限り、お互いの愛は証明され続けて、それはとても素敵なことだ、と光忠は思った。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.