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アホのシモトークする台牧 2

全体公開 VWV 単発・短編 2 3 4374文字
2025-06-29 00:46:36

https://privatter.net/p/11580931 の第二弾。前回同様、ほぼ会話劇のギャグです。前回よりおとなしい。
私の趣味により一旦台牧ですが全然リバれそうな二人でもある……んですが、今回はわりと台牧。

Posted by @neastrig

 人間台風と呼ばれるプラント自立種。テロ牧師と揶揄される改造人間。
 治安の悪いノーマンズランドにおいて、彼らはそれぞれがそれぞれの事情で生きるために必要な「シモ」の知識を得る機会を逸し、誤魔化して生きてきた。
 だが、互いが事情を知らぬとはいえ似た立場であるならば誤魔化す必要はそこにない。
 生まれたのはそう。ティーンもかくや、頭の悪い猥談研究の会であった――――

 今日の宿は少しだけ清潔感のあるいい宿だ。奮発したのではない。街の小さな事件を二人で解決し、その縁で安く泊まれたのが比較的新しい宿だっただけの話だ。
 綺麗ながらもツイン、広くはない部屋で今日も男たちは丸テーブルを挟んでいる。一人は机に肘をついてグラスを傾け、一人は足を組んで背もたれによりかかりタバコを嗜む。静かな夜だ。明かり一つ付けていないが、窓から差し込む五つ分の月明りが彼らを十分に照らしている。
「すまたっちゅうからには、ス・マタ……やろな」
 紫煙をくゆらせ、しょうもないことを呟くウルフウッドは天井を見上げた。沁みが少ないそれに煙が溶けていくのはちょっとした贅沢だ。
「そうだね、そしてスはともかくマタはある程度絞り込める。ひとつに絞り込めないのは難点だけれど。股、股座、股間、股にあるもの、股の空間かその周り……少なくともこの付近に関わるものということは確かだ」
「となると、問題は『ス』のほうちゅう分けやな」
 ス、ス。候補をいくつかあげているのだろう。指折り数えながら小さく呟かれるそれはトーンやイントネーションが少しずつ異なる。一文字、されど一文字。それ一つで単語か、形容詞か。言葉の幅は広く、股に繋がるものは少なそうでも無視しきるには決定的なものが不足していた。
「ウルフウッド、突然だけど君は『すあま』を知っているかい」
「すあま? 」
「ああ、地球(ホーム)における極東の島国、さらにその東の地方で好まれたスイーツの名前らしい」
「はあ、そりゃまあ随分東の端のもんなんやな。名前からして……なんや甘酢みたいなもんか? 菓子っちゅうより飯かツマミみたいやけども」
 ふ。ヴァッシュは小さく笑みをこぼす。なんじゃおどれ喧嘩売っとんのか。ウルフウッドがにらみつければ、小さく首を振ったヴァッシュは敵意がないことを表すようにグラスを指で持ったまま両手を掲げた。
「誤解がないように言っておくと、僕も最初にその名前を資料で見たときは同じ感想を抱いた。しかし、レ……僕にこのスイーツを教えてくれた人によると、どうもこの『ス』というのは酸っぱいの酸ではないらしい」
「なんやと」
「ライスから作られる菓子らしくてね、すあまの味はほんのりとした優しい甘さなんだそうだ。よって『すあま』とは『うす甘い』からとられた名前だというのが有力な説だとか。僕は少なくともそう聞いている」
「説っちゅうことは、確かじゃあないっちゅうことか」
「ああ。その島国ではコトブキというめでたい言葉を『ス』とも読めたらしくてね。そこからとったおめでたくて甘いものという意味もあったなんて話もあわせて聞いているんだ」
 人生の長さと銃の腕前は他の追随を許さない男、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
 おじいちゃんの豆知識とばかりに披露されるこれらは、いつもノーマンズランドの生活の何の役にも立たないものが多かった。今回もそうだ。ともに旅をする中でそれに慣れた牧師は「だからなんやねん」とは問わない。続きは。黙って促し、何もなければ拳にものを言わせることしか考えていなかった。
 それを察知したのだろう。ヴァッシュは「まあ、ここからだよ」と長話を続ける。
「考えてもみなよ。お菓子ひとつでも『諸説ある』なんて話になるんだ。『スマタ』も同じなんじゃないか? 」
「ちゅうと、何か? スについては考える必要ないっちゅうことか」
「ああ。僕らがすべきは多分スの追求じゃない。……股だ。股で何ができるのか。それを考えることだ」
 なるほど。ウルフウッドは上げかけた拳をすっと下ろした。そのまま口元に運び、タバコを中指と薬指で挟む。
「そうは言うても、股ひとつとっても候補が複数出たやんか。オドレはどこを掘り下げるつもりや」
「そこなんだけど、やっぱり股間と股座……結局同じような意味の言葉が一番に浮かぶからね、股の間を注目したい。股のものか、股の空間か。このあたりのどちらか、またはその両方が関連していると考えるのが自然な気がする」
 以前の『パイズリ』の例もある。下ネタワードというものは彼らが思う以上に慎ましさと縁遠いものだ。言葉は基本的に直接的でシンプル、あまり回り道をしても答えがなかなか出ないことは何度かのこの会合で学んでいた。
「となると、まずはどっちで考えるかやな。股ってわざわざ言うからにはやっぱり股の間っちゅうのが素直な受け取り方になるんか? 」
「そうだね、いつものパターンだとそれなんだけど……今日聞いた話とちょっと違う気もするんだ」
 議題となったワードは概ね、その日の飲み屋での会話や他のテーブルの大声の猥談などから仕入れている。今日は、付き合っている女に朝しつこくして叱られた男の愚痴だっただろうか。
「確か、朝勃ちの上にムラついた彼は、挿入は避けたものの『スマタ』をして怒られたんだったよね」
……そうか、関わってくるのは」
「ああ、股間は股間でも……男根だ」
「オドレ、なんか毎度チンコっちゅうの避けるの逆にちょっとキモいで」
「今このタイミングで指摘しないでもらえる? 」
 急にそれた話題に頬を赤らめつつ、ヴァッシュは咳払いをして話を元の道に戻す。
「まあ、とりあえず性器関連なのは確かだよ。でも挿入はしない。あれは結構大きなヒントだと思う」
「せやな。挿入しない、そして処理しようとして女に嫌がられたっちゅうことは」
 二人のが黙ったのは五秒。次に言葉を繋げたのは同時だった。
「「性器をすりつけた……!? 」」
 それだ。頷いた二人はそれぞれグラスやタバコを置いてハイタッチの後、グータッチをした。
「ちゅうとスも自然と決まってくるかもしれんな。すあまの例でいうと擦り付けるの略か? 」
「僕も同じ意見だよ。やっぱり言葉は遠回りせずに素直に受け取るのが鉄則みたいだ、結構僕らも慣れてきたんじゃないか」
 握手を交わし、ヴァッシュは飲みかけのグラスを、そしてウルフウッドはまだ一口も流し込んでいなかった一杯を煽る。答えが分かった後の酒はうまかった。なお、前回同様しっかり飲んできた後なので別に素面だったなどということも一切ない。
 さて、今回も無事解決した。これでお開きかと思われた頃、それに気が付いてしまったのはウルフウッドだった。
……そういえば、擦り付けるってどこにやろな」
 確かに。ヴァッシュは、顎に手を当てて押し黙った。失念していた。素直にそのまま受け取ることを意識しすぎて、恐らく肝心のことを見落としていた。だいたい、性器を擦り付けるという一点に絞るなら前回のパイズリとてその一種だ。だが、それを果たしてスマタと呼ぶだろうか? 否。ヴァッシュの長年の経験――この経験とは、なんとなく雰囲気とワード選びから推測して話をあわせてきたソレだ――から違うと強く感じていた。
「あるな、まだこの先に……本当のスマタが」
 見えたのは、行き止まりと思っていたトンネルの先だ。
 だが、ここからが問題でもある。彼らのもつライトはか細い。暗い奥を照らすにはあまりに引き出しが不足していた。
 沈黙の後、ウルフウッドは立ち上がった。ヴァッシュが目で追うのを気にもせず、彼らのテーブルとベッドの間に立つ。
 長い手足はすらりとのびている。傾き、姿勢がいいとは言えない。だが重心がしっかりしているからかその立ち姿こそが様になっていて、どこか色気さえ伴っていた。
「股間すりつけるのに向いた箇所やろ? ちゅうと……ケツは、ちいとちゃうか? 」
 ぽんぽんとウルフウッドは自身の尻を軽くたたく。ヴァッシュはそれを「ん? 」と首を傾げて見ていた。
「胸、はこの間パイズリがあったからちやうやろ? 股同士? それだと入るやろっちゅう話やけども」
 それともそれで嫌がられたんか? ウルフウッドはジャケットの胸元をパタパタと扇ぐように動かしながら、片足をおもむろにあげて股の間を見せた。
「お、おま。お前」
 そうか、こいつ自分の身体で選択肢を確認してるのか?!
 ヴァッシュは思わずグラスを落としそうになりながら机に置き、空いた手で顔を覆った。いや、確かに引き出しが少ない自分たちが想像を羽ばたかせるなら例を示すのがいいのだけれども。そしてここに紙もペンもないから、実物を見ながらがいいのだろうけども。
 ヴァッシュは思わず、ごくりとウルフウッドの股間を見た。見てから「いやなんで今僕ツバ飲んだんだよ」とクエスチョンマークを増やしている。
「あとは膝、太ももあたりもありそうやんか。足の指はちとちゃうと思うし。上半身なら『マタ』っぽくないような……どう思う、トンガリ」
 な? バランスよく片膝をあげて振るのはいつもの旅の相棒だ。黒いスーツの足はやはりまっすぐで、なんというかよくしまっていた。ヴァッシュはそれを眺めながら「いやせっかく選択肢を出してくれているんだし」と真剣に考える。
「僕なら……………太ももかなあ」
「おん、やっぱりそこらへんが一番ありえそうやな、一旦そこで暫定回答にしてこの議題は次にスマタの例聞くまで持ち越しかいな」
 ふんふんと頷く牧師に、ヴァッシュは重々しく頷き返した。視線はやはり先ほどの太ももを外れることなく、つい揺れる足を追っている。
「? なんや、挟んだろか? 」
………………………は!? 」
 あまりの熱視線に面白くなって揶揄えばヴァッシュの眼がおかしいほど大きく見開かれる。くくくと笑い始めたウルフウッドはそのまま大笑いしてベッドに転がってしまったのだが、ヴァッシュとしてはそれで大きく開いた足にうっかり叫ばないのが精いっぱいだったし、何故叫びそうになったのかわからなかった。

 その夜、牧師の笑い声があまりに響いたものだから隣の部屋から壁を叩かれたのは言うまでもなく。
 そして翌朝、酔いが抜けた二人があたかもそんなトークなんぞなかったかのように話題の一つも出さなかったのは当然の結果であった。

 なお、彼らが最後に微妙に正解しそうだった素股の本当の意味――挿入を避けて股でブツを挟んでもらうプレイ。なお諸説あるため、彼らが避けた性器同士をという意味もある――を知る日が来るのか、来たのか。それは彼らのみぞ知るところである。


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