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パニッシャーの重さが気になってこっそり持ったりしてみるVの話

全体公開 VWV 単発・短編 1 2 3548文字
2025-06-29 01:58:30

ほんのり系VWV。山も落ちもないけど意味はあるくらいの掌編。6巻の頭くらい。
書きたい気持ちと睡魔のバトルで書きたい気持ちが勝ったので書きましたが、まとめるときはもう少し整えたい。

Posted by @neastrig

 ウルフウッドは、意外にもその十字架を常に持ち歩いているわけではない。
 考えてみれば当然のことで、食べに出るときや飲みに出るとき宿を先にとっていれば宿に預けるのが常のことだった。そもそもとしてヴァッシュとて最初のころはそれに疑問も持たず、自分も一緒に荷物を置いて買い出しやら食事やらに出掛けていたはずだった。
「ただ、あいつを知れば知るほど意外なんだよなあ」
 見上げるのは、壁に立てかけられた十字架だ。布に包まれた兵器はヴァッシュの手荷物の隣であの男の立ち姿のようにまっすぐに、しかし少し斜に構えている。
 パニッシャー。前から気になっていて、しかし生活の一部になったウルフウッドの時間の相棒だった。
「思えば、あいつとの付き合いも結構長くなってきちゃったよな」
 二年前のジェネオラ・ロックに向かうバスでの出会いから始まり、リィナといた街に現れた彼と再会した。その後はともに旅を続け、特に大きな事件としてはホーム戦は言わずもがな、そして先日の龍津城砦での戦い。
 期間としても長いが、気付けば濃い時間を共に過ごしてしまったとさすがにヴァッシュも思うところであった。
 彼の人生で、特定の人間とここまで長く旅をしたことは殆どないものだから何とも不思議な心地でもある。
 窓越しに外を見る。まだ明るいが、田舎町の一つだからか人は疎らだ。青い空が建物の向こうに広がっていた。
「マーロンがいるんだし、もう少し賑やかでもいいのにね」
 ヴァッシュは立ち上がり、窓を開ける。焼けた砂の香りに交じって、街の建物からだろうか、木材の香りもしてくる。その奥には少しだけ硝煙の香り。いつも通りの、人のいる街の匂いだ。
 そして機嫌よく風の入る窓を離れたヴァッシュは、また十字架の前に戻ってきて、今この時を迎えていた。
「お前も、マーロンに見てもらえばいいのにね」
 いかにもメンテナンスに手間のかかりそうなブツは、稀にウルフウッド本人が手をかけているのを見る程度だ。何度も盾にしている通り頑丈なそれは、きっと痛んだりもしづらいのだろう。くんと鼻を近づけても、微かにまざる血の匂い以外にサビのような香りはしなかった。
………うん、よし」
 ヴァッシュはきょろきょろと狭い部屋を見渡し、じりじり近付いたドアの鍵をまわした。ロック完了。また元の場所に戻ると、今度はその十字架に手を伸ばす。
「おお、やっぱり大きい」
 実を言うと、この兵器のことがそれなりに気になっていたのだ。どれくらいの重さか、どんな材質か。戦闘の中で触れる以外は縁のないそれを抱えて触ってみたいと思っていた。
 ヴァッシュとて長年同じ銃を使ってきたガンマン、本来銃を使って成すことこそ嫌っていても銃そのものはそれなりに愛好している。地球から持ち込まれた技術のうち皮肉にも特に浸透している科学のひとつだ。かっこいいなんて言うものでもないと思う気持ちと同じくらい、否定できない心情も持ち合わせている。
 まあ、こういう昔はナイブズのほうがはしゃいでたっけ。
 少し綻んだ遠い記憶を結び直して、ヴァッシュは十字を包む白い布地を両腕で抱え込んだ。そして「せえの」の掛け声とともに腰を落として持ち上げた。
……っと、っとと……ぐう」
 重いと知っていたはずだが、思わず後ろにのけぞる。慌てて体勢を整えようとして今度は前に倒れかける。最期は腹に乗せるように持ち上げたが、昼に食べたスパゲティが出てきそうになって、慌てて口を強く結んだ。
 持ち上げること、十秒ほど。慣れてきた後はゆっくりさらに抱え上げて姿勢を正した。随分持ちやすくなったが、それでも肩にずっしりと乗る鉄の塊はとても振り回せたものじゃない。
「やっぱりあいつ、なんというか力強いんだな……
 たまに拳骨を食らっているヴァッシュは、それをたいそう痛いと思っていた。今もそれ自体を間違いと思わないが、渾身の力で殴っているわけではないのだろうなと再確認なんぞもしたりする。少し気恥ずかしくなって、やっと片腕でモテるようになったのをいいことに残りの手で頬をかく。
 んんと喉を鳴らして、ヴァッシュは思考を重火器観察に戻す。とはいえまだ布に包まれた状態だ。目につくのはむしろ、布を包むベルトの方なのだが、複雑なそれはヴァッシュのコートよりも奇々怪々でとてもではないが一度外して戻せそうになかった。
 だが、それがわかっていても触りたくなる者というのは存在する。例えばそう。
「ベルトは……あ、やば」
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードだとか。
 いつもウルフウッドがバチンと一か所外せば取れていく仕組みが気になっていた彼は「さてはどれか一つが全部外せるようになってるのか? どれかな、これかな」とふざけて触ること三か所。大丈夫かなと油断した頃にバチンバチンと一息に外れていってしまったのだから、不運体質の絶好調っぷりには閉口するばかりである。
 だいたいなんであんなよくわからない巻き方するんだよ。
 相手がいないのをいいことに八つ当たりをしかけた彼は、だが足元に落ちた布とベルト、そして重火器を見て目を細めてしまっていた。
 重火器には、大なり小なり傷がついている。布とベルトにもだ。すべてが弾が当たったり貫通したときのそれで、布は小さく縫われているのが見えた。意外と器用にも針仕事のうまい男は、ホーム戦の後は病室の隅でちくちくとこれを直していただろうか。意外と器用だなと、思ってそのまま口にしたのも覚えている。
「これ全部、守った傷なんだよな」
 彼自身を、または後ろの誰かを。
 十字架型の兵器はとても個人で扱うものではなかった。砲弾とマシンガン、とてもではないが人が持ち歩き、人が使うものではないだろう。だが、それを掲げて守備をする男の姿が、ヴァッシュは嫌いではなかった。
 多分、守るほうが向いている男なのではないか。きっとこの世でそんなことを思うのはヴァッシュだけだろうが、ヴァッシュは確かにそう思っていた。思いたかったともいうかもしれない。
「いっそ、弾の信管も抜いちまおうかな」
 そんなことをしたらこっぴどく怒られるだろう。そもそも今の状態でもヴァッシュの心情に付き合ってくれているのだから悪戯をする必要もないのだが、これが盾にだけなってくれればいいのにと思ってしまうことは否定できなかった。
「まあ、そうしたら安心できないんだけども」
 殆ど初めて長く一緒に旅をする相手だ。腕も確かで、付き合いもいい。戦力を落とす必要もないのにバカげたことを考えているなとヴァッシュは改めて思った。
 重い塊をごとりと床に下ろす。今、ウルフウッドはこの重さを下ろしてどこかでカリーかうどんでも食べているのだろう。その姿がヴァッシュは好きだが、結局この物騒なものを背負ってのしのしと歩く姿も嫌いではなかった。
「結局、あいつ自身のこと結構気に入ってるんだよなあ」
 本人には悔しいので言わないが、確かに嚙みしめる。きっと目的があって怪しい男だ。だがこの旅が続くことを悪いばかりではないと思わせてくれる奴だった。真逆で、根が同じ人間。レムが助けた命のひとつがそのような形をとっていることに苦しい気持ちになったあの日は忘れないけれど、今ではこいつ個人に対して誇らしささえ覚えている。何様だと言われたら本当になんだろうねと笑うことしかできなさそうだった。
「とりあえず、怒られないようにこの布を戻すか?いや素直に謝るかな」
 勝手に触ったとなればどれほどあの頭が噴火するだろうか。多種多様に怒鳴る男の姿を想像するのがちょっと楽しかった。殴られるのは勿論好きではないが、その前後の様子は少し楽しい日も多いのだ。
「やっぱり、ひとつくらい信管抜いてみっかな」
 今度は本当にただの悪戯だ。だが、手慰みにやって「いや戻そう」と冷静になった頃に爆発音が届いた。
 咄嗟に飛び出しかけてから、思いつきで使い物にならない砲弾をセットし直した。そうしてから、やっと持ち方がわかってきたそれを抱えて今度こそ宿を飛び出す。借り物のマーロンの銃はすでにホルダーセット済みだった。
 借りる、とも口にしない。一回使ってみたかった気持ちもあったが、何より愛銃がない今はこいつを連れて行くことは今一番心強い気がしたのだ。
 きっと「こんガキ」なんて叱られるんだろうか。それとも焦りが先にくるんだろうか。自分だったら愛銃を持ちだされたらさすがに何考えているんだと抗議してしまうだろうに、我ながら何をやっているんだろう。思わず笑って、宿を飛び出す。
 そんな想像に苦笑しそうな顔を引き締めて、ヴァッシュは騒音のもとへと走り出していた。


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