夏バテ刑事たちと🐸さんによる回復メニューなssです。ほのぼのお料理ネタ。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
やさしい献立
梅雨が急に終わったと思えば、次に襲ってきたのは酷暑というべき夏の暑さだった。今年の夏もここ数年の例に漏れず、『記録上最も暑い夏』を更新するのだろう。
湿度を併せ持つ高温は、人間の身体を容赦なく痛めつけてくる。耐えかねて冷房の効いた屋内に避難すれば涼しさにほっと息を吐けるが、外との往復を繰り返すことで今度は自律神経にダメージが蓄積されてしまう。
宿舎に集められた刑事たちは皆若い。十分な睡眠と栄養を摂っていれば、それでも何とか夏の暑さに負けずにいられただろう。しかし、刑事という仕事はひとたび事件が起きれば『定時? 何それ?』という過酷なものだ。睡眠時間は容赦なく削られていく。
更に今回、宿舎の台所の主である帰代が長期出張のため合流が遅れていた。そのため、食事はしばらく各自で何とかするということで対応していたのだ。
結果として、見事に夏バテした刑事が量産される事態と相成っていた。
「暑いからって冷たいものばかり食べてたら駄目でしょーが!」
海外出張から戻った帰代が合流した時には、宿舎にいる刑事の半分以上が体調を崩していた。原因は寝不足や自律神経失調以外に、帰代の指摘した通り暑さに負けて冷たい麺類やアイスで食事を済ませていたことも大きい。
「そう思ったから、昨日は夏バテを吹っ飛ばそうって焼肉にしたんだ!」
夏バテを免れた鈴風が主張する。
確かに焼肉で精をつけるというのは一つの手であろう。しかし、それで元気になったのは元々『夏バテ? 何それ美味いのか?』という的中と、身体の丈夫さに自信がありしかも若い糸冬、そして言い出しっぺの鈴風だけであった。ちなみに最年少の神無は、毎食のアイスがたたってダウンしている。
他の面々は脂っこい肉類に逆に胃もたれを起こし、げっそりとした顔をしていた。
「疲れた胃に焼肉は逆効果だろ……聖、お前ならわかってたんじゃないか?」
医学の心得がある聖なら、こうなることが予想できたはずだと帰代が咎める視線を向けた。聖は胃の辺りを擦りながら苦笑する。
「うん、まあそうなんだけど、俺が帰って来た時にはもう肉を焼くだけって段階で……あそこで止めるのはちょっと難しいな~って」
どうやら発起人の鈴風が数人を巻き込み、他のメンバーには伝えず焼肉パーティーの準備を整えていたらしい。善意での行為ということもあり、中止にはできなかったのだろう。
それがわかってしまい、帰代は眉根を寄せつつもそれ以上は言わなかった。溜息を吐き、キッチンへ向かうとエプロンを手に取る。
「とにかく、今日は胃に優しいメニューにするからな。足りない奴は冷凍庫にあるのをチンして追加するように!」
背中に「はーい」という返事を浴びながら、帰代は冷蔵庫の中身をあらためるところから始めるのだった。
テーブルに置かれたどんぶりから、出汁の香りが湯気と共に広がる。白、黄色、緑の三色が斑になった具が、薄っすらと色のついた出汁の中に沈んでいた。
レンゲで掬って、火傷をしないよう慎重に口へと運ぶ。最初の熱さが通り過ぎると、塩味や出汁、卵の旨味と共に、米や豆腐の仄かな甘みが感じられた。咀嚼すれば、小松菜のシャキシャキとした食感が野菜を食べている実感を与えてくれる。
「おいしい……」
じんわりと胃腸に染み渡るような感覚に、神無がしみじみと噛み締めるように呟いた。普段は甘味を殊の外好んでいるものの、今身体が欲しているのは違うと分かるのだろう。
「ゆっくり、しっかり噛んで食べるように」
お玉を片手に言う帰代に、疎らな返事が上がった。
今夜のメニューは汁気多めの雑炊だ。豆腐と玉子でたんぱく質を追加し、細かく刻んだ小松菜でビタミン類と食感を補っている。熱いのでかき込むことはできないし、よく噛むことで消化も良くなるのだ。
元気なメンバーはおかずとして冷凍してあった唐揚げを食べている。あちらは放って置いても問題なさそうだ。
「朝食は鶏粥と漬物を用意しておく。明日の夜も今夜と同じ雑炊を希望するなら、昼前までに俺に伝えろ。希望者以外のメニューは豚しゃぶサラダ、カブのそぼろ餡、キュウリの酢の物、豆腐とネギの味噌汁だ」
廉士と巻が感極まったように手を組んで「ありがとうございます」と帰代を見つめる。夏バテが余程しんどかったのだろう。
サラダといっても野菜は火を通したキャベツやもやしが中心となる。生野菜は消化器への負担が大きいのだ。豚肉は元気なメンバー用に脂身の多いバラ肉を、夏バテメンバー用にあっさりとしたロース肉をそれぞれ使う予定である。
兎にも角にも、まずは疲れ切った胃腸を労わり回復させるところからだ。
「少なくとも胃腸の調子が戻るまでは、冷たい麵とデザートは禁止だからな?」
神無が一人絶望したような顔をしているが、見なかったことにする。しばらくは冷凍庫のアイスの残量に目を光らせておく必要があるかもしれない。
「日本の夏はクレイジーだって聞いてはいたが、想像以上だったぜ……赤道は通ってないはずだよな?」
ちまちまと雑炊を食べる合間に冗談めかして言ったアキラに、広大が「そのはずなんだけどね~」と力なく返す。
実際、帰代も海外から帰って外に出た瞬間に感じた酷暑に辟易したところだ。日本は亜熱帯だったかと錯覚するほどの暑さである。
早く涼しくなって欲しいところだが、まだ夏は始まったばかりだ。
「調子が良くなったらスタミナのつくメニューだな」
そんな独り言を零しつつ、帰代は自分の雑炊に手をつける。海外では中々味わえない出汁の風味に、ほっと息を吐いた。時差ボケもあるので、気を抜くと帰代自身も夏にやられかねない。
暑い夏と戦いながら、秋の訪れを心から願う刑事たちであった。
(あとがき)
暑いです。夏バテしそうです。刑事たちならきっと自己管理を頑張ってそうですが、こんなこともあるかもな~と書いたお話でした。
焼肉は夏バテする前なら有効なんでしょうが、胃がやられた後だと口は喜んでも身体はしんどいやつ……食べるタイミングって大事ですね。🐸ママの手料理で元気になった後に、改めて焼肉パーティーして欲しいです。
皆様も夏バテに気を付けてお過ごしくださいませ~