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胸に生まれた望み

全体公開 トワスト 2 2 1338文字
2025-07-12 18:59:45

第41回トワスト、テーマ「異形の願い」制作作品です。制作時間約40分。ジェフのお話(現代軸ですが少し未来の話)です。

 ここ数年のことだった。

 ――ジェフが願うようになった、ことがある。

 今は、この時代で過ごす部屋で、ひとりであった。誰か来るような、刻限でもない。月の光が、鮮やかに輝く。

 口の中で一言、呪文を唱える。瞬間、ジェフの姿は変化した。――魔族としての姿に、戻ったのだ。

 烏の濡羽色だった髪は、月の光よりも眩しい金髪に。耳は尖り、虹彩の形も変化し、口の中には鋭い牙が覗き、両の手の爪も綺麗に伸びる。――何よりも顕著な変化は、背にあった。ジェフの背には、黒い蝙蝠状の翼があるのだ。この翼は、意識すれば隠すことは可能だが、翼があるのがジェフの本当の姿であった。

 この姿に、不都合を覚えたことはなかった。そう、この時代に来るまでは。ジェフの真の姿は、人間と比較すると異形ではあるが、別に姿が違うことについて、不満は抱いていなかった。

 ――どうしてなのだろうか。

 魔族としての姿が、こんな異形じゃなければ良かった、などということを思うようになったのは。

 現に同族であるランフォードの魔族としての姿は、ジェフほどの異形ではない。ランフォードの背には翼も無ければ、こんなに鋭い牙も無い。爪もこんなに長くはなかったはずだ。

 別に己が、人間ではなく魔族であることに不満は無い。ただ――もう少しだけ、異形でない姿が欲しい。そう、せめてランフォードくらいの姿になりたい。そんな願いが、最近胸の中で膨らんでいる。

 もっと異形の者なんて、魔族の中にはいくらでもいる。それなのに、何故こんな願いを――考えても、その理由は分からない。

 こんな、人間にとっては悪魔のように見えるであろう翼なんて要らない。吸血鬼のように見えるであろう牙も欲しくない。ただ、異形でない、見た目が欲しい――そんな想いが、ジェフの中に渦巻いている。

 こんなこと、ランフォードにも言っていない。自分でも何故このようなことを考えるようになったのか、わからないのだから。




 両の手を見つめた。爪も鋭い――この爪も、どちらかというと人間にとっては悪魔のように見えるだろう。何故俺様は、このような姿を持っているのだろう。こんな姿は、欲しくなかった。

 こんな姿をあの子が見たとしたら、きっと恐れられてしまうだろう。純粋な少女には、こんな姿はただ恐いものに思えるだろうから。

 あの子のことが、頭を離れない――嫌悪に満ちた目を、向けられたくない。胸が、苦しい――

 小さく笑うと、呪文を唱えて、ジェフは人間に擬態し直した。背の翼は消え、髪は黒髪になり、その他の部位も人間相当になる。

 まさか、この姿の方が心地よく感じる日が来るとはな――そんな己を、自嘲するような笑みを浮かべる。

 俺様は人間ではない。魔族なのだ。黄真雅こうしんがなんて人間はいない。ここにいるのは魔族のジェフ、ただそれだけなのだから。

 それが事実なのだが、胸に生まれた望みは、消えるどころは日に日に大きくなるばかり。何故こうなったのかは、自分でも未だ、分からない――




 自分でも知らない間に生まれた願いは、消えることなく。

 これからも長い間、彼の中にくすぶり続けるのであった。


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@Marumeroke
うわあ、切ない…!
この姿が、ジェフさんの本来の姿ですものね…。
一番印象的なのはやっぱり翼なんですけど、爪とか牙の描写も事細かくて、尚更その異形さが際立つというか、際立つのだけど物悲しいというか…。
でも、朝恵ちゃんと関わらなかったらこんな願いを持つ事もなかったのではと思うと、それはそれで尊さや優しさも感じるので、なんかこう捩れそうになっちゃいますね←
朝恵ちゃんがジェフさんの正体を知った時にどんな風に思うのかはわからないけれど、ありのままの姿であっても幸せな二人でいて欲しいなぁと願っちゃいます…!
2025-07-12 22:20:01
@xxxyueyunxxx
≫Marumeroke テーマ見て、この話で行くしかないと思ったお話でした。
そう、ジェフの本来の姿ってランフォードと比べると、異形なんですよね。
もの悲しさのようなものを感じていただけて、とても嬉しいです。
でも多分、これは朝恵ちゃんと深く関わらなければ、抱くことはなかった想いなのではないかなと。
朝恵ちゃんはジェフの正体をもし知ることになるなら、どんなことを思うのか……
でも作者としても、幸せであってほしいふたりだったりします。
2025-07-13 01:40:17

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