@xxxyueyunxxx
ここ数年のことだった。
――ジェフが願うようになった、ことがある。
今は、この時代で過ごす部屋で、ひとりであった。誰か来るような、刻限でもない。月の光が、鮮やかに輝く。
口の中で一言、呪文を唱える。瞬間、ジェフの姿は変化した。――魔族としての姿に、戻ったのだ。
烏の濡羽色だった髪は、月の光よりも眩しい金髪に。耳は尖り、虹彩の形も変化し、口の中には鋭い牙が覗き、両の手の爪も綺麗に伸びる。――何よりも顕著な変化は、背にあった。ジェフの背には、黒い蝙蝠状の翼があるのだ。この翼は、意識すれば隠すことは可能だが、翼があるのがジェフの本当の姿であった。
この姿に、不都合を覚えたことはなかった。そう、この時代に来るまでは。ジェフの真の姿は、人間と比較すると異形ではあるが、別に姿が違うことについて、不満は抱いていなかった。
――どうしてなのだろうか。
魔族としての姿が、こんな異形じゃなければ良かった、などということを思うようになったのは。
現に同族であるランフォードの魔族としての姿は、ジェフほどの異形ではない。ランフォードの背には翼も無ければ、こんなに鋭い牙も無い。爪もこんなに長くはなかったはずだ。
別に己が、人間ではなく魔族であることに不満は無い。ただ――もう少しだけ、異形でない姿が欲しい。そう、せめてランフォードくらいの姿になりたい。そんな願いが、最近胸の中で膨らんでいる。
もっと異形の者なんて、魔族の中にはいくらでもいる。それなのに、何故こんな願いを――考えても、その理由は分からない。
こんな、人間にとっては悪魔のように見えるであろう翼なんて要らない。吸血鬼のように見えるであろう牙も欲しくない。ただ、異形でない、見た目が欲しい――そんな想いが、ジェフの中に渦巻いている。
こんなこと、ランフォードにも言っていない。自分でも何故このようなことを考えるようになったのか、わからないのだから。
両の手を見つめた。爪も鋭い――この爪も、どちらかというと人間にとっては悪魔のように見えるだろう。何故俺様は、このような姿を持っているのだろう。こんな姿は、欲しくなかった。
こんな姿をあの子が見たとしたら、きっと恐れられてしまうだろう。純粋な少女には、こんな姿はただ恐いものに思えるだろうから。
あの子のことが、頭を離れない――嫌悪に満ちた目を、向けられたくない。胸が、苦しい――
小さく笑うと、呪文を唱えて、ジェフは人間に擬態し直した。背の翼は消え、髪は黒髪になり、その他の部位も人間相当になる。
まさか、この姿の方が心地よく感じる日が来るとはな――そんな己を、自嘲するような笑みを浮かべる。
俺様は人間ではない。魔族なのだ。黄真雅なんて人間はいない。ここにいるのは魔族のジェフ、ただそれだけなのだから。
それが事実なのだが、胸に生まれた望みは、消えるどころは日に日に大きくなるばかり。何故こうなったのかは、自分でも未だ、分からない――
自分でも知らない間に生まれた願いは、消えることなく。
これからも長い間、彼の中にくすぶり続けるのであった。