生駒隊浴衣ネタみずいこ
『警戒区域の花火職人』の後日談だけど別に読まなくてもいいやつです
@a_yuuzora
「おーい、あんま先走んなよー」
夏祭りの人混みの中、水上がそう声をかけるのを見て、真織はなんとなく小学生のときの通学班を思い出していた。
ご機嫌で駆けていく最年少と一緒に先頭を行く班長、その後ろを班員が続いて、一番足が遅い子を見守る副班長が殿を担う。それはちょうど今の、生駒隊で遊びに来た夏祭りの隊列に似ている。どんどん先に行こうとする海、その手綱をとっているうようで実際のところ一緒に乗っかっている隊長の生駒、おとなしく続いているようでせわしなくきょろきょろと屋台を見ている隠岐、脚の長さで負けてどうしても歩みの遅くなる真織と、それをエスコートするように少しだけ前を行く水上。他三人の浴衣の色合いがシックで暗めな色彩な中、水上の明るい色合い浴衣とボリュームのある赤毛と高めの背丈は、人混みに流されがちな真織にとって良い目印だった。
「マリオ、大丈夫か」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと人波に流されかけたけど、先輩が目立つ浴衣来てくれて助かったわ」
「おう、イコさんが見繕ってくれた浴衣が役にたって何よりや」
ボーダー本部から電車で数駅の場所にあるこの夏祭り会場は、土地勘のないスカウト組にとってはアウェイといってよい。一度はぐれたら集合場所も見つけられずに合流できなくなるに違いない。海ならできるかもしれないが、あの性格を考えると先輩全員を回収するのを待つより、ほどほどに人が引いた頃合いにボーダー本部の作戦室に再集合するほうが早そうである。
逆に言えば、一度はぐれてしまえば本部で再集合するまではぐれたままになるという話でもある。
「水上先輩、今楽しんどる?」
「え、めっちゃ楽しんどるつもりやけど、何?」
「ほんとはこのお祭りイコさんと二人きりで来たかったんちゃうの?」
「……よぉわかったな」
「わかるわ、そんくらい」
ボーダー本部からはやや遠方な夏祭りのチラシを持って生駒が「みんなで浴衣着て夏祭り行こ」と言ったとき、海と隠岐は歓声を上げたのに、水上は「えっ」と声を上げたきりほとんど無言で話の流れを聞いていた。その様子を真織は確かに見ていたし、それだけでどういう経緯で生駒がそのチラシを。
先日、三門で夏祭りがあった日、水上と生駒が任務にあたってくれていた。せっかく先輩が後輩たちの日程をあけるためにシフトを入れてくれていたのだからと、あの日はめいっぱいお祭りを楽しんだし、だから今日のお祭りは真織にとって(そしてきっと隠岐と海にとっても)ボーナスタイムのようなものだ。だけど割を食った側が今日もやりたかったことができないのは筋が通らないと思う。
きっとあの日シフトでつぶれた分生駒と一緒に縁日に行きたくて土地勘のない場所のお祭りのチラシを持ってきて生駒に見せたのだろうに、それを察しなかった生駒にも文句を言わなかった水上にも、真織は少し腹を立てていた。
それを察したのか、水上はひとつため息をついて頭を掻いた。
「言っとくけどな、ほんまに楽しいって思っとるで」
「でも一番したかったのはイコさんとのデートやろ」
「そんなわかりやすかったか?」
「隠岐も海もイコさんも気づいとらんかったから、知っとるのはウチだけやろな。先輩、自他ともに認める嘘つきやけど結構表情に出る方やで」
「ウワ、ほんまか。演技力鍛えな」
「せんでええわ、そんなこと」
なんとなく会話が切れて、二人は前方を歩く三人を眺める。海と生駒は先ほど屋台でとった水ヨーヨーで遊んでいて、隠岐はそわそわとりんご飴に興味をひかれながらもグループからはぐれないように寄り道を我慢していた。隊列を組みながらも各々で祭りを楽しんでいる。そして別に五人でなければいけないこともない。
「なあ先輩、さりげなくイコさん誘って、はぐれたフリしてきたらどう?」
「フリって、はぐれたら合流でけへんやろ」
「ええやん。別に幼児でもないしちゃんと帰れるわ。——みんなの様子見渡しながらまとめて指揮すんのは、別に先輩の専売特許ちゃうで」
あとは任せろとやや遠回しに告げてみせれば、水上はふっと微笑んだ。
「うちのオペちゃんはしっかり者の有能で、ほんま助かるわ」
「ほんまの有能やったらあんたらがちゃんとデートできるように手ぇ回してたんちゃう?」
「いやぁ、イコさんがみんなの前で祭り誘った時点でそのセンは消えてたやろ。ほな、後は任せてええか」
「ん、行ってきぃ」
白い浴衣の背中をパンと叩けば水上は少しつんのめり、その足のまま少しだけ駆けて生駒にこそこそと何か話しかけているのが見えた。さりげなく二人で抜け出す口実にするのだとしたら「下の子らに何か屋台飯奢りに買いに行きませんか」とかだろうか。
責任感が強いせいでなんとなく貧乏くじを引きがちな印象のある先輩の健闘を祈りながら、真織はふらっとはぐれそうな隠岐に声をかける。先輩たちのデートをお膳立てするために。