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わたひおオメガバパロ③

全体公開 37 1021 1 4264文字
2025-07-13 21:12:30

わたひおオメガバパロ。
⚠︎軽い暴力表現

Posted by @RcNfe37

 タイムリミットは刻一刻と迫ってきていた。
 そしてついに、一件のメッセージからすべては始まる。
『ごめん、体調悪いから今日の予定また今度でもいい?』
 渡会の大学へ行った日から二ヶ月。
 朝方六時半に送られていたメッセージは、玄関を出てから気づいた。差しこんだ鍵を引き抜き、いそいそと部屋へ戻る。
「返信遅れてごめん。体調大丈夫? 何か買って行こうか?」
 靴を脱ぎながら、送ったメッセージを眺めていると、すぐに既読がつく。
『大丈夫。ほんとごめん』
 それで、会話は終わった。
 返信できる気力があって安心した反面、おかしい、と違和感も抱いた。まぁ、ほんの一瞬だけど。
 というのも、渡会は予定を断ったあと、必ず次の日程を提案する。例えば、「明日行けなくなったんだけど、来週の土曜日にうつせる?」みたいな感じ。
 まぁ、そんな日もあるか。俺の気にしすぎかもしれない。
 家で過ごす気も起きず、それに、準備してしまったのがもったいなくて、出かけることにした。これから夏に本番になってくるし、新しい服でも見てこよう。





 一日で回復すると思っていた風邪は、三日ほど続いた。今日が、その三日目である。
「体調よくなった?」
 午前十時に送ったメッセージの返信は夕方になっても返ってこない。いつも早いぶん、余計に心配になる。
 五限の授業も終わり、帰宅するのみとなったので、思いきって通話ボタンを押した。
 1コール、2コール……呼び出し音が重なるごとに不安も大きくなる。八度目のコール音が鳴り始めた頃、プツッと音が切れた。
…………………………はい』
 数秒の沈黙のあと、寝起きのような低く掠れた声が聞こえる。紛れもない渡会の声なのに、なぜか違う人のように聞こえる気もする。
「いきなり電話してごめん、体調大丈夫か心配になって」
………………うん……
 返事をするのも精一杯なのか、一言だけしか返ってこない。無言の時間が長引くにつれ、イヤホン越しには小さく荒い呼吸音も聞こえてくる。
 マジでヤバいんじゃ……
 途端に不安に駆られ、気づいたら駅へ向かって走っていた。
「今からそっち行くから、玄関の鍵だけ開けといて。じゃ、またあとで」
 一方的に通話を切り、スマホをポケットへつっこむ。
 再び振動するスマホを無視して、近くのドラッグストアへ駆けむと、片っ端から風邪に効きそうなアイテムを放りこんだ。
 人を看病するのははじめてだけど、どうにかなるだろう。それに、しんどそうな渡会が心配で、いてもたってもいられない。
 


 あがった息を整え、ガサリとパンパンに詰まったレジ袋を持ち直す。
 まず、鍵が開いていればいいんだけど。
 今のご時世にありえない不用心をお願いしてしまった罪悪感を抱えながら、ドアノブへ手をかけるとゆっくり扉が開く。よかった、開けてくれたみたい。
 急いで体を滑りこませると、室内の熱気に息を飲んだ。おさまっていた汗も、じんわりと肌に浮かぶ。
 ここ最近暑くなってきたが、それとは違う。内側から刺激されるような熱さに頭がボーっとしてくる。
 いや、看病しに来たのに俺は何をしているんだ。
 ペチンと頬を叩き、自分を奮い立たせると、玄関の鍵を閉めて部屋へあがった。
 まずは渡会の安否を確認すべく寝室へ。荷物もテキトーに床へ置かせてもらい、扉をノックする。返事はなく、それが余計に不安を煽る。
「あ、開けるね……
 いつでも救急車を呼べるよう、スマホを片手に扉を開ける……が、気づいた時には床に膝をついていた。
 何が起きたか分からず、しばらく思考が止まってしまう。指ひとつ動かせず、ペタンと座りこんだまま、床を見つめている。
 ギッと木の軋む音。目の前に差すゆらゆら揺れる影。語感はしっかり働いているのに、力がうまく入らない。
 恐怖心が身を包み、変な汗が背を伝う。腕を引かれるのが、こんなに怖いと思ったことはない。ベッドに連れこまれるのが、こんなに嫌だと思ったことはない。
「ま、待って……やだ……
 喉から声を絞りだすも、聞いてもらえなかった。強くもない力でうつ伏せに押さえつけられ、短く息を吐く。
 大きな手は何度も頸の曲線をたどった。薄い肌を撫で、時折骨をなぞり、何かを吟味している。
 そこで思い出したのは十年前の事件。アルファがベータを襲った残酷な、あの事件。
 ヒュッと喉が鳴り、カタカタと体が震えた。はっ、はっと短い呼吸を繰り返しているのは俺なのか、渡会なのか分からなかった。
………………ひおき」
 熱い部屋に落ちた声は、震えていた。
 体はいつのまにか動くようになっていて、ゆっくり首を傾けると、虚ろな瞳に俺を映す渡会が見える。ひどく汗をかいていて、痛みがひどいのか頭を抑えていて、唇からは血が滴っていた。
「くすり……もってきて……透明なやつ……
 そう口では言っているが、俺の上から退く気配はない。むしろ這い出ようとする俺を、さらに体重をかけて押さえつけてくる。まるで、頭と体は別人のようだ。
「ごめん……ちがう、俺は…………ごめん……
 「ふーっ、ふーっ」と、荒い呼吸を繰り返す渡会は眉間に皺を寄せ、ぐしゃりと髪を乱した。
 異常な光景に、風邪ではないと今さら思った。
 取り乱す彼の隙をついて、必死で寝室から飛び出す。視界が滲んでいるのは、多分泣いているから。拭っても拭っても、止まらない。
 ヒントの少ない状況だったが、探しものはすぐに見つかった。ローテーブルに重なっている書類の上に、透明なボックスはあった。中身はいろんな種類の錠剤と、注射。
 急いで寝室へ戻ると、うずくまる渡会のそばに置いた。
「も、持ってきたよ……
 声をかけても、彼はうずくまったまま。苦痛に耐える腕には生々しい引っ掻き傷がいくつもある。
 せめて気休めにでもなればと背中をさすろうとした時、思いきり手を弾かれてしまった。
……あっち、行ってて…………はやく」
 切迫詰まった声に、「でも」と口にすることはできなかった。
 それでも心配なのものは心配で。寝室を出るとドアに背を預けて座りこむ。微かに聞こえるのは、うめき声と、獣のような乱れた息づかい。
 悲痛な声を背に、そっと自分の頸を撫でた。彼はさっき、ここを噛もうとしたのだろう。番を求めて。
 いくら隣にいたいと願っても、俺じゃダメなんだ。俺がベータであるかぎり、どちらも幸せにはなれない。



 どれくらい経っただろう。
 ふと顔を上げると、部屋の中は真っ暗だった。
 すがるように扉へ耳を当てると、あの出来事が嘘のように静まり返っている。そっと扉を開けて覗いても、暗くてよく見えない。
 リビングの明かりだけつけ、またそっと扉を引く。一筋に伸びた光の先に見えるのは、うずくまる背中。部屋に入った時の衝動や熱は、マジックみたいに消えていた。
 錠剤シートの残骸と、まだ液体が残っている注射器が散らばるベッドに近づくと、規則正しい呼吸音が聞こえた。
 ひとまず、大事に至らなくてよかった。また溢れそうに涙をグッと堪え、忍び足で部屋をあとにする。
 時刻は二十二時。そろそろ帰ったほうがいいが、渡会が心配で「あと少しだけ……」を何度も繰り返す。
 ジッとしてるのも落ち着かなくて、散らかったリビングを掃除することにした。とはいっても、積み重なった洗濯物を畳んだり、溜まった郵便物を整理する程度。
「あ、これ…………
 ローテーブル上の書類をまとめている時、一通の封書が目に止まった。
 バース性の授業で見たことがある"婚活の案内書"だ。渡会も、アルファだからもちろん貰う対象だけど、実物は初めて見た。しかも、授業で習った赤い封書ではなく白。心なしか紙質も上等なものに感じる。
 人の郵便物を見るなんて失礼極まりないが、滅多にお目にかかれないものだから好奇心がジワジワと湧いてくる。
 なんて書いてあるんだろう。
「いやいや、ダメだって……
 封書を遠ざけ、書類の一番下へしまう。さて、次はこっちの山を片そう。
 別のプリントへ目を向け、よいしょ、と持ち上げた時、また封筒が一枚ポトリと落ちた。封の空いてるそれは、中身も床へ放りだす。
 こちらも重要そうな郵便物に、慌てて拾いあげる。けれど、今度は中身も出てしまったため、薄く見えた文字を意図せず読んでしまった。
「サンプル提供のお願い……?」
 送り主は、日本でもっとも有名な大企業。たしか、アルファしか入れないとか。そんな会社が、なんで個人宛に送っているのだろう。
 今度は好奇心が上回ってしまい、そっと三つ折りにされた紙に手をかける。
 拝啓、渡会紬嵩様……。と読みはじめて間もなく、それはうしろから伸びてきた手に抜き取られてしまった。
「片づけてくれてありがとね」
 シュレッダー行きになったそれをただ茫然と見送り、ニコリと笑う渡会を上げる。
「も、もういいの……? その、どっか苦しいとか……
「大丈夫。今は落ち着いてる」
「そっか……
 よかった。とまでは声にならなかった。その前に、存在を確かめるように彼を抱きしめた。
「待って、俺めっちゃ汗かいたから、せめてシャワー浴びてから──」
「やだ。離さない」
……それは嬉しいけど」
 引き離そうとする腕をはらいのけ、コアラみたいにしがみつく。1分、2分……と、ずっとひっついてるもんだから、渡会も諦めたのかそっと抱きしめ返してくれた。
「心配させてごめんね」
 そんなこと言わないで。むしろ、謝るのは俺のほうだ。
「な、ちょっと話そう」
 このままじゃダメだ。何か、解決策を探さないと。
 彼を抱きしめたまま言えば、すぐに答えは返ってくる。
「やだ」
 と、予想通りの返事が。
「俺だって嫌だ」
 密着していた体を起こし、ジッと渡会を見つめる。彼もまた、俳優顔負けの切なそうな表情で俺から目を逸らさない。
「お願い」
……やだよ」
「症状重かったのは今回だけだから。薬が合わなかっただけで……もう、大丈夫だから」
……俺はもう、苦しんでる渡会は見たくない」
「うん、ごめん。本当に今回だけ」
 渡会の「大丈夫」を信じられないのは、初めてだ。それでも、病み上がりの彼を詰める気にはならなかった。
「約束して」
 それだけ伝えると、いつもの優しい笑みが俺を見下ろした。


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@Suzukolism617
ありがとうございました!本当にこの設定が大好きで、続きの展開がすごく楽しみです!!老师的作品都好喜欢,真的非常喜欢渡会和日置,也很喜欢四天王,希望老师一切都好!!!
2026-02-01 12:57:07

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