今日も元気に亀甲が亀甲な話です。
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@fu_re_re_ra
《亀甲貞宗の愛とご褒美》
この本丸、『現世で主を警護できるのは一振りだけ』という性質上、打刀の果たす役割が非常に大きい。
市街戦や屋内戦を含むあらゆる昼夜の戦闘に対応できるからだ。そのため、この本丸に顕現した打刀はとりわけ、どんな逆境にも打ち勝てる屈強な精神と高い実力、一対多数の絶望的な戦力差を一騎でひっくり返せる圧倒的な強さを求められる。
よって特に最初の打刀三振りは、加州清光を筆頭に、単騎出陣に特化した戦闘型打刀として、極限まで鍛え上げられてきた経緯があるのだが────……
「確かにあるじの差配に文句は無いよ? 文句は無いんだけどさあ…!」
加州清光は死んだ目で呻いた。
「この組み合わせだけはマジでなんとかならなかったわけ? って思ってもほんと致し方ないっていうか」
「huhuhu……悩みごとデスか? 脱ぎまショウか?」
「んー! 放置プレイ! たまらない!」
この本丸、初期刀に続く打刀は
千子村正と亀甲貞宗なのである。
「右に変態、左に変態……こいつらに常に挟まれる俺の身にもなって欲しいっつーかさあ!」
亀甲貞宗と千子村正は今日も戦の合間に変態談義に忙しい。加州清光は頭を抱えている。
「ねえ、どうしてそんなに脱ぎたいんだい? 大事なことはぎゅっと秘めておかないと」
「huhuhu…むしろなぜ、そんなに隠したがるのデス? 何もかもさらけ出してこそ、というものでショウ」
「右からは脱げ脱げ脱げ、左からはその逆…もう勘弁して」
マジで俺を挟んでやらないで欲しい。切実である。
ただでさえ跳ね回る爆弾みたいな鶴丸国永に振り回されているのに、それに加えてこれである。
この本丸の良心である燭台切光忠は苦笑して微笑むばかり。加州清光は胃痛役だった。
さて、今日は初めて亀甲貞宗が、現世で近侍の任に就くことになっている。
現世警護の際、無邪気な主は刀剣男士と様々な遊戯盤で交流することを日課にしているのだが、先日、初めて担当した千子村正が、負けたら勝手に脱ぐ一方的脱衣麻雀を始めたと聞きしばき回したばかりである。
「不安だ…」
「任せて欲しい。ご主人様の安全はこの身に代えても必ず守るよ!」
「心配なのはそっちじゃねーんだよなあ!」
がしっと、いかにも無邪気でいとけない主人の両肩を持った加州清光は、こんこんと言い聞かせた。
「あるじ、マジで嫌なことは嫌っつっていーんだぜ。変態どもに無理して付き合うことねーからな!? 呼んでくれたら速攻しばきに行くから!」
などというやり取りがあったのが昨夜のことだが。
この亀甲貞宗、意外なことに警護に当たる間はとても真面目で理知的で穏やかだった。
二人きりになった途端、一転して水を打ったように落ち着いた亀甲は、自らの主人へ穏やかにこう微笑んだ。
「信頼関係は対話だよ」
そう微笑む亀甲貞宗は、普段のぶっ飛んだ言動をどこかに置いてきたように、陰になり日向になり、主人の生活の傍らに立って警護を務め上げた。
「今日は僕しかいないからね。ご主人様が不安を感じず、いつも通りのペースで安心して生活できるのがいちばん大事に決まってる」
亀甲は「一方的に欲求をぶつけるのは、ただの乱暴者だろう?」と軽やかに語ってみせてすぐ
「そういう自称Sとかいう連中は何も分かっちゃいない、わかっちゃいない!」
などと全力で力説するあたり、無理して構えているのではなくこれが地であり自然体なんだろうな、と彼女は思った。
そうして昼間の慌ただしい警護を終え、ゆったりと語らえる夜になると
自らすすんで跪いて、主人の細い手を両手でそっと取って、亀甲貞宗はこう語った。
「僕はね、ご主人様。特別な愛が欲しいんだ」
「特別な愛?」
「そう。ご主人様は僕らを等しく愛してくれる。それを責めるつもりは毛頭ないけれど、だからこそ、僕だけに許された愛も欲しいんだ」
ご主人様はとても優しい人だ。僕らが傷付くのを望まない人だ。
でもね、ご主人様。
僕にとって、ご主人様が与えてくれる痛みは、ご褒美だってこと。
悦ばせることはあっても、痛みが僕を傷付けることは不可能だって、知って欲しいんだ。
そうだね、たとえば
高いところが死ぬほど苦手な者もいるし
高いところがゾクゾクして堪らなく好きな者もいる
危険なことが嫌いな者もいれば
危険に挑戦すると堪らなく興奮する者もいる
多くの者にとって痛みは忌避するものだけど
僕にとってはご褒美だ。
我慢でもなく、犠牲でもない。ご褒美なんだ。
理解するのは少し難しいことかもしれないけれど……僕はね、ご主人様。
それを誰が理解できなくてもいいから、ご主人様にだけは知っていて欲しいって思うんだ。
ご主人様は優しい人だ。刀が痛い思いをすることを当たり前にできない人だ。
だからこそ。
誰が痛い目にあっても心から胸を痛める人が、僕の痛みだけは安心して許容して甘えてくれたら、それはとても、とても特別な愛だと思うんだ。どうかな?
そう、ご主人様だけは、どれだけ僕に痛みをくれてもいいんだ。ご褒美だからね!
そしてご主人様も。
ご主人様が与える何もかもぜんぶ、痛みですら。
僕を決して傷付けることが叶わない、って分かってくれたら。
そう理解して、安心して、できれば甘えてくれたら。
すごくすごく、たまらなく嬉しいんだ。
翌朝、引き継ぎ事項の確認もそこそこに、亀甲から警護を速やかにバトンタッチした加州清光は、大急ぎで転移ゲートを潜ってきて「あるじ、大丈夫!?」と主のもとへ駆け込んできた。
亀甲のおかげで平和な一日だったと、にこにこと返事をする主に、加州は始終疑わしげだった。
さて、この後、亀甲と彼女の関係がどうなったのかと言えば。
白刃戦で亀甲が誉を取った際、他の刀にも恩賞の褒美を渡す機会の多い彼女は、亀甲にこう申し伝えた。
「ご褒美あげるね。目閉じて手を出して」
そう言われた亀甲は、まるで子犬が嬉しげに尻尾を振るような様子で「はい、ご主人様!」と言われた通りにした。
ととと、と上座から降りてきた彼女は、目を閉じたままの亀甲の前に立ち
ぺちっと、でこぴんをした。
ぱちっと目を開けた亀甲は束の間きょとんと目を丸くした。
はにかんだ彼女が
「えへ、いたずら」
と花のように笑う愛らしさに
亀甲はぶるぶるとその場で激しくバイブレーションしたかと思うと
「たまらない!!!」
と突如鼻血を出して後ろにひっくり返った。
当然のごとく近侍の加州清光はその後ろで頭を抱え、しばらく胃を痛めて燭台切の世話になった。
《亀甲貞宗の愛とご褒美》end.