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初めての華金

全体公開 トワスト 1877文字
2025-07-27 15:23:20

第43回トワスト、テーマ「華金のススメ」制作作品です。制作時間約45分。ジェフとランフォードのお話です。

「まったく。何故俺様がこんなところへ……

 金曜日の夜、ジェフは駅前にひとり立っていた。商店街の最寄りの駅ではない。ここは、ランフォードの勤める職場の最寄り駅であった。

 駅前の繁華街は、人の熱気に満ちている。ランフォードならそれも全て楽しんでしまうのだろうが、ジェフはどちらかというと、そういう空間は苦手だ。最前から何度も飲み屋の呼び込みの人間に声をかけられるのも気になるし、道行く女性たちに黄色い声をあげながらちらちらと顔を見られるのもいい加減煩わしい。

 早く、待ち合わせ相手であるランフォードが来ないものか――そればかり、考えていた。




「待たせたね、ジェフ。遅くなって悪かったよ」

 見知った姿が、人混みをぬって駆け寄ってくる。スーツ姿のランフォードは、額の汗をハンカチで拭きながら、ジェフに微笑みかけた。

「また残業とやらか、ラン? 会社員は面倒だな」

「それでも、私はあの仕事が結構好きなのだよ。じゃあ、行こうか」

 こっちだよ、とランフォードが歩き出したので、ジェフもランフォードの背を追って歩く。入り組んだ路地を、ランフォードは迷うことなくすいすいと歩いていた。

……ひとつ聞くぞ、ラン」

「何でも聞いていいよ、ジェフ。何かあったのかね?」

「何故、このようなところに俺様を呼んだ? こんな、皆が騒々しくしている場所に?」

 ああ、そのことか。ランフォードはジェフの方を振り返ると、その黒曜石の瞳を輝かせて笑いかけてきた。

「皆がはしゃいでいるのは無理もないよ。今日は華金だからね」

……ハナキン?」

 何だ、その言葉は。少なくとも、ジェフは初耳の言葉だ。ランフォードを促すと、ランフォードはジェフに説明をはじめた。

「華金というのはね、華の金曜日の略称だよ。私達のような仕事のものは、土日が休みのことが多いのは、ジェフも知っているね?」

「ああ。――それがどうした?」

「だから金曜日は、仕事から解放されるという意味を込めて、華の金曜日と呼ばれるのだよ。翌日は休みだから、身体のメンテナンスをしたり、楽しくお酒を飲んだりして楽しもうとね」

 そういう意味の言葉か。会社員の風習か、とジェフは納得した。

「華金というものは理解出来た。――だがな、ラン。何故、それに俺様を呼ぶ? 俺様は自由業だ。土日が休みとは限らない」

「それはよく知っているけどね。君にも、華金をすすめたかったんだよ。――共にこの解放感を、この独特の空気を、味わってほしくてね」

 ランフォードはジェフの大きな手をとって、笑っていた。どこか、清々しい空気をまとって。

「私はこの空気が結構好きなんだよ。でも君は自由業だから、この華金の空気は普通にしていたら知ることが無いだろう。――それで今日、呼び出したのだよ。私と一緒に、華金を味わおうとね」

 言うならば、華金のすすめかな。そう口にしたランフォードは、どこか照れくさそうであった。

 華金のすすめ、か。明日もジェフは仕事であるが、別に味わうくらいなら、悪くあるまい。

――で、ランは俺様に、どんな華金を体験させてくれるんだ?」

 にやりと笑ってみせたら、ランフォードは指折り数えはじめた。

「ええとね。これから行くのはマッサージだよ。ちゃんとふたりで予約してあるから、安心すればいい。それから飲み屋だよね。この近くに美味しい焼き鳥屋があるんだ。君を一度連れていきたかった店でね。美味しい日本酒もあるから、期待してほしいな。それから二軒目だけど、ここはお店を決めていないんだよね。カクテルの美味しいバーもあるし、君さえよければカラオケもいいなって思うし、他には」

――ちょっと待て、ラン。お前は随分たくさん計画をしているようだが、奥方には伝えてあるのか?」

「大丈夫だよ。今日はジェフと華金を楽しんできますって、昨日も言ったし、さっき会社を出るときにもう一度、ちゃんと連絡してあるから」

 全く、ランという奴は――ジェフは口の端をあげて、軽く笑う。ランフォードの計画を全部実行したら、どう考えても午前様になる未来しか見えないが。まあ、全部付き合っても悪くないと考える俺様も、ここは同罪か。

――期待しているぜ、ラン。初めての華金、楽しませてくれよ?」

「もちろんだよ、ジェフ。一緒にめいっぱい、華金を満喫しようね」

 夜の明かりは、まだまだ消えそうにない。

 繁華街の光に誘われるようにして、ふたりは並んで歩いて行ったのであった。


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