@tirichann
「一緒に帰ってください」
佐久早くんが放課後私を呼び出して言ったのはその一言だった。普通、放課後に呼び出すとなれば告白を予想するだろう。一緒に帰るくらいならば仰々しく呼び出さずとも、教室で誘えばいい話だ。佐久早くんには、そういう軽薄さがないのかもしれない。
「いいけど……」
私が了承すると、佐久早くんは「じゃあ」と言って出ていった。この後に告白があるというわけでもないようだ。どこか肩透かしを食らった気で私は教室へ戻る。すると佐久早くんに呼び出された所を見ていた友達が、一斉に私の周りに群がった。
「どうだった? 告白だったんでしょ?」
「付き合うの? 付き合わないの?」
とてもではないが、告白されなかったとは言えない。私にも不名誉なことだし、佐久早くんにもまた不名誉である気がした。
「付き合った……」
気付けば、私は嘘をついていた。盛り上がる周りをよそに、どうしたものかと頭を悩ませる。放課後に佐久早くんと帰っている途中、私は自意識過剰と思われるのを恐れずに言った。
「今日呼び出されたこと勘違いされて付き合ったって言っちゃったから、付き合ってるってことにしてもいいかな。佐久早くん、私に気があるよね?」
私は佐久早くんの方を見る。佐久早くんは視線をそらした。まるで言い訳をするみたいに。
「苗字の方が好きそうだから帰りに誘ってやったんだ。付き合うのは別にいいけど」
誘って「やった」という言い方はどこか上から目線に感じる。なんだかんだ言いつつ、佐久早くんは私が好きなのではないか。
「付き合うのが別にいいなら佐久早くんが告白して付き合ったってことでいいよね?」
「苗字の都合なら苗字が付き合ってほしいんだろ」
私達の間で視線が交わり合う。好き同士のはずなのに、まるで火花が飛ぶかのようだ。私達の言い合いは世界一どうでもいいものだろう。それでも佐久早くんにとっては大事なことのようで、強いこだわりを感じる。確かに佐久早くんは一緒に帰ろうとしか言っていない。これは多分、私の負けだ。