カルみと 事後注意
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
カーテンの隙間から差し込む太陽の光に照らされて、神無はいつもより重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。
「ぅ……?」
太陽の高さから察するに、おそらく現在時刻は昼に近いのだろう。
寝坊をしてしまったようだと小さくあくびを漏らした神無はふと、同じベッドに眠る縞斑の顔を覗き込んだ。
すやすやと穏やかな寝息を立てて目を閉じる彼は、いつもなら神無が起きるより早く目を覚ましているのだが、今朝はずいぶん疲れているらしい。
というのも昨晩は、ドロ課とスパローで協力して当たっていた事件の調査があり、犯人確保のために戦闘が起こったのだ。
苛烈を極めたその戦いになんとか勝利して事件を解決した彼らだったが、一度昂ってしまった気持ちはなかなか収まらなかった。
互いの考えは同じだったようで、二人は家に帰る時間も惜しいと近くのホテルに転がり込んでそのままベッドへもつれ込んだのである。
「……、」
起きる気配のない縞斑の頬をそっと撫でた神無は、昨晩の彼の姿を鮮明に思い出す。
いつもなら恥じらって暗くしている部屋の照明も忘れて、互いに昂る気持ちのまま貪り合った。
珍しく縞斑も歯止めが効かなかったらしく、達したばかりの神無を抱えて何度も最奥で果てていた。
余裕のない神無を抱き寄せて欲望のままに腰を振る縞斑の姿は飢えた獣のようで、いつもの蕩けるほど優しいセックスとは違った良さがあったと神無は改めて頬を赤らめる。
彼に散々啼かされて、果たして自分は何度絶頂しただろうか。最後には盛大に潮を吹いた記憶のある神無は、綺麗に清められた体を見下ろして縞斑に一度擦り寄った。
もう少し余韻に浸っていたい気持ちもあるが、ホテルのチェックアウトまでにもう一度シャワーを浴びておきたい。縞斑が起きたらルームサービスを頼んで朝食兼昼食も取らなければ。
「ゔ……ッ?!」
そう考えてベッドから起きようとした神無は、体を持ち上げた瞬間にずきりと全身を駆け巡った激痛に耐えきれず呻き声を漏らす。
あまりの痛みに腕から力が抜けた神無はバランスを崩し、そのままどたんと音を立ててベッドから転がり落ちてしまった。
「い"…っけほ、けほけほっ……!」
「え……神無ちゃん?」
体を打ちつけた痛みが加わって思わず漏れた声は酷く掠れており、枯れた喉が何度も空咳をこぼす。
その音に気がついて目を覚ました縞斑は、神無がベッドから落ちたことに気がつくと慌てて駆け寄り助け起こした。
「大丈夫……?!」
「ぅゔ……からだ、いたい……」
声を出すたびに痛む喉で懸命に訴えれば、ぴしりと固まった縞斑が気まずそうに視線を泳がせる。
明るい部屋の下に晒された痕だらけの体にシーツを掛けた彼は、ひとまず慎重に神無を抱えてベッドへと寝かせた。
「あー……ちょっと待ってて、水と濡れタオル持ってくるから」
そう声を掛けて神無の髪を撫でた縞斑は、一度ベッドから離れると数分もせずに諸々の用意を整えて戻ってくる。
ボトルを受け取った神無が中身を傾ければ、冷蔵庫できんと冷やされていた水が喉を心地良く滑り落ちていった。
枯れた喉に染み渡るその感覚にほっと息を吐く神無の体を支えた縞斑は、彼が痛みを訴えた腰や足に水で濡らして固く絞ったタオルを押し当てる。
「ん……っ」
「……ごめん。いつもより加減ができなくて」
冷たいタオルの感触に目を閉じる神無の頭を撫でた縞斑は、心底申し訳なさそうに謝ると彼の額に手を当てる。
昨日の無理が祟ってしまったのか、神無の体はいつもより火照っていた。微熱があることを確かめてますます眉を下げた縞斑は、神無の体をそっとベッドに横たえる。
「今日はゆっくり休もう」
「……うん、」
事件が解決して今朝からは縞斑も神無も休みをもらっているため、神無が以前から気になっていたというカフェに行こうと約束していた。
しかし、今の神無には外出することは愚か、起き上がることすら難しい状態である。
幸いホテルのチェックアウト時間は延長してあるため、神無の体調が落ち着くまでは部屋で休ませようと縞斑は提案をしたのだ。
遅れた返事には少しだけ名残惜しさが含まれていたような気がして、神無の手を握った縞斑は叱られた子供のように肩を落とす。
「本当にごめん。次からは気をつけるから」
「んーん……へいき、きもちよかったよ」
縞斑とのデートが先送りになることは少しだけ寂しいが、昨晩の記憶は比較が難しいほど幸せなものだった。
加えて、今こうして珍しく落ち込んだ様子の縞斑に甲斐甲斐しく世話を焼いてもらう時間も悪い気がしない。
昨晩の名残でまだ緩む頬のままふにゃりと笑って見せれば、眉を下げた縞斑は神無の体に障らないよう細心の注意を払いながら彼を抱きしめる。
「食べたいものある?なんでも買ってくるよ」
なんでも、という言葉に神無の目が輝いた。
今ならあの店のケーキも、あの店のプリンも、あの店のチョコレートだってなんでもねだり放題かもしれない。
そんな誘惑に一瞬じゅるりと涎を垂らした神無だったが同時に、彼がそれを買いに出るということは自分のそばから離れてしまうことだと思い直した。
「んー、んんんんん……いや……だいじょぶ」
「めちゃくちゃ葛藤してるみたいだけど?」
「いや、ほんとにだいじょうぶ、だからえっと……」
自分を抱きしめる縞斑の腕に手を重ねた神無は、それまでの欲望を振り払ってちらりと上目で彼を見上げる。
「今日はその……いちゃいちゃしてたい、です」
抱き合ったままの神無は、縞斑がぐっと息を呑んだことに気がついた。
縞斑も神無同様に昨晩の余韻で普段より緊張が解けて感情が顔に出やすくなっているのか、彼の頬に徐々に熱が集まっていく。
照れくさそうな縞斑の顔を見れただけでお腹がいっぱいかもしれないと神無が小さく笑うと、彼は神無を抱えたまま自身もベッドに戻った。
「……そうしようか。起きたら昼ご飯にしよう」
「ふふ……うんっ」
温かな人肌と穏やかな心臓の鼓動に揺られた神無は、再び顔を出した微睡みの気配に身を任せて小さく欠伸を漏らした。
そんな神無につられて欠伸をした縞斑は、愛おしげに笑って神無の額にキスをする。
「おやすみ神無ちゃん」
「おやすみ、だらだらせんぱい」
たまにはこんな怠惰な休日も良いかもしれない。
笑って頷いた神無は、縞斑に腕を回してぎゅうと抱きしめ返すと、ルームサービスのスイーツを楽しみに眠りにつくのだった。
終