鶴丸国永という、誠実で嘘だらけな
理性と露悪の、愛の人。
鶴丸国永と光忠兄弟の話です。
ここで立ったフラグは《今剣編》に繋がります→https://privatter.net/p/11660038
@fu_re_re_ra
鶴丸国永は語る。
実はな、福島光忠。
あの日きみは主に望まれ、この本丸へとやってきたわけだが。
これには少々、裏があってな。
折を見て話しておく必要があると思っていたんだ。ちょうどいい。少し時間をくれないか。
きみも知っての通り、うちの体制は特殊だ。驚いたことに事実上の指名制を敷いてる。
今まで鍛刀を試みて、一度で狙いの刀が来なかった試しが無い。天下五剣、三日月宗近ですら例外ではなかった。そんな中で。
実のところ、きみの鍛刀だけは、二回試みられている。
あの日はちょうど、初めてきみの鍛刀時期が来た初日でな。
珍しく開始時刻まで正確に政府から通達されていた。
だから、きみの鍛刀時期が来る数時間前に、わざと鍛刀を試みてもらったんだ。
いやいやいや、もちろん驚きは大事だがな?
そうとばかりも言っていられない。例の件の後だ、オレ達の主のあの異能については、出来うる限り把握しておいた方がいいだろう、と判断したんだ。またとない絶好の機会だった。
要は、わざと当たりのないくじを引かせるようなもんさ。
もし、福島光忠が呼ばれようのないシーズン外に、鍛刀を試みたらどうなる?
空振りか、近しい長船の太刀が来るのか、はたまたまったくの出鱈目に呼ばれるのか、あるいは、……道理を書き換えて『あたり』が生まれるのか。
それを確かめておく必要があったからな。
もちろんオレの独断だ。光坊やきみの古馴染みが、そんなリスクをきみに負わせるはずがないだろう?
その点、もちろん、きみはオレを詰る権利があるが──……そうだな、きみはそういうタイプではないだろうな。すまない。主人のためとはいえ、いささか不義理をした。許して欲しい。
……あー、まったく、そういう所、光坊とそっくりでほとほと参るなぁ。
しこたま怒られる覚悟はしてたが、逆に礼を言われるような心算は無かったぜ。
きみらはほんと、良い意味で驚かせてくれるぜ。
黙ってることもできただろうって?
そりゃ、どうしても誰かが泥を被る必要があるなら、近侍が責を負うのが筋だろう。何も褒められるようなことじゃないさ。礼なんてやめてくれ。光忠はやっぱり、いささか人が好すぎるな。
もちろん主は何も知らない。彼女のことだ、きみにリスクがあるかもしれないと分かっていればやらなかっただろう。
本当は日本号が鍛刀の供をすることになっていたが、途中で情報をすり替えたんだ。
オレが主の供に付いて見届けた。
主はいつも通り、鍛刀部屋で手を合わせて熱心に祈り始めた。鍛刀する時はいつもそうなんだ。
かかる長さはまちまちだが、突然急に祈るのをやめて、その刀種が来る最大資源数を豪快にぶち込んで鍛刀するのは毎回同じだな。
だが、あの日は違った。祈っても祈っても主は鍛刀を始めようとせず、しきりに首を傾げて、終いにはこう言った。
『光らない』と。
ごめん、なんだか呼べる気がしないから、ちょっと休憩するね、と。
こりゃ本物だな。
神下ろしの姫巫女の中でも、かなり強い力を持ってる。その自覚が薄すぎるんだ。
神々というものは真摯に祈れば必ず応えてくれるものなんだと、彼女は心の底から信じて疑ってない。
得難い資質だ。だからこの結果を、己の異能が主体ではなく、応えたオレたちが神々の中でも一際親切なんだと思っているんだ。
そうして、何食わぬ顔でオレは日本号に供を引き継いで、二度目の試みできみが来た。これが全貌ってわけだ。
そうだな、この情報を正確に伝えた相手は、きみでまだ三振り目だ。初期刀と総務番長にだけ、必要があると判断して引き継いだ。ああ、誤解しないでくれ。特に加州のやつには、そりゃもうしこたま絞られた。
オレと違ってちゃんと誠実な奴だぜ。オレみたいなやつより、いざって時はあいつを頼るといい。
話が逸れたな。
さて、福島光忠。これをきみに明かしたのは、もちろんオレたちの主のためだ。
確かめたいことがあったからな。
オレを含め、彼女に鍛刀された刀剣男士たちに訊ねると、概ね程度の差はあれ共通していることがある。
顕現前の縁の大河の中で、彼女が祈る声を聴いた覚えがある、という主張だ。
福島光忠、何か心当たりはないか。
きみだけは彼女に二度呼び求められている。だから、きみだけ条件が違うわけだ。
その辺りを紐解けば、彼女の異能を知る手掛かりになるんじゃないか、と思ってな。
主人ときみだけの大切な契約に出歯亀してすまないが、可能な限り教えて欲しい。
……そうか、なるほどな。
きみも聞き覚えはあるが、それは一度きり、か。
いや、それだけでも十分収穫だ。
そうだな、ありうる可能性としては────恐らく、迂闊に条件さえ揃えなければ、彼女の声は、尊き神々の御前を騒がせない、ということじゃないかとオレは予想してる。
つまり、逆に下手に条件を揃えてしまえば……いや。
あまり嬉しくない驚きは、こうと確信できるまで言の葉に乗せるべきじゃないな。
助かった、福島光忠。礼を言う。
せめても詫び代わりになるか分からないが、きみにばかり根掘り葉掘り聞いた対価に、そうだな、今度はオレが何でも答えようか。
銘に賭けて正直に答えるぜ。好きにオレの弱みをひとつ持っていくといい。
……は?
あー、あー、あー……ほんと、きみらときたらなあ……
もちろん愛おしいに決まってるだろ。
きみの弟と出会えたのは、オレの刃生の中でも指折りの驚きだったさ。