@tirichann
「お願いがあるんだけど」
要件を言った私に対し、鉢屋は「まあ、いいよ」と答えた。それから私の好きな人に姿を変えた。私のお願いとは、好きな人に告白する練習をしたいということだったのだ。
姿は私の想い人であるはずなのに、どうしても鉢屋を意識してしまう。それでは折角鉢屋に頼んだ意味がない。
「好きです。付き合ってください」
鉢屋は何も言わなかった。練習なのだから当たり前だ。だがどこかで、私は鉢屋に答えてほしいと思っていたのだろう。その答えは鉢屋自身のものだというのに。
「これでいい?」
「うん、ありがとう」
鉢屋が元の不破雷蔵の姿に戻る。その瞬間に私は安堵した。多分、好きな人を前にした緊張感から解放されたせいだろう。
鉢屋との練習を経て、私は想い人に告白した。目の前にいる人は想い人本人のはずなのに、何故か鉢屋に告白した時の方が緊張もときめきもあった。それが何故なのだろう、と思っている内に私は想い人に微笑まれた。
「いいよ」
「あ、ありがとう……」
どうして気持ちが快晴にならないのだろうか。私の告白は成功したはずなのに。
私は恋人となった彼と共に過ごし、恋人らしくいた。だがどうも、何かが抜けているような感覚がしてならなかった。どうしてだろう。私は彼を好きになったきっかけを思い出す。彼を初めて見たのは、鉢屋が彼に変装している姿を見た時だった。
私の中で、何かが解決する音がする。それは決して聞きたくない音だった。そうあってほしくないと思ったけれど、事実は変わらないのだった。
私が好きなのは鉢屋だ。鉢屋の変装している姿を見て彼を好きだと思いこんだだけなのだ。
そうは気付いてももう私達は付き合っているし、今更間違いだったなど言えない。鉢屋もまた、私が彼を好きだと思っているだろう。
私は自分で自分を追い詰めていたのだ。後には戻れない。私は鉢屋を好きなまま、好きではない人と付き合っていく。