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束の間の休息

全体公開 人魚姫ドラヒナ 7766文字
2025-08-06 17:17:25

続きもので書いている、人魚姫ドラヒナのお話です。この話(焼き尽くされた、氷の心https://privatter.net/p/11535541)から、そのまま続いています。
師匠から契約を取ったヒナイチ姫は、魔女を騙して契約し、自身の肉で想い人を生き返らせます。とはいえ、肉の効果が効いている間だけ健康でいられ、時間が経つとリセットされるタイプの不老不死です。幸せな生活を手に入れる為に、もう少しやる事が残っています。
蓬莱島でのんびりしてる神(人気投票の神)と深海の竜(ご真祖様)の会話シーンを追加しました。
2024/03/17 に上げました。

Posted by @kw42431393

 「なぁ、ロナルド王子。私は大丈夫だ。サンズニャンを迎えに行ってやってくれないか?」 
 ノースディンと協会から派遣された使い魔達を見送って、私はやっと一息をつく。  
 昨夜から駆け回っていた上に、大量に出血し、大きな嵐をやり過ごした安堵感に、今度は眠気が襲ってくる。
 でも、まだ眠っちゃ駄目なんだ。
 魔女に薬を飲まさなければ魔女が知った後でも後悔しない様に、契約を結ばなければ。
 「大丈夫か?お前こそ最後の大詰めが、残ってるじゃないか。」

 最後の大詰めか。いや、私達が蓬莱島に向かうのが残っている。
 その前に、私とドラルクの体が落ち着いたら私は、『ある事』をあいつに託したいと思っている。
 幼い頃から病魔と隣り合わせに生きていた魔女は、後ろ向きな所があって心配だ。
 私達が帰って来るのが、遅くなっても大丈夫な様に、希望を持たせておく必要があるんだ。
 あと長命種である私達の繁殖能力は、低い。チラリと、お腹を見る。
 緑の鱗で隠れた奥本能的に分かる。もうすぐ、私は成人する。繁殖期も近いんだと思う。
 ここを逃すと、次の周期が数十年後になるかもしれない。
 出来れば、サンズとは母親としても、一緒に相談し合える親友でいたいと思っている出かける前にやる事が、いっぱい残っているな。
 大詰めというよりは、折り返し地点な気がする。

 「それも、そうなんだが。さっき言った、『氷笑卿が誘拐した女性は盗み出したから、とっくに親元に帰っている』というのはハッタリだ。いくら、サンズでも厳しかっただろう。」
 やっと、今頃親元に返して、帰路についているぐらいではないだろうか。
 「彼女も、ほとんど休んでいない。迎えに行ってやってくれ。」
 「分かった。あのおっさんから契約を取った、魔女様を疑う必要なんてないからな。あいつから、契約を取るなんて訳ねえ。ジョン、頼むぜ。」
 「ヌン。」
 シャチに乗って、サンズと落ち合う場所に向かうロナルド王子を見送る。再び、ジョンと一緒に魔女の寝室に戻ると、魔女の呼吸も心音も微かになっていた。
 そろそろだろうか。出来るだけお前を苦しませない、という観点からいうとこの薬を飲ませて生き返らせるのは、絶命するギリギリの方がいいんだ。



 「起きてくれ!魔女!聞こえるか!?とうとう、契約は完遂されたぞ!」
 大声で呼びかけながら、ドラルクを激しく揺さぶる。『契約』『完遂』その言葉に、瞼がピクリと反応する。
 お前は、その2つに命をかけていたからなそれが、人ならざる者達の執念だ。
 「お、ひめさま?おかえあれ、ノースは?」
 「私達が説得して、帰って貰ったぞ。ちゃんと、了承済だ。」
 「?そんなやつじゃ。」
 「どうでもいいだろ?それより、これを見てくれ!!」
 実際、時間もあまりない。無視して、私は紫に光る契約書を突き付けた。
 しきりと瞬きをしたり、目を擦っている事から、ほとんど何も見えていないはずだ。だが、光は感じている様だった。
 「け、けいやく。や、やった。やっと。」
 虚空を泳いでいた目が、契約書に止まる。子供の様に、嬉しそうな顔をした。だが、そのまま再び眠ってしまいそうだ。
 だから、頬を挟んでこちらを向かせる。
 今ならいける。たぶん、疑わない。
 出来るだけ、擦って温めておいたけど義手がバレませんように。
 「なぁ、魔女!これで、私は毎日ここに通う必要が、なくなったんだ!契約を更新してくれ!早く、サインを!!」
 ここに向かう前に作った、私の契約書。
 オレンジに光る契約書。

 ・深海の魔女ドラルクは、太陽の魔女ヒナイチの肉を食して、永遠の命を得る事
 ・永遠にヒナイチと共にある事。永遠にヒナイチの為に、クッキーを焼き続ける事。それが除外されるのは、ヒナイチがロナルド王子達と、蓬莱島に旅立っている間のみ
 ・旅立つ前にヒナイチと婚姻し、預けられた卵を守り続ける事
 ・どんな事態になろうとも、死んでは蘇り続ける運命を受け入れる事
 対価として、ヒナイチは、魔女ドラルクから死の恐怖と病魔の苦しみを奪い、永遠に共にい続ける事を誓う

 出来るだけ、堂々と急かす様に契約書を突き付けた。ちゃんと読む余裕はないはずだ。
 予想通り、彼は読みもせずに、自身が吐いた血で汚れた指を差し出してくる。
 「ぼいんでいいか、ね?」
 「勿論だ。」
 血の方が、サインより確実かもしれない。ペタリ、と指が降れると契約書が輝きだす。
 魔女がうっすらと目を閉じた。
 満足しきった顔とは、こういうのを言うのだろうな。
 「魔女ドラルク。これで契約は完了だ。だから。」
 ここからが、正念場だ。魔女が見ていない隙に、薬を口に含む。
 この瞬間の為に、私は『無邪気で、可愛い人魚姫』を辞めたんだ。
 「さ、さようなら。ひないちひめ。あい

 バカを言うな。楽になんて、させてやらない。
 たった今、お前はこの私太陽の魔女と契約をしたんだ!
 皆まで言わせないで、口づけをする。舌を押し込む。
 今まで、何度となくキスぐらいまでならしているから、前よりは上手になっているはず。
 本当は契約を完遂して、二人の思い出になる甘いキスのはずだった。こんな騙す様なキスじゃなかったはずなのに。
 「ぐっうぅ。」
 苦しそうな顔を見て心が痛む本当だったら、もっと気持ちよくしてやりたかったのに。
 「おひめ、さ。」
 「うん。」
 最後の足掻きの様に必死にしがみついてくる、両腕と触手。
 大丈夫だ、疑ってない。だから、堂々と魔女の口内に薬を流し込んだ。
 魔女の長い舌が、こちらに侵入してくる。痩せ衰えて飛び出た喉仏が執念の様に音を立てて、何度も動く。
 ゴクゴクと音を立てて私の思い通りに。
 「ぷはっはぁはぁ。」
 「ドラルク飲んだな?全部飲んだな?」
 やった!私の勝ちだ!この為だけに、ずっと私達は準備をしてきたんだ!
 「こ、これ?あぁ。」
 私の下で、魔女の表情が不審げに歪む。やっと得た勝利に思わず、口角が上がる。
 やっと、違和感を感じたのだろう。魔女の触手が、私の左手を這いまわる。
 見た目は、精巧につくられた義手だ。しかし、手触りが違う、体温もないなにより味がない。
 今頃気づいたんだな?でも、もう遅いんだ!
 「クスクス、魔女。契約書は、ちゃんと読まないとダメじゃないか。」
 とびっきりのヴィランを気取ったセリフで、止めを刺す。後悔する事も許さない、と知らしめる為に。
 これを聞いたお前は、どんな顔をするのだろう。

 『私の知っている、人魚姫じゃない』と、絶望するだろうか?
 『私が育てた、自慢の魔女だ』と、頭を撫でてくれるだろうか?
 「さようなら、なんてさせるもんか。どんな惨い苦しみが待っていようとも、お前はもう死ぬ事さえ許されない。私と永遠に一緒にいるんだ契約は絶対だ、お前がいつも言っていたじゃないか。」
 紅い瞳が、こちらを凝視する。悪い魔女を救う為に魔女になる、その決意をしていても心臓が破裂しそうだ。本音では、嫌われるのは怖い。いつもの様に笑いかけて欲しい。
 でもお前がいなくなるのはもっと嫌だから。

 「な、なぁ魔女。」
 「あ、ありが、とう。わたしののぞ、みをかなえ、てくれて。あらたなまじょ、にしゅくふく、を。」
 よかった。この選択は、間違っていなかったんだ!
 痙攣する細い手が、私の義手を取る。微かなリップ音と共に、紅い瞳の中の瞳孔が開いていく。微かな心音も消えていく。
 「少し眠れ。生き返ったら、さっそくクッキーを焼いて貰うぞ。永遠に私の為にクッキーを焼き続けてくれ。」
 耳元で最後の呪いを吹き込むと同時に、背後でゴロリと音がした。
 ジョン、ありがとう。お前も苦しかったよな、我慢して、あんな修羅場でも傍にいて怖かったよな。
 「ジョン、お前もこっちにおいであれ?」
 手を伸ばして、ジョンをこちらに抱き寄せようとした時、シュルリと触手が動かなくなったジョンを絡めとる。そして、彼もローブの中に引き入れた。私の事も離そうとしない。
 ローブの中で、私達は一つになった。
 ずっとこうしていられたらいや?

 「そうだった。契約を完遂したから、私もずっとここにいていいんだ。サンゴ礁に、帰らなくていいんだ。」
 だから、どんなベッドより安心して、寝心地のいい、ローブの中で目を閉じる。
 ジョンの頬をつつきながら、私はドラルクの骨と皮の胸に、耳を押し当てる。

 トクトクトクン
 「ヌーヌー。」

 しばらくじっとしていると、私の大好きな3つの心臓が拍動する音と、可愛らしいジョンの鼾が聞こえてきた。

 「おかえりドラルク、ジョン。」
 やっと帰ってきた、私の幸せな時間。
 これから、作っていく幸せな時間を堪能しようまた、友人達と旅立つまでの束の間の休息を。



 ドラルク様、まだ病み上がりヌから。無理しちゃ駄目ヌよ。

 ジョンにはそう言われるけれども、無理ぐらいするよ。だって、契約だもの。
 「フフ。大丈夫だよ。それに、『生き返ったら、早速焼いてくれ』って言われているもの。」
 無理をした所でもう『死ぬ』事は、ないのだから。厳密には、すぐに生き返る事が出来るのだから。

 『お姫様、ちゃんと作ってあげられなくてごめん。お味はどうかね?』
 『おいしいぞ。お前が作ったんだ。おいしくないなんて事はない。』
 寝たきりだった頃、それでも『毎日、私が作ったお菓子を提供する』という契約を果たす為に、私は魔法の遠隔操作で、お菓子は焼いていた。目の前で、クルリとアンテナがハートマークを描いていたから、その言葉も嘘ではないはず。
 それでも、その笑顔は暗かった。見ていて、とても辛かった。
 昨夜の契約で、お姫様の肉で生き返ったと言っても、それまでのダメージがあるのだ。体が衰えているのは、仕方がない。それでも、やはり自身の手で作ったものを食べさせてやりたい。
 私も、純粋にこの過程が大好きだから猶更だ。

 あ、焼けたヌよ。いい匂いヌね。

 オーブンからクッキーを取り出す。桃の花を象ったかわいらしいジャムクッキーを。
 「本格的なケーキは、今晩焼くよ。その頃には、ロナルド王子達も、もう一度来るだろう。」

 今日は、3月3日。私の大事な人魚姫が、生まれた日。
 貴女が成人となって、他国に嫁入るかもしれなかった、少し前の私にとっては忌むべきタイムリミット。
 でも、もうそんな事は気にしなくても、よくなったのだ。昨日、契約が完遂されたのだから。ヒナイチ姫は、この私の可愛いお嫁さんとなったのだから。
 昨夜生まれたばかりの、一人前の『太陽の魔女』の誕生日も併せて祝ってあげたい。
 イナ海国で誕生祝をするのではないのか、って?
 そこはヒナイチ姫次第だね。どちらにしても、私はサンゴ礁まで移動する程、回復してはいないから。
 クッキーを冷ましている間に、紅茶を淹れる。チラリと私達の寝室を見る。まだ、あの子は眠っているだろうか。
 所謂、『Early Morning tea』というやつだ。師匠から教えられた時は、気障ったらしい習慣だと思ったがお姫様には毎朝でもやってあげたい。朝一番に、あの笑顔を見せてくれるのだから。

 ドラルク様、その鼻なかなか取れないヌね。

 困った様に笑うジョンに、思わず苦笑いする。生き返って一番に、友人にされた事が、気遣いの言葉ではなく、鼻を摘ままれて捻られるとは
 「赤いの、まだ取れないかね。」
 ああ、赤鼻の魔女なんてしまらないものだ。

 『ったく!ジョンとヒナイチの事考えたら、腹パンしてやりたいけど勘弁してやる!じゃあ、俺達も帰るからな。』
 腹パンはやめてくれ給え。不死者になったとはいえ、痛いものは痛い。
 『師弟揃ってが頑固だから、大変でしたよ。契約書をちゃんと見直してから、もっかい寝てろです。』
 そう言って、そっくり反ったサンズ姫の姿は、ボロボロだった。聞けば、北海のノースディンの居城に潜入し、その貴族令嬢を盗んで、親元に帰してくれたらしい。
 『ありがとう。かえすがえす、君達に足を向けて寝られないね。』
 私の腕の中で眠り込んでいる、ヒナイチ姫の義手を撫でる。そっと、その手に頬擦りをした。
 痛かったろうに。貴女に痛い思いをさせたくなくて、死を受け入れる覚悟をしたというのに貴女のその思いが、もう一度死んでもいい位嬉しい!
 『その顔後悔してねえな?あんだけ拒否してたのに、腑に落ねえ気もするが。いいんだな?』
 ロナルド王子が、ため息をついた。視線の先には、私達の契約書がある。

 『私の意志で、サインをしたのだ。見えてなかった、というのは関係ない。寧ろ、人間達の考えの方が、不思議だねえ。』



 ノックをして、寝室に入る。
 暗くて狭い私の寝室に、魔女の正装を解いてないヒナイチ姫が眠っている。 
 「おやおや、眠り姫。そろそろ
 「!?クッキー!!」
 クッキーの気配で飛び起きる。いつも通りのクッキーモンスターだ。
 ロナルド王子とジョンの話によると、あの北海の氷笑卿を追い返し、彼から契約をもぎ取った妖艶な魔女のはずだけど。

 「魔女お、おまグスッ。」
 おやおや、眠る直前にみた『苛烈な太陽の魔女』は、『いつもの甘えん坊な人魚姫』に戻ってしまったね?
 「ヌヌヌー!」
 「おはよう、ヒナイチ姫。それとも、太陽の魔女と呼ぼうか?」
 ぷぅ、とますます頬を膨らませる姿に苦笑する。そして、安心する。
 聞けば、『私に嫌われるのではないか、と不安がっていた』のだという。私は、貴女であればどんな姿でも、よかったのに。
 「あの髭をやり込めた勇姿を、見たかったなあ。」
 「いい!もう、ヴィランはやらない!もう、疲れた!!」

 ヒナイチ姫、落ち着いてヌ。ドラルク様も悪かったと思ってるヌから。

 ベッドテーブルに、クッキーと紅茶を並べる。動いている私を見て、安心したのと、臍を曲げたのとポロポロ涙を溢しながら、クッキーを口に運ぶ。
 「ありがとう、本当にありがとう。だから、こっちを向いて?お願い、ね?」
 一秒でも、早く貴女の笑顔を見たいよ。
 「し、しらなっはぐっもぐっ!?ケホケホ!」
 噎せた彼女に、お茶を差し出す。背中を撫でていると、急にお姫様が抱きついてきた。
 「グスッな、なあ。魔女。契約書、ちゃんと読んだな?」
 「うん。」
 「お前は、留守番だ!私の繁殖期が来たら、私達の卵を守って、ここにいるんだ!」
 「うん、うん。」
 「私の肉で作った薬だから、しばらくは元気でいられると思う。だけど、切れたら断末魔の苦しみを味わう事になる。いいな?」
 いいよ生き返ったら、またリセットされてるんだから。慣れてしまえば、問題ない。
 「出来るだけ、早く帰ってくる。いいな?寂しくても、変な事を考えるなよ?」
 「どんな言い付けでも、従います。契約は絶対だものノースをもやり込めた、自慢の一番弟子なら尚更。」
 興奮が落ち着いたのだろう、涙を拭ってやると、お姫様は、ポツリと溢した。

 「まだ、塩クッキーにハマってるのか?今のクッキーもしょっぱいぞ?」

 ごめん、ごめんね。もう、貴女を不安にさせないから。泣かせないから。

 「愛してるよ。」
 死ぬ間際に、塞がれた言葉を紡ぐ。さりげに、お互いの思いは自覚して伝えているのに、何故かこの言葉を使った事はなかった。
 「愛してる。だから、もうお前の元に通わない。」
 「私達の願いは、元々同じもの。だから、お詫びに今夜、とびっきり美味しいケーキを焼いてあげる。」
 「ずっと私と一緒にいろあと、甘いクッキーもキャラメルも、プリンも作れ。」
 その様子だと忘れているのかな?
 そんな事ないよね?

 「誕生日おめでとう、ヒナイチ姫。珊瑚礁に帰らないでおくれ。そして、今夜を楽しみにしておくれ。」
 今夜は、私の可愛い人魚姫が生まれた日。
 昨夜の太陽の魔女の誕生祝い、私とジョンの第二の生への祝い、ロナルド王子夫妻の労いに、計画成功の打ち上げと腕の振るい甲斐があるというものだ。

 「少しは、手伝う。無理をすると、デスリセットが早くなるから。」
 



 「おっ、これはやりおったな。」
 やあ、久しぶり!誰かって?ワシじゃと言っても、詐欺じゃないぞ。
 蓬莱島の神よ。前は仙人って言ってなかったかって?どっちでも構わんぞ。
 何しろ、ずっとシリアス続きで、ぜ~んぜん出番がなかったもんでな。もー、退屈で退屈で。
 
 「そうじゃあ、お暇なんだ?」
 「折角、お暇しておったのにな。あんただろ?潮の流れを変えたのは。」
 深淵から不穏に響く様でいながら、その実、何も考えていない様な声に振り返る。
 「冬眠から覚めるには、少し早いんじゃない?」
 そこにいるのは、引き込まれるような漆黒の鱗とお茶目な深紅の瞳(本人曰く)が印象的な深海の竜大公だった。
 「メンゴ。訳あって、息子がイナ海国のヒナイチ姫と契約したから、ちょっと早く起こされちゃった。」
 「訳あって、ちょっとな。まぁ、いいか。ワシでなかったら、何が何だか分からんだろ。」
 とっくの昔に、こうなる事は知ってたからな。何故って?ワシは、強大な力を持った畏怖い、畏怖い神だぞ!その程度の事を、把握してない訳はないぞ。
 悪い噂も多い竜の孫ではあるが今回の功績はそれまでの罪状をチャラにして、お釣りがくる。
 奴とその伴侶、友人達の願いを特別に聞いてやっても構わんそれだけの価値はあろう。
 「そ。孫の友人達がここに来たいから、潮の流れを変えちゃった。じゃあ、後の事はヨロ。」
 「ヨロじゃねーわ、バーカ!お前、ちっとは手伝えっって。やれやれ、もう行ってしまったか。」

 相変わらず、自身の影響力を考えん奴。潮の流れを変えるという事は、この島だけでなく、世界中の気候や生命、各国の経済にも甚大な影響を与えかねん。だから、ワシに頼みに来たっちゅう訳。ワシは、超絶に畏怖い神だからな。そのぐらい、軽い軽い。
 「あ~、仕方ない。ワシも用意しとくか。」
 数年ぶりの客人を迎え入れる前に、あの竜のやらかしによる影響に対して、手を打っておかねばならん。いいや。これから、起こる事を考えると

 「今回の件で、陸と表層、深海の多くの国で交流が盛んになる。膨大な恩恵と甚大な災難を誘発する事になるだろう。その友人達とやらを帰した後もこれまでの様に、のんびりしてはおれんかもしれんなあ。」


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