@tirichann
凄腕のエリート忍者といえど、間違いは起こる。大事に懐に入れていた婚姻届が風に乗って飛ばされることもある。はたまた何かとトラブルを起こす小松田が、その婚姻届を入門票と間違えて出してしまうこともある。
事の次第はこうだった。利吉の記名済みの婚姻届を小松田が拾い、名前に差し出した。名前はサインをした後で、入門票ではないことに気付いた。夫となる欄に名前があるのは利吉だが、婚姻届を渡したのは小松田だ。
「この場合僕が名前さんと結婚することになっちゃうんですか〜!」
小松田と名前で、頭を抱えて天を仰ぐ。この二人には、利吉や六年生にあるような落ち着きがない。まるで名前と結婚することが不名誉とでも言うような小松田の言い方に苛々としつつ――本当はもっと別のことに苛ついているのだろうが――利吉は婚姻届を回収した。
「そんなわけないだろう。書類は貰って行くぞ」
涼しい顔をしているが、そもそも婚姻届を落とす失敗をしたのは利吉である。そのことを突っ込まれないかと肝を冷やしているが外面はいい。思い出したように名前が一歩前に出た。
「あの、求婚は」
折角の結婚なのに、とんだトラブルに見舞われてしまった。これで結婚がなかったことにならないかと不安なのだろう。利吉としては勿論結婚を反故にするつもりなどないが、入籍のきっかけが小松田なのは不服だ。
「彼に邪魔されない所でやるから待っていろ」
それだけ言い残し、利吉は退散した。今日の汚名を返上できるような求婚の方法を考え、深いため息をつく。今エリート忍者を悩ませているのは、恋についてだ。そんな日もあるだろう。