X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

小さな背中、大きな手のひら・医パロ

全体公開 4 129 3000文字
2025-08-08 21:58:14

2・保健室の先生(医者)
8・医者(9の保護者兼救命科医)
9・ショタ(体は弱め)

#小さな背中、大きな手のひら

「失礼します」
 ノック音と共に姿を表したのは、二年二組担任の教師と、そのクラスの子どもであり、友人である八乙女楽と十龍之介が現在引き取って育てている、七瀬天だった。
 赤い顔に荒い息、聞き間違いでなければ、呼気には喘鳴が混じっている気がする。
「はーい。あらま、顔真っ赤じゃん」
「そうなんです。本人は辛くないと口にするんですが、明らかに熱があるようで……
「わかりました。ありがとうございます。あとはこっちでなんとかしますよ」
 小さな体を長椅子に座らせて担任を帰らせると、天は小さく見を震わせる。快適な温度になるように調整してあるはずだが、ここまで赤い顔をしていれば寒いのかもしれない。
「とりあえず、熱測るか。はい」
……ねつ、ない」
「無くても怪我以外は測るんですー。保健室のルールだから。ほら」
「ないってば」
 その言葉には力も迫力もなく、ただの駄々に聞こえる。計測終了の音がして取り出された体温計には、六度台の体温が示されていて、思わずため息を吐いてしまう。触れた瞬間から熱いとわかるのだから、八度は確実に超えている。肩で息をするくらいなのだから、下手をする時九度近い可能性だってある。それなのに、この子どもは。
「とりあえず、先生が連れてきたわけだし、一時間くらいベッドで休むか」
「元気だもん……
「これで何もせずに返したら先生が叱られるでしょうが。ほら、ベッド行くぞ」
 渋る背中を軽く押して、ベッドに横たわらせる。それだけで深く息を吐いているのだから、限界も近いだろう。
「ぅ、」
「ほい、前髪ごめんな」
「えっ、あっ、だめ!」
「あらま。こりゃ早退だな」
 簡単に八度後半を叩き出した体温計を見て、ため息と共にそう告げる。これほどわかりやすければ、朝のうちに二人に気が付かれていそうなものだが、学校に来て熱が上がってしまったのかもしれない。ただでさえ忙しい二人だ。手が回らなくても仕方がないだろう。
「電話かけてくるから、ちょっと待ってなさいね。寒い?」
「、平気」
「平気がどうかじゃなくて、暑いか寒いか聞きたいんだけど?」
……
「寒いのね。どっか辛いところ、言える?」
「辛くないの。辛くないから、平気」
 だから電話しないで、と懸命に訴えてきているが、ここまで熱が高ければ迷うことなどない。
 毛布を重ねてやりながら、汗で濡れた頭を軽く撫でてやる。
「まぁいいや。八乙女と十さん、どっちがいい?」
「っどっちもダメ!」
「どっちもはなし。んー、八乙女か」
「だめ、っ」
「っと、危ないからベッドで休んでなさいね。電話してくるから、ちょっと待ってて。気持ち悪くなったらここに洗面器あるから」
「呼ばないで……!」
「暴れたら熱あがっちまうぞ。ほら、体倒して」
「呼ばないでっ!」
「だーめ。もうそんなレベルじゃないくらい熱があるの。しんどいだろ? 十さんに見てもらって、ちゃんとお家で休みなさい」
 熱があると言えば、あの二人はきっと際限なく甘やかしてくれるだろうに、なぜこの子どもはここまで嫌がるのだろう。不思議に思いながらも、嫌がる子どもの背を摩って呼吸を促してやれば、少しずつ瞳が閉じていく。体力的にも限界なのだろう。
 健やかとは言い難いけれど、小さな寝息が聞こえたことに安堵して、職員室へ向かう。電話をかけた後に教室に荷物を頼みに行けば、きっとちょうど休み時間になるだろう。
 楽に繋がらない可能性も考えてけれど、幸運なことに急患がいなかったのか、ストレートに楽まで繋げてもらえた。
「もしもし?」
『二階堂? どうしたんだ』
「天が八度越えの熱発。迎え来れるか?」
『天が!? わかった、今から向かう』
「知ってるかもしれないけど、着いたらインターホンな」
『ああ、サンキュー』
 この様子なら、きっとすぐに迎えにくるだろう。天は嫌がるかもしれないが、迎えがすくに来てくれると言うのはありがたい。
 そのまま教室に行って天の荷物を頼めば、すぐに渡された。どうやら、あらかじめ準備してくれていたらしい。
 誰も保健室に来ていないことを願いながら戻れば、室内は静かなものだった。
 天の様子だけ確認するつもりでカーテンの中に向かえば、この短時間で目を覚ましてしまっていたようで、こちらを見て眉を下げた。
 荒い息がどうにも気になって、近くの椅子を手繰り寄せて背中を摩ってやる。
「ねぇ」
「んー?」
「二人に、来ないでって言って……?」
 潤んだ瞳からぽつんと一雫落ちて、一度落ちるとあとは立て続けだ。ぱたぱた枕の色が変わっていくのを見ながら、はぁはぁと上がってしまう息を助けるように、胸元でリズムをとってやる。
「もう呼んじまった後だからなぁ」
「体温計壊れてたとか」
「ちょっと無理があるなぁ、それは」
「んん、っけほ、じゃあ、」
「ほら、咳出てるんだから無理に話さない。体調悪いのは仕方ないだろ?」
 頬を膨らませて不満を訴える天だが、体は明らかに限界を訴えている。小さくても主張をやめない喘鳴には眉を寄せるしかなく、早く迎えに来てやってくれと願う。
 なんと言ってももう迎えがくることに変わりはないのだと理解したのか、天は静かに瞼を落とす。
「は、はぁ、っは、」
「しんどいなぁ」
 短い呼吸のたびに上下する小さな小さな背中は、自身が摩ってやったところでどうにもならない。だけど、一人にすれば途端に規則的なリズムは壊れてしまうから、一人きりにすることはできなかった。
 来た時こそ強がっていたけれど、ベッドに横にして布団をかけてやった瞬間からこの小さな体は不調を隠さなく、否隠せなくなった。
「八乙女が迎えに来てくれるからな。もう少し頑張ろうな」
「ぅ、けふ、」
 固く閉ざされた瞼は時折揺れるけれど、目を覚すまでには至らない。手を当てている背中からも聞こえてくる喘鳴は苦しげで、本来ならこんなそばにいることだって褒められないだろうとわかっているのに、そばを離れることができない。
 人が来ることがあるのはわかっていたけれど、迎えにはもっと時間がかかると思っていた。だから、つい大きな声をあげてしまった。
「失礼します」
「っはーい!?」
 慌ててカーテンの外に向かえば、スクラブにパーカーを羽織っただけの楽がいて、驚きで口が塞がらない。
「はっや」
「天は?」
 滴る汗を拭う楽は、こちらの言葉に返事すらせず、天のことを問うてくる。
「こっち。だいぶ熱高そうだから、そのまま十先生のところ連れてってあげた方がいいかもな」
「サンキュー。龍にも言われてるから、そのまま連れてく。……天」
「ふ、っふぅ、」
「天。迎えに来たぞ。天」
「ん、……ぅゆ、がく?」
「ああ。龍のところ行こう。辛いの治してもらおうな」
「ふぅっ、ふ、ん、で、がく?」
「熱あるんだよ、天」
 楽に抱き上げられた天は、楽の肩に頭を乗っけると、そのまま目を閉じてしまう。それだけ辛いのだろうと思うと、先ほどまでの強がりを思い出して苦笑いしてしまう。
 もともと小さな体は、大人の中でも大きめな楽に抱き上げられたことによってさらに小さく見えて、少し微笑ましい気持ちになる。
 あの子どもが、帰ってからちゃんと甘えられることを今は切に祈った。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.