@xxxyueyunxxx
さあ、自分の番だ。何度確認しても、正しい札は無い。……今はこれを出して凌ぐしかない。大丈夫、きっと大丈夫。素知らぬ顔をして出せば、何も言われないはず――
「七」
どきどきする胸をおさえながら、ランフォードは数字をコールして場に一枚のカードを出した。さあ、このまま次に順番が回ればそれで……
「ダウトだ、ラン」
そこに低いよく響く声が、容赦なくかけられた。――ジェフだ。ランフォードはじと目になりながら、ジェフを見つめる。ジェフはというと、いつも通り涼しい顔をしていた。
「ほら、ラン。札を返せ」
――万事休すだ。ランフォードは札を表にする。自分ではよくわかっている、ジェフを騙し通せなかったその札――数字の七では無いカードを。
「……ねえ、ジェフ。もう少し手加減というものをだね」
「そうよ! おじさん、性格悪すぎ!」
「ほう? そういうことをされて、お前はゲームが楽しいタイプだったか? あとソレイユ、俺様はこんなところで手心は加えないぜ」
積まれていた札を全て手札に加えなながら、ランフォードは小さくため息をつく。ジェフを相手にするダウトは、これで今日だけで十連敗であった――
ランフォードはたびたび、ゲームをする。それはテレビゲームのこともあるし、ボードゲームのこともあるし、はたまた今日のようにカードゲームのこともあった。
相手はその日による。家族であるサティナやソレイユ、友であるジェフ、あとは忠実な部下であるヴァレールなんかも相手にする。
ランフォードはゲームが好きであった。――ただ、好きこそものの上手なれ、とはいかなかっただけで。
今日のゲーム相手は、娘のソレイユと、遊びに来ていたジェフであった。娘のソレイユは自分と似たようなタイプであったが、問題はジェフだ。
ジェフは、ランフォードの苦手なタイプのゲーム――七並べやチェス、そして将棋に囲碁、そして今日やっているダウトのようなゲームに滅法強かったのである。現在通算何敗しているかは、正直考えたくない。
ならばその手のゲームをしなければ良いのに、やりたくなるのがランフォードであった。
「ほら、手札がなくなったぜ。――また俺様の勝ちだな」
「えー、もう? おじさん、無茶苦茶よ! さては、全部正しい札が来てたんでしょ?」
手に持った手札を振り回しながら、ソレイユがジェフに突っかかっている。ジェフはというと、にやりと不敵な笑みを浮かべていた。
「そんなことがあるわけ無いだろう。俺様に騙されるのが悪い」
――ランフォードも全くわからなかった。一体ジェフは何度嘘をついていたのだろう。ジェフはこういうゲームの中以外では、絶対に嘘はつかない。つまり、ランフォードもソレイユもまんまとジェフに騙されていたということになる。
「あーもう、またあたしたちの負けよ、パパ! もう一回やり直しよ、やり直し!」
「そうだね、ソレイユ。――ジェフ、次こそは負けないよ」
「ほう? 本日十一回目の勝負を挑むのか? ――上等だ」
ジェフがその大きな手でカードを切っているのを見つめていたそのとき、背後に突然誰かが立った。一瞬身構えたが、よく知る気配にすぐに警戒を解く。
「ランフォード様」
振り返ると、思った通りの者が立っていた。整えられた短い黒髪を真ん中でわけて、細いフレームの眼鏡をかけた黒瞳の魔族――ランフォードの部下、ヴァレールだ。
「おや、ヴァレール。何か変わったことがあったかね?」
「いえ。何も変わりないことを伝えに参りました」
何だ、そうだったか。――席を外そうとしていたジェフに、その必要は無いことをランフォードは示した。
「こちらが報告書です。後でお目通しお願い致します」
「わかったよ。ありがとう、ヴァレール。――ところで、君はすぐに帰らなくてはいけないかね?」
「いえ、別にそういうことはございませんが……」
ランフォードは内心ほくそ笑んだ。そうだ、ヴァレールもゲームに参加させてしまおうと。実はヴァレールもゲームには強い。一度、ジェフと勝負してほしいと兼ねてから思っていたのだ。
「それなら私たちと一緒にゲームをしよう。ルールは私が教えてあげるからね」
「俺が、ですか? あの、しかし……」
ヴァレールは他部族の長であり、ランフォードの友でもあるジェフがいるので、遠慮しているようだ。頭を下げてヴァレールが固辞しようとしたところで、ジェフが口を挟んできた。
「――俺様のことなら、気にするな。向こうでの地位は一切考えず、対等な勝負を願うぜ、ヴァレール」
「……そういう、ことでしたら。――一勝負お願い致します、ジェフ様」
「前にランが、お前は強いと言っていたからな。楽しませてもらうぜ」
ヴァレールが、ソレイユが示した場所に座り込んだ。いつも通り、きちんと背筋を伸ばして。
「あのね、ヴァレール。あたしたち、さっきからおじさんに負けっぱなしなの。ビシッと勝っちゃってね!」
「ソレイユ様のご期待に沿えるかは分かりませんが、俺のやれる限りのことはやってみましょう」
「私も期待しているよ、ヴァレール。もうジェフには何回負けたかわからないんだよ」
ランフォードはヴァレールにダウトのルールを教えはじめる。――さあ、君の瞳はどこまで見通せるかな? 札を配りはじめるジェフを見やると、これから始まる勝負に思いを馳せるのであった。