二宮夢
@tirichann
「昨日は楽しめたか? よかったな」
ボーダーで飲み会をした翌日、二宮は私を見るなり苛ついた表情をした。二宮が私に腹を立てるのは珍しいことではない。しかし太刀川を見るような目をしなくてもいいだろう。二宮も飲み会にいたのに、どうして他人事のような聞き方をするのだろうか。
その答えは定かではない。何しろ、私は酔っぱらって昨日の記憶がないのだ。
二宮が去ってしまった後、入れ替わりのように太刀川が現れた。
「おーい、彼女なんだからおはようのチューくらいしろって」
この馬鹿は、何を言っているのだろう。私は思わず二宮に聞こえていないか確認した。二宮には聞こえていたのかもしれないが無反応だ。よかったのか悪かったのかはわからない。私は太刀川を隅につれていき、何をふざけているのかと尋問した。
「だってお前が言っただろ、付き合ってほしいって」
「は?」
太刀川は軽薄な笑みを浮かべながら説明した。昨日の飲み会で私が太刀川に告白したこと。それで恋人同士になったこと。思い出してみれば、太刀川の隣に座っていたような気がしないでもない。私が好きなのは二宮のはずなのにどうして太刀川に告白してしまったのだろう。
思い当たるのは、泥酔していたことだった。私は太刀川と二宮の区別がつかなくなるほど、そしてみんなの前で公開告白をするほど酔っていたのだ。だからそれを見ていた二宮は「よかったな」と言ったのだろう。
「本当に悪いと思ってるけど、二宮と太刀川を間違えた」
私は太刀川に告げる。太刀川はショックを受けるでもなく、浮ついた笑みを浮かべていた。
「まあそんなもんだろうと思ったけど、俺はやることやれるなら何でもいいぜ」
「最低! 今から誤解ときにいくから」
「二宮に?」
二宮は、少し怒っているようでもあった。私が太刀川などを選ぶような趣味だと知って軽蔑したのかもしれない。私が告白したのは間違いだと告げるのは二宮に告白するも同義だ。
「一緒に来てくれない?」
太刀川は堂々と腰に手を当てた。
「巻き添え喰らいそうだから嫌だ」
頼りにならない彼氏を捨て、二宮隊の隊室に行く。幸運と言うべきか、二宮一人だった。「何の用だ」と言う二宮はもう他人になってしまったかのようだ。私は部屋の入口に立ち、事の次第を説明した。
「酔っぱらって、間違えて太刀川に告白しただけで、私が好きなのは二宮なんです」
告白した後とは思えないくらい空気が重い。二宮は頬杖をつき、机に指を何度か叩いている。怒りを沈めているかのような様子だ。
「俺とあいつはそんなに似ているか」
二宮が太刀川をあまり気に入っていないことはわかる。二宮を好きだと言うその口で、太刀川を二宮だと間違えたら不快に思うだろう。
「そもそも人を間違えるまで飲むのはどうなんだ」
私達の空気は告白というより懺悔だった。二宮は完全に教師のような顔をしている。
「本当にごめんなさい」
「もう一回、俺の目を見て告白しろ。太刀川にしたやつ以上の告白だ」
告白をするのはいいが、何故太刀川にしたものと程度を争うのだろう。そもそも私は太刀川にした告白を覚えていないし、超えようがない。告白をしたところで二宮は相手を間違えるような私と付き合う気はないかもしれない。
そんなことを言っている余裕もなく、私は二宮に深々と頭を下げて告白した。間を開けずに二宮が「わかった」と言うものだから拍子抜けする。今までの空気は何だったのだと思うけれど、それも私を好きなせい、だったのだろう。二宮を見ると、「文句があるのか」と険しい顔をしていた。今だけはそれが照れ隠しに見える。