タイトルが全てのギャグです。
@fu_re_re_ra
「おっ、今日の手合せの相手は長谷部か?」
ぴんと冷えた朝の空気の中、稽古用の木刀を肩に担いで、軽やかに鶴丸国永が笑った。
雪花舞う外から足を踏み入れた長谷部は、道場に上がり込みながら、白い息をわずかに吐き出した。
「朝からサボらず出てくるとは珍しいな。なるほど、この雪は貴様のせいだったか」
「あははは! 驚くほど信用が無いな!」
「当然だろう、脱走常習犯が」
ふん、と鼻を鳴らした長谷部が、冷たい空気の中、軽く体を伸ばしてこきりと肩を鳴らした。
朝一の道場の掃除は内番が当たった者の務めだが、珍しいことに先に鶴丸が終えていた。
塵一つなく磨き上げられたピカピカの道場に、ますます長谷部は胡乱な顔をする。
「おい鶴丸、貴様、今度は何を企んでいる。今吐けば書類仕事三倍で許してやっても良い」
「本当に信用が無いなぁ!?」
「これまで己がしでかしたアレやコレを振り返ってみろ。むしろ信用されると思っているのか。今度はどこに落とし穴を掘った? 何に覗き穴を空けたんだ? 罠を仕掛けた場所を吐け」
「あっはっは! 多すぎて忘れたぜ!」
「圧し切るぞ貴様」
「けどなー、この寒さだろう? みんな部屋で大人しくしちまって、驚きが足りないんだよなあ」
なるほどいいことを思い付いた、とばかりに、鶴丸がニヤッと笑った。
「そこまで言うなら、ちょいと驚きを補充させてもらおうか。罰ゲームを付けようぜ?」
「なに?」
「見慣れた仲間、見知った戦法、これじゃあ驚き甲斐が無いだろ? だから『絶対に負けたくない』と思うような、平和でささやかな罰ゲームを賭けるのさ」
驚きは刃生のスパイスだぜ?
と鶴丸がウィンクした。
「要は背水の陣ってやつだな。実戦には遠く及ばないが、少しは稽古に気合いも入るってもんだろう?」
「…………まあ、貴様にしては一理あるか」
壁の木刀を手に取った長谷部は、ぶん、と一振り振るうと、少しばかり考えた後、片目をすがめるようにニヤリと笑った。
「いいだろう。なら貴様が負けたら、向こう三ヶ月は経理仕事に励んでもらおうか。この時期は猫の手も借りたいからな」
「げっ」
「知ってるぞ、貴様、本当は出来るのに出来ないふりをしているだけだろう」
「いや、それは」
「『絶対に負けたくない』と思うような罰ゲームなんだろう? 自分から言い出しておいて、まさか異論はあるまいな?」
長谷部が開始の合図を待たずに鶴丸に切り掛かった。
「うおっ!」
「たまにはお前も苦労というものを知れ!」
「くっ、いいねえ、驚かせてくれるじゃないか」
鶴丸がズザザ、と体勢を低くしたまま距離を取り、派手に木刀で切り返した。
「ならオレが勝ったら、今日一日語尾に『にゃん♡』を付けてもらうぜ!!」
「……!?!?」
「勝ったぜ!」
「負けた………にゃん……」
「だーーはっはっはっは!!!!!」
指をさして爆笑する日本号の前に、誇らしげな鶴丸とわなわな震えた長谷部が並んだ。
鶴丸はもちろん本丸中に事の次第を触れ回ったし、寒い中引きこもっていた連中も皆が皆部屋を飛び出して見物にやってきた。当然だろう、こんな面白い見せ物もなかなか無い。
真面目で責任感の強い長谷部は約束を反故にすることもできず、その結果、人生最大の汚点に身を震わせることとなったのだ。
「ぶはははははは!!!」
「ひー!ひー!腹痛い!」
「アハハハハハ!!!」
畳を転げ回って爆笑する者たちの中、長谷部は頭を抱えた。
本当に鶴丸国永はろくでもないことしかしない、と。
「最悪だ……にゃん……」
「か、可愛い〜!!」
「伝説の一日になりそうだな」
基本的に長谷部は、総務番長として執務室のど真ん中で一日中仕事をしている。他の連中とのやり取りも桁違いに多い。仕事をこなす以上、口を噤んで黙っているわけにはいかないわけだ。
故に、この日、本丸中の刀たちは、普段は後回しにしがちな七面倒な書類をせっせと書いては持ってきて、ひっきりなしに長谷部のもとを訪れた。皆の仕事は大層捗ったが、代わる代わる質問を受ける長谷部の神経はゴリゴリと削られ続けて重疲労である。
なにせ、手合せは朝餉すらまだの早朝だったわけで、つまり長谷部の受難はまだまだ始まったばかりということだった。
「ま、尋常に勝負して負けたんじゃ仕様が無い。諦めてさっさと慣れちまった方が身のためだろ。なにせ、ほら」
「ああ、長谷部は総務番長だもんな。夕方には主への報告があるもんなー」
「ああああああああ!!」
長谷部は絶望の声を上げた。
そう、夕方には主人への報告が控えている。
これまで長谷部はその任を、誰が譲れと迫っても決して片時も譲ろうとはしなかった。
「旦那も人が悪いなぁ。長谷部のやつが、大将への報告役を死んでも他に譲らないのを計算に入れて罰ゲーム決めたろ」
「まっ、驚きを彼女に届けるのはオレの使命だからな!」
「抜け目無えなあ。おー怖」
結果として、現世と繋がる電報装置を使った定例報告検討会は、わなわなと震える長谷部の報告に主と近侍の加州清光が転げ回って爆笑したことにより、まったく進まないまま終わった。
「ある、あるじの、あるじの笑顔に繋がるなら、俺は…!」
と死にそうな声を絞り出しながら長谷部は、半刻ほどあらゆる仕事を放棄して寝込んだ。