@13rxsora
「――す、すごい……オレ、初めてソウゴ様のお屋敷に入ったよ」
煌びやかなシャンデリア、ホールを行き交う人々も華やかでセッティングされているテーブルの上にも日常では目にすることが出来ない豪華な食事が並んでいる。会場の中央には大きなクリスマスツリーが置いてあり、たくさんのプレゼントが置かれていた。会場には幼い子供もいるので子供達はクリスマスツリーを楽しそうに見上げては笑い合っている。
(……ん?あのプレゼントどこかで見た覚えが……いや、でもどこで?)
うーんと悩みながらリクは周りを見渡すと、途端に顔を引きつらせた。
先日、タマキの仕事先の雇い主であるソウゴからクリスマスパーティーへの招待状が届いた。パーティーに行ったことが無いリクは躊躇いもしたがタマキも一緒に招待されていたのでそのクリスマスパーティーに参加をする事にしたのだ。そして、今その会場にいる。
「ッ……お、オレ場違いじゃない?」
タマキの後ろにこそっと隠れてしまった有名な画家であるリク。昔は売れない画家として日々苦労をしていたがある日を境にその生活は一変し、今では一年以上も先まで絵の注文が入っている。
「大丈夫、大丈夫〜。ほら、俺もいつもと同じ仕事着だし」
「た、タマキはさっきまで庭の手入れとかしてたけど、俺は……こんなに華やかなクリスマスパーティーだと思わなくていつも着てる服で来ちゃったよ……それに画材も持ってきてって言われたから絵の具がたくさん付いてる鞄で来ちゃったし。……どうしよう、この場にそぐわないって追い出されたら」
嫌な考えばかりが思いつてしまう。タマキの仕事着ならばここの庭師など説明がつくが、リクの格好は傍から見れば洋服の裾に絵の具が付いており、リクの職業を知らなければ人によってはみすぼらしく見えるだろう。
「大丈夫だって。ソウゴ様はそんなことで人を追い出したりしないって。あ、噂をすれば」
「え?」
リクはこちらち向かってくる人物を見ると緋色の瞳を丸くし、口を少し開けてしまう。綺麗な顔立ちをした青年はリクよりも少し背が高く、着ている服装も色合いは落ち着いているがこの青年をより綺麗に見せている。そして、この煌びやかなパーティー会場にいても埋もれる事のない程の存在感があった。
「やあ、庭師くん」
「こんばんは、ソウゴ様」
「遅い時間まで仕事ご苦労さま。庭師くんの隣にいるのが……素晴らしい才能を持っている画家くんかな?」
「ッ!は、はい!!そ、そうです!い、いつもタマキがお世話になっておるまし、おる?おりまして?」
「ふふ、そんなに緊張をしなくて大丈夫だよ。君の事は庭師くんから聞いているから。それに君はあの有名な奇術芸団体が価値を見出した逸材だ。だから今日、君をここに招待したんだ」
「えっとオレは何を」
「君に今日のクリスマスパーティーの絵を描いてほしい」
「え!お、オレがですか!?」
「うん。僕はその絵にそれ相応の対価を出すし、この屋敷に飾りたい。画家くんさえ良ければだけどどうかな?あ、もちろん無理には大丈夫だよ。どちらにしても君のおかげで僕のコレクションは守られたし。まあ、あの奇術芸団体が僕のコレクションに目をつけなかったのは未だに納得がいってないけどね。僕のこの素晴らしいコレクション達がどうして……あのランプもあの宝石もあの手鏡も……はぁー……あんなにも美しいのに……はぁー」
うっとりした表情でソウゴはそこにはないコレクション部屋にある宝物達を思い浮かべては溜息を吐いている。
「え、えっとソウゴ様?」
「あー、ソウゴ様って自分のコレクションの事になるとああなんの。俺はもー慣れたけど、ある意味面白いよな」
「た、タマキ!貴族の人にそんなこと言っちゃダメだよ」
「たぶんソウゴ様そんな事は気にしないよ」
「確かに君もいつもそういう感じだから僕も慣れたよ。で、画家くんどうかな?」
「お、オレは……」
リクは目線をソウゴからパーティー会場へ移す。普通の平民の生活では見られない非日常的な風景。窓の外には雪がはらはらと降り、タマキが植えた木々にも白い雪が積もっていっているだろう。そして、何よりあのクリスマスツリーの下に置いてあるプレゼントに目を惹かれた。
(あっ!……そっか、あれは……)
口元を優しく緩めたリクはソウゴの方に目線を戻した。Twilight Troupeのショーを見た時の絵を描くのをこれで最後にしようとした衝動とは違うが、リクはここの絵を描いてみたくなった。
「……描いてみたい、です。初めて見るこの風景だけど、ソウゴ様の優しさを感じますから」
「僕の?」
「はい。あのプレゼントソウゴ様からオレ達平民へのクリスマスプレゼントだったんですね!」
リクはクリスマスツリーの下に置かれているプレゼントを指差す。すると、ソウゴはピクッと眉毛を上にあげた。
「……バレてしまったか。……うん、そうだよ。クリスマスの日に小さい子供がいる家にこっそとり僕の使用人達が夜に置いていってる。この街は貧しくはないけど全ての親が子供にプレゼントを買えるわけではないからね。……たぶん君が小さい頃は僕の伯父さんが昔やっていたと思うよ。今も中身は同じお菓子だけど」
「オレも貰ったことがあります!あのお菓子美味しくて大好きでした。家族みんなで美味しいねって言いながら食べた優しい味です」
「……そう。ならこの行事をずっと続けていてよかったよ。伯父さんも嬉しいと思う」
「えへへ、今なら煌びやかで優しいこの日を描けそうです!」
「ふふ、そう。ならとても楽しみだ。画家くんと庭師くんにはこの会場全体が見渡せる所に椅子とテーブル、キャンバスも置いてあるからそこでぜひ画家くんには絵を描いてほしい。君の思ったことを絵にしてほしい」
「はい!」
「……これで僕の素晴らしいコレクションにまた新しい物が加わる……はぁーなんて素晴らしい日なんだ」
「わあ、またソウゴ様自分のコレクションにうっとりしてる」
「た、タマキ!」
「ソウゴ様!りっくんの絵は超超貴重で、すんげー絵ですから大事に飾ってくださいよ!俺はりっくんの絵のファン一号ですから出来上がったら俺が一番に絵を見ますから!」
「……それはいいけど……君も画家君の話になると勢いがあるね」
「ちょっとタマキ!は、恥ずかしいよ!お、オレ達もう行きますね!ありがとうございます!タ、タマキ行こう!」
「うおっ!?」
リクは勢いよくタマキの手を握って椅子がある所に駆けていく。
「おぉ、なんか昔みてぇ!こうやって走んの!よく原っぱ走ってたよな。いつもは俺がりっくんを引っ張ってた」
「あ!たしかに!大人になってからこんな風に走ってないもんね」
「うん!なあ、りっくん。俺はりっくんがこうやって絵を描き続けてくれて嬉しいよ。りっくんの絵が大好きだからずっとこれからも描いていてほしい。来年のクリスマスもその次もりっくんが毎年どんどん色んな人に知られていってほしい!だってりっくんの絵すんげー素敵だから!でも、ファン一号は絶対に俺!」
「あはは、タマキがファン一号は絶対だよ。オレの大親友だもん」
「!……へへ、俺達超超仲良しだもんな!」
「うん!」
さあ、今すぐに筆を取って今しかないこの優しくてあったかい彩を筆に乗せようりこの一瞬の煌めきをキャンバスに載せてこの絵を見た人も優しくてあたたかい気持ちになるように。