カルみと(刑事探索者宿舎時空)
シナリオネタバレなし
#tko宅ワンドロワンライ 『爽やか』
@popo_trpg_ss
ころん、かろん。
聞き馴染みのない鈴の転がるような音につられて縞斑が顔を上げれば、窓辺に立つ神無は背伸びをしてカーテンレールに何かを取り付ける真っ最中だった。
「ふん……っ、く」
「……手伝おうか?」
どうやら神無の手はカーテンレールまではどうにか届いたものの、何かを取り付けるほどの余力がないらしい。
懸命に背伸びをして両手を伸ばす背中をしばらく眺めていた縞斑が思わず声を掛ければ、悔しそうに振り返った神無が小さく頷いた。
「……届いてるからな」
「まぁ、届いてはいたね」
「ちょっと付け方分かんなかっただけだし」
「うんうん。手元が見えるほどの余裕はなかったね」
「うるさい!10センチしか違わないくせに!」
たかが10センチ、されど10センチ。手先の細かい作業をするほどの余裕はなかった神無は、隣に立つ縞斑に八つ当たりをして唇を尖らせる。
そんな彼を宥めた縞斑が受け取ったものは、かろん、と軽やかな音を鳴らすガラスの球体だった。
下部に短冊が吊るされたそれは縞斑にとって懐かしさを抱くもので、今時の若者である神無が持っていることは珍しい。
「風鈴……?」
「そう。あっちで流石先輩にもらったんだ」
「あー……彼か」
相槌を打った縞斑は、過去の世界で神無が慕う先輩刑事の中でも一際騒がしい、風鈴の耳飾りをつけた青年の顔を思い出した。
彼の名前は流石鈴風。名前にちなんでいるのか、風鈴に思い入れがある様子だったことを縞斑も覚えている。
先日あちらの世界に行ったとき、神無が未来には風鈴はほとんど売っていないと溢したらしく、流石が帰り際に待たせてくれたらしい。
「風に揺れると綺麗な音がするから、窓辺に飾るといいって言われたんだけど……」
「なるほど、そういうことか」
冷房完備のこの室内で、急に古風な涼を取る手段を持ち出してきた神無のことを何事かと思っていた縞斑は、納得した様子で風鈴を窓辺に括り付ける。
クーラーの風でふわふわと揺れて小さな音を鳴らすそれを眺めた縞斑は、陽炎の見える窓の外を覗いて苦笑いを浮かべた。
「とはいえ、さすがにこの外気温じゃ窓なんて開けてられないけどね」
「だよなー……防音だから外に吊るしたら聞こえないし……」
地球温暖化が順調に進む今日、昼間の東京はコンクリートの蒸し風呂と化している。
窓を開ければ部屋の冷気が逃げて、あっという間に汗が吹き出てしまうに違いない。神無もさすがに窓を開けて風を取り入れるのは愚かだと認めているのか、半笑いで風鈴を見上げた。
「夜なら出来るかなぁ」
「ちょっとだけならいいんじゃない?」
「先輩、暑いの我慢できそう?」
「正直自信がないから、彼に頑張ってもらいたいね」
見上げた風鈴は、人工の風だろうと構わず誇らしげに鈴の音を響かせる。
昔の人は音で涼を得たという話を聞いたことがある神無は、実際に体験してみたいらしく興味津々といった様子で頷いた。
「じゃあ今夜、アイス食べながらやろう」
「それじゃもう涼を得てない?」
「あ……じゃあ!やったらアイス食べよう!」
「それはもう単にアイス食べたいだけじゃん」
「そんなことないし!!」
夜の予定を話す二人の間でころころと爽やかな音を奏でる鈴の音はまるで、過去の世界で出会った彼の笑い声のようだった。
惚気うるせー、と笑う流石の姿を思い出した神無は、この景色をどうしても彼に伝えたくなってサングラス型コンピュータを起動する。
窓辺で揺れる風鈴を視界に収めてシャッターを切った神無は、画面を縞斑に見せながら上目遣いに呟いた。
「この写真見せたらダメかな」
「いいでしょ。映ったらまずいものもないし、飾ってるよって見せるだけなら」
「だ、だよな……!へへ、今度あっち行ったら見せてやろーっと!」
きっと神無は、あちらの世界で彼に出会わなかったらこの場所に風鈴を飾ることはなかっただろう。
そんな些細なスイッチが、何故だか神無はどうしようもなく愛おしくて堪らなかった。
縞斑とこんな風に言葉を交わす穏やかな時間を与えてくれた彼に、どうしてもお礼が伝えたかったのだ。
そんなえも言えない感傷に浸る神無の頭を撫でた縞斑は、じりじりと眩しい太陽の日差しに照らされた水色のガラスを見上げて目を細める。
「綺麗な音だね」
「うん。夏って感じがする」
きっと彼は、そんな風に改めてお礼なんて言ったら、きもちわるいと言って気味悪そうに笑うのだろう。
かろん、ころん。転がる鈴の音に彼の笑い声が重なったような気がして、神無は思わず小さく笑った。
終
流石さんの風鈴お裾分け……☺️って思ったんですけど
2050年の流石さん何歳……?って考えると色々思うところがあるな……ってなんとも言えない気持ちになりました