オメガバ🐑🐸第13弾ですが、今回は🐸さんが☕さんに優しくするお話です。not CP。🌸←☕匂わせ有。
この話に関しては、ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
やさしい人に労りを
一時帰宅に必要な荷物をまとめ、聖は宿舎の自室を見渡した。電化製品のコンセントが抜かれているか、薬や充電器などの忘れ物をしていないか、常温で放置してまずいものはないかなど一通りチェックする。
これから一週間留守にするのだ。後で思い出しても取りに帰るというのは難しいので、念入りに確認しておく必要がある。
「うん、大丈夫そうだ」
納得して部屋の明かりを消し、鍵はかけずにドアを閉めた。機密情報は持ち込んでいないし、留守の間の掃除は任せている。帰って来た時には、出る前より綺麗になっているかもしれない。
荷物を持って駐車場に向かった聖は、自分の車の前に誰かが立っているのに気付いた。聖の足音に気が付いて顔を上げたのは、宿舎で集団生活を送る仲間の一人だ。
「変ちゃん、どうしたの? もしかしてお見送り?」
宿舎に召集される以前からの気安さで声をかければ、帰代は特に否定せずに片手を聖の方へと差し出した。
「鍵を寄越せ。送って行く」
見送り以上に思いがけない申し出に、聖は目を丸くする。
「えっ、変ちゃんが優しい……なに? 仕事の話とか?」
「違う。とにかく、送って行ってやるからさっさと鍵を出せ」
眉根を寄せて手をずいと突き出してくる帰代の圧に負け、聖は車のキーをその手のひらに乗せた。
帰代はさっさと車のドアを開けると、運転席に乗り込んでいる。聖は少し迷ってから、荷物を後部座席において自分は助手席に座った。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「住所は変わってないな?」
「うん。必要だったらナビするけど?」
聖の提案に「必要ない」と返し、帰代は車を走らせ始める。
以前、聖は帰代を自宅に招いたことがあった。聖が公安に異動する前のことだが、帰代は聖の家を覚えていたらしい。
迷うことなく聖のマンションまで運転した帰代が、聖の指示した駐車場に車を止める。
「送ってくれてありがとう。でも変ちゃん、俺の車で来ちゃって帰りはどうするの?」
車から降りながら尋ねれば、帰代も車から降りてキーを返しながら答えた。
「公共交通機関があるでしょうが。車が無くても、都内なら移動には困らない」
「そりゃそうだけどさ」
気にする聖に向かって、帰代はひらりと手を振った。
「さっさと部屋に行け」
「折角だから休憩していかない? 美味しいコーヒーをご馳走するよ」
「俺は寄る所がある」
その言葉に、聖はこの近辺に用事があったのだろうと納得した。送ってくれたのはそのついでだったのだろう。
「そっか。じゃあ変ちゃん、お疲れ~」
ひらひらと手を振って帰代と別れ、聖はエレベーターで自分の部屋へと向かった。
最近は宿舎で寝泊まりすることが多いので、随分と久し振りに帰ってきた気がする。荷物を置いてソファに腰掛ければ、僅かに埃が舞い上がった。
「……流石に掃除と換気がいるな」
ついでに引っこ抜いたままのコンセントを嵌め直さなければ、冷蔵庫もエアコンも使えない。だが、一度ソファに身を沈めてしまった結果、立ち上がるのが億劫になってしまった。
「順番しくじったな~」
座る前にいろいろやっておくべきだったと反省しつつも、そのままうだうだとソファに身を任せてしまう。
何もしないまま時間が過ぎ、聖が流石に動かなければと思い始めた頃、インターホンが来客を告げた。
「はーい」
重い腰を上げて聖がモニターに向かえば、そこに映っていたのは先程別れたばかりの帰代だった。
「あれ? 変ちゃん、車の中に忘れ物でもした?」
『違う。部屋に行くから開けろ』
「用事があるんじゃなかったの?」
『もう済ませた』
そんなに短時間で済む用事だったのかとか、何故用事の後で聖の家に来たのかとか、疑問は色々浮かんだが、外で待たせるのも悪いので聖はロックを解除する。
とりあえず、エアコンとコーヒーメーカーだけでも動かせるようにしなければと、聖はコンセントを差して回った。
しばらくすると今度は玄関のインターホンが鳴り、帰代の訪れを伝える。
「はいはーい、と。いらっしゃい、変ちゃん」
玄関で出迎えた帰代の手には、ビニール袋がぶら下がっていた。
「邪魔するぞ」
来客用のスリッパを履いた帰代はすたすたとリビングに向かい、さっと視線を巡らせてから一つ息を吐く。
「やっぱりな」
「ん? 何が? ところで変ちゃん、コーヒーで良かったよね?」
「コーヒーは後で良い」
帰代は持っていたビニール袋をひとまずダイニングテーブルの上に置くと、腕まくりをして聖を振り返った。
「掃除用具はどこだ?」
「へ?」
思わず間の抜けた声を出した聖の前で、帰代は真剣な顔で仁王立ちしていたのだった。
換気扇を回しながらはたきで家具の上の埃を落とし、次に掃除機をかけていく。同時並行でシーツやカバー、タオルが入った洗濯機を回し、乾燥まで終わったそれを軽く干す。そしてキッチンを拭き上げ、フローリングにはワイパーを、カーペットにはコロコロをかけ――と、帰代は手際よく聖の部屋を掃除していった。
その光景を、ダイニングの椅子でコーヒーメーカーやリモコンなどの小物拭きを申し付けられた聖が、感心しながら見守っている。流石、家事が得意というだけあって、動きに無駄がない。
帰代はそんな聖の視線を余所に掃除と洗濯を終えると、乾いたシーツやカバー類を持って寝室へ向かった。気になって追いかけてみれば、まるでホテルのように完璧なベッドメイクをしている。
「何だ? 別に部屋を漁ったりしないぞ?」
「うん、勿論変ちゃんのことは信用してるって。どうやるのかな~って気になっただけ」
へらりと笑った聖と共に寝室を出た帰代は、冷蔵庫が冷えているのを確認してビニール袋の中身を移し始めた。
経口補水液に、ゼリー飲料やヨーグルト、冷却シート――まるで病人用のラインナップに、聖がぽつりと零す。
「変ちゃん、本当にどうしたの?」
作業をひと段落させた帰代が、その声にぴたりと動きを止めた。
少しの沈黙の後、ゆっくりと聖の方へ視線を向けてくる。
「具合、良くないだろう?」
言われて、今度は聖の方が動きを止めた。
しかし、すぐに苦笑して帰代に向かって軽く手を振って見せる。
「そりゃまあ、発情期間近だからね。全く、Ωってのも楽じゃないよ」
聖が宿舎から一時帰宅したのは、発情期を過ごすためだ。番のいない聖は、自宅で籠って薬を飲みながら発情期の熱をやり過ごすことになる。Ωである以上、定期的に訪れるそれを避けることはできない。
「……今回お前、発情期が早まっただろう? 休暇変更申請が急だった。俺と縞斑が宿舎でやり合ったのが原因だな?」
「それは――――」
咄嗟に否定できず、聖は苦笑を深める。
数日前、帰代と縞斑という二人のαが宿舎の玄関でα同士の喧嘩をしたのだ。周囲にはαの威嚇フェロモンが大量に発せられた。聖たち宿舎にいた皆は二階の自室に退避していたが、それでも全く影響を受けなかったわけではない。
特に、番を持たないΩであり、しかも発情期を近く控えていた聖には、αたちの攻撃的なフェロモンはかなりの負担だった。体内のホルモンバランスが崩れたのを自覚した聖は、自身の体調から周期が乱れると予測し、早めに発情期休暇に入ることにしたのだ。
「仕掛けてきたのはあいつの方だが、場所も考えず応戦したのは俺だからな。悪かったと思ってる」
「まあ、確かにあんなところで本気の喧嘩されると困るけど……結局誤解だったってことで仲直りできたんでしょ?」
帰代は「仲直りしたわけじゃない」と渋面になる。聖は帰代と縞斑の相性の悪さを知っているので、笑って流すに留めた。
「つまり、掃除や洗濯、買い出しはそのお詫びってこと?」
「ああ」
頷いた帰代に、聖は笑みを柔らかなものへと変える。
「ありがとう、助かるよ。発情期前に欲しいケアができるなんて、変ちゃん、番ができてαとしての男前度が上がったね」
聖に褒められた帰代は、どこか居心地悪そうに視線を泳がせた。
帰代に番ができたことは聞かされていたが、相手を紹介されたことはない。籍もまだ入れていないようだ。公安という立場上、番は危険に晒されやすい。だから大事に隠しているのだろうと、聖も探ろうとはしなかった。
「変ちゃんの番って、きっと幸せだろうなぁ」
視線と声音に羨望が滲んでしまったのは、発情期前で情緒が不安定になっている所為だろう。
そんな聖を気まずそうに見つめ、帰代は溜息を吐く。
「お前もそろそろ、番を作ることを考えたらどうだ? もう三十超えてるだろう?」
帰代が年齢を取り上げたのは、番のいないΩの平均寿命が、番のいるΩのそれよりも短いからだろう。医学の発展で昔ほど大きな差ではなくなってきたが、統計的にはまだ十年以上の違いがある。
「うーん、そうだね。わかってはいるんだけどね……」
身体のためにも精神安定のためにも、Ωは番を作った方が良い。聖もそれはわかっているし、気になるαがいないわけではない。それでも、年々臆病になっているのか、自分から動き出すのは難しかった。
むしろ、ここで積極的に番を探すと言えるくらいなら、数年前に帰代に番契約を申し出ていただろう。帰代が番を得た今となっては、すでに潰えた可能性だが。
煮え切らない聖にもう一度溜息を吐き、帰代はまくっていた袖を戻す。
「俺がとやかく言っても仕方がないだろうからな。とりあえず、考えるくらいはしておけ」
「……うん」
机の上で組んだ腕に頭を乗せ、聖は力ない声で頷いた。
帰代はそんな聖を一瞥したが、何も言わずに帰り支度を始める。
「コーヒー飲んでいかないの?」
「いい。お前はとにかく休め」
玄関の方へ向かって歩き始めた帰代が、ふと足を止めて聖を振り返った。
「何か足りないものがあったら、発情期中でも構わないから俺に言え」
番のいる帰代なら、聖のフェロモンを食らっても暴走することなく対応できる。
今日はとことん優しい帰代に、昔の自分は勿体ないことをしたと思いつつ、聖は笑顔で手を振った。
「ありがとう、変ちゃん」
去って行く背を見送ると、部屋から自分以外の気配が消える。
途端に心細さに襲われるのは、情緒が不安定だからだろう。顔を伏せて目を閉じれば、本能からか目蓋の裏にはαの姿が浮かんだ。少し前に自覚している想いを突き付けられている気がして、聖は小さく溜息を吐く。
思い浮かんだのは帰代ではなく、もっと若くてお堅い相棒の姿であった。
(あとがき)
オメガバ🐑🐸シリーズですが、今回は☕さんメインでお送りしました。マロリクで🐸さんと☕さんの組み合わせが来ていたので、私的に浮気にならないラインの絡みを考えた結果こうなりました。この二人に昔肉体関係があったかどうかは、ご想像にお任せします☺
一応、シリーズ的には☕さんのお相手は🌸ちゃんで考えております。作中で成立まで書くかはわかりませんが、その場合は🌸☕になると思います。いつも周りをフォローしてばかりの☕さん、いつか番に甘やかされて幸せな時間を過ごして欲しいですね✨